軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未来

クローネ達がイシュタリカへと到着し、オリビア主催の夕食から数日が経った。

その間いくつかのことが水面下で進行していたようで、その数日間アインはクローネと顔を合わせることがなかった。

「あらアイン様。ご機嫌よう」

「マジョリカさん来てたんですか」

今日の勉学の時間を終えて自室へと戻る最中、マジョリカと出会った。

城に魔石の搬入に来ていたようだ。

「あの魔石、なにか分かったかしら?」

「いえ全く。ただただ物騒だなっていったところです」

結論を言うと、マジョリカにはアインのことはバレていた。

マジョリカ魔石店へと出向いた日から暫く経ってから、彼はカティマに魔石の搬入を行いに城に来ていた。

その時あっさりと『あらアイン様』と声をかけられる。

アインがなぜわかったのかと聞いたところ、クリスの態度で大体のことは想像がついていたらしい。

ただマジョリカは口が堅いため結局特に問題にはなっていなかった。

「カティマ様までわかってないんだもの。そりゃそうよねぇ……」

「あんな特殊な魔石は、今までなかったんですよね?」

「無かったわけではないわよ。特殊だったと思ったのは謁見の間にある魔王の魔石と、アイン様が食べちゃったデュラハンの魔石ぐらいですもの」

「あれ?魔王もデュラハンも特殊だったんですか?」

あら聞いた事なかったんですねとマジョリカは口にする。

「魔王の魔石もデュラハンの魔石も、お互いを引き合ってたのよ。あの二つがそばにあると魔石から目に見えてわかる魔力が放出されて、近くに行こうとして少しずつ動いてたの」

「意思があったっていうことですか?」

「……そうね。意思があったと言っても過言ではないわ。だから魔王の魔石は、強力な封印を施した台座を丸ごと謁見の間に設置したのよ。そしたらデュラハンの魔石は打って変わって死んだように静かになったわ。だからそのあと第二王女殿下のお部屋に持っていかれたと言う訳です。死んだようにも何もすでに死んでたわね……」

既視感を感じた。アインが経験したのは、例の魔石を手に持ったらデュラハンのスキルが発動したということ。

これは決して偶然ではないように思える。魔王の魔石とデュラハンの魔石は引き合った、そしてデュラハンのスキルと例の魔石は引き合う。後者はすでにデュラハンの魔石では無いものの、仮説としては成り立つ気がした。

「アイン様?何か考えがあるのでしょうけれど、あまり無茶はしてはだめよ」

「そうですね。あまり心配はかけないようにします」

「デュラハンの魔石は、魔王の魔石と引き合うほどの強さがあったこと忘れないように」

魔王の魔石と引き合っていたなんて聞くと、アインとしても少したじろいでしまう。

これからはもう少し慎重に行こうと決意する。

「ご忠告ありがとうございます。仰る通り気を付けることにしますね」

その返事を聞いてマジョリカは失礼しますと口にして立ち去った。

魔石同士の奇妙な縁を感じて、さらに慎重に調べることにした。とはいえその奇妙な縁に強い興味を抱いてしまったことも否定できない。

「おぉアイン様。ちょうどよかった」

どうやらアインは簡単に自室に戻ることができない日のようだ。

今度アインの前に現れたのはロイド、なにやらアインに用事があるみたいだが。

「ロイドさんこんにちは。ちょうどよかったって何か、俺に用事でしたか」

「えぇ実は午後の訓練の際、私の息子を紹介しようかと」

「どうしてまた急に」

ロイドの息子のことはクリスから聞いていた。

アインが通う予定の学園にすでに通っている年上であり、先輩にあたる。

そんなロイドの息子を急に紹介すると言われ、アインも不思議に思っていた。

「不詳、私の息子がアイン様の護衛を務めます。まぁ学園内だけの限定ではありますが」

「学園内限定の護衛、ですか」

一言でそういわれてもパッと理解はできなかった。そんなアインの様子を見てロイドは続ける。

「アイン様は恐らく、どうして学園内限定の護衛をと考えているでしょう。ですがこれは当然のことです。護衛をつけられない時も勿論存在します。ですが護衛できる時に限って言えば、我々がその護衛をつけるのは当たり前のことですからな」

「あー……なるほど。でも学園内限定っていうのは?」

「元帥の立場として申し上げるなら、純粋に力不足です。同年代の中ではとびぬけた実力を持っています。とはいえどこであろうともアイン様をしっかりお守りできるかと聞かれれば、まだ納得はできません」

「じゃあメインの護衛はクリスさんが継続で、学園内ではロイドさんの息子さんが俺の護衛につくと」

「左様でございます」

つまりアインには、限定的ではあるものの二人の護衛が付くことになる。メインの護衛はクリスが務め、ロイドの息子はさしあたり学園内限定の、見習いから始めさせると言うことだ。

