軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本当のこと、知らなかったこと。

ハイム王国は大陸の中でも最南端に位置する国だ。

気温や湿度が高い大陸というわけではないため、決して過ごしにくいということは無く、むしろ比較的快適な地域である。

ハイムは大陸の南半分のほとんどの土地を国有地としており、大陸でもトップの大国。

また、国の広さに負けず、大陸の中では軍事力も頭一つ二つ以上他国より抜きんでている。

大陸ではハイム以外にも3つの国が存在しているが、名実ともに大陸の王といっても過言ではなかった。

ハイムの北にあるのが貿易都市バードランド。

ハイムの北に位置するこの国は大陸の中央にあるため、各国を渡る商人や冒険者達によく利用されている。そのため、大陸でも最も新しい物や種類に富んだ、数多くの品物を見ることができる。

もともとは大陸の全ての国が戦争をしていた際、中立地として定め停戦などの調印を行った地域である。

バードランドは大陸の中立地域であり、国家ではない。

貿易都市で発言力が高いのは大商人となる。

なぜならバードランドの治安維持や、魔物による被害はギルドの冒険者頼りであり、冒険者たちへの援助や、治安維持にかかる費用は商人たちの税金によって賄われているからだ。

基本的に有事の際や、責任者が必要な事柄には商人ギルドがそれに関わるため、事実上の君主は商人ギルドとなる。

バードランドから東、ハイムから北東にあるのがロックダム共和国。

国家元首を法に基づき選挙において決定する国で、選挙対象者は爵位を持ついわゆる貴族となる。国の敷地面積は大陸の北半分のうち約半数ほどもあり、大陸ではハイムに次いで広大な敷地を持つ国。

