軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

忠義と王。

アインが口にしたように、まず初めは花屋へと向かった。

バルトなんかだと花を買う客は少ない……そう考えたこともあったが、品ぞろえは悪くなかった。多少王都と比べて値が張ったが許容範囲だろう。

その後は高位な冒険者向けの酒場へと向かい、いくつかの食糧と飲み物を購入。

ディルはアインが何をしたいのか疑問に思っていたが、それでも黙って伴を続ける。

『それじゃ行こっか』

こうした軽い一言の後、アインはバルトの町から外に進みはじめる。

すぐ傍に何かあるのだろうか?そう思ったディルは、しばらくの間静かに伴を続けていたが、とうとう口を開きどこに向かうのかを尋ね始めた。

「アイン様?その……どちらに向かわれるのでしょうか」

去年来た時と比べると、格段に過ごしやすいバルトの気候。

深夜ということもあってか若干の肌寒さは感じるものの、雪が降っていたころとは比べ物にならない程、歩くにも苦労することが無かった。

「もうすぐしたらさ、案内の人が来ると思うから」

「案内……?いつの間に案内なんてお呼びに……」

賑やかな虫の音と、木々が風で揺れる音。

そうした静かな森の中……そこをただずっと進み続けるアイン。

「あのアイン様。そろそろお進みするにも限度がありますが」

これ以上進めば魔物が増える。そして町の近くよりも強い魔物たちが出現し、夜の視界が悪い中を狙って襲ってくるだろう。

「大丈夫大丈夫。頼もしい味方が来るからね……っと、噂をすればなんとやらだ」

——本当にどうするおつもりなのか。

ただそれが疑問だったが、アインは一向にはっきりとした答えをすることがない。

それでも久しぶりに立ち止まったアインを見て、ディルは何が起こるのかと、念のために警戒を強めた。

「マルコさん久しぶり。いるんだよね?」

アインがそう口にすると、森の木々から小鳥が飛び立っていった。一瞬強い風が吹き抜け、アイン達の視界を少しばかり奪い去る。

「……よくお気づきでしたね」

前に連れ去られた時と全く同じ姿、そして同じ声で現れたマルコ。

ディルはその姿を見るのが初めてなこともあってか、マルコの気配に強く圧倒されてしまい、剣を抜くことを忘れてしまっていた。

「そこの方、警戒は不要です。私は危害を加えに来たのではなく、お声に応じて参上しただけなのですから」

「貴方が例のリビングアーマーですか……っ!?」

本当に顔がないのが惜しい話だ。柔らかい物腰と口調の上に、マルコならばきっと優しい顔つきで迎えてくれただろう、そう考えさせるのだから。

「久しぶりなのに悪いんだけど。……城まで護衛してもらってもいい?」

「——なるほど。器にたどり着きましたか」

静かにアインの様子を確認していたマルコ。

「まだわからないことだらけだけどね。でも今なら大丈夫なんじゃないかなって思ってる」

「心得ました。では私が責任をもって"魔王城"へとご案内いたします」

「っ……アイン様!?魔王城に行くおつもりなのですか!?」

とうとうディルも察してしまう。

こんな夜更けに訪れて、そしてどこに向かうのかとずっと疑問だった。

だがまさかその行先が魔王城だなんて、片時も考えたことがなかったのだから。

「そのためにいろいろ買ったんだよ。大事に持っててね?」

「魔物は襲ってこないでしょう。私もおりますし……何より襲えない理由がもう一つございますし」

マルコが語った言葉のうち、最後のセリフは木々の揺らめく音でかき消されてしまう。

「……魔王城に行って、何をするおつもりなのですか?」

ここまで来たら覚悟を決めよう。

護衛としては止めるべきだろうか?しかしリビングアーマーのマルコまで呼びつけていて、どうにも今更過ぎて何も口に出せない。

万が一強硬して進まれでもすれば、このリビングアーマーを相手に自分に勝ち目なんてあるわけがない。

……大人しく傍で護衛するべきか?

「まぁ一番の目的はお墓参りかな。……マルコさん、城の敷地内にあるよね?——……王族が眠ってる墓地がさ」

冬のバルト調査。

その時、ロイドたちと旧魔王領に到達した際のことだ。

王都の城……ホワイトナイトと瓜二つのように感じる程の、似たような作りの城。アインは確かにそれをこの目で確認していた。

「そういえばマルコさん。城の奥の方?かわからないけど、大きな沼地があるってほんと?物凄い毒に覆われてるって聞いたけど」

旧魔王領への道のりは、前回と比べると遥かに歩きやすい道を進めている。

雪が無いことがこんなにも素晴らしいのかと、アインとディルは強く実感していた。

「これはまた……随分と珍しい場所をご存知のようですね。はい、確かにございますよ」

「大体どのぐらいの場所にあるの?」

冒険者体験をした際に、マジョリカとカイゼルの二人から聞いていた情報。

ただ歩くだけなのも寂しかったので、その沼地についてマルコに尋ねる。

「城から十分も歩けば到着するかと。ですが大変危険な地域です……行かない方がよろしいかと」

「そんなに強い毒なの?」

「それはもう。シルビア様達ですら避けていた地ですので……」

どうにもとんでもない毒のようだが、アインはそれを楽観視していた。むしろアインですら耐えられないならば、他の誰が耐えられるのだろう?

