軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第203話「錬金術師トール、勇者世界と比較される」

──トール視点──

「終わったね」

「終わりましたね。トールさま」

メイベルは俺の肩に、ことん、と、身体を預けた。

地面に座りながら、俺たちは、眠り続けるダリルたちを眺めていた。

『軍勢ノ技探知機』のおかげで、『カースド・スマホ』の持ち主は特定できていた。

だから俺は大公カロンや皇太子ディアスと相談して、万全の対策を立てたんだ。

──羽妖精のみんなを 斥候(せっこう) にして。

──ダリルたちの移動コースを推測して。

──こちらの兵の配置と、対応策を考えて。

そして『人生と仕事がどうでもよくなる3点セット』で包囲するために、広い場所で待ち構えていたんだ。

「本当に、びっくりするくらい完璧な作戦でしたね……」

「そのための『軍勢ノ技探知機』だからね」

「そこまで的確に相手を特定するアイテムって、あるものなんですね」

「『精神感応素材』のおかげだよ。あれを取ってきてくれたメイベルには感謝してるよ」

「いいえ、『ご先祖さま』のカロティアさんが、案内役をしてくれたからです」

「近いうちに、お礼を言いに行かないとね」

『カースド・スマホ』の被害を最小限に抑えられたのは、『精神感応素材』──『ドラゴンの骨』のおかげだ。

いわば、古きドラゴンがこの世界を守ってくれたとも言えるんだ。

本当に……あとでお礼を言いに行かないとね。

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『軍勢ノ技探知機』

(属性:光・闇・地・水・火・風・精神)

(レア度:★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★☆)

『精神感応素材』を含んだ 魔織布(ましょくふ) が、周囲にある魔力および精神を感知する。

『軍勢ノ技』に支配された『軍勢』を見つけると、羽が対象を指し示す。

『魔力探知機』を『軍勢ノ技』専用に特化したもの。

内部には『軍勢ノ技』を使う人間の精神に反応する『精神感応素材』が組み込まれている。

対象を絞り込むことで効果範囲を拡大し、小型化にも成功した。

そのため、羽妖精でも背負うことができる。

探知可能範囲は、十数キロ (対象に近づくほど精度が上がる)

物理破壊耐性:★★★ (魔術で強化された武器でしか破壊できない)

耐用年数:特になし。

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ちなみに、メイベルがダリル・ザンノーに声を届けたのも勇者世界の『メガホン』のおかげだ。

まぁ、こっちはシンプルなアイテムなんだけど。

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『ミラクル・メガホン』

(属性:風風風風)

(レア度:★★★★★★★★)

強力な風の魔石と風の魔力により、周囲の音を支配する。

これを使うと、かなり遠くまで声を届けることができる。

『レーザーポインター』を参考にして製作したアイテム。

音声の飛距離を伸ばすことができる。

声を圧縮し、直線的に届けられるため、対象を絞った内緒話も可能。

緊急用に『 脅威(きょうい) ボイスモード』が存在する。

このモードを起動すると、物理的威力を宿した声で、相手を吹き飛ばすことができる。

その声は相手の 鼓膜(こまく) を破り、トラウマを与えるほど。

(風の魔術に準ずるので、レジストされることもある)

ただし『脅威ボイスモード』は魔石の減りが早いので、注意が必要。

『レーザーポインター』とは異なり、対人安全装置はついていない。

物理破壊耐性:★★★ (魔法の武器でないと破壊できない)

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『軍勢ノ技探知機』の方は『精神感応素材』を節約するために、小さくした。

