軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第158話「『耐火金庫』の中身を確認する」

「……これは……異世界の紙か? 折りたたんだものと、束になったもの。手紙と……なんだろう。なにかの資料か?」

『耐火金庫』の中に入っていたのは、手紙のようなものと、紙の束だった。

他には、折れた金属製の棒もあったけど、これは扉をロックしていたものだ。

金庫の内側には扉の固定用に、棒をはめ込むための隙間がある。

その棒が『光属性の攻撃魔術』で切断されて、落ちてきたらしい。

つまり『耐火金庫』の中にあったのは、手紙と紙束だけということになる。

手紙と紙束は、どちらも同じ紙で作られている。

『通販カタログ』とは違い、ザラザラしている。異世界には色々な紙があるようだ。

……興味深いな。

「入っていたのはこれだけのようですわね。錬金術師さま」

ドロシーさんがため息をついた。

「異世界のマジックマジックアイテムが入っていると思っていたのですけど……残念ですわ。錬金術師さまも、がっかりされているのではないですか?」

「いえ、十分です」

むしろ逆だ。

俺が欲しかったのは情報だから。

この『耐火金庫』は、巨大サソリの魔獣が現れた直後に召喚されている。

つまり魔獣の近くに置いてあったか、魔獣に関わるものの可能性が高い。

手紙と紙束もそうだ。

これには新種の魔獣についての情報が書かれているかもしれない。

俺に取っては、十分に有益なものなんだ。

「少し時間をいただけますか。手紙の内容を確認してみたいんです」

「わかりました。では……男たちを連行する準備をするまでの間でしたら」

ドロシーさんは少し考えてから、うなずいた。

俺たちはアグニスたちの部隊に連絡を取った。

男たちを町まで連行するのに、手を借りるためだ。

羽妖精(ピクシー) のルネに伝令に行ってもらったんだけど、彼女が戻ってくるまでは、まだ時間がある。

その間に、この手紙の内容を調べておこう。

「それじゃ俺が手紙を読み上げます」

俺はメイベルとソフィーに言った。

「ふたりはそれを聞いていてください。情報の共有、ということで」

「はい。トールさま」

「聞かせていただきますね。カナンさま」

俺は、メイベルやソフィーと肩をくっつけて、手紙を読み始めた。

手紙の冒頭には、『この手紙を読んでいる者へ』と、書いてある。

差出人の名前はない。

宛名もない。

まるで、見知らぬ誰かにあてた手紙のようだ。

これを書いたのは、一体、誰なんだろう……。

────────────────

この手紙を読んでいる者へ。

君がこれを読んでいるとき、この施設は 廃墟(はいきょ) となっているだろう。

この施設では『 硬質化怪生物(ハード・クリーチャー) 』についての研究が行われていた。

『ハード・クリーチャー』とは、十数年前に突如出現した、巨大な怪物のことだ。

奴らは虫のような姿をして、おそろしく硬い 皮膚(ひふ) を備えている。

蜘蛛(くも) 型、ムカデ型などが有名だ。

奴らは場所を選ばず巣を作り、周囲の者に襲いかかる。

戦闘能力も高い。身体が硬いため、小火器では倒すことができない。

奴らのせいで、いくつ町が失われたか、君たちも知っていることと思う。

『ハード・クリーチャー』に対しては、『異世界帰りの者たち』──勇者とその子孫や、近代兵器で対抗できている。

いくつかの町も 奪還(だっかん) した。

戦果は出ていると言えるだろう。

だが『ハード・クリーチャー』は数が多い。

奴らは予告もなく、地中から出現することもある。対抗手段は必要だ。

そのため、この研究所では新たな武器の開発を進めていたのだ。

だが……残念ながら、ここは放棄されることになった。

近くに、新種の『ハード・クリーチャー』が出現したからだ。

もっと予算があれば、誰でも扱えるような、強力な武器が作れただろう。

私もイノヴェーションを起こすために、様々な武器を提案してきた。

なのに、ひとつも採用されたものはない。

上の人間はどうしてこれほど頭が固いのだろうか。

ロマンを解さない者たちめ……! まったく!

時間がない。

『ハード・クリーチャー』がここを襲う前に、資料を持ち出さなければならない。

デジタルデータは所持しているが、移動中に失われることもある。

そのため、印刷したものを、ここに残しておく。

古い金庫だが、物理的な防御としては十分だろう。開くための番号については……君がこれを読んでいるということは、説明書の最初のページに書いておいた暗証番号に気づいているはずだな。

これを読んでいる君よ。

君に我が研究を託す。

どうか、『ハード・クリーチャー』を倒すための武器を完成させてくれ。

君がロマンを解する者であることを願う。

名も無き研究者より

────────────────

「……『ハード・クリーチャー』……異世界にはそんなものが」

「……『異世界帰りの者たち』ですか。勇者は元の世界でも、力を振るっていたのですね」

メイベルとソフィーは、 呆然(ぼうぜん) と目を見開いてる。

気持ちはわかる。

俺も手紙の内容にびっくりしているから。

手紙に書かれている、『 硬質化怪生物(ハード・クリーチャー) 』とは、『魔獣ガルガロッサ』や『魔獣ノーゼリアス』のような魔獣のことだろう。

奴らはおそろしく硬い皮膚を持っていた。

ルキエの『闇の魔術』や、リアナ皇女の聖剣じゃないと 致命傷(ちめいしょう) を与えられないほどに。

異世界でその『ハード・クリーチャー』と戦っているのが『異世界帰りの者たち』──おそらく、かつてこの世界に召喚された勇者と、その子孫だ。

……でも、勇者が召喚されてから、200年は経ってるはずなんだけどな。

当時の勇者がまだ生きてるのか?