「そんなに強いんだ。……教えてくれてありがと」

「いえいえ、このような事でしたらいくらでも」

当初は警戒心を出していたディルだったが、マルコの立ち居振る舞いは洗練されたものだった。

自然な流れでアインを先導したかと思えば、一歩一歩をアインの速度に合わせている。そして歩きにくそうな場所があれば、さりげなく手を差し出したりなど、それは正に近衛騎士の手本の様な仕草。

「そろそろ町に到着致します。このまま真っすぐに城に向かわれますか?」

「うん、そうしようかな」

「承知致しました。では引き続きご案内を致しましょう」

あと数時間もすれば完全に夜が明ける。季節が夏に近づくにつれて、徐々に日の出も早くなってきた。最短で王都に戻ろうものならば、確実に時刻は夜の遅い時間となるだろう。

「……冬とは違って、また大きく雰囲気が変わっておりますね」

「そうだね。……昔は賑わってたんだろうって思えば、その景色も見たかったよ」

当たり前のことだが、旧魔王領の城下町は月明かり以外の光源がない。そのためしんとした静けさと共に、暗く物寂し気な城下町でしかなかった。

「(なんていう瞳をしているんだ……)」

街並みを眺めるアインを見たディルは、その印象的な表情に目を奪われる。

諦めた様に見えるが、決して希望を捨てきった訳じゃない……言葉にするのが難しかったが、そんな瞳をしていた。

——そして徐々に魔王城へと近づき始めた頃。マルコが言いづらそうに口を開いた。

「一つ、お伝えするべきことがございます」

「なに?」

アインの返事を聞き、マルコはその足を止めた。

もはや目と鼻の先には魔王城があり、その門をくぐるにも時間の問題。近くで見れば見る程に、王都の城……ホワイトナイトと瓜二つだった。

「墓地に向かう際には、一つの部屋を通過して頂く必要がございます」

「わかった、でもその部屋がどうしたの?」

「……例えその部屋へ向かおうとも、貴方様はきっと負けることが無いでしょう。ですがお伝えする必要があります」

その言葉を聞いてアインは察した。

「恐らくお察しかと思いますが。そこは例の"方々"が作られた、"特別"な場所でございます……ですのでどうかお気を付けください」

「……うん、"色々"と理解できたよ」

——デュラハンからの願いの意味も、そして魔王城を出るときに起こることもね……。

「どうか立ち止まらずに、ただ黙々とその部屋をお進みください。……おそらく一度耐えきってしまえば、もう問題はないかと思われますので」

「……あぁ、わかった。気持ちを強くいくことにするよ」

なにやら不穏な空気に覆われ始めたのを見て、ディルも痺れを切らして口を開く。

「アイン様?申し訳ないのですが、私にも分かるようにご説明を頂けないかと……」

「ただ昔の人たちの作った部屋で、毒の仕掛けがあるかもしれないってだけだよ」

またディルに嘘をついてしまった。

そのことが心苦しく思ってしまったが、ここまで来たのだから引き返すことはできない。

どんな部屋なのかを伝えてしまえば、ディルならば確実に止めにくるだろうから。

「な、なるほど……毒でしたら問題ありませんね」

若干の不安はあったものの、それでもアインの絶対的な毒耐性には信頼がある。

「ではお二方。これより入城致しますが、よろしいでしょうか?」

気が付けばすでに魔王城の城門だ。

アインとディルは目の前に広がるその光景を見て、ただ静かに佇んでいる。

「……それじゃいこうか、ディル」

「はっ……!御伴致します」

最後の最後に気を引き締めて、これから起こりうるであろう事へと気持ちを強く持つ。

二人の様子を見守っていたマルコは、その返事を聞いて二人を城内へと案内していった。

とうとう魔王城へと足を踏み入れた二人だったが、特にディルが驚いた様子だった。

「っ……ホワイトナイトと、同じ作り……?」

アインはこうなるだろうと予想していたが、それでもディル程じゃないにせよ驚いている。

こうまで似せていたのか……と、初代イシュタリカ王の気持ちを察し始めていた。

「ではこちらへどうぞ。付き添える場所までご案内いたします」

「お願いするよ。……それとディル?ディルはその部屋の前で待っていて欲しい。えっとマルコさんは……」

「私はそうですね……。お二人を案内し終えましたら、この大広間にてお待ちしております」

——好都合だった。

いつ危惧している状況となるか分からなかったので、そうしてくれるならディルの安全も確保が出来る。

「それじゃすることが終わったら、大広間に戻ってくるよ」

「畏まりました。ではお望みの場所へと参りましょう、すぐに到着致しますので」

そうしてマルコは、もう一度アイン達を先導し始める。

