軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国家間のやり取り

ムートンの新たな店は、多くの設備に恵まれている。

よく水を飲む彼は井戸を新設し、新鮮な地下水を毎日味わっていると聞く。

その井戸も設置された裏庭へと向かったアイン。その目の前には大きな白い塊。何年経っても変わらぬ堅牢さを誇る、海龍の背骨という堅い素材が置かれていた。

「本当に用意してたのか……」

「あったりめえよ!鉄塊なんかじゃ相手にならねえぞ!」

「あれ?でもムートンさんはまだ切れ味調べてないんじゃ……」

「感じるんだよ。そういうもんだ」

誇らしい顔でこう語ったムートンを見て、なるほどそういうものかと納得した。

彼ほどの鍛冶師が言うのだ、きっとそういうものなのだろう。

クローネとクリスの二人はそれを見て、ただ苦笑いを浮かべるばかり。

「早速やっちまってくれや殿下」

「えーっと、普通に切る感じでいいのかな」

「あぁ!真っ二つにしていいぞ!」

ド派手なのを希望するムートンだった。当然アインとしても、初めては派手にいきたいと思うところがある。

だが果たしてどのぐらい堅いのか?海龍の背骨の堅さを知らないアインは、まずは……と口を開く。

「さすがにどれぐらい堅いかもわからないんで、剣に傷もつけたくないし、ちょっとどれぐらい堅いか確かめていいですか?」

「あ?あー……まぁ一理ある。しゃあねえな、それでどうやって調べるんだ?」

「そりゃこうやって剣を当ててトントンって……トン、トン……?」

剣の先を当てて、コンコンと叩いて感覚を調べたかった。ただそれだけだったのだが、アインだけでなく誰も予想しなかったことが起きる。

「……殿下。そりゃトントンじゃねえ、スパスパッってところだな」

「あ、あれ……?」

三回ぐらい剣先で叩く予定だった。だがそれはあくまでもアインの予定であり、剣にとっては全く違ったようだ。

惚けた顔をして骨を見ると、想定とは違った結果になったことに驚いてしまう。

「アイン様?失礼ですが確認してもよろしいでしょうか」

「あ、うん。お願いクリス」

未だ何が起こったのか理解できないアイン。

クリスもおっかなびっくりの様子ではあるが、骨の様子を確かめるため近づいた。

「……綺麗に切断されております。縦に4つ、アイン様が当てた回数分バラバラになっているようです」

「アイン貴方なにやってるのよ……」

「待って俺のせいじゃない!ただちょっと叩いてみようかなって、そう思ってただけだってば!」

クリスの見た結果を聞いて、クローネがジト目でアインを見つめる。アインとしては、全くもって非があると感じない事実に、大きな身振りで否定の意を示す。

「がっはっはっは!おいエメメみたかお前!すげえなこれ!意味わからねえぞ!」

「さすがししょーです!意味わからな過ぎてお腹減ってきました!」

「おう!今夜は祝いだ!旨いもん食いに行くぞ!」

「マジですかマジですか!?太っ腹すぎて惚れちゃいそうです!」

アインとしても笑って済ませたい。考えるに、海龍の背骨なんて絶対柔らかい素材じゃない。そんなものをアッサリ切ってしまえば、逆に恐怖すら覚える事態だ。

「ねぇクリス?その……海龍の背骨ってどれぐらい堅いの?」

「ホワイトキングよりは堅いはずですが……正式にどれぐらいかは難しいですね」

なるほど。つまり祖父と喧嘩でもする機会があれば、この剣持って暴れろということだ。理解が追い付かず、祖父のことを思い浮かべて気を紛らわす。

「ど、どうしましょう……。むしろアインから取り上げるべきなのかしら……」

「そんなひどいこと言わないでね?ね?」

危険物扱いとなってきたが、アインとしては手放したくないところだ。

「……心配しないで?6割ぐらいしか本気じゃないから」

「過半数いってるけど心配しなくていいの?」

「あー殿下、そこんとこは心配いらねえぞ!ちゃんと鞘もつくってあっからな!」

ムートンの言葉に一瞬安堵したが、その後一瞬で不安な気持ちに逆戻りした。なにせこの剣は切れ味が良すぎるのだ。

「あのムートンさん?それって鞘まで切れたりしないよね?」

「合わせて作ってた時なんかは、別に傷一つ付かなかったから安心していいぞ!きっとそういうもんなんだろ!」

なるほど。そういうものか……分からないけど分かった。では済まされない事態なのだが、どうすればいいのだろうか。

「あのー殿下?多分大丈夫ですよ?魔物の素材って生まれ変わったせいか、素材自体がそれに順応するというか……そんな性質ありますし。それに過去にあった名剣とかだって、しっかりと鞘に収まってたわけですからね!」

