軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一つの疑問。

「ほいよ。問題ねえぞ殿下」

翌朝、早い時間からムートンが城にやってきた。弟子のエメメは布団から出てこなかったようで、そのまま放置して来たらしい。

「ありがとうございますムートンさん。問題なくてなによりです」

出来上がってすぐということがあってか、ムートンから剣の様子を見たいとの申し出があったのだ。本当はアインが出向くと伝えたのだが、買い物がてら行くとムートンが語ったので、折角ならと城に招待したわけだ。

軽く朝食を共にしてから、訓練所でアインの件について確認した。この時間の訓練所は人がおらず、アインとムートンの二人しかいない。

「そういや一つ伝え忘れてたんだ。多分この剣しょーもねえ能力あんぞ」

「しょ、しょうもない……?」

「人骨に近づくと多分光る」

「……なんで光るんですか。いや本当にしょうもないけど」

アインの返事を聞いて笑い始めたムートンは、ひとしきり笑みを浮かべた後返事を口にする。

「質の高けえアンデッドの素材だとな、そういう武器ができあがることがあんだよ。あーでも仲間を呼び寄せるとかそんな危ねえ能力じゃねえ、ただ骨に反応して光ることがあるってだけだ。本当に光るだけなんだがな……それも小さく」

「それって意味あるんですか……?」

「さーな。人が埋まってるかどうかぐらいならわかるんじゃねえか?」

「……それって骨になってないと意味ないんですよね?」

「そりゃそうだ。生きてちゃ意味ねえぞ。だから死体を探したいならいいんじゃねえのか?」

人骨を探す機会があるかはわからないが、とりあえず有用性は考えておこう。せっかくの能力……機能なのだから、どこかしらで使えたら少しは嬉しい。

「昔の貴族なんかはな、拷問した相手の骨に近づけて楽しんでた。そんな話があるぜ?他には死にかけの敵にぶっ刺して、光り出すまでじっと眺めてたー……とかな」

「それは無縁そうなんで遠慮しときますね」

鍛冶師の知ってる昔話なんて、結構バイオレンスな話が多い。今回もなかなか過激な話となってしまった。

「アイン様ーっ!そろそろ出発しないと遅れてしまいますっ!」

訓練所の外からクリスの声が聞こえる。アインが思っていた以上に時間が経過しており、学園へと出発する時刻が徐々に迫って来ていた。

「おっとと。護衛のねーちゃんが呼んでるな、それじゃ行くか殿下。俺も途中まで一緒にいくわ」

「そうですね、ではそろそろ行きましょうか。……わざわざ朝からありがとうございました」

「がっはっは!いいってことよ!」

そうしてアインは自室に戻り剣を置き、クリスとムートンと共に学園へと出発した。ムートンはホワイトローズ手前で別れ、食料の買い出しに向かって行く。……今日のアインの日常はこうして始まった。

学園に到着したアインは、今日も合同授業に臨んだ。先日と同じく、初代イシュタリカ王についての内容の講義を受けた後、いつもの面々での昼食や休憩時間を楽しんでいた。

そしてもうすぐ休憩時間が終わる……そんな時間に、彼は再度この教室へと足を運んできたのだった。

「……この度は王太子殿下に大変な無礼を致しました。その事を深くお詫びいたします」

グラーフの仕事はなんとも早かった。昨日のうちにすべてを通達し、このロディにもその内容が伝えられたのだろう。

アインとしてはもっと突っかかってくると思っていたので、若干拍子抜けしたといえる。

「わかった。すぐに謝ってくれたことだし、俺も昨日の事は水に流すよ」

少し偉そうに言ってしまうが、へりくだった態度をすることもできないため仕方ない。今日も唐突にやってきたことにレオナードは不満げだったが、そこにわざわざ水を差すような発言はしなかった。バッツとロランは興味なさげに、別の会話を楽しんでる様子。

「寛大なお言葉に感謝致します……」

場所が場所ならば、あるいはアインの性格が違ったならば、このロディの首が落とされることも有り得たかもしれない。ロディの父はそのことを強くロディに伝えた。そして会長のグラーフからもきつく注意が入ったため、そうした面でもロディの事を厳しく折檻していた。

