軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一歩進んで。

——某日。

ハイム王国、アウグスト大公邸。

「父上。ではイシュタリカへと参るのは……」

「儂とクローネに、アルフレッド。そして昔からの使用人を何人かだ」

イシュタリカから了承の連絡が入ってから数日。アウグスト大公は息子のハーレイと二人で、イシュタリカへと渡るための計画を進めていた。

「それでは予定通りに私を?」

「あぁ。ハーレイ、お主をこの儂が王都を離れる日付でアウグスト家の当主とする。その様に陛下にもお伝えするし、それ以降は大公家の主権もハーレイ、お主のものとなる」

アウグスト大公は当主の座を息子のハーレイへと譲ると決めていた。自分がイシュタリカへと渡るための準備の一つでもあったのだ。

「それでは父上は療養のために王都を出て、貿易都市へと参る。そしてクローネは大事な祖父のために貿易都市まで着いていく。アルフレッドや数人の使用人たちは、その世話のため」

「その通りだ。貿易都市ならば大きな問題にもなるまい、エウロへと療養といってはハイムとしても何か動く可能性はあろうが」

「ですね。貿易都市は大商人達が作り上げた高級な宿も多くありますから……サービスの面からいっても違和感はないかと思いますよ」

貿易都市バードランドは数多くの商人達が主権を握る都市。彼らが作り上げた贅を凝らした施設はそれはもう快適だった。ハイムは勿論エウロやロックダムの貴族や富豪も愛用するほどで、その快適さやサービスの質は大陸でも類を見ないほどのものだった。

そのためアウグスト大公はそれを利用することにする。年齢により患った体の疲れを癒すため、当主の座を息子に譲り自分は隠居するということにした。

通常大公が隠居ともなれば大事ではあったが、それなりに歳も重ねており、距離の近い貴族には隠居も遠い未来ではないと口にしていたため、決して不信には映らないだろうと予想している。

「エレナはなんと言っていた」

エレナとはクローネの母で、アウグスト大公からしてみれば息子の嫁にあたる。彼女は城で働いており仕事人間な所があった。その性格が影響してか、アウグスト大公邸へと帰らない日も月に何日もある。

「それはもう、いつもと同様にあっさりとした様子でしたよ。娘が決めたことなら尊重すると、ただ安全だけは大人の責任として用意しなさいと言ってました」

「本当に出来た嫁だ。やはりハーレイには勿体ないと思ってしまうな」

「それは言わないでください。たしかに妻のほうが優秀ですが……」

嫁のエレナは城で財務に関する仕事をしている。男であれば大臣にもなれたと言われるほどの器で、現在の財務大臣よりも仕事ができると噂されるほどの女傑だった。

彼女は男爵家という身分の低い貴族の出だが、それでも実力でここまで上り詰めた優秀な女性。クローネは母ゆずりな性格をしていてよかったというのがハーレイの本心だった。

その仕事ぶりを見たアウグスト大公が息子のハーレイを紹介し、エレナもハーレイを気に入ったためあっさりと婚姻へと至ったのだ。

「では荷の用意などが終わり次第、エウロへと向かうこととする」

「父上達はイシュタリカの船にてしばらく待機するのですよね?」

「そうだな。その船もなかなかの物らしい。イシュタリカの貴族も乗れるよう作られた部屋があるらしく、オリビア様のご配慮でそこに宿泊できるようだ」

「ではあちらに着いたら、私の分までお礼の言葉をお願いしますね」

「あぁそうするとしよう」

最初、船に泊まってもらうと連絡を受けた時はしばらくの窮屈な生活を覚悟していた。

それがクローネのためならば我慢できたものの、クローネがそれを我慢できるかは少しだけ心配していた。

そこに来たオリビアからのご配慮というありがたい申し出である。

「……今生の別れの可能性を考えたほうがよろしいですか?」

「可能性はゼロではない。儂が今までに用意していた金銭や宝石を多く持っていくのは、クローネがあちらで不自由なく生活できるようにするためだ。状況によってはそのまま儂も……とはなろう」