まさかのエメメからの説明を聞いて、アインは少しばかり安堵した。だがしかし、情報の出所がエメメな事を思えば信頼はできない。

「あー確かにそうだな。だからそういうものなんだって!分かってくれただろ殿下!」

ムートン自身も知っていた話のようだが、だったら最初からそう言ってほしいものだ。"そういうもの"で一括りにされてしまうと、たまに不安になるのを分かってほしい。

「ちなみに鞘は海龍の鱗を加工した、更にいえばベルトも海龍の革だ。贅沢だぞまったく!」

「あぁそういえばアイン?それ一応将来は国宝指定になることになってるの、大事にしてね?」

「英雄に相応しい装備ですよ。似合っておりますアイン様」

そんなの装備するの怖い。気軽に使えなそうじゃないか、と残念に思ったが。これほどの切れ味なのだ、よく考えれば気軽に使える品じゃない。

「……そういえば鞘とかベルトの加工料金は——」

「大丈夫、もう支払い済みだから心配しないで?」

「あのクローネさん?いつの間にお支払いを……」

「去年の間に終わらせてるわよ?」

だからちゃんと教えなさい?今度恥ずかしい目にあわせてやる、心の中でそんな小さな復讐を誓う。

「金額は聞きたくないけどさ。わざわざこんな高い素材を使わなくても……」

「それ一応正装にもなるのよ?王太子の正装なんだから、それ相応の物を作らないとだめでしょ?」

「アイン様、クローネさんの言う通りですよ。それにその剣では、海龍の素材でなくば鞘が意味をなさないかと……」

確かに王太子ともなれば、腰に剣を付けることはある。となればこの剣が正装となるのも当然のことで、更にいえば、海龍の素材でなければ鞘の意味がないのも当たり前だろう。

「あー……。そう言われれば納得できる」

リビングアーマーの素材で剣を作った。……作ってしまったのだから、それに合う素材で固めなければならない。それを失念していたアインだった。

「んじゃ早速だ。店戻ってベルトの調整すっか、殿下まだ時間あるんだろ?」

日が傾きかけてきたが、アインにはまだ余裕がある。それにベルトの調整も大事な事なので、予定があってもなんとかして時間を作った事だろう。

「今日は大丈夫です。なのでベルトの調整もお願いします」

「おう!それじゃ工房戻るぞ!」

十数分も経てばベルトの調整なんてすぐに終わり、アインの腰へとついに新たな相棒ができた。

ベルトと鞘は白銀の美しい作りとなっていて、収める剣とは対照的な色合いをしていた。

左側の腰の部分に剣をぶら下げ、いつもとは違った重さを感じるアイン。

ムートンの鍛冶屋を出て、3人は城への道を進んでいた。なんでもこれから二人で打ち上げをするらしく、ご馳走を食べ歩きするそうだ。

「歩いていて違和感はありませんか?」

「大丈夫だよ。ベルトの調子もいいし、着け心地は最高だからね」

ベルト一つとっても、剣の付け心地は千差万別だとムートンは語った。重心や揺れ具合、そんな小さなところにも職人技が光るものだと彼は語った。

「……でももう一本剣を作らないとね」

「え?なんでさ、せっかくこれ出来上がったばっかりなのに」

神妙そうな顔で口にしたクローネの言葉。アインはそれがどうしてか分からないが、隣に立つクリスはすぐにその意味が理解できた。

「確かにそうですね。携えて恥ずかしくない程度の剣で、もう一つ作るべきかと」

「クリスさんまでっ!?もうこれあるからいいじゃん!」

クリスまでクローネの意見に賛同する。まさかクリスまでこう口にするとは思わなかったので、アインは少しの悲しみに覆われた。

「アインその物騒すぎる剣一本でいい?安心できる?その……事故起こしたりしない?」

「……クローネさん?申し訳ないのですが、予算から少し用意して頂けないでしょうか」

よくよく思えばその通りだ。

この切れすぎる相棒だけで大丈夫か?さすがにちょっと怖くもある。なのでクリスがいうように、恥ずかしくない程度の剣をもう一本作るべきだろう。

「はーい、畏まりました殿下。どうするか考えておくわね」

こういう時はクローネに任せるのが一番だ。投げやりすぎないかと考えるが、彼女に任せるのが一番安定するため、アインは黙ってクローネに一任する。

「陛下達もご覧になりたいかと思いますが、披露するのも注意してくださいね」

「……はい」

剣の扱いには慣れてるつもりだ。

だがこの剣ほどの切れ味は知らなかったので、緊張するなというのも無理な話。

「そういえばアイン、その剣って何か名前ないの?」

「ムートンさんも何も言ってなかったし、まだ決まってないのかもね」

「……ならアインが決めてあげないとね」

名剣ともあれば、何かしらの名前があっても損はない。今日受け取った剣も間違いなく名剣だ。そうなれば、アインとしても名前を付けてやりたくもなる。

「っていってもすぐには浮かばないしなー……」

自覚はあるが、アインのネーミングセンスは、もろ手を挙げて褒められるものじゃない。

暗黒ストローなんていうスキルがあるぐらいなのだから、なんとなく気が引ける。

「(マルコさんに会う機会があったら、あの人に決めてもらうのもいいかな)」

思えば彼のおかげで、こんな名剣を手にする機会を得たといえよう。

そうなれば、そのマルコから名前をつけてもらうのも悪くない。

「少し考えてみるよ。すぐには良い名前なんて浮かばないしね」

マルコに会える機会がまた来るのか、それはまだ分からない。だが今はとりあえず保留にして、相棒には名前を付けるのを待ってもらうことにした。

「おやアイン様?ただいまお帰りでしたか、っと……まさかその腰にあるのが?」

城についたアインの近くを、たまたまディルが通りかかった。ロイドの仕事の手伝いもあってか、手にはいくつかの荷物を抱えている。

クローネは自分の執務室へと向かっていったため、アインはクリスと二人で場内を歩いている。

「ただいまディル。そうそう、さっき受け取ってきた。想定外に化け物だったけど」

「化け物、ですか……?」

「そう、化け物だよ。切れ味が意味わからないぐらい凄くて、迂闊に抜いたりできない代物だった」

「それはそれは……。なかなかの名剣が出来上がったようで何よりです」

ディルは見ていないからそう言えるのだ。

アインの言葉を聞いて、純粋に喜んでいるように見えるが話はそれだけでは終わらない。

「たぶんディルが考えてるのは違う、本当に化け物なんだ。……海龍の背骨を試し切りしたんだけど。硬さを調べようとしてトントンって叩いたら、それだけで切れちゃったからね?」

