軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第132話「『ウォーターサモナー』の試用レポートを読む」

「つまり、近くにある水を引き寄せるのが、『ウォーターサモナー』の効果なんです」

ルキエとお茶会をしてから、数日後。

俺は玉座の間で、『ウォーターサモナー』のプレゼンテーションをしていた。

説明を聞いているのは、魔王ルキエと宰相ケルヴさん。

他にも、衛兵のミノタウロスさんに、魔術部隊のエルフさん。その他にも調理係さんや服職人さん。魔王領の開拓を担当しているドワーフさんがいる。

みんな真剣に話を聞いてくれてる。

この『ウォーターサモナー』に興味があるみたいだ。

「実験では、桶の中の水を真上に、引っ張り寄せたり飛ばしたりすることができました。つまり、このアイテムは水に方向性を与えるもの、ということです」

俺は説明を続ける。

ミノタウロスさん、エルフさん、ドワーフさんたちは無言でうなずいてる。

わかってくれてるみたいだ。

「さらに、注ぐ魔力の強さによって、水を引き寄せる力が変化します。慣れないと、使い方が難しいアイテムでもあります。失敗するとずぶ濡れに──」

「ごほんごほんげほんっ!」

「──なったりすることもないとはいえないので注意してください。いえ、実際にそういう事故があったわけじゃないですけど。あくまでたとえ話ですけど!」

そう言って、俺は魔王ルキエと宰相ケルヴさんに向かって、一礼した。

咳き込んだばかりのルキエは口元を押さえてる。

宰相ケルヴさんは直立不動のまま、難しい顔だ。

俺は、列席者の方に向き直る。

玉座の間にいるのは、衛兵隊長のミノタウロスさん、魔術部隊の隊長で、魔王領の調査部隊も兼ねているエルフさん、それに、調理係のドワーフさん。

3人とも、緊張した表情で『ウォーターサモナー』を見つめている。

手を伸ばそうとして……途中で止めてる人や、踏み出そうとして我慢している人もいる。なんだろう、この雰囲気。

もしかして、表面に召喚用の魔法陣が書かれているのが気になるのかな?

勇者が飛び出してくるんじゃないかと警戒してる……とか?

「ご安心ください。『ウォーターサモナー』の魔法陣は、俺が独自にアレンジしたものです。水しか呼び出せないようになってますから、勇者を召喚したりはできません。安全対策は万全です」

「「「…………」」」

3人とも、やっぱり無言だ。

表情は変わらない。でもって、そわそわとケルヴさんの方を見てる。

なんだろう。

まぁいいや。とりあえず、説明は終わりだ。

「以上でプレゼンテーションを終わります。ご静聴ありがとうございました」

俺はそう言って、列席者の皆さんに頭を下げた。

目の前にある台には、3つの『ウォーターサモナー』が置かれている。

宰相ケルヴさんの指示で用意されたものだ。

見本として用意したものだ。これから、希望者に配られることになるはず。

「──お疲れさまでした。錬金術師トールどの」

宰相ケルヴさんが口を開いた。

「皆も『ウォーターサモナー』について、よくわかったことと思います。ですが、まだ触れてはいけませんよ……って、そこ! 開拓担当のドワーフさん! まだ動かないように!!」

「し、しかし宰相閣下。そのアイテムは非常に有益で……」

「おっしゃりたいことはわかります。ですが、これは効果の大きすぎるアイテムなのです。許可を出すまで待ってください」

宰相ケルヴさんは「どうどう」って感じで手を振ってる。

なるほど。みんなが緊張してたのは、『ウォーターサモナー』に近づくのを 堪(こら) えてるからだったんだね……。

「──こんなすごいアイテムなら、試したいのは、当然」

「──魔王領の井戸や……給水のやり方が変わるかもしれません」

「──自分に使わせてください。宰相閣下!」

みんな、じっとケルヴさんの方を見てる。

でも、ケルヴさんは魔王ルキエの方を向いて、

「魔王陛下に申し上げます。トールどのの『ウォーターサモナー』は、魔王領の利水環境を変えるかもしれません。けれど、一気に普及させるのは危険と考えます」

そんなことを、宣言した。

「第1の理由は、コントロールが難しいことです。事故を防ぐためにも、使用者は限定するべきでしょう。第2に、これは皆が欲しがるアイテムだという問題があります。盗難などの事故を防ぐためには、登録した者にのみ使わせるべきかと」

