軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

面談は大事。

朝なのに、どこか朝に見えない。

雪王岩の柱から発せられる光はあくまでも自然で、外の世界を照らす陽光に似た性質を持っているものの、やはり偽物に感じて止まない。

――――しかもそれが、人工的に移り変わるだけ。

地下にある鉄の国は外と違い、夜と朝の明るさがドワーフの魔道具によって切り替わる。

それこそ叡智の結晶に他ならないが、無機質さは隠しきれていなかった。

そんな、鉄の国にある耕土一帯。

この地も当然、空を見上げれば人工的な蒼が広がって、雲なんてものは一つもない。造られた空があるだけだ。

耕土そのものはそれでも十分育つ作物が植えられており、場所は城から一時間と少し進んだ場所にある。

アインはここで、シルビアが土を触る様子を眺めていた。

(……すごいなー)

頭の中で能天気に言ってみる。

畑作は勿論のこと、土の状況なんてアインにはさっぱりわからない。

一応、毒素分解EXの効果でおおよそは理解できるため、昨晩の予想通り、耕土一体に有害なナニカがあることはわかっているのだが……。

「アイン君」

シルビアの叡智に驚きつづけて居たアインを、その彼女が呼んだ。

傍に居るのは他にマルコのみで、レオナードをはじめとした者たちは城に足を運んでいる。あちらでドワーフから話を聞くとともに、鉄王槌の調査状況をすぐに確認できるようにするためだ。

「心が痛いと思うけど、ちょっとだけ力を抑えていてね」

「……はい。わかっています」

耕土の状況を改善することなんて、アインにしてみれば造作のないことだ。

ほんの一瞬……人々が瞬きをする間に、辺りの状況を改善に導けることに間違いはない。

だが、シルビアが言ったようにその力を抑える必要がある。

それは利敵となるからだ。

「うーん……変ねー……」

腕を組み、色艶の良い唇に指先を当てたシルビア。

その艶美な姿を傍目に、アインはマルコに話しかける。

「色々落ち着いたら、俺が直してあげた方がいいかな」

「恐らくは。王都に居る皆々様も、それ自体には異を唱えないかと」

女王の処遇もいずれ決まるだろうけど、その如何にかかわらず、鉄の国の民とどう接していくかも重要なことに変わりはない。

だが、友好的な関係を築くのなら――――

(俺の力が重要になるんだ)

アインはその心優しさゆえに、鉄の国で飢えるドワーフのためになるなら、と思った。

ただ、どう動いても彼らはアインに対して新たな感情を覚えるはず。生まれ故郷の大地を改善してくれたとなれば、それ自体に感謝するだろうからだ。

「あ、これかしら」

「あれ? どうかしましたか?」

「ちょっとね。昨晩、面白いものが見つかるかもって言ったでしょ? やっぱりと言うか……思っていた通りのモノが見つかったわ」

こっちに来てくれる? シルビアに呼ばれたアインが彼女に近づく。

彼女は耕土に生えていた作物の枯れたそれを手に、仄かに紫色に瞬く魔力を手のひらに浮かべ、何かの反応を眺めていたのだ。

それを、アインと共に歩くマルコが眉をひそめて見ていた。

「古い 呪い(まじない) ですね」

彼がそう言えば、

「呪い?」

「そのようです。詳しくは、シルビア様からお聞きしましょう」

素直に頷いたアインがシルビアの隣に立ってすぐ、彼女は手元で光る魔力を抑えた。

それまで手にしていた作物を「アイン君、触ってご覧なさい」と言って彼に手を伸ばさせ、アインはすぐに枯れた作物に触れた。

やがてアインは、毒素分解EXが勝手に働いたことにまばたきを繰り返す。

「マルコが言っていたように古い呪いがかけられているわ。昨日聞いた話から察するに、十数年前からみたいね」

「では、どうして俺の力が発動したんでしょうか」

「発動して当然よ。この呪いを受けた存在は、空気中の魔力を媒体にして身体に毒を抱くの」

アインは静かに頷いて耳を傾ける。

「作物の場合、それが周囲の大地にも影響をもたらすのだけど……この毒は厄介で、それが毒であると看破されにくいことはもちろんのこと、長い時間を掛けて広がるから、気が付いたときは手遅れってことが多いのよ」