そこまで笑顔だったディルが、一瞬で真顔になって深刻そうな表情になる。アインの言葉を聞いて、ただの名剣じゃないことをようやく理解した。

「……迂闊に抜けませんね」

「でしょ?本当に言葉の通り……簡単に抜けないんだよ」

もはや苦笑いしかできなくなったディルだったが、何はともあれ、ようやく剣が出来上がったことは喜ばしい。

一日千秋の思いで待っていたアインのことを思えば、アインが喜んでるのはディルも嬉しく感じている。

「そういえばアイン様……。喜ばしいことの後にお伝えするのは心苦しいのですが、一つアイン様も同席する必要のある話がありまして……」

由々しき事態のように、ディルが声色を変えてアインに語り掛ける

その声を聞いたアインは表情を変え、隣に立つクリスも同様に様子を変えた。

ディルが持っていた荷物から、紙が潰れる音が響く。

「ハイムから書状が届いております」

一度決着をつけよう、そして何かしらの終着点としたい。アインがハイムとの関係で考えたことで、シルヴァードも乗り気になった事態の件だ。

シルヴァードも同席して一度話をしよう。そうした内容の手紙を送り返したイシュタリカだったが、ようやくエウロ経由でその返事が届いたのだった。

シルヴァードから同席を求められたアインだったが、聞けばその場所は城内ではなく、城の裏手のとある場所……そこにシルヴァードが一人で待っていた。

「陛下……?どうしてここでお話を?」

ウォーレンを尋ねると、シルヴァードはすでにそこに向かったと聞き、アインは急いでこの場を目指してやってきた。

「まずは王太子と二人で話すべきと考えたのだ。……なればこの場なら、初代陛下もお力になってくれるかもしれんだろう?」

——王家墓所。

シルヴァードが待っていた場所であり、アインがやってきた場所のことだ。

歴代のイシュタリカ王が葬られている聖地で、足を運べるのは王族や特別に任命された管理者のみだった。

その奥に、ひと際大きく立派な墓石が置かれている。歴代の名君であった王達ですら、その横に並び立つことは許されない……唯一無二の初代イシュタリカ王の墓石だ。

『"第一代イシュタリカ王"マルク・フォン・イシュタリカ。愛する祖国に眠る』

墓石に目をやると、美しい字でこう彫られている。アインとしてもこの墓所に来るのはそう多くない。年に一度、シルヴァード達と挨拶に来る程度のことだった。

数百年物の墓石だからだろう。いくつかの文字が削れて読みづらくなっている。

「そうかもしれないですね……」

胸に手を当て礼をして、初代イシュタリカ王へと挨拶をするアイン。シルヴァードはそんなアインを見て、一つの事に気が付いた。

「む?それがアインの新たな剣か?」

「え、えぇ。とんでもなく化け物でしたので、迂闊に抜けないのが悩みですが……」

シルヴァードはディルと違う感想を抱いた。

アインがここまでいうのだ、そしてこうまで心配そうしている。それはつまりそれ相応の事態なのだと。

「……海龍の骨、どれぐらい切れたのだ?」

「切れたというか……密着すれば勝手に切れるというか」

「と、取り上げたほうが良いのだろうか……」

「お願いしますから、クローネと同じこと言わないでください」

だが祖父の気持ちは当然だ、むしろその武器が物騒すぎて他には何も言えない。

「う、うむ……。ではその剣については後程詳しく聞くとするが。早速本題に入ろう」

