軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

長い一日の終わり。

アインが吸った魔石について、いくつかのことが判明した。

だが時間的と状況的に続きを話し合うのは後程ということになり、食事をとった。

アインがマグナから持ち込んだのは、海龍の肉。何も言わずにそんなものを持ち込んだことに、シルヴァードがまた頭を抱えることとなったが、その数秒後にその肉を口に運んだあとは静かになった。

シルヴァードとしても黙るしかないその味は、口をつぐむほどの一品だったのだ。

それ以外にも、顔を真っ赤にしながらアインの世話をするクリスの姿など、いくつかの話題はあったものの、食事会は和やかな空気で終わった。

食事をしたことにより一息ついた一同は、とりあえずこの日は休むことにした。

アイン達は大きく疲れていたこともあるが、待っていた者達も決して疲れを感じていないわけではない。常に心配をし続けていたことや、シルヴァード達は会議でしばらく知恵を絞り続けていた。

詳しい話は後日、ということでこの日はひとまず解散となる。

そしてアインはオリビアと共に、オリビアの部屋へと向かったのだ。

「あのーお母様?どうしてこんなことに?」

「アインのことが心配で心配で、我慢できなかったの……」

アインはオリビアの部屋の掃除をすることとなっていた。とはいえ今は腕が動かない為、今から掃除を始めるわけではない。単にオリビアに誘われたから出向いたというだけの事。

ソレは扉からも漏れていた。そして部屋に入るととてつもない状況に、つい何が起きたのか聞いてしまう。

部屋中、木の根と少しの草花で覆われていたのだ。

「マーサさんが、お母様は力の強いドライアドと言ってましたけど」

オリビアが座っていたであろうソファを中心に、その木の根は広がっていた。

「結局のところ私の本質はドライアドですから……。だから気持ちが落ち着かないとこうなっちゃって」

「そんなに恥ずかしそうにしなくともいいのでは?」

「でもねアイン?これ全部私の体と思うと、恥ずかしくなるのは仕方ないんですよ?」

そう言われてしまうと少しだけ納得できた。価値観なんて人それぞれだし、種族によっても違うだろうからとアインは納得することにした。

「それでこのお母様が出してしまった根っこを、俺が後で掃除すればいいんですね?」

「え、えぇお願いしますねアイン」

心配をかけていたのだからこのぐらいいくらでもと思った。そしてアインも自分自身が同じく根っこを出せるのかと不思議に思った。

「俺も根っこ出せたりってするのかな」

「人間寄りのアインだけど、出せると思いますよ?今度一緒に練習しましょうね」

どんな練習なのだろうかと興味を抱くが、まぁいずれの楽しみにしておこう。

「さて、と。アインいらっしゃい?」

ソファに腰かけたオリビアがアインを招く。

「それじゃ隣に」

「ううん違うの。隣じゃなくてここですよ」

隣に腰かけたアインを持ち上げたオリビア、少し重そうにしてたためアインも自分で体を浮かす。

そしてアインはオリビアの膝の上に抱きかかえられる。

「さぁもういいですよ、よく頑張ったわね。いい子いい子……」

オリビアの胸元に抱き寄せられ、頭をポンポンと優しく触られるアイン。

そうされているうちに、少しずつ涙があふれてきた。

「あ、あれ……?」

「大丈夫よ、いい子ねアイン……たくさん頑張ったものね?もう大丈夫なの。何も心配することなんてないのよ」

不思議と気恥ずかしさなどは浮かばず、むしろ温かい気持ちに包まれる。

その際も涙は止まることなく、アインは泣き続けてしまう。

「どうしてっ……なんで、こんなに」

クリスを救うため、脳内に過剰分泌されたアドレナリンはアインの恐怖心を抑えていた。

そのまま海龍討伐を終えた後も、なにか落ち着けなかったのはそのせいだろう。

自分にとって一番安心できる場所へと戻ってきたアイン、そしてようやく許されたアイン。自分が恐怖心を抱いていたことを自覚した。

死ぬかもしれなかった、救えないかもしれなかった、自分の目の前でクリスが死ぬかもしれなかった。怖い理由なんていくつもある。頭の中で無理やり抑えられていたその心が、ついに感情として表に出てきてしまっている。

「うんうん。アインはたくさん頑張りましたね、でももう心配しなくていいし、怖がる必要もないの。アインはみんなとここに帰って来てくれたから。だからもう大丈夫よ」

そしてうまく言葉を口にできない程に涙を浮かべ、声を漏らしてしまった。

彼がしたことは、彼の体や心には大きすぎること。アインが帰った時から一目見て、それを理解しているオリビアだった。

「おか……おかあ、さまっ……っ!」

いつものアインからは想像できない姿。だが彼もまだ10歳、もうすぐ11歳とはいえまだ子供だ。

年相応ではないことをしたからこそ、今は年相応の姿をオリビアへと見せている。

そのまましばらくの間泣き続けたアイン。今日一日で大きく疲れたその体は、オリビアに抱かれたまま寝付いてしまった。

アインがオリビアの胸元で寝付いた頃、シルヴァードの部屋ではシルヴァードとララルアの二人に、ウォーレンとロイドの合計4人が集まり話をしていた。

「でもね、褒美が全くないっていうのも少し可哀そうだと思わないかしら」

ララルアが口を開き、不満を口にした。

「……ララルア。お主が言うことも分かるが」

「ようは、貴方から褒美は与えられないのでしょう?」

「う、うむ……だが王族であるお主から与えることも、こればかりは許せぬ」

「ですが陛下。妃殿下の仰ることもわかります、英雄となったアイン様はたしかに独断専行の働きをしました。とはいえあれほどの功績を打ち立てたのです。つまり褒美がなければ」