「ディル?何があっても部屋の中には入ってきたら駄目だからね?俺なら平気だから……いい?」

「本来ならば止めるべきなのでしょうが……承知致しました。ですがどうか無茶はなさらないように……」

「わかってるってば!すぐに戻るから、待っててね」

いつも通りのアインの表情を見れば安堵もするが、王都の城と瓜二つだというのに、全く違った雰囲気の城内にいると気分はそう穏やかじゃなかった。

古びた絨毯や埃の香り。窓ガラスは曇って外が見えず、いくつものシャンデリアは点灯する気配がない。

極めつけは気配のなさだ。自分たち以外誰一人としていないのかも知れないが、それでもこうした雰囲気の城なんて初めてで、落ち着けというのが無理な話だった。

「……お二人とも、見えますでしょうか?」

少し歩くと、マルコが立ち止まる。

そしてある方向を指さしてアイン達に告げた。

「……あの扉のことかな?」

その方角には、彫刻が施された重厚な木の扉があった。そして釘で鎖が打ち付けられており、何かを封印したのかと感じさせた。

……だがよくみてみれば、その鎖はただ飾りの様に使われているだけで、どうにも矛盾している。

「私は大広間へと戻ります。何かあればすぐにいらしてください」

「案内ありがとう。……ディル、ディルはここで待っててもらっていい?」

少し進んでドアの横を指さすアイン。

「えぇ分かりました。ではアイン様も、無理せずに戻ってきてくださいね?」

するとディルは素直に頷いで、アインの指示に従った。

「わかってるってば。ディルも何かあったら、大声で叫んでね?」

「はははっ!護衛が大声で叫ぶなんて、どうにも腑抜けた話ですね。……ですが承知いたしました。万が一のことがあれば、私もアイン様をお呼び致します」

ディルの返事を聞いたアインは、満足そうに頷いて、大きく深呼吸を始める。

「おっととと……ディル、町で買ってきた物貰っていい?」

それを忘れてはいけない。つい失念していたアインだったが、寸でのところでそのことを思い出す。

「このバッグに一式入っておりますよ。……ですがアイン様、いったい誰の墓地なのですか?」

アインに持っていたバッグを手渡したディルは、そう尋ねる。

一方アインはそのバッグを受け取ると、『うーん……』と声に出して迷ったようなしぐさを見せた。

「……たぶん、ここの王族……かな?」

「この城の王族……ですか?ですが魔王たちは、魔石が王都にあるはずでは……」

「まぁはっきりしないことばっかりなんだよね。……じゃあ行ってくる、すぐ戻ってくるからここで待っててね」

するとディルが何かを口走る前に、アインはとうとうその部屋へと足を踏み入れていったのだった。

「……真っ暗だ」

何か影響が漏れてはいけない、そう思ってすぐに開けた扉を閉めたアイン。

「でも立ち止まるなって言ってたよね」

マルコはそうアインに注意をしていた。アインは素直にその助言に従って、真っすぐと部屋の奥へと足を進める。

光は入り込まないような作りをしていて、窓の一つも無い。それでもなぜか部屋はうっすらと光っており、部屋の奥には大きなドアがあるのを確認できた。

一歩、また一歩と足をゆっくり進めていくアイン。……すると、危惧していた影響が始まっていった。

「っ……なに、この匂いっ……」

突如として、部屋中にとある匂いが充満し始める。

残念なことに覚えがあるその香りは、男なら誰もが持っている"体液"の香りだった。

「なんだよいきなりっ……!」

濃厚に広がるその香りから逃れようと、必死に足を動かし続けるアイン。

——そうしていると、目の前の風景が突如として変わっていった。

「……っ!?」

まるで石でできた牢屋のような空間へと変わり、アインが困惑していると、うっすらと一人の女性の姿が見え始めた。

「っ……誰だお前っ……!」

剣を抜いて警戒するが、その必要はなかったようだ。

その女性へと目をやると、それがアインと同年代程度の少女だと気が付く。

煤けたような黒ずんだ赤毛に、いたる所が泥で汚れた雑巾のような薄い服。さらに良く目を向けると、手足には入り口にあったような鎖が巻き付けられている。

「こんなところで何が……」

心配そうに思って足を動かすが、一向に少女との距離が詰まらない。

それでもどうしたものかと思って様子を見ると、気が付きたくなかったことに気が付いた。

「嘘……でしょ?」

汚れ切った髪だけでなく、そのボロボロな服にも付着しているおびただしい量の体液。

時折ピクりと体を動かしているが、決して起き上がることは無かった。

「き、君っ……こんなとこでどうしてっ!」

駆け出すように勢いよく体を動かしたが、それでも少女には近づけない。

「なんてひどいことを……」