「ほ、本当に色々なことを御存じなんですね」

「ふふっ、ありがとう。でも今回のことは、私もかかわったことのある人たちの呪いだったのよ」

「かかわった……それって、ドワーフたち以外でということですか?」

「ええ。私は鉄の国とかかわりを持ったことはないけど、他の種族の国には色々足を運んだことがあるから、そのときにちょっとね」

そう言い終えたシルビアが歩き出す。

アインとマルコに耕土を離れる旨を告げ、城に向けて足を進めはじめてから数分後――――。

彼女は唐突に言うのだ。

「この国のドワーフの中に、ダークエルフと繋がってる者がいるわ」

と言って、アインに驚きで目を見開かせた。

マルコにはやはり、とため息をつかせたのである。

◇ ◇ ◇ ◇

「では、現在の飢饉は意図的に生み出された状況なのですか?」

鉄の国の城に戻ったアインは、道中で話したことをレオナードに共有していた。

そのレオナードは神妙な面持ちでアインの話を聞きながら、この状況がやや込み入ったそれであると知り眉をひそめる。

「シルビア様が言うには、間違いなくダークエルフの呪いがあるらしい。この国にダークエルフが住んでいないことを思えば、十数年前からダークエルフと通じてるドワーフが居ると思うんだ」

二人は城に用意された一室で話をしていた。

なお、この部屋にはシルビア特製の魔道具が置かれていて、二人の会話を盗み聞くことはできない。

そのシルビアこそ鉄王槌に向かったため不在なものの、この武骨な部屋の外にはマルコも立っており、邪魔者が入り込む隙は無かった。

「ええ……仰る通りだと思います。しかしながら、目的がわかりませんね」

「だね。自分たちの首を絞めてるようにしか見えないし、こんな状況を作り出して何をしたかったのかよくわからないや」

「ただ間違いなく、それで誰かが得をするはずです。とはいえいまでは、我らイシュタリカに首根を掴まれているも同然ですし」

「そうなんだよねー……仮に同族を外に駆り出すための作戦だったとしても、違和感があるし……」

「一度、黄金航路の元相談役の関与と分けて考えた方がよさそうですね」

「――――ん。そうみたい」

ところでアインにも、いま言葉にしたように思うところがいくつもある。

この国に住むドワーフの誰かがダークエルフと繋がりを持ち、その力を借りて祖国の耕土に呪いをもたらした……。

そのドワーフはこれによって得をするはずなのだ。

何らかの、それが物理的に何かを得られるのか精神的に得られるものなのか、いずれにせよである。

(母上が言うには、この国が滅びかけたきっかけのダークエルフたちだろう……って話だけど)