「なるほど。一理あるのじゃ」

「第3の理由として、これが新しすぎるアイテムであるということです。まずは数人の者が使ってみて、問題がないかチェックするべきだと考えます」

さすがは宰相ケルヴさんだ。理にかなってる。

『ウォーターサモナー』のコントロールが難しいのは実証済みだし、みんなが欲しがるアイテムだというのもわかる。

普及させる前に、少人数でチェックするべきだというのも当然だ。

すごいな。ケルヴさんは。

「ありがとうございます。宰相閣下。俺のマジックアイテムのことを、そこまで考えて下さって」

俺はケルヴさんに向かって一礼した。

「宰相閣下のような方がいらっしゃるから、俺は安心してマジックアイテムを作ることができるのです。閣下がいらっしゃらなかったら……マジックアイテムを作る数が、半分以下になっていたかもしれません」

「そ、そうなのですか!?」

「はい。閣下がチェックしてくださるから、俺は安心してマジックアイテムを作れるのです」

「私は…… 休暇(きゅうか) を取るべきなのでしょうか」

ケルヴさんは、ぽつりとつぶやいた。

気持ちはわかる。

責任のある仕事だからね。ケルヴさんも、たまには休みを取った方がいいと思う。

その間、俺はマジックアイテムを作って、復帰に備えて準備しておくから。

「いえ、トールどののことですから、私が休暇を取ったら……復帰に備えてマジックアイテムを大量に作っていそうですね」

「わかりますか」

「正解だったのですか。そうですか……」

「お主たち……意外と気が合うのではないか?」

玉座の間でルキエは苦笑いしてる。

いやいや、俺はケルヴさんを尊敬してるし、気が合うつもりだったんだけど。

「まぁよい。余も、ケルヴの意見に賛成じゃ」

ルキエは列席者を見回し、告げた。

「この『ウォーターサモナー』は、希望者の中から数名を選び、渡すこととしよう。その者たちにしばらく使ってもらい、その感想を聞くのが良かろう」

「御意。それならば、隠れた欠点などもわかるでしょう」

「そうじゃな……そのためにも、試用した者たちには詳しいレポートを書いてもらうこととしよう。それを参考に、今後の『ウォーターサモナー』の扱いを決めるのじゃ」

「レポートは無記名がよいかと。使う者の地位によって、評価が変わってはいけませんから」

「うむ。皆もそれでよいか?」

魔王スタイルのルキエは、皆の方を見渡している。

「不満や心配がある者は、遠慮なく申すがよい。直言を許す」

「……あの、魔王陛下」

列席者の中で、ミノタウロスさんが手を挙げた。

「ミノタウロスのわたしたちは、感想とか、書くの、苦手です」

「自分もそうです。マジックアイテムの感想や評価などは、経験がないもので」

「見本のようなものがあればいいのですが……」

ドワーフさんとエルフさんが言葉を引き継いだ。

なるほど。感想文の見本か……。

だったら──

「ん? トール。手を挙げておるな。なにか言いたいことがあるのか?」

「はい。よろしければ『通販カタログ』の中にある感想文を、見本として提出したいのです」

『通販カタログ』には様々なマジックアイテムが載っている。

それと一緒に、使った人たちの感想文や、評価の文章も掲載されているんだ。

魔王城の人たちの参考になるかもしれない。

「俺が『通販カタログ』の感想文を 翻訳(ほんやく) して、羊皮紙に記載いたします。それをお手本にしていただければ、皆さまも感想を書きやすいのではないでしょうか」

「──勇者世界の、情報を!?」

「──私どもに教えていただけるのですか? なんとすごい!」

「──ぜひお願いいたします。トールどの!!」

ミノタウロスさんたちは乗り気みたいだ。

ルキエは──うん。うなずいてるね。

