軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終わりに向かって。

「邪魔だって? 衛兵長ともあろう男が馬鹿を言うんじゃねぇよ」

「何が言いたい」

「わざわざ言わなきゃわからねぇなら言ってやる。ギド…… お前は祖国を裏切る気(、、、、、、、、、、) か(、) ?」

副衛兵長リオルドの言葉に、アインとマルコが一層興味を抱いた。

二人はじっと耳を傾け、息を殺しつづける。

「愚かなことをいうな。私がなぜこの国を裏切ると言うんだ」

そこへ嘘か真か、リオルドが惚けた声で言った。

「鉄の国に心血を注いで数十年。今も昔も私の想いは変わらない。私は鉄の国の繁栄だけを想い、今日まで生きて来たのだぞ」

「なら、どうして女王は戻ってこない?」

「もう一度聞こう。何が言いたい」

「惚けるのもいい加減にしろッ! 予定では(、、、、) 、もう女王が戻っても良い頃だろうがッ!」

アインとマルコは同時に眉根を寄せた。

確か以前、ギドとリルは地上に出てきた理由について、鉄王槌の管理にかかわることが理由であると口にしていたはず。

それは地上に行けば、彼らが欲する物が手に入るという……例の元相談役にそそのかされた件である。

「……わかっているとも。だが仕方がないんだ。確かに鉄王槌は難しい状況にあるが、イシュタリカの者らとて馬鹿ではない」

――――だが、まるで別の話のようだった。

彼らの話はアインもマルコも知らない、これまで隠されていたそれ。

まさに、此の程の騒動の中枢にかかわるものだと二人は思った。

「そんなのは言われなくても分かってんだよッ! けどな、何のためにリルを奴らの王都に置いてきたんだッ!? 俺たちは何のために地上を出たと思ってるんだッ!」

「…………」

「このままじゃ女王がどうなるかわかったもんじゃねぇッ! お前は女王を見殺しにするつもりなのか!?」

「ッ――――言うに事欠いて何をッ! この私に向かって、よくもそのような言葉を口にしたなッ!」

二人は同時に剣を抜いた。

しかし、互いをにらみ合うに留められる。

ここで戦い、鉄王遂に万が一があれば彼らに償いはできない。故に彼らは残された理性に従って剣を静かに収めると、射貫くような鋭い目つきで互いを見る。

「 私は女王がこの国に戻(、、、、、、、、、) れるよう(、、、、) 、 綿密に計画していた(、、、、、、、、、) ! 貴様の考えが及ばぬほど、我が知恵を投じてなッ!」

その言葉がアインに衝撃をもたらす。

『将軍から見れば俺の方が愚かだろうな。が、本当に愚かなのはギドだってことを、俺はここで宣言しておこう』

ギドは以前、こう言った。

それを聞いたアインはギドにこそ何か隠し事があると踏んでいた。たとえば彼に、王位簒奪の思いがあれば……とか。

しかし、聞き耳を立てていると違和感を覚える。まただった。

その違和感と言うのは、ギドも忠臣なのだろうか――――というもの。

アインは我ながら迷ってるな……と苦笑いを浮かべ、何が正しくて誰が何を企んでいるのか迷ってしまったし、シャノンの力に頼るべきかといま一度、逡巡した。

けれどそれは、一歩間違えればギドもリオルドも廃人と化す絶対的な支配の力。

背後に隠れる黄金航路の元相談役の存在を鑑みて、そうなることは何としても避けたい。

ともあれば、アインは頭を働かせるしかないわけで……。

けれど、彼の隣に居たマルコは信頼していた。

主君の横顔に漂う、歴史が証明する力強さに見えたすべてを。

「じゃあ、どうして女王の状況は変わらない? どうして俺たちが地上に出る決断をしたと思ってるんだッ!」

「それは――――」

「なぁギド、もう一度聞くがお前は何のためにリルを王都に置いてきた。どうしてお前だけここに帰ってきて、 俺に(、、) 一芝居打たせたんだ(、、、、、、、、、) ! 隠し事をするつもりなら、お前を鉄王槌の中へ放り込み、その魔力とする処刑を執行するぞッ!」

