軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険のための情報収集[前]

「あん……?言ってる意味がわからないんだが」

「え?カイゼル教官って、元冒険者なのに?」

徐々に青筋を浮かべるカイゼルに、アインはなぜわからない?そういう態度で会話を続けていた。

「だ……だからな?なんでお前が……アインが、王太子がだ。冒険者としての活動をするっていうんだよっ!」

彼の言うことはもっともだ。アインのような、王太子の立場の人間が冒険者となる。その意味が一つも理解できなかった。

アインは学園に来ると、朝一でカイゼルのいる訓練所に足を運んだ。こんな時間からアインが来ることは珍しい。というよりも、しばらくぶりに顔を見せたアインが、唐突に冒険者について教えろといってくるのだ。カイゼルが状況を把握できるわけがない。

ちなみに今日は生徒は休日のため、基本的に教官たちしか学園にはいない。

「ちょっとした諸事情によって、ギルドに顔出す機会多くなると思うので」

「……言えねえのか?」

「実はお爺様から、カイゼル教官には教えてもいいって言われてるんで、その事情も説明できるんですけどね」

へらへら笑いながらカイゼルに説明をするアイン。その様子をみていると、徐々に苛立ちが募るカイゼル。ついにそれは爆発した。

「いっ……痛いっ!?」

久しぶりに、カイゼルのゲンコツがアインの頭にお見舞いされる。

彼のゲンコツはなかなか頭に響く、いい拳だった。

「だったら最初からその事情を言え馬鹿野郎!」

「じ、自分でいうのもあれですけど……王太子を叩ける人なんて、普通いませんからね!」

「安心しろ。陛下から許可を頂いてるんだ」

「元凶は家族だったか……最初から負けていたとは」

何に負けているんだよ。そう心の中でつぶやいたカイゼル、まずは事情を聞かない限り話が進まない。それをアインに説明させることにした。

端折りながらだったものの、おおよその流れと事情を説明したアイン。

その事情とやらを耳にしたカイゼルは、事の大きさと面倒くささに頭を抱えてしまった。

「なんでそんなことになってんだよったく……」

「あ。もちろん機密なのでそのつもりでお願いしますね、お爺様が言うには機密保持の手当がしばらく出るそうなので、『美味いものでも食べろ』とのことです」

「……あんまり嬉しくねえけどな。はぁ……まぁ事情はわかった。それで冒険者に関しての情報が欲しいってことか」

「はい!教官はなかなか有名だったとか」

傍に用意していた冷たい水を一気にあおったカイゼル。一呼吸おいてから、昔のことを思い出すように口を開く。

「それなりにはな。……まぁいい、それならいいもの書いてやるよ」

「いいもの?」

「紹介状書いてやる。ギルドは面倒な組織だからな、そこそこの奴から紹介がないと一々舐められるぞ」

どのぐらいできるのか、その保証があるとやはりギルドとしても、そしてギルドに出入りしている冒険者達からも一目置かれる。だからこそ紹介状があると、多くのことがスムーズに進むこととなる。

「それはありがたいですね」

「どうせ王家としても、国家としても。まだ大っぴらに動けないんだろ?」

「……ばれてますか?」

そこそこ情報を集めてからでなければ、大っぴらには動けない。それが相手を刺激することにつながるかもしれず、また国民を不安にさせるかもしれない。だからこそ、現段階では密かに……といった流れとなる。