……アインがどうしたものかと考え始めた頃、部屋を出てマルコを呼ぼうかと思い始めた頃の事だ。

その少女の方から、ボソボソと声が聞こえ始めてきた。

「……して……いして……」

それが助けを求めてるのかと思い、アインは大きく声を上げる。

「生きてるっ……君!こんなところで何をして……今助けるから!」

アインの声に気が付いたのか、ゆったりとした動きで顔を上げる。

その表情は長い髪で窺えなかったものの、チラりと目が合ったような気がした。

「少し待ってて!今助けを——」

振り返って一度部屋を出よう。そう思った矢先……。

「ねぇ……私を愛して?」

「——っ!?」

目の前に居たはずの少女が消えて、アインの耳元でその声が聞こえた。

「今なにを……」

一体何が起こったのか分からなかったアインは、左右前後に大きく頭を振って、彼女の様子を確認しようとする。

だがしかし、どこを見てもその彼女は見当たらなかった。

「き、消えた?」

もう一度頭を振って周囲を確認する。すると彼女が消えたどころか、先ほどまで目にしていた石の牢屋すら消えているのに気が付く。

「……今のは呪いの一種なのか?」

手のひらを確認したり、顔を触ってみたりと体中を確認する。

それどころか、気分的にも何も変わりがないことに気が付き、本当に呪いだったのかと疑問符が浮かぶ。

目の前を見ると、数歩程度の距離に出口があることに気が付き、アインは安堵した様子を見せた。

「はぁ……すごい不愉快な光景を見た」

あの少女はどうしておもちゃの様な扱いを受けていたのか、そして何がしたかったのか。

全てが赤狐の呪いのためとは思えず、不可解な点が残る。

たかが部屋を1つ抜けるだけで、ものすごい疲労感に苛まれるアイン。

「とりあえず進もう……」

先程の件の考察は後だ。

ディルの事を待たせていることを考えて、アインは再度足を進め、その扉へと向かって行った。

地平線の向こうでは、チラりと日が昇り始めてきたのが見える。

少し肌寒い風が静かに吹き、久しぶりの来客であるアインを出迎えた。

「誰も来ないはずなのに、芝生は綺麗なんだね」

墓地に生えそろう美しい芝。どうやってこの美しさを保っているのか、だが今考えるべきはそれではなかった。

「……ここも同じ作りなんてね。初代陛下、あなたの想いの元……それがよくわかりますよ」

そう呟いてアインは進む。

王都にある王家墓地と同様の作りをしているが、墓石の数だけは違っている。

魔王城の場合は、その墓石がわずかに5つ。手前には2つの墓石があり、その奥には3つの墓石が並んでいた。

手前の墓石を見たアインは、自分が求めていた答えがここにある。そのことに確信を持つ。

「……これが本当の初めましてですね。初代陛下」

アインのその声へと返事をするかのように、一瞬強い風が吹き抜けていった。

「故郷で眠りたい、そんなのは普通の事だから……」

芝生を優しく踏みながら、アインは目的の墓石へと進んでいく。

「先にお参りの作法を」

バッグを開けて、中から買ってきた品物を取り出した。

多めに買ってきているので、ほかの墓石にも並べていけることだろう。

「……では失礼します」

シルヴァードから学んだことを、王都の墓地同様に行い始めるアイン。

「……」

一つ一つの所作を丁寧に行えるほど、アインの精神は安定していた。それは特に滞ることなく順調に進み続け、すぐに最後の所作に移る。

「やっぱり、そういうことだったんですね」

胸元に剣を掲げ、アインはその流れを終える。

すると王都の時とは違って、アインの剣は優しく光り輝いた。

「墓石を拝見します」

そう言ってアインは、初代イシュタリカ王の墓石……そこに彫られた文字へと視線をずらす。

「何があったのか、どうしてこうだったのか……。知りたいことは山積みですが、おかげでようやく少しだけ理解できましたよ」

その墓石には、古いイシュタリカの言葉でこう記されていた。

『カインとシルビアの子。"第二代イシュタリカ国王"マルク・フォン・イシュタリカ。愛する祖国”イシュタリカ"にて眠る』

——彼が第二代と書いたのは、彼にとって譲れない事だったのだろう。

その文字だけが、他の文字と比べて深く刻まれているように見える。

第一代、それはきっと魔王アーシェの事かもしれない。

「あの二人に聞くしかないかな……」

素直に教えてくれるといいのだが、もはやアインの中にいる二人しか、その詳しい内容は知り得ないことだろう。

「イシュタリカの歴史……。なんだ、たかが500年前じゃ済まされない話じゃんこれ。……もっともっと、古い時代からイシュタリカはあったんだ」

旧魔王領。その地の名はイシュタリカ……そして初代の産まれた故郷。つまりはそういうことだった。