頭を下げた後のロディは、逃げ帰るようにアイン達の教室から去っていった。

その様子だけは見ていたバッツが口を開く。

「ん?あいつもう帰ってったのか」

「話も終わったしね、俺も別に用事は無いし」

「おーそうかそうか。そういや訓練場でいい事聞いたんだ、知りたいだろアイン?」

ニヤついた笑みを浮かべてそう語るバッツ。彼がそんなことを口にするのは珍しいため、アインは当たり前のように興味を抱く。

「知りたい知りたい。なにを聞いてきたのさ」

「だろー?……実はあのロディって奴な、剣の腕が一流っていわれてるらしい」

「へー……誰が教えてくれたの?」

「適当な5年次捕まえて聞いた。名前と顔は覚えてねえ」

適当すぎる情報元には苦笑いを浮かべるが、確かにいい情報だった。ロディと話すことはもう無いとは思うが、そうした話は意外と興味深い。

「じゃあさじゃあさ!例えばバッツとどっちが強いのかな?」

二人の会話を聞いていたロランが一つの疑問を抱く。バッツも同じく剣に関しては一流だ、そうなればどちらの方が強いのか気になってしょうがない。

「あー?そりゃお前ロラン……やってみなきゃわからねえだろ」

「あ、あれ?いつものバッツなら自分って言い張るのに……」

「そりゃ俺も負ける気はねえけどな。でもやって見なきゃわからねえとこがあんだろ」

バッツの心に影響を与えたのは、城での近衛騎士達の訓練風景だ。自分よりも遥かに高いレベルの技量に力、そしてスピードを見せつけられたバッツには、慎重且つ謙虚な部分が現れ始めている。

「ならバッツ。例えば殿下ならばどうだ?」

「……レッドバイソンを正面から受け止める奴が、たかが学園生に負けるはずがねえだろ」

レオナードの疑問へはこう答えるしかない。それほどまでに、アインとの初対面の時の衝撃が大きすぎるのだ。

「まぁさっきも言ったが、俺も負ける気はねえよ。俺だってそれなりに成長してんだ」

立ち上がり力こぶを主張して、その自信を見せつけるその姿は頼もしい。アイン達3人はそのバッツの姿を見て、いつものように微笑ましい空気に笑みを零す。

そうして会話を楽しんでいるアイン達の耳に、教室のドアが開く音が聞こえてきた。

「さぁ休憩の時間は終わりだ諸君。……何をしているバッツ、立派に成長したのはわかったから仕舞いなさい」

休憩時間の終わりに気が付かなかった一同の許に、担任のカイルがやってきた。急いで席に着くアイン達を傍目に、バッツはポカンとした顔を浮かべた後、満面の笑みでカイルに話しかける。

「教授っ!?俺でっかくなりましたか!?」

「あ、あぁ……1年の頃と比べれば随分と大きくなったものだ。だがそれがどうしたのだ……?いいから落ち着きなさい、それと席に着きなさい」

高学年に気に入られて、低学年には怖がられる教師がいるだろう。

カイルはその典型的なタイプで、高学年になるほど人気が高まる教授だった。生徒たちとしても成長するにつれて、徐々に自分たちに向けられる愛情に気が付き始める。

更に情報を付け加えるならば、6年間ずっと面倒を見てきたアインやバッツ、そしてレオナードやロランたちには更に甘くなることがあった。

「おいどうだロラン、俺褒められたぞ」

「う、うん。よかったねバッツ……あと早く座ったら?」

へへ、と笑いながら席に着くバッツを見て、カイルは呆れた顔の後に口を開く。

「号令は必要ない、ではホームルームを始める。……今日は一つ、学園からのアンケートに答えてもらう」

数少ない 一組(ファースト) の生徒たちが戸惑い始める。アイン達も同様にどうしたのかと不思議に思い、カイルの次の言葉を待った。

「急にアンケートといっても疑問に思うだろうが、あまり深く考えなくてよろしい。私がこれから2つのことを質問するので、その内容について答えてほしい」

生徒全員の顔を確認し、数呼吸分の余裕を作りカイルは再度口を開く。

「学園都市の対抗戦。それに参加できないことを不服に思っている者は正直に挙手をしなさい」

心臓が大きく揺れる音を感じた。それはアインだけでなく、傍に座っているレオナードやバッツ、そしてロラン……いやそれどころか、このクラス全員が同じ感覚を共有したように思える。