「素性はどうすんだ?王太子って公に活動するわけにいかないんだろ?」

「素顔だとやっぱりばれますかね?」

「海龍を倒した英雄様が、どうしてばれないと思った?」

「……はい」

素性を隠すことは必須事項だった、王太子が何をしているのだ?そう話題になれば一気に話は広がるだろうからだ。

「ったく。まだなんにも話考えてなかったのか」

「手探り状態でして」

アインの状況を知ったカイゼルは、少し考えてから口を開き、アインにとって有益と思われる情報を告げる。

「……マジョリカに相談しろ。あいつならいい答えをくれるさ」

「マジョリカさんですか……というか、カイゼル教官ってマジョリカさんとお知り合いだったんですね」

「知り合いも何もな。あれは俺の昔のクランメンバーだ」

つい地面にこけてしまいそうになるほど、大胆に驚いたアイン。

「え、え!?マジョリカさんとカイゼル教官が……それって、パーティを組んでたってこと、ですか……?」

「あぁ。あいつは誰よりも優秀なサポート役だったよ。俺が知る中で、あいつよりいいサポートができる奴は居ない」

「……昔から、あんなファッションだったんですか?」

「あ……あんな格好してる奴と、一緒に冒険できるわけないだろ!魔石の店を開いてからだ!」

冒険が終わってからマジョリカに何があったのか、それが一番気になってしまうが、それは今度の質問にすることにした。

「封印の技術に関しても、アインが探してる魔物達に関しても……あいつは知識が豊富だ。もしかしたら手がかりを持ってるかもしれない、あいつを頼るのが今は最良の判断だと思うぞ」

素性を隠すのにも、一役買ってくれそうだと思ったアイン。有力な情報を得た。

「……帰りにでも、顔を出してみます」

「あぁそうしろ。……よし、それじゃ俺から最後に試験だ」

「試験?」

おもむろにカイゼルは立ち上がり、ドアを開けて外に出ていく。彼が歩いていく先には、訓練場の舞台が設けられている。

「ちょっといきなりどこにっ」

文句を言いながらもカイゼルについていくアイン。目的の舞台に到着すると、カイゼルは訓練用の木剣ではなく、刃を潰した鉄製の剣を取り出した。そしてその舞台に誰も入れぬよう、扉に施錠をする。

「アイン、お前も好きなのを選べ」

「好きなのを選べってっ……まさか、俺がカイゼル教官と?」

「入試の時とは違ったやり方を見せてやるよ。……先輩冒険者として、一つ経験させといてやる。それでもアインなら、余裕で俺に勝てるだろうけどな。だが苦労する相手ってのを教えてやる」

「……それが、試験ですか」

「あぁ。俺からお前に渡す最後の試験だ、単位も成績もこの結果で卒業までのをつけてやる。だから安心して向かってこい」

「そんなことしていいんですか?」

「生徒の成績は、教官の判断においてすべてを決定できる。別に問題はない、用意しろ」

ふと、アインは少しの寒気を感じ取った。今までに感じたことのない、新しく感じた気配。その方向を探ってみると、明らかにカイゼルからそれを感じ取れる。

……なるほど。アインは納得した。カイゼルが冒険者として名をはせたその所以を、今感じ取っているのだろう。

「覚悟を決めたかアイン」

「えぇ。そんな気配をぶつけられたら、俺もこうせざるを得ないですよ」

「……そうか。ならいいな、いつでもこい」

「いつでも、とは?」

「先手は譲ってやる。あぁいっておくが、何をしてもいい。俺のことは命を奪いあう相手とでも思っておけ、そういう戦いをお前に経験させる。手持ちの道具だろうが何だろうが使っていいぞ、どんな手段だろうが勝てば正しい」

つまり、デュラハンのスキルも使ってよいのだろう。それどころかエルダーリッチもだ。ただエルダーリッチのスキルは正直使い方があまりわかっていない、なんとなく感覚で使えている節はあるが、確定ではないのが実情だ。

