軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第202話「ティリク侯爵家の子孫とミスラ侯爵家の子孫、対峙する」

──事件の後、魔王領で──

「ご苦労じゃったな、トールよ」

ここは、魔王城の玉座の間。

『カースド・スマホ』を回収して戻ってきた俺を、ルキエと宰相ケルヴさんが出迎えてくれた。

「これで一件落着じゃな。本当に、お主が無事でよかったのじゃ」

「……帝国と正式な国交を……帝国の皇太子と大公カロンの名のもとに……?」

あれ?

ケルヴさんは報告書を手に、震えてる。

「こ、これは、いまだかつてあり得なかったことです! 魔王領の在り方が変わってしまいます。も、もちろん、良い方にですが……ですが……予想外すぎるのです。変わっていく国を、どう運営したらよいものか……」

「落ち着くのじゃ。ケルヴよ」

震えるケルヴさんに、ルキエが声をかけた。

「まだ先の話じゃ。それに、事件は終わっておらぬのじゃからな」

「陛下のおっしゃる通りです。宰相閣下」

「そ、そうでした」

ケルヴさんは、今や 宰相(さいしょう) のトレードマークになった『ぬいぐるみスマホケース (かわいい)』をなでながら、

「『カースド・スマホ』は2つあったのでした。もうひとつを見つけ出さなければ、事件は終わったとは言えない……そうですね。トールどの」

「はい。でないと皇太子ディアスどのも、大公カロンどのも、安心できないですから」

「魔王領に来るのは、落ち着いてからじゃろうな」

ルキエは、納得したようにうなずいてる。

「『カースド・スマホ』の調査には、大公カロンも協力してくれるのじゃろう?」

「はい。そのようです」

俺は答えた。

「領土の広さから考えれば、『カースド・スマホ』は帝国領に落ちた可能性が高いです。調査に帝国の協力は不可欠でしょう。見つけ出したあとの処理も、大公カロンが一緒なら、やりやすいですから」

「ですが、どうやって探したものでしょうか……」

「そうじゃな。『カースド・スマホ』は小さなものじゃ。広い大陸の中から見つけ出すのは至難じゃろう」

「ですよね。『軍勢ノ技探知機』がなければ、大変なことになっていたと思います」

「そうじゃな。そういうものがなければ……ん?」

「まったくです。それがなければ大変なことに……ん?」

ルキエとケルヴさんの目が点になった。

「ちょっと待てトール。今、なんと申した?」

「 不穏(ふおん) な言葉を聞いた気がするのですが!?」

「あ、はい。だから『軍勢ノ技探知機』がなければ、見つけ出すのに時間がかかって、大変なことになっていたと思います、と」

「そのアイテムはどこから出てきたのじゃ!?」

「聞いておりませんよ!? トールどの!」

「え、だって、『魔力探知機』の改造品ですから」

以前作った『魔力探知機』は、特定の魔力を探し出すものだ。

そして、俺の手元には『ドラゴンの骨』──『 精神感応素材(せいしんかんのうそざい) 』がある。

これは人間の精神状態に反応するものだ。

「これを組み合わせれば、『軍勢ノ技探知機』ができるわけです」

「…………」

「…………」

そして、俺は説明をはじめた。

『精神感応素材』を利用して作った『軍勢ノ技探知機』と、その効果について。

ルキエとケルヴさんの意見を聞いて、さらに改良を加えるために。

──その1ヶ月後、帝国のとある場所で──

「ついに、ドルガリア帝国に思い知らせる時が来た!」

ティリク 侯爵家(こうしゃくけ) の子孫、ダリル・ザンノーは叫んだ。

「偉大なる勇者の世界より 天啓(てんけい) が下った。帝国を滅ぼし、ティリク王家を 再興(さいこう) せよ、と! 失われたティリクと、ミスラの怒りを思い知らせよと!!」

「「「うおおおおおおおおおぉ!!」」」

ダリルの声に、部下たちが 拳(こぶし) を振り上げる。

彼らの士気は高い。

思い思いの武器を手に、行軍を続けている。

服装も様々だ。先祖伝来の 鎧(よろい) を着ている者もいれば、帝国の鎧姿の者もいる。後者は、『軍勢』に取り込んだ帝国兵だ。強さを求める帝国の兵士は、ダリルたちの魔術にあらがえなかった。次から次へと『軍勢』に加わり、その数はふくれあがっている。