「……そりゃもちろんだ」

一番に手を上げたのはバッツ。彼も学園都市の学生として、対抗戦に出たいと思ったことは数知れず……だがしかし、規則のせいで出られなかったのを悔やんでいた。

「まぁそうだよね、実は俺もなんだけど……」

続いてロランが手を上げて、皆の注目を集め始めた。すると一斉に生徒たちの手が上がり、レオナードも遅れて手を上げた。最後に残ったのはアインで、アインも皆の顔を確認してからそっと挙手をする。

「……なるほど。実のところ皆は興味がないと思っていたのだが、貴重な意見に感謝する」

白衣から手帳を取り出し、今のアンケート結果を記入し始めたカイルの姿。皆がその姿を見て不可解に思った、こんなことを聞いてどうするのか?仮に制度が変わったとしても自分たちが卒業後だろう……。一瞬の希望がよぎったものの、すぐに以前と同じ空虚感に満たされる。

「希望を見出させておいて終わりというのは非道だろう。なぜこうしたアンケートを取ったのかを説明する、皆顔を上げなさい」

一同がカイルの方に注目し、彼が次になんというのかを強く見守る。

「……今年はおそらく2種目だ、なにせ初年度と言うこともあり試験が必要となる。そのため弁論と剣技を競うものとなると思うが、現在全学年の 一組(ファースト) と 二組(セカンド) で同じ内容のアンケートを行っている。この分では過半数を超えるだろう、そうなれば学内ではあるが上位2組向けの対抗戦が行われる」

そう語り終えたカイルだが、教室はしばらくの静寂に包まれる。すると口火を切ったのはバッツ、机をバン!と強くたたいて慌ただしい様子で立ち上がった。

「教授っ……!?それって嘘じゃなくて……」

「こんなことを嘘ついてどうする。理事で決まった事だ、なのでアンケートの結果次第だが……ほぼ決定事項となる」

こんなときまで静かな 一組(ファースト) の生徒たち、若干皮肉が効いたその態度だが、内心では皆が共通して湧き上がる興奮と戦い続けていた。

「あの……それってもしかして組対抗ってことですか?」

興奮したロランがカイルに尋ねる。カイルももはや諦めた様子で、素直にその質問へと返答した。

「……あぁそうなる。私としてもこういった催し事は初めてなのだがな」

そう口にするカイルが何を考えているのか、ミステリアスな部分があるカイルだからこそ分からない。だが恐らくこのイベントは開催に至るだろう。自分たちの組だけでなく、他の組も似たような感情を抱いていると思う。なにせ折角の学園生活なのだ、だからそうしたイベントを求めるのは当然なのだから。

——学園から城に帰る道で、アインはどんな催しとなるのかを想像して楽しんだ。

城に帰ったアインには、数多くの書類仕事が待っていた。いつもなら共に仕事をするクローネも、同じく多くの仕事に追われているため、今回ばかりは別々の執務室で仕事に当たっている。

行政に関するものであったり、貴族達からの陳情書。そして漁業や農業の収穫量についてなど、多くの書類に目を通す。

一応はウォーレン達が目を通したものばかりだが、だからといって適当に判を押すのは許されない。丁寧に一枚一枚目を通していく。

「失礼致しますアイン様」

「お茶持ってきてくれたんだ、ありがとマーサさん」

丁度休憩をしようかと思ったタイミングで、マーサがアインの執務室へとやってくる。時刻はすでに夜の九時。食事も部屋でとったアインは、城に戻ってからずっと仕事詰めの時間を送っていた。

「軽食もお持ちしましたが、お召し上がりになりますか?」

「貰うよ。ちょうど欲しかったんだよね……ありがたく頂きます」

茶の隣には2セットのサンドイッチ。1つのボリュームが大きいため、育ち盛りのアインには嬉しい量だ。

「ずっと机に向かってらっしゃいますが、お疲れではありませんか……?」

「結構慣れたんだよね。だから別に疲れては無いかな」

城で生活する中で、王族の仕事なんてものは何年もやってきた。昔は眠くなってしまうことばかりだったが、今となってはすっかり平気になっており、アインの成長が良くわかる。