「わかりました。それで午後の訓練の時に紹介して頂けるんですね」

「えぇ、連れて参りますので一応先にお伝えしようかと思いまして」

「ならそのつもりで向かいますね」

「はい。では午後お会いできるのをお待ちしております」

そうしてアインはロイドと別れる。

とりえず自室に戻り少し休憩することにした。

少しの休憩と昼食を終え、アインは騎士の訓練所を目指している。

「どんな人だろう」

気になっているのはロイドの息子のことだ。正直に言うと、どんな人なのか想像が出来なかった。

ロイドという巨漢と、マーサという容姿は幼い感じが残った小さな女性。この両親からどのような子がうまれてくるのかと思うと、少し楽しみでもあった。

「そういえばいくつ年上かも聞いてないや。まぁ会ってみればわかるか」

「おぉアイン様、これから訓練ですか?」

「はい。それとロイドさんの息子さんを紹介して頂けるとか」

話しかけてきたのは訓練所でたまに相手をする騎士、アインが歩いているのを見かけ話しかけてきた。

「なるほど。ロイド様のご子息がアイン様の護衛をすると聞いておりましたが、そのお顔合わせですか」

「そうみたいです。どんな人か見たことありますか?」

「えぇございますよ」

出会うまでの楽しみにしていたアインだったものの、会ったことがあると聞いてしまっては、どんな人か聞かないわけにもいかなかった。

「本当ですか!ちなみにどういう人か教えていただけないかなって」

「えぇ勿論でございます。ですがもうすぐお会いできるのですから、第一印象をお伝えすると致しましょう」

笑みを浮かべながらアインに第一印象だけを教えると言った騎士。

「アイン様は間違いなく『え?』と思われることでしょう。絶対にそう感じるはずです」

「今現在、え?って思ってしまいましたけど、意外性があるのは良くわかりました」

「それは何よりです」

ロイドの息子は、意外性が強いと言うことはよく理解できたアイン。

結局、想像が出来なかったという事実はあながち間違いではなかったようだ。

「じゃあロイドさんのとこに行ってきますね」

「お気をつけていってらっしゃいませ」

意外性があるということを知ったアインは、とりあえず騎士と別れて再度ロイドが待つ場所へと向かう。

「意外性、意外性……」

実は娘でしたとか?いやそれでは息子という意味がわからない。王家ガチャみたく何かの先祖返りとか?ないわけじゃないけど、だからといって特別意外性があるとも思えない。

「マーサさんの顔をした、ロイドさんボディ」

無理があった。禁断の扉を開けたかのような思いを抱く。

歩きながらそんなことを考えていたアイン。

結局どんな人なのか自分の中でもイメージができないまま、とうとうロイドが待つ場所へとたどり着いてしまう。

「失礼します」

ドアをノックし、言葉をかけて入室する。

「おぉアイン様。お待ちしておりました。こちらが私の息子のディル・グレイシャー、今年で12歳の騎士見習いでございます。さぁディルご挨拶をしなさい」

「お初にお目にかかりますアイン様。この度アイン様の護衛の任を拝命したこと、光栄に思います。私の命を懸けてアイン様の安全をお守り致します。まだ未熟な身ではありますが、アイン様の護衛として、いつしか父のように、最強の騎士となれるよう命を賭して務めてまいります」