「よかろう。では『通販カタログ』の感想文を見本──テンプレートとして、皆に使わせることとする」

魔王ルキエは言った。

「その者たちの感想文やレポートを参考に、長所や欠点を洗い出す。その後、このアイテムを一般に普及させるか、決められた場所で使うかどうかを決めよう」

みんなから文書で感想をもらうのなんて初めてだ。楽しみだな。

欠点なんかも、遠慮なく教えて欲しいな。

それを参考に『ウォーターサモナー』をもっとブラッシュアップできるから。

「ただ……あまりに欠点が多かった場合『ウォーターサモナー』は使用中止とした方がいいかもしれません」

不意にケルヴさんは俺を見て、そう言った。

「『レーザーポインター』や『 隕鉄(いんてつ) アロー』『お掃除ロボット』とは違い、『ウォーターサモナー』は一般家庭で使うものです。危険がある場合は、使用中止にするのも仕方ないでしょう。わかってくださいますか、トールどの」

「もちろんです。宰相閣下」

俺は答えた。

俺が作ったアイテムで、みんなを危険にさらすわけにはいかないからね。

そのときはまた改良して『ウォーターサモナー2』を作ればいい。

「それでは『ウォーターサモナー』については以上とする」

魔王ルキエは宣言した。

「選ばれた者は、詳細なレポートを提出するように。余やケルヴが読むからと言って、言葉を飾る必要はないぞ。『ウォーターサモナー』について、思いのたけを存分に語るがよい。以上じゃ!」

そうして『ウォーターサモナー』のプレゼンテーションは無事に終了した。

俺は部屋に戻って、『通販カタログ』に載っている感想文を翻訳して、書き写したものをケルヴさんに提出した。

その時点で『ウォーターサモナー』の試用希望者は、すでに30人を超えていた。

待ってると、魔王城の全員から希望が来そうな勢いだった。

結局、その日の午後に、試用希望の受付は締め切られて──

その後、抽選で選ばれた数名に『ウォーターサモナー』が配られた。

そうして、さらに数日後。

魔王ルキエと宰相ケルヴさんの元に、試用者たちによる詳細なレポートが届いた。

その内容は──

──────────────────

──『ウォーターサモナー』試用者のレポートより──

「信じられないくらいお料理が簡単に!」

( 匿名希望(とくめいきぼう) Dさん)

魔王領の水源は地下にあります。

これは地下水脈を利用しているからで、そのために豊富な水を利用できるのですが、毎日の水汲みは時間がかかる作業でもあります。

特に、お料理には多くの水を使います。

種族ごとに好物が違いますから、多くの種類の料理を作る必要があります。

そのために、たくさんの水を用意しなければいけないのです。

厨房は1階にあるのですが、それでも地下から水を運ぶのは、料理係にとっては時間のかかる作業でした。

そんなとき出会ったのが『ウォーターサモナー』です。

なんと、錬金術師さまにお願いしたら、木製の筒までついてきたのです。

『先着3名さま、セットでお得!』おっしゃっていました。

おかげで、すごく使いやすかったです。

筒に『ウォーターサモナー』をはめ込み、さらに『ウォーターサモナー』を挟んで、もうひとつの筒をはめ込みます。最後に、筒の一番上の部分に、もうひとつ『ウォーターサモナー』を接続します。

筒をふたつ接続すれば、地下の水源から、階段の上まで届くようになるのです。

その状態で『ウォーターサモナー』に魔力を注ぐと……なんと、地下から地上まで、水が上がってくるではありませんか!

これまで、地下まで何度も往復していたのが嘘みたいです。

魔術で水を生み出すこともできますが、正直、忙しいエルフさんたちに魔術での水作成をお願いするのは心苦しいものでした。

それが、一気に解決したのです!

おかげでお料理もラクラク。

洗い物も、とても快適になりました!