それでも足りないと、ダリル・ザンノーは思う。

彼が求めるのは、帝国そのものを一 蹴(しゅう) する強さなのだから。

「我が手にあるのは、勇者たちが最も求めたアイテム『スマホ』である!」

ダリル・ザンノーが掲げた手には、小さな金属製の板があった。

『カースド・スマホ』だ。

苦労の末に手に入れた勇者の技術に、ダリル直属の部下たちは涙ぐんでいる。

それが伝染したかのように、帝国兵までが涙を流し始める。

『軍勢』となった彼らには、ダリルたちの感情が乗り移っているのだ。

ダリルたちは、かつて ドルガリア(・・・・・) 王国(・・) の西に存在した、ティリク王国の 末裔(まつえい) だ。

200年前、ドルガリア王国、ティリク王国、ミスラ公国は協力し、勇者召喚を行った。

ドルガリア王国は人材と資金を、ティリクとミスラは魔術を提供した。

その結果として、異世界から勇者を呼び寄せることに成功したのだ。

その後、ティリクとミスラはドルガリア帝国の一部となり、 侯爵(こうしゃく) の地位を得た。

だが、数十年前の内乱で、どちらの 侯爵家(こうしゃくけ) も滅んだ。

ティリクが滅ぼされたのは、当時の皇帝の暗殺を企んだからだと言われている。

真相はわからない。

しかし、ダリルたちの先祖は『帝国は偉大なるティリクが使う「使役魔術」を恐れていた』と言い残している。

だからティリクの子孫は、帝国への 復讐(ふくしゅう) を誓ってきた。

そのために、あらゆる手を使ってきた。

──帝国が行っていた魔獣召喚に加わり、魔術を盗み出した。

──『例の箱』の争奪戦に加わった。

──リカルド皇子の部隊を襲ったこともあった。

そして──苦労の末、彼らはついに、勇者世界の『スマホ』を手に入れたのだ。

「……これぞ、天の導きに違いない」

ダリルは『スマホ』を手に、ほくそ笑む。

彼らが『カースド・スマホ』を入手したのは、召喚魔術の実験の結果だ。

召喚用の魔法陣を描き、魔力を注ぐ実験をしていたら──突然『スマホ』が現れたのだ。

ダリルや部下たちは天の導きだと思っている。

だが、実際は違う。

ダリルたちが召喚魔術の実験を行っていたとき、ちょうど勇者世界で『カースド・スマホ』を送るための派遣魔術が使われていたのだ。

召喚と派遣──ふたつの魔術が偶然、繋がってしまった。

それによって、本来は他の場所に落ちるはずの『カースド・スマホ』が、ダリルたちの元に届いてしまったのだった。

『カースド・スマホ』の中にあった魔術を、すでにダリルたちは実行している。

簡単だった。その上、強力だった。

あの魔術は強さを求める者をこそ引きつける。

そして、帝国領内には、強さを求める者など、あふれるほど存在しているのだ。

「おかげで強者を集めることができた。まさに天の導きといえよう」

もはや、軍勢を隠す必要もない。

『強さ至上主義』の帝国に、最強が誰かを教えてやる。

そう思いながら、ダリルたちは進軍を続けていたのだったが──

「ダリルさま! 前方に人……いえ、エルフがおります!」

「エルフ? 魔王領の兵団か?」

「……いえ、エルフが1名……隣に、人間の少年がいるだけです。あれは……?」

思わずダリルたちは足を止めた。

街道の向こうに、エルフの少女が立っていた。

その隣には、ローブをまとった少年もいる。

その向こうで 土煙(けむり) が上がっているのが見える。

敵軍が近づいているのだろうか。

だが、先行しているのが少女と少年だけというのが、解せない。

ふたりは武器を持っていない。

一体、なにをしようというのか──

「ティリクの子孫の方々に告げます!」

不意に、地面を揺らすほどの声が響いた。

エルフの少女からだ。

彼女は片手に筒のようなものを持ち、片手でペンダントを掲げている。

「……まさか、あのペンダントは!?」

ダリル・ザンノーは目を見開く。

少女が持っているペンダントの、青い輝きには見覚えがあった。

ペンダントについている、青い石。

それと同じ石のかけらを、ダリル・ザンノーも持っているからだ。

それは、祖父から受け継いだものだった。

数十年前の内乱のとき、生き延びたティリクの者は、ミスラ侯爵家の居城に忍び込んだ。

ミスラ侯爵家は内乱で滅び、城も破壊されていた。その上、盗賊たちの 略奪(りゃくだつ) により、金目のものを持ち去られていた。

もちろん、ティリクの者が城に忍び込んだのは、盗みを働くためではない。

ミスラの生き残り……あるいは、内乱の記録を探し出すためだ。

それを使って、帝国の罪を世界に訴えるために。

それらしいものは見つからなかった。

だが、小さな宝石のかけらを見つけることはできた。

ミスラ侯爵家の家宝『水霊石のペンダント』のかけらだ。