そしてアインは理解した。自分は難しく考えすぎていただけなのだと。

ディルと呼ばれた少年は別に何かの先祖返りでもなければ、見た目通りの男性と思われた。

先程の騎士が口にしていたアインが驚くだろうという言葉。その意味がようやくわかった。

「初めましてディルさん。俺はアイン・フォン・イシュタリカ。俺が入学するのはまだ少し先の話となりますが、学園に行ったらよろしくお願いしますね」

ディルは線が細い美少年だった。確かに『え?』って考えてしまったアイン。

ロイドの遺伝子と、マーサの遺伝子の良い所を取り合って生まれた子がこのディルのようだ。

正直、自己紹介でロイドのことを言ってもらえなければわからなかったと思ったアイン。

「さてアイン様。実はこのディルの護衛に関しては、アイン様のご教育にも少し関係しております」

「俺の教育、ですか?」

一先ずは自己紹介を終えたディルを置いておき話が進んだ。

ディルとしても父ロイドが話を始めたら静かに一歩後ろに下がり、会話を聞いている。

「アイン様は我々騎士に対しても、敬語を使い我々を敬ってくださいます。それはアイン様の美徳でありよいことなのは間違いございません」

「とんでもない。そう言っていただけると俺も嬉しく思います」

「ですが、時としてそれは仇ともなりえましょう。いわゆる上に立つ者としての態度というものがございます」

「……俺にその態度に慣れて欲しいと?」

「左様でございます」

ディルがアインの護衛につくことは、護衛とは別の側面があった。シルヴァードが定めた一つの教育だ。

アインは基本的には礼儀正しく、カティマに接するような態度は稀であると言える。

そんな中、アインは騎士であろうとも給仕相手であろうとも、敬語を使い相手を立てるように接することが多い。

そのためアインが敬語を使わず、あくまでも威厳のある言動をとれるようにするための一つの教育でもあった。

「いつかそういうのもあるとは思ってました」

「それは重畳。本来であるならば、私への態度もそれではいけないこともご理解いただけますか?」

「いずれ王になると考えれば、そうなんだろうなって思いますよ」

「ですからアイン様に一つ陛下よりご指示がございます。ディルに対して敬語を使ってはならない、顔色をうかがうような真似をしてはならない。その条件の元、相手を尊重し自らの価値を示せと」

シルヴァードの命令は、普段から敬語を使うアインにとっては若干難しく思えた。

「お爺様の、陛下としてのお言葉なんですね?」

「左様でございます」

「……わかりました。ディルさん、ではそのように接すると思いますが。これからよろしくお願いします」

「アイン様の護衛を務められること、大変光栄に思います。こちらこそよろしくお願いいたします」

「ディル。こちらを見ろ」

アインとディルのやり取りを見ていたロイドが、ディルを自分の方を向かせる。

「貴様への罰だ。歯を食いしばれ」

そしてロイドは自分の息子であるディルを殴りつけた。殴られたディルは体を地に倒してしまう。

「なぜ私が怒ったのか分からないだろう。貴様は王太子殿下に先程のように接して頂きながら、それを止めることもなく礼の一つも無く、ただよろしくお願いしますと口にした。それが不敬に当たると何故わからぬ!」

急にディルが殴られたことに、理由がさっぱりわからなかったアインだが説明を聞いて理解する。

自分のせいでディルが殴られたと言うことが分かってしまったのだ。

「申し訳ありません。私に甘えがあったようです、如何様にでも処罰を」

「訓練所を走ってこい。良いというまで戻ってくるな!」

「はっ!」

自分のせいで殴られ、自分のせいで罰を与えられたディルを見つめるアイン。

ロイドに走って来いと言われたディルは、すぐさま走るために外に向かって行く。

「この愚か者が!王太子殿下に一言申すことぐらいせぬか!」

「っ……。殿下!王太子殿下ともあろうお方の護衛として、このような姿を晒してしまい申し訳ありませんでした!」

そしてディルは頭を下げ、再度走り外へと出て行った。

「……とまぁこうなるわけですアイン様。元帥として、ディルの上司として私は厳しく接するつもりです」

「今のでよくわかりました。慣れるまでゆっくりなんて考えてた自分は捨てて、毅然とした態度で向かうことにします」

「それはありがたい。私も息子を殴らないで済みそうですな」

上から接するのは得意じゃなかったアインだが、必要な事であるならやるしかないと思っていた。

自分のせいで周りが罰を与えられる姿も見たくなかった。

「とはいえ、先ほどのことを無礼だなんだと言ってしまえば、私とウォーレン殿の陛下への態度も無礼そのものですがな!はっはっは!」

「台無しだよロイドさん……」

「まぁディルを練習相手にでもして、徐々に慣れて頂ければと思います。アイン様のお優しいお心は皆がわかっております。いずれは私やウォーレン殿を前にしても同じような態度になっていただければと」