そしたら、羽妖精たちが背負えるようになった。

勇者世界で言う『ランドセル』型のアイテムを見た羽妖精たちは、

「「「お手伝いするです! するですーっ!!」」」

大喜びで、 斥候(せっこう) の役目を果たしてくれた。

そうして羽妖精たちは、帝国内のあちこちを飛び回ってくれた。

国境なんか関係なかった。

かくれんぼするみたいに、探知機を背負って、帝国内を冒険したんだ。

まずは、リカルド皇子が『カースド・スマホ』を拾った場所のまわりから。

魔獣召喚が行われた 砦(とりで) や、『例の箱』があった場所の周辺も。

そこから調査範囲を広げていったんだ。

その結果、ソレーユとルネが『軍勢ノ技』の反応に気づいた。

周辺を『オマワリサン部隊』が調査したら、ダリル・ザンノーを発見した。

それで彼らが『カースド・スマホ』を入手していたことがわかったんだ。

その後は『対軍勢ノ技・ロボット掃除機』で奴らを追跡。尾行。 徹底調査(てっていちょうさ) 。

魔王領と大公カロン、皇太子ディアスを交えて、作戦を練った。

羽妖精(ピクシー) に『超小型簡易倉庫』を持たせたのはルキエのアイディアだ。

『超小型簡易倉庫』に『人生と仕事がどうでもよくなる3点セット』を入れておけば、場所を選ばずに、ダリル・ザンノーたちを『超リラックス結界』に入れることができるからね。

羽妖精たちにダリル・ザンノーたちを遠巻きにしてもらって、その場に『人生と仕事がどうでもよくなる3点セット』を落としてもらえばいいんだから。それでもう、包囲は完成だ。

今回は『三角コーン』に『アルファー波発生装置』と『低周波治療器』を仕込んである。

『三角コーン』は中が空洞だから、そこに『明日の仕事がどうでもよくなるクッション』を入れられる。コンパクトにまとまった『3点セット』になったんだ。

そうして、俺たちはダリル・ザンノーの動きを完全に把握したまま、作戦を展開して──

結果、彼らを捕らえることができたというわけだ。

もちろん『カースド・スマホ』は、俺の方で回収した。

これはもうひとつの『カースド・スマホ』と一緒に封印するつもりだ。

魔王領の技術が勇者世界を超えて、『軍勢ノ技』を安全に扱えるようになるまで。

「ティリクの子孫の人たちは、これからどうなるんでしょう……」

「大公国と帝国で預かるみたいだよ」

大公カロンも、皇太子ディアスも同じ考えのようだった。

皇太子ディアスは『これ以上、敵を増やすつもりはない』って言ってた。

それが、あの人の方針らしい。

その後でティリクの子孫たちに、時代が変わったことを伝えるそうだ。

この世界に勇者はもういない。

帝国の『強さ至上主義』も、やがて消えていく。

新種の魔獣を召喚する必要も、もうない──そんなことを。

『それでも恨みを晴らしたいのなら、いずれ引退して、使い道がなくなった私に対して晴らせばいい』

──これは、皇太子ディアスの言葉だ。

皇太子ディアスは自分の代で『強さ至上主義』と、勇者召喚に関わるゴタゴタを終わらせるつもりらしい。

大公カロンは『成長されたな。ディアスどの』って、笑ってたけど。

「……トールさま」

俺の肩に体重を預けたまま、メイベルは言った。

「私、ティリクの人たちに『ミスラの子孫は魔王領で幸せに暮らしています』と言いましたよね?」

「そうだね。ちゃんと聞いてたよ」

「でも、大事なことを付け加えるのを忘れていました」

メイベルは、俺の手を握って、

「『ミスラの子孫はトールさまのおかげで、魔王領で幸せに暮らしています』──これが、正しい答えです。でも、口にするのがもったいなくて、内緒にしちゃいました」

えへへ、と、照れたように笑うメイベル。

「私のすべてを変えてくださったのは、トールさまです」

「……そうかな?」

「そうです。『フットバス』で魔術が使えるようにしてくださったのはトールさまです。アグニスさまと親友に戻れたのも、魔王陛下と仲良くなれたのも、トールさまのおかげです。帝国の皇太子殿下から、『水霊石のペンダント』のことを教えてもらえたのも……」