空いた時間で私たちは、新しいメニューを研究しています。

厨房(ちゅうぼう) 係の生活を変えてくれた『ウォーターサモナー』を、ぜひ、魔王領の他の人たちにも体験して欲しいです!

──────────────────

「カラカラだった荒れ野に水が!」

( 匿名希望(とくめいきぼう) Eさん)

魔王領北部には、手つかずだった土地がありました。

そこは広い荒れ地で、土も固く、なかなか開拓ができなかったのです。

問題は水源がないことでした。

近くに湖はあったのですが、まわりは岩場で、荒れ地まで水を引くのが難しかったのです。

そんなとき使い始めたのが『ウォーターサモナー』でした。

使い方は簡単。湖から荒れ地まで小さな溝を作り、そこに『ウォーターサモナー』を置くだけです。

初めは半信半疑でした。

部隊長も「こんなもので水が引けるのか?」と笑うくらい。

と・こ・ろ・が、湖から1メートルの距離に置いた『ウォーターサモナー』に魔力を注ぐと、溝を伝い、荒れ地に向かって水が流れ始めたのです!

あとは『ウォーターサモナー』を少しずつ移動させて、荒れ地に水を導くだけ。

それを何回か繰り返すうちに、湖から荒れ地まで水の流れができました。

こんなに簡単に水が引けるなんて、部隊長も私もびっくりです!

今は、荒れ地にため池を作り、そこに水を引く作業を始めています。

いずれこの地も、豊かな田畑に変わることでしょう。

『ウォーターサモナー』……もう、手放せません!

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「心置きなく『しゅわしゅわ風呂』に入れるように」

( 匿名希望(とくめいきぼう) S皇女さん)

交易所に設置された『しゅわしゅわ風呂』は良いものです。

視察のついでに、 羽妖精(ピクシー) のSさまと一緒にお風呂に入るのは、私の楽しみのひとつでもあります。

けれど、気になるのはお風呂に水を入れてくださる方々のこと。

交易所のミノタウロスさまが井戸から水を汲んでくださるのですが、その作業はとても大変です。

いくらお役目とはいえ、お風呂に入るたびに、心苦しく思っていました。

そんなとき、私は不思議なものに気がつきました。

いえ、気づいたのは羽妖精のSさまですが……ミノタウロスさまは、新しい水汲み方法を編み出していらっしゃったのです。

それは、とても不思議なものでした。

ミノタウロスさまが金属片に触れると、木製の筒から水があふれ出すのです。

筒は片方が井戸の底に、片方がお風呂場に繋がっていました。

そして……みるみるうちにあふれ出した水は、浴槽を満たしてしまったのです!

