作品タイトル不明
兄弟(ブリューダー)について
翌朝――昨日同様に教室でユリウスと落ち合う。
「アルヴィ、おはよう」
「おはようございます」
昨日の気まずさを引きずっていたらどうしようと思っていたものの、今日のユリウスはいつも通りだった。ホッと胸を撫で下ろす。
「今日は今後の調査方針について、話そうと思う」
その前に、 兄弟(ブリューダー) という関係について詳しく教えてくれるようだ。
「昨日のブラザー・マテオの話には、いろいろ省かれていたものがあるので、少し補足させてもらう」
本来であればブラザー・マテオがすべて説明すべきなのだろうが、神学校の教師は必要最小限しかいないようなので、忙しいのだろう。
それにブラザー・マテオは思考がかなり 優等生(シュトレーバー) 寄りになっているように思えるので、ユリウスから説明を聞くのがいいのかもしれない。
「まず、アルヴィに昨日渡した 十字架飾り(ローゼン・クランツ) には、さまざまな聖術がかけられているらしい。まず、一つ目は守護の聖術だ」
それは関係を結んだ 兄弟(ブリューダー) 以外の 優等生(シュトレーバー) を寄せ付けないための聖術だという。
昨日、ヨハンに対して発動したものだろう。
「あの、どうしてそのような聖術がかけられているのでしょう?」
「 優等生(シュトレーバー) が選ぶ 劣等生(フェアザーガー) は、極めて魅力的な者が多い。そのため、他の 優等生(シュトレーバー) に奪われないように、かけられているもののようだ」
なんでも過去に、神学校で 劣等生(フェアザーガー) の奪い合いが発生したことがあったそうだ。
それにより、亡くなった生徒もいたらしい。
同じ事件を繰り返さないために、 兄弟(ブリューダー) に選ばれた 劣等生(フェアザーガー) の 十字架飾り(ローゼン・クランツ) には、守護の聖術は付与されているようだ。
「 兄弟(ブリューダー) から 高潔なる兄弟(エーデル・ブリューダー) になれば、さらに守護の聖術は強力になり、他の 優等生(シュトレーバー) は近づくことさえできなくなるそうだ」
劣等生(フェアザーガー) の 十字架飾り(ローゼン・クランツ) には、 優等生(シュトレーバー) が居場所を把握する聖術も付与されているという。
さらに 十字架飾り(ローゼン・クランツ) を通じて、遠く離れた場所にいても会話ができるようになるらしい。
なんて便利なんだ、と思ってしまった。
「すごいアイテムだったのですね」
「アルヴィはいやじゃないのか?」
「何がですか?」
「 十字架飾り(ローゼン・クランツ) にかけられた聖術が。私はやりすぎのように思えるのだが」
「それは――」
昨日、さっそく 十字架飾り(ローゼン・クランツ) は私のことを助けてくれた。
これがなければ、私はケガを負っていたに違いない。
「ありがたいものだと思っています」
「だったらいいのだが……」
他にも、 兄弟(ブリューダー) には聞いていなかった特典があるようだ。
「図書室はいつでも利用できるようになる」
「それはいいですね」
通常、図書室は昼休みしか利用できない。
けれどもそれは 劣等生(フェアザーガー) に限定された決まりだという。
優等生(シュトレーバー) はいつでも利用できるようだ。
なんて不平等な……と思ったものの、今に始まったことではないのだろう。
「購買部では文房具の数々を半額で購入できるようになる。さらに菓子や嗜好品なども販売してもらえるようだ」
「嗜好品、ですか」
「ああ」
紅茶や珈琲などの健全なものから、酒や煙草などの不健全なものまで購入できるようになるという。
「紅茶や珈琲はまだしも、酒と煙草ですか」
「まあ、年齢だけで言えば、それらは禁じられていないからな」
アインホルン聖国では、十八歳から飲酒と喫煙が許可されているという。
けれども基本的に、聖職者はそれらを好むことを推奨していない。
ただそれも表面上の認識というだけで、酒や煙草が大好きな聖職者は大勢いるという。
「飲酒と喫煙は校内にある決まった部屋、決まった時間のみで、それ以外の場所や時間に行うと処罰が科せられるから注意するように」
購買部でもそれらの品々の買い方があるようで、聖書の発注ができるか訊ねると、嗜好品の注文書が手渡される。それに記入すると、放課後までに部屋に用意されているようだ。
「事情を知らない 劣等生(フェアザーガー) の前で嗜好品についての会話をすることは禁じられている」
「でしょうね」
私は酒も、煙草も嗜んでいないので、その点は安心してほしい。
以上が 兄弟(ブリューダー) になった 劣等生(フェアザーガー) の特典だという。
「 高潔なる兄弟(エーデル・ブリューダー) になれば、 優等生(シュトレーバー) 専用の食堂が利用できるようになる」
「そういえば、食堂にいなかったですよね」
「別にあるからな。私は利用していないが」
「どちらで食事をされているのですか?」
「食べてない」
「ええ!」
だからいつも顔色が若干悪いのではないか。そう指摘するも、食べたくないからとはっきり言われる。
「でしたら、今度から一緒に食べませんか?」
「 劣等生(フェアザーガー) の食堂でか?」
「無理でしょうか?」
「無理ではないとは思うが、目立つだろう」
ただでさえユリウスの 兄弟(ブリューダー) になって注目を浴びているというのに、それ以上に視線が集まるのはいただけない。
けれどもそれ以上に、昼食をまったく食べていないというのが気になった。
「寮ではしっかり食べているんですよね?」
「いいや、食堂は使っていない」
「なっ!? では、普段、どうやって食事をされているのですか?」
「取り寄せたショートブレッドとか、乾燥野菜や果物、肉とかを 囓(かじ) ってる」
そんな乾物中心の暮らしをしていたなんて。
衝撃を受けてしまう。