だからこそ、使うなら暗黒騎士が限度だ。

「それじゃ。行きますよ」

カイゼルが自分のために、何かをしようとしてくれている。なら自分も出し惜しみはなしだ、最初から使っていく。

「……たく。本当にわけわからない能力だぜそれは。……いつでもこい、"冒険者"の戦い方を教えてやる」

そしてアインは前に進む、向かう先はカイゼル。一気に自慢の攻撃を決める、そう考えていた。

だがカイゼルはアインの正面から移動せず、むしろアインを真正面に構えるために微調整をしているように見える。

「悪く思うなよアイン」

「っえ……っ!?」

アインの足元に、2つの魔石のような物体が投げつけられる。すると1つが一瞬で何かを発動し、アインを包み込む。

「マジョリカ特製の、相手の動きを封じ込める結界だ。効果時間は短いし、壁も柔らかい。だけどな……こういうことだってできるんだぞ」

カイゼルがそうアインに告げる、そしてもう1つが発動し始めた。

「 蔓(つる) っ!?いきなり……っ!」

2つめの攻撃は、アインを蔓で縛り上げた。それは幻想の手も共に縛り付けられ、アインは身動きを取れなくなる。かろうじて剣を持った手は動くが、だが打開は難しい。

「くっ……か、固いっ!?」

「そりゃそうだ!それなりに貴重な魔石を使って作った、特製の妨害手段だからな!そうなれば一気に勝負が付く、いくぞアイン!」

カイゼルは剣を構えて走り始める。アインの首元に剣を当てて、一気に勝負をつけるつもりだ。

だが一方アインは、その蔓から体を剥がそうと、体を動かすことしかできない。

強化されたアインのステータスでも、その蔓は固くて剥がすことができない。このままではカイゼルに一気に勝負を決められてしまう

何かないのか、そう考え続ける。濃霧を使う?だめだ意味がない。海流?ここで使ってどうする?エルダーリッチのスキル……そうだ。それでカイゼルの動きを止めれば……っ!

「っ……驚いたぞアイン。まさかそんなものまで使えるなんてなっ……念には念を入れてよかった、冒険者の時に培った考え方がこうまで生きるとはなっ!」

カイゼルは魔物の素材で作られた装備を纏っていた。だから例の拘束魔法は弾かれてしまう。結果としては一瞬戸惑っただけで、あまり意味がない。こんなにアッサリやられるのか……?そう思った矢先のことだ。不思議と体が動き始めた、意識せず……まさに自然と、体が動いた。

リラックスした動きで、剣を持った腕を振るい始めるアイン。

「き、切れたっ……よし、いけるっ!」

先程までは、刃を潰されているからか剣を振っても切れなかった蔓。なぜだろうか?一瞬の落ち着きのあと、同じく剣を振りなおしたら、まるで果物を切るかのようにあっさりと蔓は切れてしまった。

その様子を見て、カイゼルはアインよりも驚きの表情を浮かべる。

「おいおい嘘だろっ……。森の主だって、数分は抑えきれた代物だぞおいっ……!」

急な戦いで、カイゼルも支度を完全にはできなかった。だがそれはもう言い訳にしかならないだろう。

その後はアインも警戒を強めながらカイゼルの下へとたどり着いた。鋭く振るわれるアインの剣と、幻想の手のコンボはまさに熾烈を極めた。

試験の時とは違い、接近戦でもカイゼルは多くの手を使った。目つぶしを仕掛けたり、大きな音を発生するアイテムを利用したりなど。だがアインも海龍を相手に勝利をもぎ取った英雄。一つ一つの手段は目新しく、少しも驚かなかったといえば嘘になる。

だがそれでも、アインは英雄だった。海龍との根競べに勝ったアインは、これだけでは止まらない。いや止められない。

「はぁっ……はぁっ……俺の、勝ちですねっ……!」

「……ったく。本当にでたらめな奴だよお前は。初めてあった時からずっとな」

今日という日の戦いに感謝しよう。自分が経験した事の無いような戦い方、それを命の危険がない状況で教えてくれたのだから。

カイゼルに礼をしたアイン。いつもと違った真面目な態度に笑われてしまったが、カイゼルとの関係はこれぐらい軽い方がいい。

これぐらいの距離間の方が、二人はどこか教師と生徒の立場として、二人にとっての理想としていられた。