それを聞いて、アインはふと。

(一芝居……リオルドが俺たちに喧嘩を売ったことか)

他にないと思った。

その利点はなんだろう? 首をひねったアインはすぐに気がついた。

リオルドは忠臣であろう。その男が女王のためにならないことはするはずがなく、即ち自身の振る舞いは女王の今後につながることである。

(たとえば、俺たちの興味をアイツに向けさせることだ)

イシュタリカに牙を剥いた件が軍部の暴走となれば、どうだろう。

この状況下では女王を処刑する――――というのが殊更、早計な話となる。

(……なるほどね)

女王が王族の血を引いていないことも加味すれば、それこそ処刑の判断は遠ざかろう。

イシュタリカとしても、まるで無意味とは言わずとも、である。

「言葉と行動がかみ合ってねぇんだよ。お前は」

やがて、リオルドはそう言い残して鉄王槌のそばを後にした。

残されたギドは一人、俯く。

彼はやがて両手に強い握り拳を作り、爪を深く深く食い込ませる。そして数分が過ぎてから、静かにこの場を後にしたのだ。

「マルコ」

と、アインがマルコと隠れたまま口を開いた。

「朝を待たないで飛行船に戻ろう。うまくいけば、近いうちに鉄の国の騒動に決着を付けられる」

マルコはその言葉の真意が理解できなかったものの、敬愛する主君がすべてを看破したと知って何も言わずに頷いた。

二人は予定外に無理やり鉄の国を脱し、飛行船への帰路に就いたのである。

◇ ◇ ◇ ◇

飛行船についてから、アインは間もなくメッセージバードを用いて王都に連絡をした。

すると、彼が居た自室をシルビアが訪ねた。

「早かったのね、アイン君」

「はい。気になることができたので、急いで王都に連絡しようと思って」

「あら、興味深い話が聞けたようね」

そう言い、シルビアはアインの傍に足を運んだ。

二人は部屋の中にある椅子に腰を下ろす。

「私が朝には帰ってくるようにって言ったのは、先日見つけた呪いについてなの」

鉄の国にある耕土には呪いが施されていた。

シルビアとマルコが言うには古い呪いとのことだったが……。

「この国にダークエルフと繋がってるものが居る――――それは恐らく、女性のドワーフよ」

「ど、どうしてそこまで分かったんですか?」

「呪いをしっかり調べたの。……昔は男にしか使えない呪いとか、女にしか使えない呪いなんてものもあったのよ」

彼女はそうした細かな可能性も考えて多くを確かめたそう。

結果知りえた情報をアインに共有し、つづく日の調査に役立てられればと考えたようなのだが、彼女はアインが飛行船に戻ってから起こした行動を見て、自分の話との関連性を考える。

