軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第166話「勇者世界の武器を研究する」

──トール視点──

リカルド皇子との会談は終わった。

会談が終わってすぐに、あの人は帝都に早馬を送り出したそうだ。

『例の箱』を手に入れた報告をするためだろう。

書状には、ソフィア皇女の希望についても書かれていた。これは、彼女自身が確認してる。

でも、帝都から返事が来るには十数日かかる。

しばらくは結果待ちだ。

その間、ソフィア皇女は国境地帯の警戒を続けるそうだ。

ダリル・ザンノーとその仲間が、どこかにいるかもしれないからね。

俺は魔王領に戻り、ルキエに報告をした。

ルキエは会談が無事に終わったことをよろこんでくれた。

ソフィア皇女がずっと『ノーザの町』にいてくれれば、魔王領も安心だ。帝国がなにかしてきても、すぐに対応できる。大公領との交易所さらに進むだろう。

魔王領も、これからもっと発展するはずだ。

「ご苦労じゃったな。トールよ」

報告を聞いたルキエは、満足そうにうなずいた。

「では、メイベル。例のものを渡してやるがいい

「は、はい。陛下」

メイベルは一礼して、俺に『異世界の資料』を差し出した。

勇者世界の『例の箱』──つまり『耐火金庫』に入っていたものだ。

会談が終わるまで、ずっとお預けになっていたんだ。

よかった……これで異世界の武器の研究ができるよ。

「ありがとうございます。ルキエさま」

「研究をするのもいいが、ほどほどにな」

「はい。承知しています」

「ちゃんと食事は取るのじゃぞ。 徹夜(てつや) で研究しておったら、資料を取り上げるからの。時々は部屋の外に出るのじゃ。それから……」

「大丈夫です」

俺は言った。

「俺も、少しは成長しましたからね。ルキエさまに心配をおかけするようなことはしません」

「そうか」

「はい」

「うむ。ならばよいのじゃ」

玉座に座った魔王ルキエは、うなずいた。

「とにかく、これで『例の箱』にまつわる事件は終了じゃ。あとは箱を奪った犯人を探し出すだけじゃが……それは帝国の方で対処するじゃろう。こちらは様子見じゃ」

「はい。ソフィア皇女も調査を進めているようです」

「わかった。とりあえずは一段落じゃな。トールもメイベルもご苦労じゃった!」

そうして、報告は終わった。

それから俺は『異世界の資料』を手に、自室へ。

勇者世界の武器を作るための研究をはじめて──

翌日。

「旅に出ます。探さないでください」

「待て待て待て待て!」

「どうしてそういうお話になるのですか。トールさま!?」

俺は再び、ルキエと会っていた。

そこで旅に出ることを申し出たんだけど──

「突然すぎるじゃろ!? 『ノーザの町』から戻ってきたばかりなのに、なんで旅に出るのじゃ!?」

「そうですよトールさま。じっくりと研究をされるのではなかったのですか!?」

「……その研究が問題なんです」

俺はルキエの前に『異世界の資料』を置いた。

あれだけ欲しがってた資料だけど、今は、手にするのも気が重い。

勇者世界の技術と俺の技術の差を、はっきりと思い知らされたからだ。

「確かにこの資料には、異世界の武器について書かれていました」

俺は説明をはじめた。

素顔のルキエと、メイド服姿のメイベルは、真剣な顔で聞いている。

「具体的には、3つの武器についてです。ひとつは『 超高振動(ちょうこうしんどう) ブレード』、ふたつめは『 思考制御(しこうせいぎょ) パワードスーツ』、そして最後に『 精神感応式砲台(せいしんかんのうしきほうだい) 』です」

「な、なんじゃその武器は!?」

「どんなものか想像もつかないです……」

「はい。勇者世界でも珍しい『ロマン武器』だそうです」

資料には図面がついていた。

必要な素材や技術についての文章もあった。

『なんかいい感じで』『それなりに図面を埋めて』『あとは君自身の手で真実を 導(みちび) き出してくれ!』なんて書かれていた箇所もあったけど……あれは勇者世界の技術者には解読できるんだろう。

