軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

図書室での調査

「 優等生(シュトレーバー) の友人とはいったい誰なんだ? ハインツか?」

「いいえ、一組のヨハン・フォン・ドライヤーです」

「あの男とどうして友人関係になれたんだ?」

「実を言えば、ハンス、ルーカス、マクシミリアンから裏庭に呼びだされたときに、助けてくれたのが彼でして」

「そうだったのか」

どうしてヨハンがその場に居合わせたのかと聞かれ、木の上で眠っていたと答えると、ユリウスは呆れた表情を浮かべる。

「野生動物ではないのだから、眠たかったら保険室にでも行けばいいのに」

「本当に。しかし彼のおかげで、私はあの日助かったんです」

もしもハンス、ルーカス、マクシミリアンの三人がまとめて襲いかかってきても、私の敵ではなかっただろう。

けれども彼らに勝ってしまえば、私はすぐさま退学処分となる。

セシリアの夫探しも、ラウル枢機卿が姿を消した謎についても調べることができなくなってしまう。

「ただ、彼については注意しておいたほうがいい」

「ヨハンですか?」

「ああ。彼の生家であるドライヤー大公家は、王家に名を連ねる歴史ある名家とされているが、周囲で 焦(きな) 臭い事件がいくつも発生している」

中でも有名なのは、先々代当主の時代に起こった〝血濡れた花嫁事件〟だという。

「先々代に嫁いだ花嫁が、次々と亡くなり、変死体で発見されるという事件だ」

犯人はドライヤー大公家に対して恨みを持つ者だったようだ。

「だが、その犯人すらドライヤー大公家が用意した無罪の人間ではないか、と噂になっていた」

その事件以降も、ドライヤー大公家に関わる人々が次々退職したあと、姿を消す事件が発生していたらしい。

「何かあったら、一族の力でもみ消すようだ」

地位と財産と名声、すべてを手にする一族は、都合が悪いことがあれば、なかったことにするようだ。

ただ、そういう話は大きな家ならばどこでもあるのではないか、と思ってしまう。

「まあ、奴と友人関係を解消しろ、とまでは言わないが」

ちなみに友人というのは私が勝手に思っていることだ。

ヨハンは私に対して、同学年のたまに喋る者の一人という認識かもしれない。

そんな事情をユリウスに伝えると、安堵の表情を見せる。

「危険なのは彼だけでなく、他の者にも言える。油断しないようにしておいてくれ」

「肝に銘じておきます」

ユリウスの表情がピリついたときはどうしようかと思ったが、なんとか穏便に話が着地できてよかった。

「校内が施錠される前に、図書室で調査しよう」

「わかりました」

ユリウスは図書室の蔵書整理を手伝いながら、兄バルドルが書いた業務日誌の位置もある程度把握しているようだ。

生徒達が下校してすっかり静かになった校内を歩き、図書室へと向かった。

図書室は施錠されていたものの、 十字架飾り(ローゼン・クランツ) をかざすと解錠する仕組みになっているらしい。

まさか図書室の扉に聖術がかけられていたなんて、驚きだった。

図書館は無人だ。

ユリウスが壁に刻まれた祝福の文字をなぞると、灯りが点される。

「アルヴィ、こっちだ」

本棚がずらりと並ぶ棚を通り抜け、壁際に行き着く。

「ここにある物すべてが、教師を務めるブラザーが書いた業務記録が揃えられている本棚らしい」

司書がきれいに整理整頓しているようで、年代順に並んでいるようだ。

「兄が書いたのは、この辺りだ」

他のブラザーは忙しいからか、一冊あるかないかくらいの量だったが、ユリウスの兄バルドルは毎日記録していたのか、三冊分の業務記録があった。

一冊ずつ手に取って、おかしな点がないか調べてみる。

読み始めてみると、ごくごく普通で、おかしな点はない。

そう思っていたのだが――。

「あの、毎日書かれているものだと思っていましたが、中には数日飛ばされているものもあるみたいです」

「私のほうも、日にちが飛んでいる箇所がある」

おそらく、神学校が不都合だと判断した記録は抜かれているのだろう。

事前にそうだろうなと想定していたものの、いざ直面するとショックを受けてしまう。

やはり神学校が組織ぐるみで何か隠しているのだ。

「他、何か気になる記録はあっただろうか?」

「これくらい、ですかね」

「 優等生(シュトレーバー) に 兄弟(ブリューダー) として選ばれた 劣等生(フェアザーガー) が体調不良を理由に退学。見舞いに行くも、会えないと言われる……か」

何度か会いに行っているようだが、頑なに合わせてもらえなかったらしい。

最終的には地方で療養することとなったようで、会えずじまいだったようだ。

「わざわざお見舞いに行ったのに、どうして会えなかったのでしょうか?」

「弱った姿を他人に見せたくない者は少なくはないだろうが……」

「そういうものなのですね」

私は幼少期、ほとんど風邪を引かない超絶な健康優良児だった。

けれども一度だけ風邪を引いたのだが、そのとき家族がとても優しくて、たまにはこうして寝込むのも悪くないな、と思った記憶がある。

次はいつ風邪を引くかな、なんて思って早くも数十年。

あのとき以降、風邪を引くことはなかったのである。

弱った姿を見せたくないという人は、この国では少なくはないとユリウスが言うが……。

私にはとても理解できない感覚だった。