「アイン君が王都に連絡した理由は、 どちらのドワーフ(、、、、、、、、) に関して?」

「……俺が黒幕だと思ったのは、 給仕(、、) です」

分かったわ、とシルビアが頷く。

彼女はそれ以上詳しい話を聞こうとせず、これだけの情報で自分もアインと同じ結論へすぐにたどり着いてしまう。

その頭の良さにアインが驚いていると、彼女はふと話題を変えた。

「鉄の国が滅んだ――――いいえ。滅びかけてしまった理由は覚えてる?」

「勿論です。当時の国王がダークエルフの美貌に骨抜きになり、技術を奪われたことに加え、そのせいで国内でもドワーフ同士で争いが生じたからです」

「そうね。今回はそれに似ていると思わない?」

「似てる……ですか?」

首をひねったアインの姿を見てシルビアが微笑む。彼女はいまも昔も愛して止まない息子の存在に頬を緩めながらも、つづく話をするために唇を動かした。

「私はよく知らないけど、元相談役さんは美しい殿方と聞くものね」

何故その話題が出たのかと言うと、アインが黒幕と思った女性のドワーフがかかわってくる。

そう、シルビアはこう言いたかったのだ。

此度の騒動はまるで、昔、鉄の国が滅びかけた時とよく似た面がある……こういうことだ。

だがシルビアは最後にこう添える。

もっとも、私の夫と息子以上に魅力的な男性はいないけど、と。

◇ ◇ ◇ ◇

アインがイシュタリカ王都にメッセージバードを送ってから、数時間後のことだ。

王都のはずれに軟禁されていた女王と、その傍仕えこと給仕であるリルの二人は、密かにある行動をとろうとしていた。

だが、女王に意識はない。

彼女は深い眠りに付いており、夜の城下町を歩くリルの背に担がれていた。

リルはどこで用意したのか旅人が切るような粗末なローブに身を包んでおり、二人の顔立ちなどは第三者から窺えない。

……ともあれば、どうしてその二人が夜の城下町を自由に歩いているのか。

今日まで軟禁状態にあったはずの二人が、どうして。

その答えは、リルが腕に嵌めた 黄金の腕輪(、、、、、) にあった。

「あのお方のために……もう一度、寵愛を賜るために……」

幾度と呟かれた言葉は自分自身の目的を示すかの如く。

聞く者によっては呪詛にも思える強い執着心を感じさせる呟きは、彼女が目的の場所にたどり着くまでつづいた。

目的の場所は、王都の外れに設けられた飛行船乗り場のその近くだ。

「頑張らないと愛してもらえない……あの瞳を向けられることもない……」

彼女は女王を背負ったままに、近くで作業をしていたオーガスト商会の一団に近づく。

呟きはもはや本当に呪詛のようだった。

「美しい銀髪……どんな宝石も霞む瞳……そのすべてが、私を魅了するのです」

腕を飾る黄金の腕輪が煌々と瞬く。

見回りの騎士も、オーガスト商会の者たちも、一人たりともリルという存在がこの場にいる以上に気が付くことなく、目を向けることなく意に介した様子がない。

「――――よくご覧ください」

リルはふと足を止め、外れの広場の中心で夜空を見上げる。

「あなた様が美しいといってくださった私の心は、いまも輝いておりますか?」

最後の呟きは、恋する乙女の声音によって。

一度聞けばその想いの深さに胸を打たれる熱と健気さ、それに横顔を見ればわかる、一途な想いは恋をテーマにした舞台に登場するヒロインそのものである。

「……行かなくちゃ」

リルはふと背中に向けて声を発し、眠り、背負られたままの女王へ語り掛ける。

決して目を覚ます様子のない女王は一切の反応を示さないが、リルに気にする様子はない。

彼女はただ、傍にある巨大な木箱を開けて女王を中に入れたのだ。

女王は決して冷めない眠りについているわけではなく、やがてはリルの都合がいいタイミングで目を覚ますだろう。

だから女王は、身体が揺れたことに「んぅ」という声を漏らしていた。

それからリルは、周りの皆が自分に注視していないことを確認した後に、懐から取り出した黄金に輝く小さな卵を一つ、大地に放り投げた。

つづけて自分も木箱の中に入ると、女王を抱き寄せて可憐に微笑む。

「女王、先日はまだ帰るべきではないと言ってしまい申し訳ありません。私にも準備があったのですよ」

ウォーレンとクリスを前に、一度は帰るべきではないと言い放ったリルが言い訳した。

やがて彼女たちが忍び込んだ木箱は傍に停泊した飛行船に運び込まれ、静かになってからは胸元が発する鼓動が聞こえてきそうなくらい早鐘を打った。

いつしか、彼女らを乗せた飛行船は王都を発つ。

飛行船が王都を離れるにつれ、さっきまで木箱が置かれていた広場に魔力が集まりはじめていた。

その魔力は、リルが放り投げた黄金の卵へ集まっていく。