ええ、もちろん、この技術が秘密であることはわかっております。

秘密にしろとおっしゃるなら、この身をかけて、口を閉ざしておりましょう。

ただ、お礼を申し上げさせてください。

ミノタウロスさまのご負担を減らしてくださり、ありがとうございます。

これで、私は心置きなく『しゅわしゅわ風呂』に入ることができます。

本当は直接、お礼を申し上げたいと思い、何度も『隠し部屋』を覗いてみたのですが、あの方はいらっしゃらないご様子。

なので、羽妖精Sさまに、感想をお伝えすることにいたします。

この『水くみアイテム』は、働く人のことを考えた、素晴らしいアイテムです。

どうか、開発者さまのお心を汲んでいただき、採用いただけるように願います。

そうして、お伝えください。

S皇女 (匿名希望)は、あなたさまが隠し部屋にいらっしゃるのを待っております、と。

感想を述べる機会をいただき、ありがとうございました。

魔王領の、ますますのご発展を願っております──

──────────────────

──その後、玉座の間では──

「これが、皆のレポートか」

「……予想外でした。魔王領の皆は、あっさりと『ウォーターサモナー』を使いこなしているようです」

数日後、玉座の間。

レポートを見た魔王ルキエと宰相ケルヴは、ため息をついていた。

「使いこなしているというより、すでに必須アイテムになってしまっておるな」

「使用禁止にしたら……皆が怒りそうですね」

「『水を引き寄せる』というシンプルな効果のアイテムじゃが、それだけに使い道は多いのじゃな」

「……はい」

「ケルヴよ。余は、皆に『ウォーターサモナー』を使わせるべきじゃと思う」

魔王ルキエは、柱に額を押しつけたままのケルヴに向けて、告げた。

「一気に普及させるのは危険じゃろう。じゃが、試用させた者たちには、このまま使い続けてもらってもよいのではないか?」

「……そうですね」

ケルヴはうつむいたまま、じっと、レポートが書かれた羊皮紙を見ていた。

なんとなく、目が離せなかったのだ。

『ウォーターサモナー』を試用した者たちが一心に描いた感想と記録。

これを無視するのは、宰相として間違っている。そんな気がして仕方がなかった。

「彼らが提出したレポートには、それだけの説得力があります」

「トールが翻訳した『感想文の見本』に合わせたものじゃな」

「もしかしたら、あれには勇者世界の魔術が関与しているのかもしれませんね。ああいう文章を読んだものは、自然と、そのアイテムを採用したくなってしまう……そんな術が施されているのではないでしょうか?」

「あり得ぬ話ではないが……」

ルキエは仮面のまま、少し首を傾げてから、

「それでも、皆が『ウォーターサモナー』に感動していることに違いはなかろう?」

「確かに、おっしゃる通りです」

「勇者世界の見本を利用したとはいえ、彼らの熱意は本物じゃ」

「厨房係のDも、開拓をしているEも、交易所で『しゅわしゅわ風呂』を使っているS皇女も……ん? んんっ!? んんんんんっ!? S皇女!? 皇女とは!?」

「今ごろ気づいたのかケルヴよ……」

「レポートの内容に気を取られ過ぎておりました」

「まぁ、匿名希望S皇女ならば、マジックアイテムの情報を漏らすこともあるまい。あの者は……トールの側室になることを希望しておるのじゃからな。あやつの不利になることは、決してしないじゃろ」

「そ、そうですね」

「とにかく『ウォーターサモナー』はこのまま、試用した者に使い続けてもらうこととする。その後1ヵ月後に様子を見て、徐々に数を増やしていくこととしよう」

「……陛下」

「どうしたのじゃ。ケルヴよ」

「また、魔王領が変わってしまいますね……」

「仕方あるまい。魔王領は、錬金術師トール・カナンを受け入れることに決めたのじゃから」

ルキエは口元を押さえて、楽しそうに笑った。

「あやつを受け入れたからには、あやつがもたらす変化も受け入れなければなるまい。そうやって魔王領は進化していくのじゃ。これもまた、楽しいことではないか?」

「わかります……ただ」

「ただ?」

「文官としての私の仕事が……増えそうな気がして怖いのですが……」

「トールに相談すれば、仕事を減らすアイテムを作ってくれるのではないか?」

「恐ろしい結果を招きそうなので遠慮いたします!」

頭に浮かんだ想像に怯えるように、額を押さえる宰相ケルヴ。

それから、彼は真面目な顔になり、

「ともかく『ウォーターサモナー』については、このまま試用を続けることといたしましょう。それにつきましては、私も覚悟を決めました」

「うむ」

魔王ルキエはうなずいて、

「では、1ヶ月後に皆の意見を聞いた上で、数を増やすかどうか決めることとする。そうしてゆっくりと『ウォーターサモナー』を普及させることとしよう。それが魔王ルキエ・エヴァーガルドの決定じゃ」

そんなことを、宣言したのだった。

こうして、トール製作の『ウォーターサモナー』は、魔王領の一部で使われることが決まり──

「耕作地が増えました!」

「料理が楽になった分だけ、メニューのレパートリーが増えました!」

「身体を洗いやすくなったので、衛生環境が良くなりました!」

「鉱山を開発している途中に出てくる水を排出できるようになり──」

「洗濯がこまめにできるようになって──」

──それは魔族と亜人の国に、帝国以上に快適な住環境をもたらす第一歩となるのだが……それはまだ、誰も思いもよらないことなのだった。