「ひとつめの『超高振動ブレード』は『音波により刀身を振動させることで、硬いものを切断する剣』でした」

「う、うむ。なんとなくわかるのじゃ」

「ノコギリを高速で動かすようなものでしょうか?」

「次に、『思考制御パワードスーツ』は『装着者の思考を読み取って動く 鎧(よろい) 』だそうです。これを身に着けたものは素早く動くことができる上に、すごいパワーを出すこともできます」

「思考を読む 鎧(よろい) じゃと!?」

「戦闘中に 洗濯物(せんたくもの) を取り込み忘れたことに気づいたらどうなるのですか!?」

「最後に『精神感応式砲台』ですけど、これは持ち主が望んだ場所に攻撃する……小さな魔術師のようなものです。設計者は『ねばねばする粘着物』を発射するようにしたかったようです。『ハード・クリーチャー』の動きを止めるためでしょう」

「……それはなんとなくじゃが、想像できるのじゃ」

「……この中では一番わかりやすいですね」

説明を聞いたルキエとメイベルは腕組みして、うなってる。

気持ちはわかる。

俺だって、この資料を読み始めたとき、頭を抱えそうになったから。

「最後の『精神感応式砲台』なら、今の技術でも作れそうなんですけど」

「作れるのか!? 勇者世界の武器を!?」

「はい。『ねばねばする粘着物』を打ち出すアイテムを、 羽妖精(ピクシー) たちに持ってもらえばいいかな、と」

「「……なるほど」」

『精神感応式砲台』は、使用者の思考を読んで空を飛び、敵を攻撃するものらしい。

となると、羽妖精たちにも同じことができるはずだ。

彼女たちに作戦を伝えておけば、こっちの指示通りに動いてくれるからね。

「ただ、その場合は羽妖精たちの身を守るアイテムが必要になります。となると、やっぱり『思考制御パワードスーツ』を作らなきゃいけないんですけど……」

「今のトールには作れぬのか?」

「はい。作るには特別な素材が必要みたいで」

「特別な素材じゃと?」

「『思考制御パワードスーツ』と『精神感応式砲台』には所有者の思考に反応する素材が、『超高振動ブレード』には、桁外れに 頑丈(がんじょう) な金属が必要なんです」

『異世界の資料』を書いた技術者には、素材の心当たりがあったようだ。

昔の記録で見たそうだから、勇者世界の古代の素材だったのかもしれない。

「『超高振動ブレード』の資料には、素材の名前が書いてあります。『オリハルコン』という金属だそうです。正確には『それに匹敵する金属』ですけど」

「『オリハルコン』? 聞いたことがあるのじゃ」

ルキエは記憶を探るような表情で、

「確か……異世界の勇者が欲していた素材じゃったな?」

「はい。勇者の記録にあります。彼らは『勇者の剣というからには、やっぱりオリハルコンでできてるんだよな!? それともヒヒイロカネ? アダマンタイト? んー、燃えるぜ!』と、言い残していったそうです」

「『勇者録』の第1章2節、『異世界勇者、武器を 選定(せんてい) す』の 箇所(かしょ) じゃな」

「はい。だけど、勇者が希望する素材の武器はなかったようです」

「『オリハルコン』『アダマンタイト』『ヒヒイロカネ』などという素材は、この世界では見つかっていないからのぅ」

「勇者の世界にはあるんでしょうね」

「じゃろうな。でなければ、勇者がそれにこだわる理由がない」

それは間違いない。

『異世界の資料』にも『超高振動ブレードの作成を上司に提案したら、「強度に問題がある。作りたければオリハルコンでも持ってこい」なんて返事だった。ロマンを知らない者め!』と書かれていたから。