人知れず発生しつつある異変が、イシュタリカ王都にもたらされようとしていた。

――――けれどそれが、やはり人知れず防がれる。

『ヒヒッ』

『ウフッ……ウフフフッ』

突如、広場の地面に現れたマンイーター。二輪のマンイーターは落ちていた黄金の卵に噛みついて、あっさりと砕いてしまったのだ。

「ん?」

「どうした? 何かあったのか?」

「はい。何か砕けたような音がした気がしまして」

「……何もないじゃないか。気のせいだろ」

騎士が、あるいはオーガスト商会に所属した者たちが気のせいだと思うほど、マンイーターたちはあっさりと仕事をしたのである。

やがて二輪のマンイーターは姿を消し、城へと向かう。

◇ ◇ ◇ ◇

自由に動くマンイーターは、城の中でもウォーレンの執務室にやってきた。

ここに現れたのは一輪で、その一輪は執務室の窓際に置かれた飾りの花――――が活けられた花瓶から姿を見せ、ウォーレンを驚かせる。

「おや、どうしたのですか?」

しかし彼は、すぐに落ち着きを取り戻してマンイーターに尋ねた。

マンイーターは花瓶から姿を見せるために身体を小さくしたこともあり、この一輪のはどこか可愛らしい。

そのマンイーターは口から黄金の卵の欠片を吐き出した。

『フゥ』

一仕事終えた達成感に溢れた声である。

「ふむ……これを私に?」

『ン』

「なるほど。冷やかしではなさそうですね。……この色は黄金航路も思い浮かびます。卵か何かの欠片に見えますが」

『ン!』

「どうやら当たったようで。ともあれば、個人的にはあの魔物が気になります」

あの魔物、というのはヴァファールのことである。

それにしても簡易ながら意思疎通がとれたものだ……こう笑っていたウォーレンがは、数時間前にアインから届いた連絡を思い返す。

『リルの身柄を抑えるか、あえてこちらに送ってほしい』

というものである。

聞けばアインはリルが此度の騒動の根源であると踏んでいるようで、その理由を聞いたウォーレンもなるほど、と膝を打つような思いだった。

「それにしても、あえてこちらに送れと申すのもアイン様らしい」

ウォーレンはつい数分前に王都を発ったばかりの飛行船を見あげ、今後の展開に想いを馳せた。

「ところで、あの飛行船を護衛できますか?」

『……ハァ』

「お願いします。あちらの魔石をお召し上がりになっても構いませんので」

『ッ!』

マンイーターはウォーレンが指さした先にある、飾りの魔石を見て身体を揺らした。

一目でわかった。あれは高級品である。

そうしてすぐにマンイーターは身体を大きく、血を這うようにツタを伸ばして魔石に向かう。

台座に置かれていたそれを一口で咀嚼すると、今度は仕方なそうに言うのだ。

『アイ』

と。

するとマンイーターは姿を消し、ウォーレンの執務室には静寂が戻った。

つづけて執務室の扉がノックされ、ロイドが足を運ぶ。

「ウォーレン殿、マンイーターの声が聞こえましたぞ」

「ええ。実はリル殿の件で動きがありまして」

「と言いますと、例の泳がせる件ですな」

ウォーレンが頷く。

「どうやらアイン様は、ご自分で動かれた方が都合がよいと思われてるようでして」

「……アイン様のことだ。火種の対処は自分が最後まですることで、愛する方々に万が一が無いようにと思われてのことでしょうな」

「私もそう思います。陛下も同じことを申されてましたぞ」

「なれば、城に残った我らも全力で警戒にあたりましょう」

ロイドはそう言って席を外す。

残ったウォーレンは窓の外に目を向けて、たった数分でまた遠くまで飛んで行ってしまった飛行船を見ながら呟くのだ。

「我らは手を抜いているわけでなければ、舐めているわけではございませんよ」

つづけて彼は、

「他でもないアイン様がすべてを片付けるおつもりなのです。それ即ち、我らイシュタリカにとっては比肩することのない本気ということでございますので。――――なのでリル殿、是非とも我らに有益な情報をお与えくださいませ」

こう口にしたのである。

表情は人のよさそうな老人のそれでありながら、彼の声音には老成した強みが節々に隠れ、気を抜けば一瞬で食われる文官の凄みに満ち満ちている。

『閣下』

今度はウォーレンの部下の文官が足を運び、用意していた書類をウォーレンに手渡した。

「こちらが二名の脱走に関する資料でございます」

「ふむ……八重の防衛設備のうち、六段階目の魔道具でようやく脱走を感知できたのですか」

「そのようです。我らは閣下のご指示通り、警備に穴を設けてはいたものの……それにしても、高性能な気配遮断の魔道具を持っていたことが驚嘆に値します。特にそれが、手元におけるほど小型だったことがです」