大陸イシュタルに渡ってから、個人の力だけで戻ってくるのは難しい。だからこそのこのアウグスト大公とハーレイの決意だった。

「イシュタリカ・種族図鑑……?」

アインは城の図書館で調べごとをしている。購入した謎の魔石を調べるために、少しでも資料を集めていたのだ。

「これよさそうだな」

アインがそう言って手に取るのは、イシュタリカに存在する種族を纏めた図鑑。分厚く大きなこの本は、まだ子供のアインにとっては手に取るのが億劫になる重さをしている。

「はー重いっ・・・」

「私が取りますよ」

そう口にしたら手伝いをしてくれるクリスが図鑑を手に取る。その様子にアインはちょっとの悔しさを滲ませる。

「……クリスさん嫌い」

「え、えぇっ!?」

慌てふためくクリスを無視して、机に置いた図鑑を開く。

「あぁそうだ。ドライアドについてまず調べてみようかな」

目次を開く、ドライアドのページを探しそれを開く。

そのページはあっさりと見つかった。

「随分と詳しいな」

記入されているのはドライアドの根付くと言った性質や、スキル。生体情報についてが詳しく載っていた。

「ドライアドは土を豊かにするから、作物が多く育つ。なるほど」

ドライアドは土壌の栄養を豊かにする力を持っている。

そのため、ドライアドが住む地は豊かな作物に恵まれているのだ。

「ドライアドの数が少ない理由……?」

アインが興味を抱いたページ、そこにはこう記されている。

ドライアドはその数を大きく減らしてきた。それには一つの性質が関係している、根付くというものだ。

この根付くという性質を使い、数多くのドライアドは狩られてきた。

決して戦闘能力が高いと言えないドライアドは、温厚な種族たちと共生してきた。

だがドライアドの土壌を豊かにする力を求めて、ドライアドは狩られ始める。

その時出てくるのが、根付くということ。

襲撃する者達が強引にドライアドと交わることで、根付いていなかったドライアドはその襲撃者に根付いてしまう。

すると次は簡単だ、自殺するぞと脅せば多くのドライアドがその襲撃者に着いていかざるを得なくなった。

あるいは自らの命を絶つドライアドが後を絶たなかったという。

「ものすごく気分が下がった、もうやめよう」

それを読んだアインは、もう休むことを決めた。

「ア、アイン様……どうしたんですか?って、あぁなるほどドライアドについて読んでしまいましたか……」

復活したクリスがアインへと声をかけてくる。アインが何を見つけたのかも察したようだ。

「ドライアドが、そしてオリビア様がローガス殿と交わるのが怖かった、拒んでいた理由の一つですね。最近ではドライアドのこういった事件は聞きませんが、昔は多かったようです」

「胸糞悪くなりましたね」

「こういった事件は多くありましたからね。それがないようにするため我々がお守りするわけですが」

「ええ、くれぐれもよろしくお願いします。お母様に万が一があれば俺はクリスさんたちですら許せないと思いますから」

「心得ておりますよ。……ララルア様にお声がけして、前にお伺いしていた短剣を頂きに参りましょうか?そして訓練でもご一緒に如何ですか?」

クリスの気遣いだった。アインが自分自身と大いに関係のある、ドライアドについての胸糞悪くなる情報を知ってしまったがための。

訓練をして、アインの気持ちが少しでも軽くなり。アイン本人にも強くなったという自信を持たせてあげたくなった。

「そうですね。俺も強くならなきゃいけない。短剣、貰いに行きましょうか」

そうして二人は図書館を後にする。

するとその外を偶然通りかかったロイドと鉢合わせになった。

「ん?これはアイン様調べ物でしたか?」

「えぇまあ。もうやめましたけど」

「なにかございましたか?」

気分がいつもより数段低いアインをみて、ロイドも気になりそれを問う。

「ドライアドのことを調べていて、気分が悪くなったのでお婆様から短剣を貰いに行くところですよ」

「左様でございましたか。アイン様に良い話がございます。姫や陛下たちの許可は頂いてますよ」

「良い話、ですか?」

アインが興味を抱いた。

オリビアやシルヴァードの許可が必要となることってなんだと思っていたが、次にロイドが口にする言葉でアインは大きく喜んだ。

「アイン様もそろそろ魔物の討伐を経験してもよいと思いまして、陛下にも相談しておりました。短剣を頂戴しましたら、今日ご一緒に近くの森にでも行ってみましょう。弱い魔物しかいないのでご安心ください」