「ごめん二人とも、確認だけさせてね」

自分の中にいる二人に謝罪をし、アインは奥にある墓石へと足を運ぶ。

そしてその墓石に書かれた文字へと目を通す。

「……カイン、シルビア、そして最後にアーシェ……すべての名前の後ろには、フォン・イシュタリカと彫られている。なるほど、そういうことね……」

初代イシュタリカ王の研究、その課題であった家族構成が発覚した瞬間だった。

「家族を殺さざるを得ない状況になった。ってことなのかな」

魔王の勢力にはカインとシルビアがいたはずだ。そうなれば、初代イシュタリカ王のマルクのみが別行動、その理由とは一体何だろうか。

「……でもここまで戻ってきて骨を埋めてるんだから、仲間割れとか喧嘩割れじゃないとは思うけど……」

そう考えてみても、すぐにわかるはずもない。

アインは名前を確認し終えると、その場を離れるように扉へと向かっていく。

「あ、すみません最後の墓石も確認させてください」

急にやってきて墓石を見ていく、言葉にするとどうにも不敬な行いにしか思えないが、今日だけは許してください。アインは心の中で何度も謝罪を繰り返す。

「たぶんマルク様の……えっと、初代陛下のお妃さまのだと思うけど」

マルクの墓石に付き添うように、心なしか距離が近く見えるその墓石。

アインは最後にその墓石を確認するために近づいていく。

「あぁ、やっぱりね」

墓石には数少ない字でこう書かれている。

『第二代イシュタリカ国王マルク、その妃ラビオラ・フォン・イシュタリカ。愛する故郷"イシュタリカ"に眠る』

「……これ完全に旧魔王領の産まれってことにしか思えないんだけど」

自分が住むイシュタリカ、その始まりとはどこなのか。

墓石に彫られた文字だけでは、その内容を特定するのが難しい。

「あれ?まだ彫られてる……なになに」

一行目の文章の後、その名の下に小さな文字で更に名前が彫られていた。

「旧姓とかかな……?嫁入り前の」

小さい文字で、さらに風化してきているためアインは読むのに苦労する。だが数十秒ほどかけて、その文字を解読していった。

「『ラビオラ・ヴェルンシュタイン』……?」

魔王城の墓地は、そうした衝撃の最後となった。

「はぁー……ここでその名前出てくるの?……ほんとに?」

王都に残っているはずの"彼女"。その彼女から、詳しい家系図でも見せてもらわねばならない……そうする必要が出てきてしまった。

「……とりあえず戻ろう。ディルも待ってるし」

いくつかの疑問が解消し、新たな疑問が生じてしまった。

結果としてまた考えるべきことは増えてしまったが、アインの中ではこれが正解だった……そう整理することができていた。

もう一度入った例の部屋は、マルコの言う通り特に影響がなかった。

それどころか普通に歩いて通り抜けられたといえよう。

「ただいまー」

「アイン様っ!ご無事で何よりです!」

随分と心配をさせてしまっただろうか?……だが収穫はあった。

「ごめんごめん。調べたかったことは終わったよ」

「それは何よりですが。……教えて頂けるような内容でしょうか?」

正直な事を言えば、今すぐにでも教えてあげたいと思える。だが果たして、それを教えていいものなのかと悩んでしまう。

恐らく初代イシュタリカ王のマルクは、現代のイシュタリカの者達に知らせたくなくて、こうした場所に眠っているはずだ。

その心中を察すると、さすがのアインもどうしたものかと悩んでしまう。

「……水列車でね?今はまずバルトに戻らないと」

「た、確かにそうですね。申し訳ありません……つい早まってしまいまして」

現状、最適な答えが見つからなかったため。

アインはとりあえずこの話を棚上げした。列車に戻るまでに、どう説明するのかを考える必要が出てくる。

「それじゃ大広間に行こうか」

「はっ!」

——……と思っていたが、ディルに注意することがあった。

「ごめんディル。一ついい?」

「はい、なんでしょうか?」

「大広間に着いたら、何があっても手出ししない。これを守ってもらう」

「……手出しですか?」

そう、手出しだ。

最後ぐらい、一対一でさせてやりたい。そして自分が教わった剣で決着を着ける、アインはそう決めていた。

「心配しないでいいよ。それにもし必要なかったら、それに越したことはないからさ」

こう口にするものの、何も起こらないという可能性は絶望的だ。ここまで案内する最中に、彼は既にその節を見せてしまっていたのだから。

「これはこれは。ご用は御済みになりましたか?」

「うん、お陰様で順調に終わったよ」

ディルを伴って戻ってきた大広間。

王都の城と作り自体は瓜二つながらも、その雰囲気は決して似通っていない。