「同意します。黄金航路との深いかかわりが疑われておりますから、その関係で特別な技術を受け取っていたのでしょう」

ウォーレンが訳知り顔で言えば、部下の文官は頷いてから執務室を去る。

残ったウォーレンは時計を見てから、自分もいくつかの資料を用意にかかった。

……もうすぐ、今回の騒動にも一つの結末が訪れるだろう。

それを確信したウォーレンは机に置いていたティーカップを手に取り、ベリアが淹れたその茶を優雅に飲み干した。

次に彼は執務室を出て、国王シルヴァードの下へ諸々の報告へ向かったのである。

◇ ◇ ◇ ◇

つまるところ、鉄の国は歴史を繰り返そうとしているのだと。

アインはシルビアと語り合った後、それを再確認して複雑な感情に苛まれていた。

腰に携えた黒剣イシュタルを抜くことが無いように……このことだけを祈って止まない。

だが抜いた暁には、ガルムから得た新たな力もその真価を発揮するはずだ。

夕刻、諸々の支度を終えたアイン。

彼は部屋での片隅に控え、出発の合図を待っていたマルコから、「ご教示いただきたいのですが」と声を掛けられた。

「アイン様は先日、王都へ気になることがあるから女王たちに話をしてくれ、とご連絡しておりましたよね?」

「うん。それがどうかした?」

「その頃から、リル殿が怪しいとお思いだったのですか?」

「あはは……俺はそこまで切れ者じゃないよ。俺はただ、王位簒奪の予感と……鉄の国の城下町に居た子持ちのドワーフたちの心から、女王への思いが消えかかってることが気になってたんだ」

最初はギドかリオルドの二人……特にギドを疑っていた。

例の元相談役の世話を親類のリルに頼んだということも知り、奴から妙なことを唆されたのかもしれないと考えていたのだ。

「だから俺は、この予想が正しいんだろうなって思ってた。リルは女王を王都に留めようとしてたから、その隙に親類のギドが王権を得るために行動する、とかね。ほら、臣民の間でも女王に対する不信感があったしさ」

だが、そうではなかった。

ギドとリオルドの話を聞いたアインは、それが間違いであることにすぐに気が付き、本当の黒幕とその狙いを鋭く予想した。

「けど、リオルドが一芝居打ったって話を聞いて、気が付けた。本当はあの二人に……いや、最初はリルも含む三人に共通の目的があったんだよ」

アインはそう言うと、部屋を出る。

そろそろかな、彼はこう言って腕時計を一瞥した。

「それに、女王が王家の血を引いていないってことを知ってるなら、鉄王槌の管理がもうできないことも確定してるんだ。外に出ればその鉄王槌のためになるモノを得られる――――あの元相談役にそう唆されたなら、地上に出て攻撃してきた理由も合点がいく」

「仰る意味は分かりますが……しかしリオルドたちは、どのような芝居を打ったのでしょう」

「女王を生かすための、だよ」

確信めいた声色で言われ、遂にマルコも理解に至る。

「我らイシュタリカも巻き込んでの鉄王槌の騒動……それが落ち着いた暁には、女王が処刑されるか否かの問題に発展します。それを避けるべくだったのですね」

「そう。だからリオルドたちは軍部の暴走とでも俺たちが思うよう、過激な戦士たちの姿を演じながら、俺たちの使節団に印象を植え付けたんだ」

それだけでは、女王という存在が刑戮にあうことは避けられまい。

だが、折を見て女王が王族の血を引いていない、と明らかにすれば話は変わる。

恐らく女王は関与していないからギドにリル、それにリオルドの三人が苦肉の策ともいえる方法で選び取ったのが、軍部が諸悪の根源であるとするシナリオだ。

そうすれば鉄の国の存続はもちろん、女王の命も散らさずに済むと思っての立ち回りなことは、彼らの中心と彼らの話から伺える。

また、焚きつけたのは例の元相談役で、鉄の国はイシュタリカが鉄王槌をどうにかできるという話に希望を抱いていたのだろう。

「ただ、ほころびが生じた」

それはリルというドワーフの女性が、鉄の国の過去を踏襲しはじめてしまったこと。

彼は例の元相談役に付き、当初の三人の予定に変化が生じた。

あるいは最初から、リルはギドとリオルドをだましていたのかもしれない。

「ギドとリオルドが知らない間に、リルは心に闇を飼っていた。最終的に何をさせたいのかはわからないけど、あの男に心を寄せているんだと思う。それか惑わされてしまったかだ」