軍事力に関して言及すれば、仮にハイムと全面戦争を行った場合一月は耐えられるほど。

決して弱くはないが強くもないため、正直特筆すべきことは無い。

広い土地を使っての農業が盛んな地域。

そして最後に挙げられるのが、エウロ公国。

場所としては大陸の左上の地域になる。ハイムからみて北西であり、バードランドから見て西のエリアだ。

大陸で三番目に広い土地とは言うが、敷地面積としてはロックダム共和国の2/3とそれなりに規模は小さくなる。

騎馬に優れた軍を持つ国家で、騎乗での戦闘は大陸でも他の追随を許さぬほどの手練れ。

ただし人口は決して多くないため、その軍の規模は大きいとは言えない。

ハイムの大将軍ローガスに非公式ではあるが、決闘にて土をつけたほどの猛者がいる。

「(……と長々と勉強したことの復習をしたわけだが)」

こんな巨大な船を保有している国はなかったはずだ、なにせ軍事力に関して言えば、ハイムに勝る国がこの大陸に存在していないから。

「(案内されるがままに乗り込んだ船だけど。疑問は消え去らないね)」

入って驚いたのは、おぼろげに覚えている前世の高級ホテル。

綺麗に敷かれたカーペットにシンプルではあるが品のある高そうなインテリア。

なんかちょっといい匂い。

「あらどうしたのかしらアイン?」

「お母様……なにがなにやら」

「大丈夫ですよ、もうすぐ私のお部屋に着くから……そしたらお話ししますね?」

「それならお待ちしてます」

ようやく説明を貰えるらしい。

指輪の騒動から始まって、なんか姫とかいう言葉が聞こえて……そこから船に乗ってもう海の上。

すでになにがなんだか分からないとかいう領域は超えて、俺は考えるのを諦めてきている。

「ねぇクリス」

「はっ」

クリス……船に乗る前に姫とか口にし、俺たちの敵じゃない味方だとか言ってた綺麗な女性騎士。

そのクリスにお母様が話しかける。

「とりあえず貴方にはなんの説明が必要になるのかしら?」

「全てというのが本音です。おそらく我々が聞かなくとも、帰国しましたら根掘り葉掘りお尋ねされるかと」

「そうね、とりあえず今日何があったかとかでいいかしら?私もアインも疲れているの、アイン?お腹は減っていますか?」

お母様が疲れた顔を露にするなんて珍しいな。

父上達の前だろうとも、そんなことは一度もなかったのに……。

なんかのびのびしているように見える。

「では……軽食と飲み物を頂ければ」

「そうね。私にも同じものをお願いするわ」

「はっ!貴方、給仕に伝えてきなさい」

「承知いたしました」

他の騎士にクリスさんが命じる。

すると命じられた騎士は、洗練された礼と動きで、この場から離脱していった。

「おいしい物貰えますからねアイン」

「楽しみですね」

船に入ってからも少し歩いたアイン達は、目的と思われる部屋に到着する。

そこには大きな扉があり、その扉は5mもあろうかというほど背が高い木目が綺麗な、意匠の凝った美しい扉だった。

「長らく移動させてしまい申し訳ありません」

「いいのよ。急に呼んだのはこちらなのだから……ね?」

クリスがこう一言謝罪した。

表情は社交辞令という感じが全くなく、純粋に申し訳なさそうな顔をしている。

「さぁ入りましょうか、アインも座らせてあげたいもの」

「俺としては、お母様にそろそろ休憩を取っていただきたいのですがね」

「まぁ……ふふ、それじゃ二人共座ってゆっくりしましょうね」

「……”アレ”からこうまでご立派なご子息ができるとは、陛下もお喜びになるでしょうね」

「クリスさん?何か……言いました?」

「いえなんでもございませんよ、それではどうぞ」

何やら不穏な言葉が聞こえたが、それを濁して中に案内される。

中に広がっている空間は床は白い大理石のような素材でできていて、その上には分厚くて柔らかく美しい模様に織られた緑色のカーペットが敷かれていた。

壁にはいくつかの絵画が飾られ、高い天井にはこれまた大きなシャンデリア。

家具は扉に似ている木材で作られているようでとても美しい、豪華な印象は受けてもどこか安心できる空間だった。

「アイン、こっちにいらっしゃい」

オリビアがアインを招いたのは、部屋の中央近くにあった大きく豪華な白いソファ。

アインのことをそうして隣に座らせた。

「失礼いたします。先にお飲み物をお持ちいたしました」

座って二、三呼吸ふう……と落ち着いたらドアをノックし、メイドさんが入ってきた。

「(なにこの絶妙なタイミングで入ってくる給仕さん)」

夕方頃までいた大公邸でもこのような完璧さは体感することがなかったため、アインは少し驚いた。

「何を持ってきてくれたのかしら?」

「勿論こちらでございます」

そう言って注ぎだしたのは、オレンジ色がかった黄色の飲み物。

懐かしいリンゴのような匂いに、よだれが出そうになった。

「……アプルのジュースね、本当に久しぶりだわ。ありがとう、おかげで本当にリラックスすることができそうだわ。アインも飲んでいいですよ?はいどうぞ」

「いただきます!」

「(アプルか、もうリンゴみたいなもんだよねきっと。

……うん。味もまさにリンゴだ、ただし甘くて濃厚な味で如何にも高級な感じはする)」

「まぁ、おいしい?」

「はい。俺これが好きみたいです」

「それはよかったです。これからたくさん飲めますからね?」

「これから……ですか?そういえばお母様」

喉も潤ったし、一息ついた。

アインは考える、そろそろ説明を頂けるんでしょうかお母様?……と。

「お……お待たせしました父上!」

息を切らしながら部屋に入ってきたのはアウグスト大公……グラーフ・アウグスト大公が一人息子のハーレイ。

アウグスト大公はその大公という立場にしては珍しく、妻を一人しか娶らなかった。

今ではもう先立たれたその妻とも子宝に恵まれず、ようやく産まれた一人息子がこのハーレイ。

今日はハーレイの二人目の子にして待望の長男、リールのお披露目だった。

ホストの家の仕事としても、お披露目としても、数多くのしなければならないことがあったため、グラーフに呼ばれてから数時間たった今ようやく顔を出すことができた。

「遅いですよお父様」

……普段はしっかりとベッドに入っているクローネも、初恋相手のことと、憧れの女性のことともなれば寝付くこともできず、離縁の報告を受けた時から今までずっと、アウグスト大公のそばに控えていた。