「……ロイド殿が言うとおり、確かに国民が不満を抱くこともあり得ますな」

国民からしてみればアインは英雄。そのアインが自分の責任などと相殺で褒美が全くないというのも問題だった。それはシルヴァードにとって、悩みの種となっていた。

「それは余も理解している。だが」

「ですから貴方?私一つ提案があるの、聞いてくださいますか?」

「……続けよ」

「アイン君が王都まで凱旋したのは何に乗って?」

ララルアが口にしたことを聞き、ウォーレンはすでに合点がいったようで数度頷いた。

「プリンセスオリビアだ」

「それはなぜ?なぜプリンセスオリビアなのかしら」

「何故と言われても、それが最善だっただろう。余の船を使う訳にもいかず、そしてマグナにはプリンセスオリビアがあるのだから。プリンセスカティマなどを使うよりも」

プリンセスカティマを使うよりも正しいだろう、そう口にしようとした。だがそれをララルアが遮る。

「察しが悪いのは直りませんね貴方。国の事となれば頭は悪くないのに、どうして身内が絡むとこうなのかしら……」

プライベートスペースに来たララルアは、シルヴァードへと遠慮なく言葉を発している。

「ウォーレン。貴方はわかるわよね?」

「……ひとえに、アイン様の専用船がないことが原因でしょうな」

「そう。だからアイン君は自分の船に乗って凱旋が出来なかった、まだ必要でなかったのはわかります。確かにまだ専用船を持つには年齢が早かったもの。でも……ちょうどいい頃合いじゃないかしら?」

「妃殿下が仰ることは、全てがうまく纏まりそうな気がしますな」

その意見を聞いてシルヴァードが考え始める、シルヴァード達が褒美として渡す形というよりも、国から渡されるものが専用船だ。誰が渡すかなんてあまり違いがないように思えるが、彼ら王族にとっては一つ一つが重要な意味を持つ。だからこそ、この場合はシルヴァードとしても問題は感じなかった。

「多くの命を救った英雄ですもの、国から褒美が出るのは当たり前ですわ。ねぇ貴方?」

「む、むぅ……たしかにお主の言う通りだ。では早速その件を」

「いいえ貴方。実は私がアイン君にプレゼントした短剣、無くなってしまったの。覚えてます?」

「うむそれはわかるが」

「だから私に考えがあるの、いいですね?」

有無を言わさぬララルアの気配に、シルヴァードは続きを促す。

「まずは何を考えておるのか教えてくれぬか。どうにも心臓に悪い」

「今日は良い物が2つも手に入ったわね」

「……妃殿下。まさか」

ウォーレンがすぐにその意味を理解できたようで、驚いた顔でララルアの方を見る。

「片方使いましょう。これから先、我々イシュタリカの象徴ともなる傑作を作ります。貴方のホワイトキングを超える船を造ります」

「妃殿下、誠ですか!?」

「ララルア。お主……まさかっ!」

「えぇ。2頭もいますもの、1頭丸ごと持ち込んだことだって初めてなんですから、今回はそれが2頭もいます。だからマグナに置いた方を分配、そして国で使います。それで不満が起きることは無いでしょう。そして王都まで運んだ、アイン君が討伐した海龍……それを」

まさに想定外、そして王族専用船の今までの素材などからすると、比べ物にできない話。

「アイン君が討伐した方の海龍の素材をまるまる使い、イシュタリカ王専用船を新たに造船します。そうね……こんな名前はどうかしら」

海龍艦リヴァイアサン、それが彼女の口にした名だ。

これから先もイシュタリカの象徴といえる船にする。そういうことならば、決して悪い話ではなかった。イシュタリカの王が引き継ぐホワイトキングは老朽化しており、新たに造船することも検討されていたからこそ、タイミングとしても丁度いい。

なによりもこれから先、海龍が現れた時、その対策にもなりえることも悪くない。

未来の王、王太子であるアインにそれを渡すのも道理に適っている。

「英雄が乗るにふさわしい船となりますな、陛下」

ウォーレンにそう言われたシルヴァード。シルヴァードの心の中でも、この提案を実現するための考えがいくつも蠢いていた。

「悪くない。余もそう感じてきた」

イシュタリカの王族は、今までも女性がとても優秀な姿を見せてきた。

ララルアもその例に漏れず優秀であり、シルヴァードの助けとなっていた。