ティリクの者は、その石のことを覚えていた。ミスラは『水霊石のペンダント』を使って、召喚魔術を安定させていたからだ。

『水霊石のペンダント』は魔術の『流れ』を安定させることができるアイテムだ。

ペンダントが持つ『水の魔力』は『流れ』や『 循環(じゅんかん) 』を表す。

ミスラはそのアイテムによって、召喚魔術を安定させ、勇者世界からこの世界に向かう、魔力の『流れ』を作り出していたのだ。

『水霊石のペンダント』を身に着けていたのは、侯爵か……あるいは、その血族だけ。

そのかけらが落ちているということは、内乱の中で、ペンダントが傷つけられたのだろう。

持ち主はおそらく、命を落としたはず。

そう考えて、ティリクはペンダントのかけらを持ち返った。

青いかけらは、ティリクの子孫へと伝えられた。

いつか、帝国を打倒するために。

ティリクだけではなく、ミスラも帝国を恨んでいるのだと、告げるために。

そうして、時は流れた。

いつしかティリクの子孫たちは、自分たちをミスラ侯爵家の代理人のように思い始めていた。

だが──

「私はメイベル・リフレイン! ミスラ 侯爵家(こうしゃくけ) の 末裔(まつえい) です!!」

エルフの少女は叫んだ。

ダリル・ザンノーと仲間たちは、全身を殴られたような 衝撃(しょうげき) を受けた。

それは、感覚共有している者たちにも伝わっている。

『例の魔術』で取り込んだ帝国兵たちにも。

ティリクの 末裔(まつえい) にとっては大問題だ。

ティリクの残党が勢力を保ってきたのは、自分たちをティリクとミスラの代理人だと思ってきたからだ。

滅びたミスラ侯爵家は、もう、なにも言えない。

だからダリルたちはミスラの名前を、好き勝手に使うことができた。

ミスラの正統な後継者など、現れてはいけなかったのだ。

「この『水霊石のペンダント』はミスラ侯爵家の家宝です! これを持つ私……ミスラ侯爵家の子孫は、魔王領で幸せに暮らしています。復讐なんて考えていません!」

メイベルと名乗った少女が叫ぶ。

少女の隣にはローブを着た少年がいる。

彼女に寄り添い、しっかりと手を握っている。まるで、恋人同士のように。

さらに、ふたりの背後に兵士たちが現れる。

先頭にいるのは中年の男性だ。

引き締まった体つきで、腰に片刃の剣を提げている。

身体の力を抜き、無造作に立っているように見える。けれど、 隙(すき) がない。

──エルフの少女と、ローブ姿の少年の邪魔をする者は、斬る。

そんな意思をたたえた目で、じっとダリルたちを見つめている。

あの男性は──

「……大公カロン……どうしてここに」

面識はないが、知っている。

ダリルたちは帝国への反逆を企む者だ。

『軍勢』となった今は、すべての国を滅ぼし、統一国家を打ち立てるつもりでいる。

その最大の障害となる元剣聖──生きる伝説を見間違えるはずもない。

しかし、剣聖の隣にいる少女は誰だろう。

真っ赤な鎧を着ている。背中には、大剣を背負っている。

身体も細く、まったく強そうには見えない。

なのに『軍勢』は彼女が 脅威(きょうい) だと感じている。

大公カロンなら、集団でかかれば勝てるかもしれないが、あの少女は違う。

そんなふうに思えて仕方がなかった。

「私は帝国の皇太子殿下から、ミスラ侯爵家の話をうかがいました。それでやっと……私は自分がミスラの子孫だって確信が持てたんです」

エルフの少女は語り続ける。

──40年前の内乱のあと、彼女の祖母が魔王領へと逃げ延びたこと。

──魔王領の者たちが、祖母を受け入れてくれたこと。

──祖母は内乱のショックで記憶を失っていたこと。

──残したのが家宝である『水霊石のペンダント』だけだったこと。

──その孫である自分が、魔王の幼なじみであること。

──帝国から来た少年と出会い、寄り添うようになったこと。

──ミスラの子孫であることがわかった今も、帝国に恨みはないこと。

──自分は自分。

──祖母が帝国を捨てたように、自分も、過去にはこだわっていないこと。

「自分の知らない過去のことで、今の自分をすり減らすのはやめてください」

エルフの少女、メイベルは叫んだ。

「帝国の貴族だった祖母は、魔王領の住人になりました。その孫はエルフになりました。魔王領も……トールさまが来てから変わりました。そして今、帝国も、変わろうとしています」

「次期皇帝であるディアス殿下は『強さ至上主義』を捨てる決心をしたそうです」

エルフ少女メイベルの言葉を、ローブの少年が引き継いだ。

ふたりの背後で、大公カロンがうなずいている。

それが、ふたりの言葉の裏付けであるように。

「──ばかな!?」

だが、ダリルには信じられなかった。

帝国が『強さ至上主義』を捨てる?