「あぁすまないねクローネ……って、そろそろ寝なきゃだめだろう」

息を切らして向かってきたハーレイ、彼にアルフレッドがお茶を差し出し、ハーレイがそれを受け取る。

「悪いがハーレイ。今日ばかりはクローネにも聞かせてやってよい」

「父上がそう仰るならばいいのですが。ではある程度の流れをお伺いしても?」

紅茶を一口飲み喉を潤す。

ハーレイにとっても、母が先立ってからも、自分を立派に育ててくれた父の言葉は強く。

父がよいというなら、これぐらいは素直に認めるのだった。

「少し順序を立てて話すべきだな」

「お願いします」

アウグスト大公の言葉にハーレイが同意する。

「本人から聞いたわけではないので詳しくは語れぬ、だが今日我が家でのパーティの後……夜会の主催がランス子爵だったのは」

「存じ上げております。事前に連絡もいただき、案内等も含めて打ち合わせも致しておりました」

「それにラウンドハート伯爵が伴をしたのは」

「それもそうなる可能性があると伺っていたので、存じ上げております」

大公は考える。

ハーレイには事情に関して、最初から報告はあったということか。

ならば伯爵としても、それを奥方に伝えるのは容易だったのでは?と。

「ふむ……だがオリビア殿は給仕にこう尋ねたそうだ。旦那様はどちらに?と」

「それは初耳です」

「であろうな。離縁のことを聞いてから聞き込みをしたのだから」

「お手数をおかけしたようで」

「構わぬ。リールの大事なパーティだったのだからな」

恐れ入ります、とハーレイが頭を軽く下げる。

「推理するのは簡単だ。ラウンドハート伯爵、あるいは第二夫人のアルマ殿が意図的に夜会等の情報……それだけではないな、私が命じたパーティに参加する子は一人、という情報についてもだ。二つとも意図的に話していなかったということだ」

「それはなんとも……確かにラウンドハートの次期後継として、次男が指名されたのは耳に入れてましたが、これではあまりにも不憫」

「やり口として似たような話はいくらでも聞く、これだけを責めることはできぬが……だが」

「結果的に、それで離縁になったということですか」

アウグスト大公の推理を聞き、ハーレイは納得する。

ここまで黙っていたクローネは、もうすでに知っている情報だったため紅茶を飲みながら、アインから貰ったスタークリスタルを眺めていた。

「たしかに、伯爵家の離縁は社交界としても大きな出来事となりましょう。ですが父上が私をこうまで急かすほどの何かがあるのでしょうか」

「それをここから説明するのだ」

居住まいを正しそれを聞く。

「オリビア殿の出自に関わる」

「出自ですか。聞いていた話では、他国の没落した貴族の令嬢を嫁に頂戴したと」

「それは正しくない。事はそう簡単ではない……オリビア殿のお子がラウンドハート家の次期後継として、名を広めても問題ないと思われる時期まで、本当のことを公表しないと決定していたのだ」