マルコはそこで、ただ一人黙って立ち続けていた。一瞬死んでいるのかと思うような静けさだったが、アインの足音を聞いてか、ぐるっと体を回転させて振り返る。

「それは何よりです。……これからはもうバルトへ?」

「もうすぐ夜も明けるし、そのまま帰るつもり。だからそろそろここを離れるよ」

そうして歩き始めるアイン。

ディルはただ黙ってそのアインに付いて歩き、その会話に耳を傾ける。

「畏まりました。それでは途中までお見送り致しましょう」

アインは祈っていた。……このまま黙って旧魔王領を出ることができるように、そう祈り続けている。

「ところで……一つお聞きしても?」

すれ違いざまにマルコがそう声をかけ、アインはピタッと足を止める。

どことなく陽気に聞こえるマルコの声が不気味に感じさせる。

「あぁ……なにかな」

墓地でのことを聞いてくれ。墓地でのことを聞いてくれ。心の中で強く念じ続けるが、現実はアインの願い通りには進まなかった。

「……墓地の事?墓地の事なら——」

「あぁ。いえいえ"そんな場所"はどうでもいいのです。ただその……あの"方々"が作ったお部屋は如何でしたか?きっと素晴らしい場所だったのだろうと……私はそう考えていたのですが」

「うーんそうだなー……あの部屋なら」

腰に携えた剣に手を伸ばす。そして柄を強く握り、物悲し気に息を吐いて覚悟を決める。

「"最悪"な場所だった、作ったやつの趣味がわからないね」

そして素直な感想を口にした。

「……それはいけない。貴方様はもしかすると、何かご病気なのかもしれません。是非我が家にご招待しましょう……我が家の地下には多くの薬がありまして、それを使えば貴方様もきっと元に戻るかと」

「ふぅん……それってどんな薬なの?」

——もうダメか……マルコさん。

「単純なものでございます。ただ強い痛みを生じさせて、それで正気を取り戻せるという代物でして。……私も先日まで使っていたのですよ」

マルコの限界。それが最近だったと聞いて、もう少し早くここに来るべきだったと後悔する。

歯を強く食いしばって、この理不尽な現状を恨まざるを得ない。

「それはいいね。でも俺は大丈夫なんだ……だから、俺は町に帰るよ」

語り合いながらも、アインは腰から剣を引き抜いた。

マルコの素材で作った剣を、目の前のマルコへと向ける。……そうしたことになるなんて、この剣を作った時には考えたこともない。

「なりません。貴方様のため……そう、これは貴方様のためえええええええええええええっ!」

急に声を上げ、マルコは剣を取り出してアインに襲い掛かる。

何も知らない状況ならば、きっとアインはもっと困惑していただろう。だが今回は事前に覚悟ができた、だからこそ……。

「その剣は届かせないよ」

アインはマルコの攻撃を難なく受け止める。

「(この剣の切れ味でも、マルコの剣を壊せないのか……?)」

金属がぶつかり合う音が響き、アインとマルコの剣がぶつかり合う。

「ア、アイン様っ……!?」

「ディル!離れていろ!これは命令だっ!」

アインは強い態度でそう命じた。

唐突な事態にディルも驚いたが、それ以上にアインの命令に驚きを隠し切れない。

「なぜですっ!マルコ殿は暴走している!なら私も……っ」

「駄目だっ……!マルコさんは俺が相手をする、しなきゃいけないんだ……!」

一瞬の鍔迫り合いが終わり、マルコが数歩後ろに下がっていく。夢の中での訓練……それとほぼ同じ動きをすることに、アインは乾いた笑みを零す。

「防御をされた?それも団長の様な仕草で?」

アインが防御するとは思わなかったのだろう。

なにせマルコにとってみれば、例えロイドだろうとも容易な相手。そのロイドより弱かったはずのアインが、どうして自分の一撃を防げたのかが分からない。

「まさか団長がお傍に?ならばどうしてあの方々の素晴らしさを唱えない……?そうか、そうだ!団長もご病気になってしまった?そういうことですね……団長!今すぐに参ります!団長もどうか我が家で療養をっ!おっ!ヲッ!」

再度向かってくるマルコを見て、アインは悲しそうに微笑み返す。

「……そんなになってしまっても、貴方の剣は変わらないんですね」

「さぁ!さぁさぁさぁさぁ!どうぞご遠慮なさらずに、我が家で治療をっ!」

夢の中でのことを思い出すように、アインはあくまでも冷静に剣を振り続ける。

まるで訓練の続きをするかのように、ただ黙々と隙を探り続ける。

「なんで!なんでそうして防御を!……っまさか団長が御傍に?ならばどうしてあの方々のすばらしさを唱えない……?まさか団長もご病気になってしまった……?」

精神の話をすれば、すでにマルコという心は死んでしまったのだろうか?