計画が進むにつれて、ギドとリオルドは女王を鉄の国に帰せるよう働きかけた。だがそれらの意に反して、王都に残ったリルは予定外の動きをするようになっていたのだ。

これがアインには少し不気味だった。

リルは一度、女王を鉄の国から遠ざけるような言動をしてみせた。

だというのに、どうして急に秘密裏に動き出し、この鉄の国を目指して飛行船に忍び込んだのかが気になったのだ。

「……まぁ、動きはじめるからだろうけどさ」

何らかの準備があり、若干のタイムラグが生じた。

そう結論付けたアインは飛行船の窓から外を見て、平原を見下ろす。

「それにしても、強くなるにつれて色々と動きづらくなってきた気がするな」

アインは昔と比較にならないほどの強さを見に付けたのに、不思議とその力を使って簡単に解決できる……という機会はあまりない。

あったところで、物事がある程度進んでからだ。

そんな呟きをぼそっと漏らせば、それを聞いたマルコが傍で笑って言う。

「守るべき存在の影響が大きくなれば、慎重に動いて当然かと思います」

「あー……そういうことか」

これが大人になることで、王になることだと思うと理解できた気がした。

「殿下」

進んだ先、外へ通じる扉の前に立っていたレオナードが言った。

アインを迎えたレオナードは一枚の羊皮紙を手に、そこに書かれた情報を読み上げる。

「ご指示通り、いつでも鉄の国に介入できる状況です。万が一に備えて、ドワーフたちの避難も迅速に行えるよう準備ができております」

「さすがレオナード。頼りになるね」

「はぁ……そうは申されますが、ご無理はなさらぬようにお願いします」

「分かってはいるんだけど……なんというか、俺にも譲れないものってあるからさ」

今回の場合は、イシュタリカに仇成す存在は見過ごせないということ。

愛する祖国を守るため、そしてもし愛する者たちにその仇が届くことがあればと思うと、アインは無理をしないとは言えなかった。

そんなアインを見てレオナードは何か言いたげだったけど、決して口にはしない。

マルコが先日言ったように、これがアインの傍にいるということだから。

しかも、そのアインが飛行船を出てすぐに魅せるのだ。

「……あれは」

レオナードが目を見開きながら声を上げた先、平原の一部から。

唐突に濃密な魔力が可視化して、極彩色に瞬くオーロラが如く波が辺りに蠢きはじめた。

異変は他にもあって、大地がギ、ギギギ――――というどこか人工的な音を上げて揺れる。

「アイン様、アレは何かの前触れかと。周囲の魔力があの中心の地下……間違いなく鉄の国の城付近にある鉄王槌へと向かっております」

ならば鉄の国でまだ大きな騒動は発生していない。

発生する前に、ここからは急いで行動に移らなくては。

「ああ、そうみたい。――――ってなわけだからレオナード、ちょっと下がってて」

「は――――はっ!」

飛行船を出たアインは足場の鉄塔を進み、見張り台を想起させる開けた場所に立つ。

そこに立ってからイシュタルを抜き、深紅に瞬く炎を一瞬だけ纏わせて、次の瞬間には夜よりも暗い黒のオーラを剣身に帯びさせる。

……やがて濃密な魔力が、辺りの平原を包み込む檻へと変貌しかけたところで。

「―――さぁ、鉄の国との騒動に決着を付けよう」

その声は、控えるレオナードの心を揺らした。

その声は、つづけて辺りの空間に響き渡った。

彼は手にしたイシュタルを横に一薙ぎ。軽々と振った。

辺りを包み込む魔力の波が何らかの変化を遂げるより先に、その軽々と横に振られたイシュタルが放った深紅と漆黒の波が、辺りの異変を一瞬で焼き尽くす。

魔力そのものを焼き尽くすという、研究者からすれば可笑しな言葉。それがアインの手によって、現実のものとなったのだ。