当然アインは、そのダークエルフたちがいまも生きていることに驚いた。とはいえ子孫たちだろうけど、こうして現代も何か暗躍していると思うと笑みが濁る。

「私の頭には王位の簒奪が浮かびました」

「へ? 女王に叛意をってこと?」

「はい。聞けばこの国は、建国当時からつづく王族がおさめているようです。ただ、それを良しとしないドワーフが存在するなら、あまり違和感はないように思えます」

「あー……耕土の状況を王族のせいにして、とかね」

「そうなります。実際、鉄の国は女王が処刑されてもおかしくない状況ですので」

元相談役の関与がより一層わからなくなったが、レオナードの予想は筋が通っていた。

現状の女王は確かにひどく不安定な状況に置かれている。ダークエルフと繋がりを持っていたと推測されるドワーフが存在するのなら、それはもう理想的な状況のはずだ。

……これは、女王がとても可哀そうに思えてならなかった。

「でもさ、国ごと俺たちに滅ぼされるとは思わなかったのかな」

「私もそれが疑問でした。なので、そうされないと確信できる何かが……切り札があったのではないでしょうか?」

アインはそれを聞き、天井を見上げながら「切り札、ね」と呟いたのである。

すると、そこへ。

扉がノックされたことでアインが返事をすると、やや疲れた表情を浮かべたムートンがこの部屋に足を踏み入れたのだ。

「殿下。あのリオルドとかいう奴がうるせえんだ」

やってきたのは、朝から鉄王槌に向かっていたはずのムートンである。

「どうしたんですか、急に」

「まぁ聞いてくれや……俺もまぁ変装してこの国に来てるだろ? 化粧だったりなんだりとな」

その理由は単純で、まだムートンの顔に気が付いてほしくないからだ。

でも、イシュタリカとしてはムートンの知恵を頼りたいし、いざとなったら鉄の国の戦士がムートンを見て驚いたそれも頼りにしたい。

けどそれは、不要であるなら明かす必要もないわけだ。

そのためムートンは、特別な化粧を施して顔つきを少し変えているのだが……

「お前はドワーフの癖に軟弱な! って言われてよ。あったまに来たから手を出そうとしたんだが……それはもう必死に耐えたってとこよ。殿下に迷惑をかけてもいけねぇしなッ!」

「な、なるほど……お気遣いいただき感謝します」

とはいえ彼の溜飲は下がっておらず、不満そう。

(外に出たドワーフの一族、って思われてるんだろうな)

たもとを分かった元同族となれば、鉄の国のドワーフが何か言いたくなるのもわかる。と言うのはアインにその気持ちがわかると言うのではなく、リオルドと言う男の性格を思えば、奴の周囲に居るドワーフがそう考えても無理はない、ということである。

「ムートン殿。他に何か問題はありませんでしたか?」

ここでレオナードが尋ねた。

「あん? まーないようなもんだな。別に妨害されてるわけでもねぇし。ただリオルドの野郎、女王はどうした、女王は元気なのか? って何度も聞いてくるもんで、多少めんどくはある」

「……うん? それってムートンさんからしてみれば、リオルドは女王に忠誠を誓ってるように見えましたか?」

アインは首をひねりながら尋ねた。

傍ではレオナードがアインが疑問を抱いた意図を悟り、口を閉じる。

「おうとも。バルトにいたときから色んな客を見てきたけどな、あの男は意外と嘘を吐くような男には見えねえぞ」

「ってことは、女王に対する忠誠は本物だと思うんですか?」

「そーゆーこった。ま、その思いやりを俺たちにも見せろって話だけどよ」

やれやれ、肩をすくめたムートンの傍でアインが腕を組む。

(――――どうなんだろ)

首をひねったアインの真意は、リオルドが王位の簒奪を企んでいたのではないか、ということだ。早計だから予想に過ぎなかったけど、あの男の振る舞いを思えば疑いを抱いて然るべき。特に、イシュタリカと言う相手方の重要人物たちを前にした振る舞いを思い返せば、当たり前のことだった。

――――ムートンの直感を信じるならではあるものの、正直、アインとしてはムートンの直感は以前も思ったが、十分信用に値すると感じている。

勿論、だからといって油断するつもりも、それ以外に考えることをやめるわけではない。

けれどいまの話は、アインを熟考させるのに十分すぎた。

『なら、話してみればいいじゃない』

心の中に響き渡ったシャノンの声。

どうせなら、自分の力も使ってしまえというのが見え隠れするけど、アインとしても、リオルドと話してみるのは悪くない気がした。

アインはいま、将軍の立場にある。

これを利用することで、リオルドがどれほど女王に忠誠を誓っているのかを確かめたい。

そうと決まれば、早めに動きたかった。

「ムートンさん、せっかくだから俺が話してみるよ」

「お、さっすが殿下だぜ!」

「殿下!? まさかご自身でリオルドと話されるのですか!?」

喜んだムートンと対照的に、レオナードは慌てて机を叩いた。

「やっぱり、ウォーレンさんたちに確認してからの方がいいかな」

「それは当たり前です! ですが、私が言いたいのは、何故殿下がご自身で――――いえ、よく考えれば愚問でしたね……殿下はこれまでも、常にご自身から動かれておりましたし……」

諦めたレオナードがため息を漏らすと、ムートンがその肩を叩いて慰めた。

アインはアインで、懐を漁りメッセージバードを取り出す。

対となったメッセージバードはイシュタリカ王都、それも城にあるウォーレンの執務室に置かれたものである。

返事はすぐに届くだろう。

思い立ってすぐの行動を起こしたアインの声は、それからすぐにウォーレンの下へ届けられる。

またその返事も、数十分としないうちにアインの下へ届いたのだった。