軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

こうなった経緯

私の母方の 従姉(いとこ) であり、オブリガシオン王国の尊き女王陛下である美しいセシリアが、我が耳を疑うようなことを命じてきた。

「わたくしの勇敢なる騎士アルヴィエ、これから隣国アインホルン聖国の神学校に行って、未来の夫を探してきてくれる?」

その口ぶりはまるで、街で人気の高級菓子を買ってくるように、とお使いを頼むようだった。

本気なのか、と見つめる。

にっこりと美しい顔で微笑んだ。

この顔は本気だ。

どうやら私は女の身でありながら、男しか入学できないという神学校へ潜入し、セシリアの夫たる人物を探しにいかなければならないらしい。

どうしてこうなったのか、と思わず天井を仰いだ。

◇◇◇

兄が四人、弟が三人という男所帯、ヴァロア侯爵家に生まれた私は、物心つくころから父と同じ騎士になるものだと信じて疑わなかった。

しかしながら母は、一人娘である私を一人前の淑女として育てたかったようで泣かれてしまう。

そんな母を見て、一度は逸れた道を正そうと思ったのに、私は出会ってしまったのだ。

ユーグ大公の一人娘であり、麗しき従姉セシリアに。

彼女は美しく、清らかで、心は強かだった。

そのギャップにやられたのだ。

兄や弟達は王太子殿下の近衛騎士になるんだ、とはりきっていた。

けれども私はセシリアを守る盾となり、彼女に害成す者を成敗する剣になるのだと誓った。

張り切る私とは裏腹に、セシリアは「ほどほどになさいね」と少し冷めた様子だった。

無理もない。

当時の彼女は〝ただの大公の娘〟だったから。

王位継承権も第七位。

よほどのことがなければ、彼女に玉座が回ってくることはない。

そのためセシリアの騎士になりたいと目標を掲げる私の心意気は、理解されることはなかったのだ。

状況が変わったのは、王太子殿下が十八歳の春――結婚式当日の話だった。

彼は〝真実の愛に目覚めた、これからは彼女と生きる〟そんな手紙を残し、王位継承権を捨てて駆け落ちをしてしまったのだ。

当然ながら国王は激怒。

臣下団は王太子殿下を探そうと訴えるも、却下させる。

二度と、顔を見せることなど許さないと親子の縁まで切ってしまったのだとか。

そんな状況の中、私とセシリアは王妃となるはずだったテンペスタ大国のエレナ王女を、ひたすら励ましたのだった。

王太子の失踪という大事件は国中どころか、異国の地へも広がっていく。

それが原因で国王陛下は心労が貯まり、もともと臥せりがちだった体調が悪化。

風邪をこじらせて肺炎となり、そのまま帰らぬ人となる。

王位継承権の第二位はセシリアの父親であり、私の伯父でもあるユーグ大公。

亡き国王同様、寝込むことが多く、持病を抱えていた。

国王になっても、執務に就くのは難しい。

王位継承権を返上しようかと考えていた矢先、事故で亡くなってしまう。

国王と王弟の命が儚くなり、国民らが悲しみに包まれる中でも、国の中枢は喪に服す余裕すらなかった。

一日も早く、国王を立てなければならない。

次なる王位継承権を持つのは、亡き国王陛下の二番目の弟ラウル・ド・エナン。

彼はサクレ教会の枢機卿で、その身を神に捧げる聖職者だったのだ。

十九歳の頃、アインホルン聖国の神学校に留学するさいに、王位継承権は返上しようとしていた。

けれども兄であり、当時王太子だった亡き国王陛下に引き留められ、そのまま保持していたという。

臣下団が王位継承の打診をしたものの、とてつもなく頑固らしくどれだけ説得してもラウル枢機卿は頷かなかった。

一ヶ月間、玉座は空位となり、臣下団は困り果てる。

誰もラウル枢機卿を説得することができなかったのだ。

ちなみに私の母もかつて、玉座に相応しい者として名を連ねていたものの、結婚するのと同時にその権利を返していたという。

母は自らにお鉢が回ってこないことに対して、深く安堵していた。

臣下団も焦り始める。

これ以上玉座を空けていたら、他国に隙を与えてしまうからだ。

臣下団は次の手に出る。三名の王位継承権を持つ者達を、一気に呼び寄せたのだ。

亡き国王陛下の大叔父である、ギデオン・ド・シュバイヤー辺境伯、御年九十一歳。

亡き国王陛下の大叔父である、ゴード・ド・ビジュヴァイヤー公、御年八十九歳。

亡き国王陛下の 従祖伯父(じゅうそはくふ) 、シャルル・ド・プフィルト伯、御年八十八歳。

〝三老大君〟の名で国民から愛されている王族であったが、彼らは口を揃えて「勘弁してくれ」と言ったのだ。

そして三人仲よく、王位継承権を返上してしまった。

こうなれば、ラウル枢機卿に国王になってもらう他ない。

亡き国王陛下とユーグ大公は体が弱かったが、ラウル枢機卿は健康そのもの。

聖職者でありながら筋骨隆々で、頼もしい外見をしていた。

よき国王になるだろう。

誰もがそう思っていたが、想定外の事態に襲われる。

健康だと思われていたラウル枢機卿が、突然死してしまった。

医者が死因を調べても、殴られり刺されたりなどの外傷は見当たらなかった。

不可解でしかない死だったのだ。

それだけでなく教会に安置されていた 亡骸(なきがら) が 忽然(こつぜん) と消えてしまったのだ。

王族が次々と死んでいく、ラウル枢機卿にいたっては不審死だ――。

国民が不安に思う中、早急に新たな国王を即位させる必要があったのだ。

白羽の矢が立ったのは、王位継承権第七位であったセシリア。

彼女も王位継承権を返上しようとしていたものの、三老大君の説得でしぶしぶ引き受けることとなった。

こうしてオブリガシオン王国初めての女王セシリア一世が誕生する。

そして私は女王陛下の専属騎士に命じられた。

まさか、まさかの転機だったわけである。

国民達が祝福ムードで浮かれる中、新たな問題が浮上していた。

それは、セシリアの夫となる 王配殿下(プリンス・コンソート) の指名だった。