「最後のは……メイベルに伝えるのが正しいかどうか、悩んだんだけどね」

リカルド皇子の事件が終わったあと、俺は皇太子ディアスに『ティリクとミスラの内乱』について訊ねた。

皇帝の一族なら、詳しいことを知ってるんじゃないかと思ったからだ。

そしたら、予想通りだった。

皇太子ディアスはティリクとミスラの内乱について、詳しく教えてくれたんだ。

──ミスラ侯爵家が、強い水の魔力を持つ家だったこと。

──その家の人たちの髪が美しい銀色で、瞳がすみれ色だったこと。

──領地を没収されたとき、ミスラ侯爵が怒りにまかせて『水霊石のペンダント』を傷つけたこと。

──ミスラ侯爵の一族が盗賊に襲われて亡くなったあと、帝国が現場検証をしたこと。その際に、兵士1名と、ミスラ侯爵の末娘の行方がわからなくなっていたこと。

皇太子ディアスは、知っている限りのことを、書状に書いてくれた。

ミスラ侯爵家の人たちの髪と瞳の色は、メイベルと同じだった。

メイベルと出会ったとき『水霊石のペンダント』が傷ついていた理由も、これでわかった。

行方不明になったミスラ侯爵の末娘は……たぶん、メイベルの祖母だ。

証拠はもう、十分だ。

メイベルの祖母が、ミスラ侯爵家の子孫だということが、ほぼ確定したんだ。

でも、その話を聞いたメイベルは──

『そうですね……そういうことも、ありますよね』

穏やかな表情で、笑ってた。

彼女にとって出生の秘密は、もう、たいしたことじゃないらしい。

だけどダリル・ザンノーたちは『ティリクとミスラの復讐のために』と宣言している。

それはメイベルにとっては、祖母の名前を利用されているようなものだ。

だから、メイベルは出自を明かして、ダリルたちを止めることを選んだ。

その結果──こうしてダリルたちの『軍勢』を無力化できたんだ。

「メイベルも強くなったよね」

「……それは、トールさまのおかげです」

メイベルは俺の手に、細い指を絡めて、

「トールさまのお側が、私の居場所だって……もう、わかってますから。ゆるぎないものがあるから……だから、私はすべてを受け止めることができたんです。お祖母さまのことも、その出自のことも」

「そっか」

「ティリクの子孫の人たちに、言いたいことが言えたのも、そのおかげです。お祖母さまは人間社会のすべてを捨てて魔王領に来たんですからね。なのに……復讐のために家名を使われたら……やっぱり、嫌がると思いますから」

そう言ってメイベルは、笑った。

「私が強くなれたなら、それはぜんぶ、トールさまのおかげなんですよ?」

「俺もメイベルと出会えたことに感謝してるよ」

俺が魔王領に来たとき、最初に出迎えてくれたのはメイベルだ。

彼女が歓迎してくれたから、俺は見知らぬ地への希望が持てた。

それに、メイベルは俺に『水霊石のペンダント』を預けてくれた。

壊れていたそれを、俺の『創造錬金術』で直す機会をくれたんだ。

メイベルは最初から、俺を信じてくれていた。

俺も、その信頼に答えたいって思った。

最初に俺が魔王領を信じるきっかけをくれたのは、メイベルなんだ。

「でもでも……最近少し、困ったことがあるんです」

メイベルの吐息が、俺の頬をなでる。

気づくとメイベルは顔を近づけて、じっと俺を見ていた。

「最近……私……少し、欲張りになってきていまして……」

「そうなの?」

「はい」

「じゃあ、新しいマジックアイテムを作った方がいい?」

「……えっと」

「日用品がいい? それとも、ティリクの残党が余ってたときのために、武器がいいかな? もしくは、拡声器を改良した方が……」

「……トールさま」

「うん」

「お城に戻ったら、魔王陛下を交えてお話をしましょう」

あれ?

なんでメイベルは困ったような顔をしてるのかな?

いつの間にかアグニスも側に来てるし。彼女も、同じような表情をしてる。

おかしいな。

俺、別におかしなことを言った覚えはないんだけど……。

「ごめんなさい。立ち聞きするつもりは、なかったの」

アグニスは俺とメイベルを見ながら、

「でも、大公さまとアイザックさんが、 挨拶(あいさつ) にいらっしゃったので」

ふと見ると、大公カロンさんとアイザック・オマワリサン・ミューラさんが、こっちに向かってきていた。

いつの間にか、ティリクの残党はすべて拘束されて、荷馬車へと乗せられている。

その作業が終わったから、話をしに来たみたいだ。

「色々と世話になりましたな。錬金術師どの」

馬から降りて、大公カロンは頭を下げた。

「このカロン・リースタン。魔王領と錬金術師どのへの感謝を、 生涯(しょうがい) 忘れぬ。なにかあったときは大公国を頼って欲しい。ソフィア殿下に伝言をしていただければ、すぐに駆けつける。覚えておいていただきたい」