「わかりました。ディルからは、ハイムからの返事が来たと伺ってきたのですが」

頷いたシルヴァードが、懐から一つの封筒を取り出した。

質の良い紙を使っていて、金の封を押されている。表に見えるハイムという大きな文字を見れば、それがハイム王家のものだと一目瞭然だ。

「しっかりと目を通すといい」

「はい。では拝見します」

少しばかり身構えてしまう。どんな内容が記載されてるのか、今回はどんな要求をしてくるのか、楽しみな気持ちと不安な気持ちが入り混じる。

「ふむ……ふむ……」

たまに頷きながら、シルヴァードに目を通していると知らせていた。途中顔を 顰(しかめ) たくもなる事が書かれていたが、とりあえずは気にせず読んでいくことにする。……しかし文字が綺麗だ、それだけがアインの救いだった。

「読みました。大体の内容も理解できたかと」

「ではアインの考えを聞きたい、余に申してみよ」

「……手紙の内容を簡単にまとめれば、つまりは『ハイムに来い。それで我らが城で雌雄を決する』ということで間違いありませんよね?」

「うむ。残念ながらその通りだ」

どうにも馬鹿げた話の一言に尽きる。わざわざこちらからハイムに出向き、そして敵の城で話をする。これを受け入れてもらえると思ったのだろうか?

だがまずはシルヴァードに返事をしなければならない。とはいえ答えは決まっているのだが……。

「話になりませんね。相手は自ら首を絞めているようにしか思えません」

「まぁそう思うであろうな……」

「さらに言えば、我々が艦隊で出向いた場合、例えば港町ラウンドハートはどうなるのか。それを考えていませんね」

何せシルヴァードも同席する予定の会談なのだ。当然のことながら、多くの艦隊で向かうことになるのが必然。そうなれば、万が一戦いにでもなれば港町ラウンドハートは一瞬で藻屑となることだろう。何をどう考えてこの結論に至ったのかが疑問なばかりである。

「余としては、一カ所検討している場所があるのだ」

「……といいますと?」

「小さな小さな島があるのだ。ちょうどハイムとイシュタルの中間らへんにな」

「つまり中立地として、そこを使いたいとお考えなのですね」

例えば会談の地をエウロにしたとしよう。そうなればエウロに迷惑が掛かるのは当たり前のことで、下手をしたら一番の被害を被るのはエウロだ。更にいえば、ハイムはイシュタリカでの会談なんて確実に突っぱねるはずだ。やはりシルヴァードの言うように、そうした中立地を選ぶのが最善だろう。

「うむ。仕方がないので、我々でちょっとした島の整備ぐらいはしてやるとするが。余としてはこうした内容の返事を送るつもりなのだ」

「ひどく金が勿体ない気がしますが、もう必要経費と割り切るべきですかね」

「その通りだ。安いものよな、それで一つの終着点に到達できるならな」

その会談の中でハイムに一泡吹かせられれば最高だ。当然ウォーレン達はそのつもりで支度をするのだろうが。

「私としても賛成ですよ。多少ゴネてきそうですが……まぁ無視すればいいでしょうし」

「ではそのように返事を用意する。……おぉそういえば。その手紙を書いた者は、お主の補佐官の母とのことだぞ?」

なるほど。グラーフだけでなく母からも多くの才能を受けついでいたのか。

「なかなかの美しい文字でしたね。ハイムはいい文官をお持ちのようで」

「うむその通りだ。ハイムには勿体ないな!はっはっはっ!」