「本当ですか!?やった、それなら早く短剣を受け取ってきますねロイドさん!」

強くなりたい、そして魔物の討伐をしたいと前から思っていたアインにとって、これほど嬉しい話はなかった。カティマと実験で使ったリプルモドキは半分果物だから、アインの中ではカウントされていない。

ロイドの言葉を聞いたアインは、つい喜びのあまり速足で王妃のララルアがいる部屋を目指した。

「あっ……アイン様お待ちください!」

「クリス殿。アイン様は何を見つけてご気分を害されたのだ?」

「ドライアドの過去の事件についてです」

アインとの距離が少し離れたため、ロイドがクリスへと理由を聞いた。

クリスの答えを聞いて、ロイドも苦々しい顔へと変わる。

「アイン様にとってはお辛いことであろう、短剣を頂戴しに行くという判断はおそらく最善だった。アイン様のご気分を変えてもらうためにもよかっただろう」

「そうですね。そう言っていただければ私も救われます。それでは短剣を頂戴しましたらロイド様をお尋ねしますね」

そう言ってクリスはアインを追った。

同族を思い、過去の事件を憎悪し嫌悪したアイン。彼を思うと自分の最善を尽くして協力しよう、ロイドは考えていた。

「とはいえアイン様が頑張るのは、一番は姫のためだろうが」

ララルアに連れられて、宝物庫へと入った。

宝物庫はいくつかあるらしく、今回入ったのは主に武器が収められている場所だ。

そこにララルア、オリビア、アイン、クリスの4名が入る。

「うーんとどこだったかしら」

「アイン。危ないから触ったら駄目よ?クリスよろしくね」

「わかりました。見つかるの待ってますね」

「はっ」

ララルアが目当ての短剣を探し出す。宝物庫の中は多くの武器で覆いつくされていた。巨大な鎌や槍、見るからに聖剣と思えるようなものから、封印を施されている魔剣のようなものまで目に見える。

そんな中ララルアが目当ての物を見つけたようで。

「クリス。あちらの短剣をとってくださる?」

「はっ。……妃殿下、失礼ですがアレでお間違いはないのですか?」

「ないわよ。アイン君にぴったりでしょう?」

「うんうんお母様の言う通りだわ、私もカッコいいと思うの」

親子でおススメの短剣があるらしく、クリスに取らせた。

そしてクリスが手に取った短剣は、全体が黒く鈍く輝き、柄の部分には赤い宝石が埋め込まれていた。その作りは美しく、決して禍々しいとしか言えないような代物ではなかった。

「またこれは……なんとも暗黒騎士向けの短剣ですね」

「じゃあ今からそれはアイン君のものよ」

「うんうん、似合ってるわよアイン。よかったわね」

そうして手渡された短剣を手に取る。とりあえず腰につけることにした、一緒に保管されていた革製のベルトを装着し、短剣を装備する。

「高そうなんですが、貰ってもよいのでしょうか?」

「いいんです。旦那さまからも許可は貰っていますし、なによりその短剣もずっとこの宝物庫で埃を被っていましたから」

「どうしてですか?こんなに綺麗なのに」

アインがもらった短剣は、見た目はとても美しく、使っていても別に恥になるものではなかった。だからこそ使われていないのを不思議に感じた。

「この城の名前、ホワイトナイトって言うでしょう?だからなのか、歴代の王も騎士達も……外見が白とか銀の聖剣や宝剣ばかり求めるの。だから使ってくれる人がいなかったのよ」

ララルアが説明したことにアインは納得した。

初代の統一王にあやかりたいという気持ちはよく理解できたのだ。

「では有難く頂いていきますね」

「アイン。これから近くの森に行くのよね?大丈夫?」

「大丈夫ですよ。強いのは居ないらしいですし、クリスさんにロイドさんまでいるので」

「そうね……その二人が居て万が一が起きるなんて、逆に難しいわね。気を付けていってくるんですよ」

オリビアも納得し、アインを快く出発させることにする。

イシュタリカの誇る二人の強力な騎士が居て、それで万が一を起こせる相手など探すほうが難しかった。