何十年も共に仕事をしてきた、唯一無二の家臣だからこそできることだったのはアインも分かっていた。

そしてそうなるには、自分に足りないものがいくつもあることも分かっている。

だがアインはディルのことを少し羨ましくも思えた。

アインにとって、こんなにも真摯に向かって来てくれる父親は居なかったから。

アインが新たな教育を施されている最中、城のとある部屋ではクローネに一つの課題が与えられようとしていた。

「さてクローネ嬢。先日お渡しした宿題ですがお見事です。一つも問題はございませんでした」

「そう聞けて安心しました」

「ですのでお約束通り、クローネ嬢は冬が明けてからアイン様と同じ時期より、代々の妃殿下が運営なさっているリーベ女学園へとご入学して頂きます」

「推薦状を頂けるんですよね?」

「私が推薦状をお書きしますので問題はございません」

クローネは、オリビアとの夕食から数日の間で数多くの宿題を課せられていた。

彼女はそれを難なくこなし、それをウォーレンへと提出した。

その結果に問題がなかったことから、クローネもアインと同じ時期から王都の学園へと籍を置くことになる。

「承知致しました。ではそれまでの期間で、足りないものをご教示いただけるということでしょうか?」

「勿論です。この課題の量も、もう少し時間が掛かると思ってお作りしたのですが杞憂だったようで、次からは量を増やすと致しましょう」

「……ありがとう存じます」

少しひきつった笑みを浮かべるクローネ。

クローネとしても、今回ウォーレンから渡された課題には死に物狂いで取り組んだと言ってよかった。

その課題の内容は礼儀やマナーの問題から、法や政策に関してのケーススタディや提案。計算問題など多岐に渡っていた。

それをこれからのためと思って必死に解いたのだ。

「ですが次からお作りする課題に関しては、3つの教育方針の元、進めさせて頂きます」

「その中から一つを選ぶのでしょうか」

「左様でございます。お伝えする3つの中から選んでいただきます」

「わかりました。ではよろしくお願いしますわ」

そして一枚の書類を手に取り、読み上げるウォーレン。

「1つ目は、私のような立場を最終目標とした教育方針です。アイン様にとって将来、必ず必要となる人物となるため教育させていただきます」

3つの教育方針とは、将来どうなりたいかということだった。

それを聞いてクローネも、自分はどうなりたいかを真剣に考える。

「2つ目は、妃殿下のようなお方を目指すと言うこと。あらゆる知識をお持ちで、淑女としても並び立つ者がいない程のお方です。そういった方を目指していただくと言うこと」

それを聞いてクローネはなるほどと思った。

アインがどういった人を望むのか、まだわからない。とはいえ高い教養を持つ王妃のような淑女と言われては、惹かれる気持ちもあった。

「3つ目は、女王のような存在を目指すという方針です。王が傍にいなくとも自ら考え行動し、民を守り指示を出す。強い判断力と思考力を養っていただきます」

全ての案を聞いて、クローネは考える。

自分はどうするのが一番よいのか、アインのためになるのか。

頭の中で多くのシミュレーションを重ねた。

「……ウォーレン様。一つ提案があるのですがよろしいでしょうか」

アインとクローネが、お互い将来のために新たな勉強に励むことになった日。

その夜、いつものメンバーが3人で集まり、本日の報告をしていた。

「ロイド殿聞きましたぞ。ディル殿を殴ったと」

「はっはっは、さすが耳が早い。とはいえあれはディルのためでもあれば、アイン様のためでもありますからな」

「二人の教育に必要なのはその通りであろう。してロイド、アインはどうだろうか」

「少々お優しすぎる部分があるのは否定できませんが、アイン様は王の器であると私は考えております。だからこそしっかりと強く成長なさるでしょう」

「アイン様はすでに学園で習うことの半数は城内で終えております。現在では用兵、法学、国政、内政……そして今日から帝王学が始まったということですな」

アインは普段から多くの課題に励んでいる。王族としてというだけでなく、王太子として必要な多くの知識を得るためだ。

最近では内政などの科目も追加されており、段々と科目も増えている。そんな中、今日からディルを通しての帝王学が少しずつ始まる。上に立つ者としての態度や考え方を学ぶために必要な事だった。

「なればよい。余もいくつか課題を与えることは考えておるが、やはり一番様子を見られるのはお主たち二人だからな。信頼しておる」

「我々二人でご立派な王に育てて見せますから、ご安心を」

「そうですな陛下。いずれは私を凌ぐ強さに育て上げて見せましょう!」

「そうなってしまっては護衛はいらぬな……」

和やかな雰囲気の中、今日の報告は進む。

「では次にクローネ嬢ですが、課題を問題なくクリアされたのでリーベ女学園へと推薦状をお書きします。冬が明ければアイン様と同じ時期から通われるようになります」

「想定より早かったのではないか?」

「えぇ。想定の半分程度の期間で仕上げてくださいました。なので次からは倍にしようかと」

「……ウォーレン殿の教育は随分と厳しいようだな」

「オリビア様からもお願いされましたからな。美しく磨いてあげて欲しいと、なら私ができる最善を尽くすまでですよ」

ウォーレンとしても、クローネに授業をつけるのは楽しみになっている。

よく吸収し、常に全力で勉学にも励む。そんな彼女はイシュタリカで宰相を務めて来たウォーレンから見ても、将来が楽しみな原石だった。

「そうなれば、教育方針も決まったのであろう?」

「えぇ本日決めて頂きました」

「聞こう」

クローネが選んだ自分の将来。それがいったい何なのか、シルヴァードも興味を持っている。

「女王のような高い思考力と判断力を持ち、王を見守れる高い教養を持った淑女……だそうです」

くすくすと笑いながらウォーレンが答えを言う。結局クローネが選んだのは3つの中からではない。彼女が選んだのは良いとこどりの、少しわがままな結論だった。

「王を守ると。……陛下。どうやらオリビア様がご帰国なさってから、お暇に感じる時間はないようで」

「違いない。全くもって新たな世代は、粒が揃いすぎて困ったものだ」

シルヴァードは知っていた。王を守ると言ってくれる者が傍にいてくれること、それがどれだけ心強いかを。