きっと勇者世界でも、恐ろしく 希少(きしょう) な素材だったんだろうな。

「つまり俺が『超高振動ブレード』を作るには、『オリハルコン』に匹敵する素材を見つけ出す必要がある、ということです」

「それを探しに旅に出るということか?」

「はい。とりあえず、魔王領の中を探してみようかと」

「……そういうことじゃったのか」

ルキエは納得したように、うなずいた。

俺としては『超高振動ブレード』くらいはすぐ作れると思ったけど、甘かった。

あれは音の力で、一秒間に刀身を数千、あるいは数万回振動させるものらしい。

だから、それに耐えられるような素材が必要になるんだ。

刀身を短くすれば振動に耐えられるかもしれない。

例えば、小さなナイフのようなものに。

でも、それじゃ『ハード・クリーチャー』とは戦えない。

やっぱり、丈夫な素材が必要なんだ。

鉄や鋼、 魔法銀(ミスリル) だと、耐久性に問題がある。

『地属性』を付与して強度を上げるという手もあるけれど、それだと魔力の 消耗(しょうもう) が激しすぎる。魔石を組み込んでも、あっという間に魔力が底をついてしまうだろう。

使用者の魔力を使うのは負担が大きすぎる。『超高振動ブレード』に魔力を吸い尽くされて、いざというとき魔術が使えなかった……なんてことになったら最悪だ。

刀身を交換式にして、戦闘のたびに付け替えるという手もあるけど……それでも使いものになるかどうかわからない。

俺のスキル『素材錬成』では、あまり大きな素材は作れない。それに、作るためには元の素材について知る必要がある。

だから、まずは『オリハルコン』に匹敵するくらい 頑丈(がんじょう) な素材を探して──見つからなかったら、素材同士の合成でなんとかしてみようと考えてる。

──俺はルキエに、そんなことを説明した。

「旅に出る理由についてはわかった」

ルキエは俺をじっと見て、

「じゃがトールよ、素材を探す当てはあるのか?」

「まずはライゼンガ領の鉱山を訪ねてみようかと思います。ちょうど、開発が始まっているところですからね。 坑道(こうどう) に入って、それらしい金属がないか探してみようかと」

「それくらいなら構わぬが……ん? どうしたのじゃメイベル。難しい顔をして」

ふと見ると、メイベルがじっとうつむいてた。

なにか考え込んでいるみたいだ。

「……精神に反応する素材なら、心当たりがあります」

しばらくしてから、メイベルはなにかを決意したように、

「小さいころに聞いたことがあるのです。 魔法銀(ミスリル) の上位版として、生き物の心に反応する金属がある、と」

「そうなの?」

「はい。エルフの村に伝わる昔話ですけど」

すごいな、メイベルは。

まさかこんなにすぐ、手がかりが見つかるとは思わなかった。

確かにエルフなら、不思議な素材のことを知っていてもおかしくない。

だからメイベルが小さいころ、エルフの村でその話を……って、あれ?

「──エルフの村というと、メイベルが昔住んでいたところだよね」

「…………はい」

メイベルは小さくとうなずいた。

その表情を見て、思い出した。

魔術が使えなかったメイベルは、エルフの村で疎外されていたんだっけ。

そのせいで、彼女は魔王城に引き取られたんだ。

それ以来、メイベルは村のエルフと会っていない。

魔王城のエルフさんたちと普通に話してるけど、村のエルフは排他的らしい。だからメイベルは、里帰りしたこともないはずだ。

「わかった。『思考制御パワードスーツ』は後回しにしよう」

「え? トールさま!?」

「まずは『オリハルコン』を探してみるよ。資料の最初のページにあるのは『超高振動ブレード』だからね。最初に書いてあるということは、それが一番重要なアイテムと考えるべきだよね。だから、鉱山に行ってくるよ」