「ありがとうございます。大公さま」

「そのときは使者を頼むぞ。アイザックどの」

「御意」

大公カロンの後ろで、アイザックさんが 膝(ひざ) をついている。

「小官は人々を守る『オマワリサン』であります。混乱を未然に防いでくださった錬金術師どのには、大きな借りがあります。使者でもなんでも、喜んで担いましょう」

「よろしく頼む。アイザックどの。それと、これはディアス殿下からの依頼なのだが」

大公カロンは懐から書状を取り出した。

丁寧に封をされた書簡には、 蝋(ろう) で封がされている。

蝋には印が押されている。

竜と剣を模した紋章──ドルガリア帝国、皇帝のものだ。

「これを、魔王陛下にお渡しいただきたい」

「承知いたしました」

「内容は、ディアス殿下と私が、魔王陛下の元を訪問する件についてだ」

大公カロンは言った。

「帝国は魔王領と正式な国交を開くこととなった。また、帝国は魔王領を友好国として認め、周辺諸国にそれを告知することとする。書簡の中身は、まぁ、そんなところだよ」

「……魔王領が帝国の友好国に、ですか」

それは……すごいな。

帝国は周辺諸国に対して、大きな影響力を持っている。

軍事大国だからね。帝国の顔色をうかがう国も多い。

その帝国が魔王領を友好国と認め、周辺諸国にそれを告知するとなれば……魔王領のまわりは、大きく変わる。魔王領は元々、帝国と敵対していたからだ。不戦協定は結んでいるけれど、敵国であることが変わったわけじゃない。

でも、それも終わる。

魔王領は帝国の敵国ではなくなる……つまり、人間の敵ではなくなる。

周辺国とも、使者のやりとりをするようになるだろう。

場合によっては普通に交易とか、住民の行き来もできるようになるかもしれない。

これは、とんでもなくすごいことなんだ。

「でも、大丈夫なんですか?」

「なにがだね?」

「今までの方針を一気に転換することになります。ディアス殿下はともかく、皇帝陛下や高官会議は、反対しなかったんですか?」

「皇帝陛下は私が説得した」

大公カロンは、不器用に、片目をつぶってみせた。

「高官会議には、ディアス殿下が話をされた。あくまで一代限りの措置ということで、納得させたようだ。ディアス殿下の時代に様子見でこれを行い、状況を見て対応を変える。まぁ。 日和見(ひよりみ) と思われるかもしれぬが、頭の固い高官たちを動かすには、これしかなかったのだ」

「そういうことですか」

「リアナ殿下も、熱心に高官たちを説得しておったよ」

「『姉さまの友人に手を出したらズガガガーン』とかですか?」

「見ておったのか?」

「……いえ、なんとなくです」

「とにかく、魔王領の味方は多いということだよ」

「ありがとうございます。魔王陛下も、お喜びになると思います」

「お主たちを敵に回したくない者はもっと多いだろうな」

「……そうですか」

「考えればわかることだ。魔王領は勇者世界の技術を再現してしまっているのだからな。その上、勇者世界の魔術を打ち破っている。これはもう、勇者世界を超えたと言ってもいいのではないかな?」

「トールさま!」「トール・カナンさま!!」

大公カロンの言葉に、メイベルとアグニスは目を輝かせた。

『勇者世界を超える』──それは、俺の人生の目標だ。

超絶の力を持ち、超絶の技術を持つ勇者世界を超えるアイテムを作る。

そうして魔王領を豊かにして、発展させる。

それを目指して、俺は『創造錬金術』でアイテムを作り続けた。

大公カロンは、俺の目的がすでに実現していると言っているんだ。

なんてことだ。

俺はいつの間にか、勇者世界を超えていたのか……って。

「いやいや、ご冗談を」

「「「はぁ!?」」」

え? なんでびっくりしてるの。

嫌だなぁ。

俺が勇者世界を超えているわけがないじゃないか。

なに言ってるんだ、大公カロンは。

メイベルも、アグニスも、そこはびっくりするところじゃないよね。

『当然、まだまだです』って言って、うなずくところだよね?