もしかして、この世界と勇者世界では、時間の流れが違うんだろうか。

それとも、この金庫と手紙が、100年前のものとか……?

とにかく、異世界では勇者とその子孫が『ハード・クリーチャー』と戦っていた。

彼らは有利に戦闘を進めていたけれど、手紙の主は、より強力な武器を作ろうとしていた。

でも、上司の許可が下りず、作れなかったらしい。

その後、研究施設に『ハード・クリーチャー』がやってきて、施設は放棄されることになった。

だから手紙の主は脱出の前に、資料を『耐火金庫』の中に残した。

いつか誰かがやってきて、研究を引き継いでくれることを願って。

説明書には金庫を開くための番号があったらしいけど……残念ながら、焼け焦げてる。もしかしたら、魔獣が火事でも起こしたのかもしれないな。

その施設とこの世界を、召喚魔術が繋いだってことか。

だからこの世界にサソリ型の『魔獣ノーゼリアス』がやってきて……ついでに、その近くにあった『耐火金庫』も引っかかったんだろうな。

だから今、俺たちの前には、異世界の研究資料がある。

正直、めちゃくちゃ興味がある。

興味はあるんだけど──

「……この資料は、ソフィーさまが預かっていてください」

俺は資料を、ソフィーに向かって差し出した。

「……今は時間がないですから、『耐火金庫』の修復を優先しなきゃいけない、ですから。これに目を通すわけにはいかないんです。夢中になるのが、わかってますから」

「よ、よろしいのですか? カナンさま?」

「トールさま!?」

……ふたりとも、手紙を読んだときよりも驚いてる。

それはいいから、早く受け取って欲しいな。

俺の理性が残っているうちに。

「これをメイベルに預けると、あとで『やっぱり貸して』って言っちゃいそうですから。ソフィーさまなら……俺の頼みを、断ることができますから。町に戻るまで……ソフィーさまがこれを、預かっていてください……お願いします」

「わ、わかりました。お預かりします。ですから……その」

「はい」

「受け取れるように、手の力を抜いていただけますか?」

「…………はい」

俺は深呼吸。

研究資料をつかむ指から、力を抜いた。

「確かに、この資料はお預かりしました」

ソフィーはうなずいた。

「安全な場所に着いたらすぐにお返ししますね」

「よろしくお願いします。ソフィーさま」

……さてと。

まだ少し時間はあるな。

『耐火金庫』を修理できるどうか見てみよう。

状態を確認すると……うん。ソフィーの『ヴィヴィッドライト・ストライク』は、扉をロックする金属の棒だけをきれいに削り取ってる。

切り口もなめらかだ。これなら修理できるな。

扉をロックしていた金属の棒は、半分が扉のロック機構に残されてる。

もう半分が金庫の床に転がってる。

このふたつを、俺のスキルでくっつけてみよう。

俺は金庫の床に転がってた方を拾い上げて、もう半分の切り口に会わせた。

指で接続部分に触れる。

ここに魔力を注いで修復する。やり方は、メイベルの『水霊石のペンダント』を直したときと同じだ。

魔力で素材を作り出す『素材錬成』スキルで、欠けた部分を補えばいい。

生み出した素材で棒を繋ぎ合わせれば、元通りにできるはずだ。

慎重に進めよう。

できるだけ固く。しっかりと。

衝撃にも炎にも負けないように。つなぎ目さえも見えないように──

「……発動『素材錬成』」

魔力を注ぎ、金属を作り出していく。

最終的に帝国に渡すものだとしても、手は抜かない。

元通りになるように。

目を閉じて、スキルを起動していく──そして。

かちんっ。

「……できた」

『耐火金庫』の扉をロックしていた金属の棒は、きれいにつなぎ合わされた。

触れても、つなぎ目はわからない。

押しても引っ張ってもぐらつかない。修復は成功だ。

「……何度見てもすごいです。トールさま」

「……本当に修復してしまったのですね。カナンさま」

「異世界のものを壊れたままにしておくわけにはいかないですからね。それで、ソフィーさまに提案があるんですけど」

俺は『ノイズキャンセリング・コート』を起動して、ソフィーとフードをくっつけた。彼女も意を察したのか、同じようにする。

「『耐火金庫』は帝国との交渉に使うんですよね?」

「はい。そのつもりでおります」

「では交渉材料として、こんな要素を追加するのはどうでしょう……」

俺はソフィーに考えを伝えた。

ソフィーの目的は、国境周辺をずっと、大公国の領地にしておくこと。

そのための言質を取ることだ。

だったら、協力しよう。

ソフィーは信頼できる人だ。

彼女が『良き隣人』として近くにいてくれれば、魔王領も安心だからね。

だから、俺はソフィーにひとつの提案をした。

すると──

「素晴らしいご提案をいただきました。ぜひ、そうしましょう!」

ソフィーはとてもいい笑顔を見せてくれたのだった。