ありえない。

ドルガリア帝国は、勇者に憧れる者たちが治めてきたのだ。『強さ至上主義』を捨てるのは、帝国の存在意義を失うことに等しい。

「すべては変わっていくんです」

エルフの少女、メイベルは続ける。

「 復讐心(ふくしゅうしん) を捨てろとは言いません。でも、邪悪な魔術に頼るのはやめてください。関係ない人を、『軍勢』に取り込まないでください。勇者召喚時代のことに、今の人たちを巻き込まないで……」

「メイベル……」

「……大丈夫です。大丈夫……」

泣き出したエルフ少女を、ローブの少年が抱き留める。

それから少年は、エルフ少女から筒を受け取る。

あれが声を拡大するマジックアイテムらしい。

「ティリクの子孫に告げます。俺は魔王領の錬金術師、トール・カナンです」

少年はダリルたちに向かって、告げた。

「俺はあんたたちのやってることに興味はないです。帝国に 復讐(ふくしゅう) するのも、別に構わないと思う。だけど邪悪なマジックアイテム──『カースド・スマホ』に手を出すのと、メイベルの祖母の家名を使うことは許さない。ミスラの名を使って戦いを起こしたら、メイベルが落ち着いて休めなくなる。だから、止めさせてもらう!」

錬金術師トールが手を挙げると──彼の背後から、大量の、小さなものが飛び立った。

それが羽妖精の群れだということに気づいたのは十数秒後。

すでに羽妖精たちは、ダリルたちを遠巻きにしている。彼女たちは腰に小さな箱のようなものを提げている。ダリルたちを囲むように──円を描きながら、箱に入るはずのないサイズのものを、落とした。

それが『三角コーン』と呼ばれるものであることを、ダリルたちは知らない。

そのアイテムに『アルファー波・リラックスCD』と『低周波治療器』が仕込まれていることも。

『三角コーン』の中から現れた透明なクッションが、高速で 這(は) い寄って来ていることにも。

「……錬金術師トール・カナンだと。知っているぞ。貴公のことは」

ダリルはトール・カナンを見据えて、告げる。

「弱さゆえに帝国を追われた、リーガス公爵家の子息が! 貴公がどうして、我らの邪魔を──」

「あなたたちの情報は古いよ」

トール・カナンは答えた。

「そして、こっちは常に最新の情報を集めてる。だからこうして、準備ができたんだ」

「……な!?」

ダリル・ザンノーは絶句する。

(……なにが起こっている。どうして……ミスラの子孫がここにいる? どうして魔王領と帝国が手を結んでいる? あの羽妖精が落としたものは……一体?)

わからない。

ダリルたちは『スマホ』の魔術で『軍勢』となった。

それで最強になったと思った。

なのに──敵は余裕をもって、自分たちに対応している。

その理由がわからないのだった。

ダリルたちは知らない。

──トールがすでに『 軍勢(ぐんぜい) ノ技探知機』を作り上げていたことも。

──それを使って、ダリルたちの動きを、すべて把握していたことも。

──トールと大公カロンたちは完全に準備を終えて、ダリルたちを待ち構えていたことも。

「過去のことがメイベルを悩ますなら、俺は全力で対策を練る。メイベルが安心するように、あらゆる手段を尽くす。だから──あんたたちに告げる」

錬金術師トール・カナンは、ダリルたちを指さして、告げる。

「ティリクの子孫よ。貴公が持っているスマホを捨て、『軍勢ノ技』の解除を受け入れよ。さもなければ、貴公らを強制的に無力化する。これは最後通告だ」

「……全軍に告げる」

ダリル・ザンノーは部下に見えるように、片手を挙げた。

すでに、選択は終わっている。

ダリルたちは、ティリクの復讐者であり、ミスラの代弁者だ。

生まれてからずっと、そうなるように育てられてきた。

他に道はない。今さらミスラの子孫が出てきたところで、やめるわけにはいかないのだ。

「我が『軍勢』よ。突撃せよ!! ミスラの子孫を名乗る者を捕らえるのだ! そして、生きる伝説である大公カロンを打ち倒し、我らの力を示せ────っ!!」

「「「……お、おおおおおおおっ!」」」

ダリルたち『軍勢』は走り出す。

ときの声を上げて、剣を振りかざして。

そんな彼らが進むことができた距離は──約10メートル。

彼らは『アルファー波』と『低周波治療器』の洗礼を受けた上に、這い寄るクッションに絡みつかれて、倒れた。

その後──

「……な、なんだこのクッションは!? こ、心地よい!? 放せ、放せええええっ!」

「あ、足が! どうして身体がピクピクするのだ!?」

「…………すぅ。すやすや」

──彼らは全員『状態異常:超リラックス』へと、落ちていったのだった。