それがいいと思う。

俺がエルフの村に調査に行ったら、メイベルもたぶん、ついてくる。

仮に俺ひとりでエルフの村を訪ねた場合、魔王ルキエ直属の錬金術師という肩書きが必要になる。それをメイベルと結びつけるエルフの人もいるはずだ。

エルフの村の者すべてが悪い人じゃないとは思うけど……俺には素材よりもメイベルの方が大事だ。

彼女に、嫌な思いをさせるわけにはいかない。

「というわけですから、ルキエさま。俺はライゼンガ領の鉱山に行ってきます」

「よいのか? 余が、エルフの村のものを呼び寄せてもよいのじゃぞ?」

「俺の個人的な研究のために、ルキエさまをわずらわせるわけにはいきません」

村のエルフが魔王城に来たら、やっぱりメイベルも気になるだろうからね。

精神感応素材は後回しだ。

まずは『ハード・クリーチャー』対策に『超高振動ブレード』を作ろう。

「というわけですので、行ってきてもいいですか?」

「う、うむ。よかろう」

「ありがとうございます。なにか用事があったら 羽妖精(ピクシー) たちに言付けてください。すぐに戻ってきますから」

「お待ち下さい!」

いきなり、メイベルが声をあげた。

彼女は真剣な顔で、俺とルキエを見て、

「陛下とトールさまにお願いがあります。私が、エルフの村に行くことをお許し下さい」

「メイベル?」

「……よいのか? メイベルよ」

「いつまでも、昔のことに捕らわれているわけにはいきませんから」

メイベルはそう言って、俺の手を取った。

「私は……トールさまのおかげで、魔術が使えるようになりました。陛下やアグニスさまとも仲良くなれました。エルフの村にいた頃より、私は……成長していると思うのです」

そう言って、優しい笑みを浮かべるメイベル。

「小さかった子どもの頃よりも、ずっと強く。だからこの機会に、自分の故郷と向き合いたいのです」

「メイベル」

「はい。トールさま」

「無理してないよね?」

「大丈夫です。それに、私はトールさまの婚約者ですから」

そう言ってメイベルは『水霊石のペンダント』に触れた。

俺が『虹色の魔石』で作ったカバーをつけたものだ。

メイベルはそれを握りしめて、精一杯の笑顔で、

「ちょうど両親のお墓に、婚約の報告に行こうと思っていました。いい機会だと思います」

「わかった……一緒に行こう。メイベル」

「はい。トールさま!」

メイベルは俺の手に指を絡めて、うなずいた。

俺はルキエの方を見て、

「というわけですので、俺たちふたりで、ちょっとエルフの村に行ってきます」

「……予定がころころ変わるのじゃな」

「俺には素材より、メイベルの方が大切ですから」

「まぁ、お主らしいが」

ルキエは口元を押さえて、笑ってる。

「じゃが、その方がよいかもしれぬ。鉱山じゃと、トールは素材ほしさにどこまで潜っていくかわからぬからな。行き先がエルフの村ならば、お主はメイベルの側を離れぬじゃろう」

「素材ほしさに 坑道(こうどう) 深くまで潜ったりはしませんよ?」

「誓えるか?」

「それはおいといて、ルキエさまにお願いがあります」

「おいとくでない。なんじゃ?」

「エルフの村で素材採取をするにあたって、許可証をいただきたいんです」

「わかった。余の直筆で許可証を書いてやろう。ケルヴにも書かせた方がよいな。魔王と 宰相(さいしょう) ふたりの許可証があれば、村のエルフたちもなにも言わぬじゃろう」

「宰相閣下は、書いて下さるでしょうか?」

「書かねばトールが見知らぬ素材を採取して、怪しいアイテムを作ると言っておく」

「……宰相閣下にはお世話になりっぱなしですね」

「そのうち、あやつの希望を聞いて、アイテムを作ってやるがいい」

「わかりました。許可証をいただくときに、アンケート用紙をお渡ししておきます」

「うむ。それがよかろう」

話は決まった。

俺はメイベルと一緒に、魔王領にあるエルフの村へ行く。

そこで『思考制御パワードスーツ』に使えそうな素材があるか調べる。

──でも、素材探しはついでだ。

重要なのは、俺がメイベルと婚約したことを、メイベルの両親のお墓に報告すること。

俺がメイベルにお世話になっていることを伝えて、お礼を言うこと。

これからちゃんと、彼女を幸せにしようと思っていること。

そういうことを、メイベルの両親に報告しよう。

魔王直属の錬金術師として、エルフの村の人たちがなにも言えなくなるくらい、しっかりと。

そんなことを、俺は考えていたのだった。