知らなかった情報を聞いて、クローネもそちらに耳を傾け、集中した。

「……それを国単位で隠す必要があるほどのことなんでしょうか、お爺様」

「失礼ですが私もそう思います、父上」

二人の親子が疑問を露にする。

それもそのはず。

わざわざ本当のことを隠して、没落したなどと公表する必要が全くないからだ。

「で、でも……そうなると尚のこと心配だわ!アインの妻になるのに貴族の格がどうのとか、すごいうるさそうだもの」

普段と違った緊張した雰囲気のアウグスト大公を見て、クローネがこう口に出す。

いつもなら微笑んでくれるアウグスト大公の顔はことさら苦くなる。

「クローネ何を言ってるんだ?私は何も聞いていないが何が……」

まるっきりクローネのアインへの気持ちなど、一切の事情を知らないハーレイは、娘に何を言っているのだと問いただす。

「そのことはあとで説明してやるハーレイ。そして……そうだなクローネ」

ようやく少し柔らかな表情になったアウグスト大公を見て、クローネが安堵したのも束の間。

「……たしかに格が足りぬやもしれぬな」

「お爺様……?」

同じように硬い表情になった大公を見てクローネも硬い表情になった。

「ハーレイ、クローネ。我らが大陸の事情について、おおよそのことは理解しておるな?」

「それがどの程度の話になるかわかりませんが。50年前の停戦からのことであるならば」

過去にあった大陸全土に及ぶ戦争より、今では表面上は4つの国全てが平和をうたっているが、これから先どうなるかは全く不透明であった、そのことをアウグスト大公は言ったのだ。

「それでよい。随分とどこにいっても文化もそうだが……技術も進歩し、成長してきたものだ」

「……えぇ、私もそう思います」

目で見てきたわけではないが、歴史をきちんと学んできたハーレイは過去と違い、今がどれほど恵まれた環境に進化してきたか、それをしっかりと理解していた。

「港町ラウンドハート、そこより約二日かけての距離にある大陸……わからぬわけがあるまい?」

アウグスト大公が語る大陸、それはハイム王国等があるこの大陸ではなく、海の向こうの大陸。

こことは違いその大陸には名があり、名をイシュタル、大陸イシュタルと言う。

「イシュタルですか……忘れられるはずがありません。戦後50年経って力をつけてきた我々でも、相手にならない……いえ、足元に及ばないほどの文化や強さ、技術を誇っているかと」

ハーレイが忘れられない理由、それはハーレイが10代の頃に大陸イシュタルへと留学したからだ。

彼はその時見たのだ、文化に人々の強さ、武器の洗練具合……そしていくつもの騎士団の規模まで。

「イシュタル。大陸上に国が一つしかないところですよね?」

クローネは勿論行ったことがないため父と大公にこれを尋ねる。

「大陸そのものが国と言ってもよい。大陸イシュタルなんて呼ばずに、国名で呼ぶ方が多数なのだからな。その国の名はイシュタリカ……統一国家イシュタリカ」

イシュタルの大きさはここと比べたら、およそ2から3倍にもなるほどの巨大な大陸。

そこにただ一つだけ国が存在している、それが統一国家イシュタリカ。

およそ500年ほど前の英雄が、大陸を制覇し建てられた国だ。

当時は何百もの小国が存在していたらしく、その全てを統一し一つの国としてまとめた。

「こことは違い異人種も多数存在しています。知識を持つ魔物……魔族も民として認められ生活しているとか」

クローネがいうのは、イシュタリカに関すること。

イシュタリカではエルフやドワーフ、ドライアドといった精霊種のような種族も多数存在している。

「クローネはよく勉強しているようだな」

「ありがとうございますお爺様」

「それで、どうしてイシュタリカが出てきたのでしょうか?」

アウグスト大公が額に汗を浮かべる。

父のそんな緊張した姿を見るのは初めてだったハーレイも、祖父のそんな人間じみた姿をみるのが初めてだったクローネも、二人で静かに驚いた。

「現イシュタリカ王、シルヴァード・フォン・イシュタリカ……その方の第三子にして二女」

クローネは、まだ大公が何を言ってるか少し要領をつかめていない様子だったが、ハーレイは理解した。

理解し始めてしまった。

同時にハーレイも額に汗を浮かべ、少しずつ……少しずつ息が荒くなる。

「"元"王位継承権第三位……オリビア・フォン・イシュタリカ。それがオリビア殿……オリビア様の真の名だ」

『たしかに格が足りぬやもしれぬな』

祖父アウグスト大公は先ほどこう言った、クローネはそのことを、完全に正反対に捉えていたのだと、今それを全て理解した。