俺が勇者世界を超えてるわけがないじゃないか。

だって『カースド・スマホ』の問題は解決したのは、勇者世界の『人生と仕事がどうでもよくなる3点セット』だし。俺の功績じゃないし。

スマホだって、俺にはまだ作れないんだから。

『正義の精神感応スマホ』は作ったけど、あれは勇者世界の改造品だ。

精神感応能力を付与できたのは『ドラゴンの骨』があったから。

いわば、ドラゴンの力を借りて成し遂げただけなんだ。

それに、俺はまだ『通販カタログ』のアイテムを、すべて作り終えていない。

カタログに載っているアイテムを端から端まで作り終えて、初めて俺は、勇者世界と同じ技術を身につけたといえるだろう。

俺はまだ、勇者世界の技術の端っこに、手をかけただけなんだ。

「──ですから、まだまだです。勇者世界の足下にもおよびませんよ。俺は」

という感じのことを、俺はみんなに説明した。

「これからは『通販カタログ』に頼らず、オリジナルのアイテムをたくさん作るつもりです。そうやって技術を磨いて、もっともっと、勇者世界のことを知らなければいけません」

「「「…………」」」

「大公さまのお気持ちはうれしいですけど、本当に俺はまだまだなんです。『勇者世界を超えた』なんて……あの世界の人に聞かれたら、鼻で笑われちゃいますよ。『その程度で?』って。あ、でも、ほめていただいたことには感謝します。ありがとうございました」

「「「………………」」」

「メイベルとアグニスには、これからも俺を見ていて欲しいな。いつか自信を持って『勇者世界を超えた』と言えるものを作るから。いつになるかはわからないけど……気が長い話だけどね」

「……メイベル・リフレインどの。アグニスどの」

「……はい。帝国の大公さま」

「……はいなので」

「私が言うのもおかしな話だが、錬金術師どののことを、よろしくお願いする」

大公カロンは苦笑いして、そう言った。

「錬金術師どのを支えてあげて欲しい。私も剣を振りすぎて倒れたこともあるからな。そうならないように、見ていてあげて欲しいのだ」

「はい!」「命にかえてもなので!」

「錬金術師どのは、まわりの少女たちを大切にな」

そう言って立ち上がる、大公カロン。

「錬金術に夢中になるあまり、まわりにいる少女たちの気持ちをないがしろにしてはいかんぞ。自分を理解してくれる人物というのは大切なのだから。彼女たちが抱えている想いを大切に……おや、ノナよ? どうして私を 睨(にら) んでいるのだ? 待て、引っ張らなくてもよいだろう……? 私を一体どこへ連れて行こうというのだ…………?」

副官のノナさんに引っ張られて、大公カロンは立ち去った。

アイザックさんも、俺たちに一礼してから、その後を追っていく。

草原に残ったのは、俺とメイベルとアグニス──それと、たくさんの羽妖精たち。

「楽しいですー」「魔王領も帝国も、どこへでも行けますー」「情熱的に世界が広がりました」「でも錬金術師さまのところが一番いいですー」「見張ります?」「 拘束(こうそく) します?」「いつまでもふわふわー」──って。

ずっと隠れ暮らしていた羽妖精たちは、自由に生きられるようになった。

魔王領と帝国の友好関係が成立したなら、文字通り、どこでも。

もちろん、俺とメイベルとアグニスも、ルキエも。

「それじゃ帰ろうか」

俺は 書簡(しょかん) を手に取った。

皇太子ディアスと大公カロンを迎える準備に、ルキエの誕生日の用意。やることはたくさんある。

でも、一番やりたいことは──

「ルキエさまの仮面の代わりになるものを、作らないとね」

「は、はい。トールさま!」

「お話は、魔王領にも戻ってからにしますので!!」

ルキエは誕生日を機に、仮面を外すって言ってたからね。

仮面なしでも、ルキエが落ち着けるものを作ろう。

ルキエの力と威厳を、みんなにはっきりと示せるように。

作戦の後片付けをしながら、俺はそんなことを考えていたのだった。