「それは何よりです。ですがご無理はなさらぬよう、休憩をお忘れないようにしてくださいませ」

「ははっ。わかってるよマーサさん。……お茶と食べ物ありがと、もう少しやってから休むよ」

「承知いたしました。では何かございましたらお呼びくださいませ」

アインの返事を聞いて、マーサは静かに退室していく。さぁもうひと踏ん張りだ、アインはマーサからもらった軽食に手を付けて、気合を入れるため頬を叩く。

「手紙は確認しながら食べようかな」

サインの必要がない、自分あての手紙や書類。それに目を通しながら軽食を食べることにした。こうすることによって、時間を効率的に使えるというわけだ。……食事ぐらいゆっくりと、そんな気持ちがないわけじゃないが、睡眠時間のためにはこうするのが一番だった。

「お爺様からの?何だろ……」

同じ城にいるのだから、口で話せばいいじゃないか。アインは昔そう考えていた、だが書類に残すことの重要性は確かにある。言った言ってないの間違いがなくなるだけでなく、口約束よりも正式なものとして扱える。

「再来週……先代陛下の命日の立ち合い?」

書類に書かれているのは1つの連絡。

二週間後、アインに立ち合いを求めるという内容だった。それはシルヴァードの先代の王、つまりはシルヴァードの父の命日の際に、アインが共に墓前に足を運ぶこと。今までは毎年命日に墓前にいくのはシルヴァードだけだった。イシュタリカ王家のしきたりのようなものらしく、通常は王だけがその場に向かう。

「そろそろ覚えるべきと考えたため、立ち合いを求める……」

成長するにつれて、多くの事に関わり始めたアイン。つまりはそれと似たようなことだろうと納得した。将来王となるのだから、今の王であるシルヴァードから学ぶべきことがある。それを隣で見せてもらえるのだからありがたい話だ。

「あとでクローネにも伝えておこう。予定に組み込んでもらわないと」

正装の支度に必要となる作法など、いくつかあとで調べる必要がある。将来的にはもっと多くの事に関わるのだ、こうしたところから勉強していかねばならない。

「王様ね。王……イシュタリカ王……」

ラウンドハートに居た頃を思い返せば、こんな大国の王族となるなんて考えたこともない。ただオリビアのために立ち回り、自分のせいで迷惑をかけて申し訳なかった思い出しか浮かばない。

元家族たちは今頃どうしているだろうか?グリントはあの暴走王子の隣にいて、ローガスはきっと将軍として仕えている。……祖母のイシスや、第二夫人のアルマについては割とどうでもいい。

本当にハイムとの会談が決まれば、きっとローガスと再会することになるだろう。どのような顔をすればいいのか、今からそんなことで悩んでしまう。

「ううん……嫌いじゃないけど好きじゃない、殺したい気持ちは無いけど少し仕返ししたい。……あーもやもやする」

当然のことだが家族としての情も愛も残ってない。とはいえこの心境を言葉にするのは難しい。

「まぁグリントは……うん。適度に健康に育ってくれればいいかな」

エウロでのことや、ラウンドハートの屋敷でのことを思い返せば、この考えは物凄く甘い。だが幼く、そしてアルマとイシスの影響を受けて育った弟には、恨みらしい恨みなんて無いに等しい。エウロの時は鬱陶しいと思ったりはしたが、それはその時の状況のためだろう。

「よっしご馳走様でした。それじゃ続きだ」

サンドイッチを食べながら片手間に確認していた書類をよけて、上半身を大きくストレッチさせる。一息付けたことで、肉体的にも精神的にも回復したのを感じる。

——イシュタリカの未来の王として恥ずかしくないように努める。アインはその思いを胸に再度机に向かう。

『王の器ではなかった』、将来そんなことを言われないようにと、もう一度集中し直した。

「……そういえば器ってなんだろう」

王の器とはいかなるものか。折角だから、今度シルヴァードからその考えを聞いてみよう。……アインはそう考えた。

思い返せばマルコも器と口にしていた、となればシルヴァードの答えが何かのヒントになるかもしれない。

「そのためにもまずは、今日の仕事を終わらせないとね」

——……この日のアインの仕事は、日を跨ぐ直前まで続いたのだった。