軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

全て彼のアレ

「まだ、最後の仕事が残っている」

そう言って穴を掘りだしたジョン・スミスをその場に残し、ユキメは一度王都に戻った。月丹の墓を掘ってくれるのだろう。もしかしたら彼は死に場所を求めていたのかもしれない。

どこか昔を思い出す、彼の穏やかな死に顔を見てユキメはそう思った。

ユキメは王都で一晩休み、本物の紙幣を使って換金したばかりの金貨を回収してアジトへ向かった。

ユキメの傷はジョン・スミスが癒してくれた。醜いあの背中の傷すら、綺麗に消えていた。

肉体の傷も、そして心の傷も癒えて、これですべてが終わると信じていた。そのはずなのに、月丹の残した『教団』という言葉が彼女の耳にいつまでも残っていた。

何が彼を変えてしまったのだろう。

復讐は本当にこれで終わったのだろうか。

月丹がもし利用されていただけだったとしたら……本当の敵は別にいる。

アジトに着いたユキメは、金貨をもって金庫へと向かい中身を見て驚愕した。

「これは……」

金庫の中身がきれいさっぱり消えていたのだ。

首を傾げるユキメの背後に、音もなく黒ずくめの女性が姿を現した。

「あなたが雪狐商会のユキメね……無法都市の一角と言った方が正確かしら」

「――ッ!?」

振り返ったユキメが見たのは、白金の髪の美しいエルフの女性だった。

「あなたは?」

いつでも鉄扇を抜けるよう身構えたユキメが問う。

「私はアルファ。シャドウガーデンの者よ。その様子だと、彼から話は聞いていないようね」

「アルファ……」

ジョン・スミスことシャドウがシャドウガーデンの長であることはユキメも知っていた。

しかし、彼から直接シャドウガーデンの話を聞いたことはない。思えばおかしな話だった。

「あなたが彼の協力者……そして大商会連合の月丹の想い人ね……」

「何が言いたいでありんすか」

「まずはこの手紙をあなたに届けようと思って。封は開けてしまったけれど、ちゃんとあなたに渡すのが筋だと思ったのよ」

「これは……?」

アルファが差し出したのは、古ぼけた一通の手紙だった。

「大商会連合は今日中に崩壊するわ。その前に、回収すべきものを回収してきたの。これは月丹の部屋から出た、あなた宛ての手紙……いえ、遺言かしら」

「月丹の……」

ユキメはその手紙を受け取り読み始めた。

まず初めに驚いたのは、字の汚さだった。視力を失った彼が、他人を頼らず独りで書き上げたのだろう。汚い字の中に、確かに彼の筆跡の名残と温かさを、ユキメは感じた。

その手紙はユキメと故郷の者への懺悔から始まり、自分の弱さを呪うものだった。

そして、次第に驚愕の事実が書かれていく。

「ディアボロス教団……」

それが、月丹を変えた者の正体だった。

手紙を読み終えたユキメは顔を上げてアルファを見据えた。

「わっちも無法都市の人間でありんす。世界の陰で暗躍する組織があることは、情報として知っていんした」

「それがディアボロス教団よ。そして、シャドウガーデンはそれと戦っている。もちろん彼、シャドウも……」

「ジョンはんも……」

「彼はあなたの過去に教団がかかわっていたことも気づいていたのでしょうね。だから、破滅からあなたを助け進むべき道を示した」

「破滅? どういうことでありんすか」

アルファは微笑んだ。

「ミツゴシ商会はね、シャドウガーデンのフロント企業なのよ」

「――ッ!? まさか!」

「最初からすべて、彼の掌の上の出来事だったのよ」

あの日――無法都市でユキメがシャドウに話を持ち掛けたその瞬間、大商会連合と共にユキメの破滅は決まっていたのだ。

だが彼は、ユキメに破滅ではなく進むべき道を示した。

彼女を救済し、真の敵と向き合う道を……。

「全て、ジョンはんが……」

「悪いけれど、金貨は全て我々が回収したわ」

「……それでミツゴシ商会は信用崩壊を乗り越える」

「さらに大商会連合の販路も手に入れ、絶対の地位を確立するでしょうね」

「すべてジョンはんは……いやシャドウはんは読み切っていたということでありんすね」

「あなたが彼を裏切り者と罵るのならそれもいいでしょう。彼はそれすら受け入れるつもりよ。でもその前に、彼があなたに示した道がなんなのか、よく考えてみてほしいの」

ユキメは首を横に振った。

「そんなつもりはありんせん。もとはと言えば、最初に話を持ち掛けたのもミツゴシ商会に手を出したのもわっちでありんす。わっちを潰すことなど、シャドウはんには簡単にできたことでありんしょう」

「そうね」

「わっちはシャドウはんに救われた。この事実に変わりはありんせん。そしてわっちはディアボロス教団が憎い。ディアボロス教団を滅ぼさずに、わっちの復讐は終わりんせん」

アルファは決意に満ちたユキメの言葉に頷いた。

「我々も、あなたを受け入れる用意はある。あなたさえよければ、あなたはこのまま雪狐商会を運営し、無法都市と連携してミツゴシ商会にはできない仕事をしてほしい」

「わかりんした。ミツゴシ商会は表を、雪狐商会は裏を……。そういうことでありんすね」

「そのための準備は彼がしてくれたわ。無法都市のジャガノートは消えた、あなたはもう無法都市の一強よ」

「なッ、そこまで読んで……本当に、すべてシャドウはんの掌の上の出来事だったわけでありんすね……」

「ええ、本当に……」

ユキメとアルファは同じ表情で微笑んだ。

その顔は二人そろって心底感服しているようだった。

「よろしくね」

「よろしくお願いしんす。でも困ったことに、彼の大切な人はたくさんいるようでありんすね……」

「どういう意味かしら」

「こちらの話でありんす。では、わっちが持ってきた金貨もお預けしんしょう」

「お願いするわ。まずは信用崩壊を乗り越えたら雪狐商会は救済する」

そして、二人は今後のことを話しながらアジトを後にした。