軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二人の小娘

ミリアの予想通り『紅の塔』にはほとんど吸血鬼が残っていないようだった。

しかし全く遭遇しないわけでもなく、二人は散発的に吸血鬼から襲撃されていた。

クレアは剣を振り抜き、吸血鬼の首を断ち切る。しかし、吸血鬼の肉体はまだ動いていた。

「心臓を突いて!」

ミリアの言葉に従いクレアは首無し吸血鬼の心臓を貫く。すると心臓付近から細かな亀裂が走るかのように赤い光を放ち、後には灰だけが残った。

クレアの背後では、ミリアが最後の一体を始末していた。

吸血鬼からの襲撃に怪我一つなくここまでこれたのも、ミリアの協力があってのことだ。

ミリアは魔力量こそクレアに及ばないがその剣の腕は熟達している。そして何より、吸血鬼との戦いに慣れている。

吸血鬼の多くが身体能力に頼った戦いをするが、まともに戦えばその人間離れした動きと驚異的な再生力に苦戦することは容易に想像できた。

しかしミリアは、まるで吸血鬼の戦い方が分かっているかのように先を読み、速やかにかつ的確に動く。

彼女の協力は、弟を救うためになくてはならないものだ。クレアはそれをよく理解している。

しかし、それでも――クレアは聞かずにはいられなかった。

「何か隠しているんじゃないの?」

後に残った灰を物憂げに見つめていたミリアにクレアは問いかけた。

「何かって……?」

ミリアは感情の読めない顔で振り返った。

「書庫でのミリアはおかしかったわ。まるで吸血鬼の肩を持つみたい。『血の女王』を討伐するんじゃなかったの?」

「討伐するわ」

「あらそう。なら聞くけど、なぜそこまで吸血鬼を熟知しているの。戦いを見ればわかる。あなたは間違いなく吸血鬼を知っている。誰よりも深く理解している」

「私は『血の女王』を討伐するためだけに生きてきたから……」

「それだけじゃ不自然だって言ってるのよ。じゃあ書庫での最後の言葉の意味は何? 安息の地って? 彼女が目指す道って?」

クレアの口調は次第に強くなっていった。

しかしミリアは何も答えない。

「黙っててもわからないわよ」

「クレアだって同じじゃない」

「え?」

「クレアだって隠し事があるでしょ。なぜ悪魔憑きにこだわったの?」

「それは……」

「悪魔憑きの治療法なんてあるわけないじゃない。悪魔憑きになったらみんな死ぬのよ」

「……そうね」

クレアは唇を噛んだ。

「隠し事なんて誰にもある。そうでしょ」

「……わかったわ。お互いに詮索せず、私は『血の女王』討伐に協力し、あなたは弟の救出に協力する。それだけの関係ってことね」

「それでいい……」

二人は視線を合わせずに、そのまま塔を上っていった。

「待って」

しばらくして、先を行くミリアが言って足を止めた。

「どうしたの」

「この先で誰かが戦ってる」

二人は足音を消してそこへ近づいていく。戦闘は扉の先の向こうで行われているようだった。他の通路は無いようだ。

「入るしかなさそう……」

「ちょっとだけ開けて覗いてみましょうよ」

ミリアはクレアの言葉に頷き、扉の隙間から中を覗いた。

中は大きなホールのような空間だった。大きな開口から赤い月が空に浮かんでいる。

そこで、褐色の巨漢が吸血鬼の首を掴んで嗤っていた。

「弱ぇなぁ……」

男が持つ巨大な鉈は血で染まり、辺りにはグールの肉塊と灰が散らばっていた。

「てめぇは確か幹部だったよな。見覚えのある顔だ。クリムゾンはどこだ?」

褐色の男は吸血鬼の首を締めあげながら問う。

「さ、さてな……」

「言うわけねぇか」

「言う、必要が無いッ……」

吸血鬼がそう言った瞬間、彼は赤い霧へ姿を変えた。高位の吸血鬼のみが使える『霧化』だ。

「お?」

褐色の男の手は空を掴み、彼の背後に赤い霧が集まる。

吸血鬼の腕がそこに現れ、鋭い爪が褐色の男を襲う。

しかし、褐色の男は背後を見なかった。

「俺は勘がいいんだ……」

彼はただ、巨大鉈を無造作に振るった。

凄まじい風圧が扉にまで届き、ミリアとクレアは慌てて扉を押さえた。

ふたたび中を覗くと、そこには挽肉のように無残に散らばった吸血鬼の肉塊が転がっていた。

肉塊は、すぐ灰へと変わっていく。

「何よあいつ」

見たところ吸血鬼ではない。しかし味方にも見えなかった。

「彼は無法都市の支配者の一人『暴君』ジャガノート。彼とは戦わないほうがいい。彼が殺した吸血鬼は『血の女王』の幹部で三番目の実力者……」

「あれで三番目……」

とてもそうは見えないほど『暴君』とは圧倒的な差があった。

「隠れてやり過ごそう……」

ミリアの提案にクレアも頷いた。

しかし、扉の向こうから『暴君』の声が届く。

「俺は勘がいいんだ……いるんだろ、そこによぉ?」

「ッ!」

直後、扉が粉々に砕けた。

横薙ぎに巨大鉈が扉の向こうから現れ、二人は咄嗟に身を伏せて避ける。二人の頭上で暴力的な音が響いた。

「小娘が二人か」

扉が砕けたその先で、『暴君』は二人を見下ろしていた。

「最悪」

「やるしかない」

二人は剣を抜き、『暴君』は嗤った。

「吸血鬼には見えねぇが……まぁ、ここで死んでけや」

そして、巨大鉈が振り下ろされた。