先程と同じセリフを口にしながらも、ただ延々とアインを切りつけるマルコ。

「——はぁっ!」

訓練の時と同様のタイミングに癖……それならば、アインが隙を伺うことも難しいことじゃない。

「っなに……を……?」

強打したアインの一撃が、マルコの鎧を深く傷つける。するとマルコはその傷跡を撫でさすり、何が起こったのか分からない様子で困惑し始めた。

「そうか、これはアレだ!アレ……そう!信仰が足りていない、あの方々に対する信仰……あぁ、申し訳ありません。あなた方に深き忠せ……」

マルコが忠誠と口にしそうになった時、マルコは自分の身体を切りつけた。

「なにが忠誠だ……っ!何が……何……む?——おぉ失礼致しました。少し困惑していたようで、見苦しいお姿をお見せしてしまい……」

——正気に戻ってくれた!?アインが一瞬そうして喜ぶ。

「なので仕切り直しです。さぁ急ぎ我が家に参りましょう!」

前言撤回だ。だがもしかしたらマルコは、一握りの自我で生き残っているのかもしれない。

そのせいで忠誠という言葉だけは避けた、そう考えさせられる。

「俺は行かないよマルコさん。だって……赤狐を悪く思う、それは当たり前のことだから」

ピタッとマルコの動きが止まった。

「……治療どころではありません。もはやそのお体を捧げなければいけない、それほどの無礼な発言です!……もしやこれは私に与えられた試練?そうか……ならば涙を呑んで、その身に私が罰をっ!」

「マルコさん!貴方もそう思っていたはずだ!前にあった時は、そうして俺に多くの事を教えてくれたじゃないかっ!」

向かってくるマルコを迎え撃ちながらも、アインは大声で思いの丈を口にする。

悲壮感に満ちた声色ながらも、その想いはマルコへと届くことが無い。

「貴方様は記憶に障害が起きている……だから、だから私が貴方様を治してえええええええっ!」

「違う!マルコさんも俺と同じく、強い恨みの感情を抱いていた!まだ貴方は死んでいない!だから……お願いだから、戻ってきて!」

先程の自傷行為がなければ、アインはきっと希望を見出すことは無かっただろう。

だがそれを見てしまったからこそ、もしかすると……という淡い希望に賭けたくなってしまった。

「イヒィッ……駄目だ駄目だ駄目だ!私がオマエに罰、治す……心配はいりません!私が貴方様を!」

言葉に一貫性が無くなってしまうほど、もはやマルコの精神は摩耗を続けていた。

『——もういい。頼む、楽にしてやってくれ』

心の中で、カインの言葉が聞こえた気がする。

アイン同様に悲壮感に満ちて、そして辛そうで逃げたくなるような声をしている。

「……わかった。マルコさん……俺が貴方の最後、その相手を務める」

思い返すのはカインとの訓練。

そして満ち溢れている体中の力に意識をまわし、時折見せたカインの剣を思い出す。

「海龍をも一刀両断する、デュラハン・カインの力……」

自分の身体と力では、その強さを発現することは難しい。だがその真似事を出して、それでマルコを見送るぐらいはできるだろう。

「行くよ。マルコさん」

すぅ……と息を吸い込む。

古びた絨毯と、埃っぽい香りが香ばしい。

体が熱くなる。だが決して不快感はなく、どこか"元に戻る"ような感覚を得る。

言葉にできない充実感に包まれ、体が大きくなるような錯覚の中。

手元に目を向ければ、細胞の一つ一つが輝いているように見えた。

「きっと"コレ"が……去年聞いた器ってやつなんだと思う。俺にそれがあったってこと、そういうことなんだ」

剣を握ると、その血管のような筋が脈動を始める。

それは赤黒く光始め、マルコ以上に禍々しい姿に包まれていった。

「っ城が……揺れてる?」

ディルがそう呟いた。

緩やかにではあるが、魔王城が揺れ始めた。まるでアインの呼吸に反応するかのように、徐々に鼓動の様に高鳴り始める。

「アイン様……?」

揺れも気になるが、戦い続けるアインの方がそれ以上に気になってしょうがない。

ふとアインに視線を戻すと、アインの容姿が徐々に変わっていくのを目にしたディル。

「一体何が……!?」

肩甲骨を超える程に、アインの髪の毛が伸びていく。そしてディルよりも小さかったはずの身長も、いつの間にかそれ以上の体躯へと成長を遂げる。

ロイドやシルヴァード程ではないが、高い身長となったアイン。

変わったのは身体でけでなく、その顔つきも同じく変化していた。母のオリビアの様に美しくなりながらも、どこか凛々しく、男らしい顔つきへと変貌していく。

……もしもこれがアインの成長した姿といわれれば、素直に納得できるような容姿をしていた。

「——くぅっ!?」

ディルが一瞬瞬きをした刹那、アインは立っていた場所から消えて、気が付くとマルコの目の前に立っていた。

「まだ体が"不完全"だけど、これが今の俺にできる剣だ。マルコさん……もう休んでもらうよ」

剣を振ったと思えば、それはいつものアインとは違った立ち回り。

マルコの重心を崩したと思えば、マルコが防御できないようにと攻撃を重ねる。

「だ、団長……団長っ!?」

その瞳には何を映しているのか。

アインはただ冷静な顔つきをして、驚くマルコへと追撃を仕掛け続ける。

幾度となく響き渡る剣劇の音が、徐々に勢いを失い始めた。

それはつまり、この戦いの終わりが近づいていた事……それを意味している。

「これが最後だ。マルコさん……っ!」

マルコは剣を吹き飛ばされ、そして崩れた体勢により片膝をついてしまう。

そして彼が見上げた瞬間……アインは大きく振り上げた剣を、ただ落ち着いてマルコに向かって下ろす。

——ギギイィ……。

金属が切り裂かれる音が、魔王城の大広間へと響き渡った。すると膝から崩れ落ち始めたマルコが、以前の様な口調で、アインに向かって語り始めた。

「……お強く、なられましたね」

マルコには顔が無い。だがそれでも、彼が醸し出す表情は目に見えるように理解できる。

「正気に……?マルコさん正気に戻ったのっ……!?」

アインは剣を持ちながらも、倒れ行くマルコの身体を自分の膝の上で支える。

「はは……実は多くの記憶がございません。おそらくは貴方様に……剣を振ってしまったのでしょう……?」

「待って!今なんとかして魔石を取ってくる!だから静かにっ……」

「……もう必要ございません。私は最後に、団長の剣で切り捨てていただけた……私はもう、これだけで満足なのです」

徐々に掠れ始める声に、体中の筋が光を失い始める。

「待て!命令だマルコ!……お前は"俺の命令"なら聞く義務があるだろう!」

アインは一体何を口にしてるのか、ディルはこの劇的な結末を見ながらも、そうした疑問を抱く。

「……ですが私は体の限界のようです。大変心苦しいのですが、どうかお暇を頂きたく……っ」

まるで蛍が光るように、徐々に小さくなり続けるマルコの煌き。アインの目にはそれが映り続け、それがどうにも辛く思えてならない。

「団長はもはやおりません。なのでどうか……貴方様のお声で、私にお暇を……」

もう死が待つのみの身体に鞭を打って、マルコは必死に言葉を絞り出す。

——『もし……もしさっきの剣を使う相手と戦うこととなれば、最後にこう言ってやってくれ』

カインがアインへと願った言葉だ。

それを思い出し、その約束を守るために、涙が出そうな気持ちを堪える。

「……マルコ、ではお前に告げる」

「っ……はっ!このマルコ、しかと拝命致しましょう……」

きっと体が元気ならば、きびきびとした動きで敬礼でもしてみせただろう。

今のマルコにはそれができない、アインは最後に大きく息を吸って、その言葉をマルコへと告げる。

「『……数百年に及ぶ任務、ご苦労だった』」

これがカインから託された言葉。

「だ、団……長……っ」

アインはその任務の内容を聞かされていない。

しかしながら、マルコは数百年かけて、ようやく1つの任務の終了を告げられたのだった。

「ふ、ふふ……最後の最後に、こんな幸せな贈り物はありません……。では私はそろそろ参ります……ですが最後に、貴方様のお名前をお聞かせ願えませんか……?」

もう本当に最後なのだろう。もはや注視しなければ、マルコの身体から光る部分が見つけられない。

「……俺の名はアイン、アイン・フォン・イシュタリカだ。正統なるイシュタリカの血を継ぐ次代の王であり、イシュタリカ王家の二代目の……——王だ」

まだ不完全ながらも、おそらく自分の身体はすでに変わっている。

先程の身体の変化を、アインはそうしたものだろうと認識していた。

「ふ、ふふ……なんと……凛々しい名だ。あぁ、私は幸せな騎士であった……。どうかアイン様、私も貴方様の御傍で……」

「ゆっくりと休んでくれ。その思いは、すべて俺が受け止める」

アインはその言葉を聞いたマルコを見て、満足そうに微笑んだように感じた。

「常世の果てまで……その名が響き渡らんことを……あぁイシュタリカよ。栄光あれ……っ」

そしてマルコの身体が粒子のように霞んでいき、そして消え去る直前に、鎧の内側から一枚の羊皮紙と魔石を落としていく。

アインはその魔石を手に取って、すぐにその中身を吸いつくす。するとアインの身体が一瞬光ったと思えば、最後にもう一度だけ髪の毛が少し伸びていき、もはや腰に届くほどの長さとなってしまった。

「さっきまで不完全だったけど、これで"完全"って感じ……かな?」

そう呟くと、マルコが落としていった羊皮紙を手に取るアイン。

「……そうか。マルコさん……貴方は今までずっと、何百年もこの"指令書"をずっと持ち続けて……」

書かれていた文字は決して多くない。

だがしかし、その指令書の内容は多くの想いを感じさせた。……古びたボロボロの羊皮紙には、こう書かれている。

『王都を、そして我らの家を守って欲しい。——指揮官 カイン・フォン・イシュタリカ』

マルコはただ愚直に……そして真摯な思いで、その命令を数百年も守り続けてきたのだった。