軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話・王都へ帰還

王都の夜は、ざわついていた。

先程まで、王宮の大広間にて――ある晩餐会が開かれていた。ともすれば、国家の未来が分かたれる程の、大きな意味を持つ晩餐会が。

その晩餐会は既に終わっている。いまのざわつきは、その余韻だ。

そんな余韻が漂う中――城の一室には、ひときわ空気の違う一団が集まっている。

アウローラ率いる、「魔境の大森林探検隊」。

護衛たち。

侍女たち。

皆が揃って、部屋の中央に立つアウローラへと向き直る。

「殿下――お疲れさまでした」

全員が一斉に頭を下げた。

それは、形式張った礼ではなく。

異国との晩餐会を、無事に乗り切った第二王女に向けた、心の底からの労わりだった。

アウローラは、軽く息を吐き、肩の力を抜いた。心の底からの安堵。

同時に感謝の念が浮かぶ。今も、森の中で過ごしている賢者、有羽に対してのもの。

そして思い出す。アウローラ達が魔境の大森林から帰還した日の事を。

◇◇◇

王都の城門が見えたとき、空はすでに淡い橙に染まり始めていた。

魔境の大森林を抜け、南へ南へと進み続けたアウローラ御一行は、 守護力場(フォースフィールド) の加護のおかげで、一度の大きな危機もなく王都へ帰還する。

「殿下、お疲れのところではございますが……」

馬を並べた近衛が、申し訳なさそうに声をかけてきた。

「分かっている。すぐ王宮だ」

アウローラは短く答えた。

今回ばかりは、ゆっくり風呂に浸かっている暇はない。

有羽――山の賢者の助言を、一刻も早く国政の場へ持ち込む必要がある。

城門を抜け、そのまま王宮へ。

馬を降りると同時に、侍従たちの出迎えを軽く手で制し、迷いなく奥へ歩を進める。

向かう先は、異国との外交を担当する貴族たちが詰めている部屋。

魔境へ向かう前に、「賢者に助言を乞うてくる」と話を通しておいた場所。

重厚な扉の前に立つと、中から人の声が漏れ聞こえてきた。

「……しかし、魚だけでは簡素に過ぎるのではないか?」

「かといって、今さら主菜を変えるのは」

「牛を出さぬのは、客人に対して不敬では――」

扉を開けると、豪奢な会議室には数名の貴族が集まり、卓上には献立案らしき紙が散乱していた。

顔ぶれは、外務を司る伯爵家、食膳を取り仕切る大貴族、礼法にうるさい老侯爵――いずれも、この国の「顔」とも言うべき者たちである。

しかし、その表情は一様に曇っていた。

どうやら、異国の使節団を迎える晩餐会のメニューが、いまだに決まっていないらしい。

焦りはもっともだ。

いかに優れた料理人であっても、時間も材料も無限ではない。

本来なら、とうに献立を固めている頃合いだ。晩餐会の日も近い。

アウローラは、部屋の空気をひと目見て状況を把握し、ためらいなく声を発した。

「――禁忌を、聞いてこい」

ぴん、と張り詰めた空気が揺らぐ。

「アウローラ殿下!」

立ち上がりかけた貴族たちを、彼女は手で制した。

「相手の『禁忌』を聞けと言っているのだ。好みではなく、禁忌だ」

アウローラは、まっすぐに卓上を見据えた。

「お互いに、言葉が通じにくいのは既に承知していよう。であれば――家畜の姿を見せろ。絵でもよい。何を忌避し、何を主食としているのか、それを早急に判別せよ」

貴族の一人が、おずおずと口を開く。

「すでに、ある程度の好き嫌いは判明しております、殿下。その上で料理を悩んでおるのですが……」

「それは本当に、『好き嫌い』で済む問題か?」

アウローラの声が、低く抑えられた。

「……ともすれば、殺し合いに発展する可能性があるのだぞ?」

ざわ、と、室内が揺れた。

眼を剥く者。

顔色を変える者。

訝しげに眉をひそめる者。

「さ、さすがに、そこまでは――」

「ある」

アウローラは、きっぱりと言い切った。

「賢者は、そう言った」

室内が、静まり返る。

アウローラはゆっくりと言葉を紡いだ。

「海の向こうの異国は、生活そのものに宗教が深く根付いている可能性が高いと。食卓にあがるもの、身に着けるもの、一つ一つに『これはよくて、これは駄目だ』という戒律があるかもしれぬと」

我が国は、食に大らかだ。

家畜は家畜。

食べられるものは感謝して食べる、というスタンスが強い。

神々を敬わない訳ではないが、「これは絶対に口にしてはならない」という禁忌は少ない。

「だが、海の向こうも同じだと、なぜ言い切れる?」

アウローラは、鋭く言い放つ。

「賢者は言った。『自国で最も神聖とされる行いが、他国では忌むべき行動の場合もある』と」

貴族たちの喉が、ごくりと鳴る音が、いくつも重なった。

「万が一、相手にとっての『禁忌』を食卓に並べたならば――血が流れる事態になりかねぬ。好き嫌いの次元ではない。信仰と誇り、その根幹に触れることになる」

室内に漂っていた「豪勢な晩餐にせねば」という思惑が、一気に引き締まった。

アウローラは続ける。

「賢者は、異国からの文書の写しと、奴らの服装の特徴。それだけで、その国の名産や気候まで言い当てた」

そこで、貴族たちははっとする。

アウローラが森へ発つ前、賢者――森の中の大賢者と称している男――の話を聞かせた際、その洞察力には半信半疑な者もいた。

だが、今のアウローラの口調には、一切の揺らぎがない。

「彼の知識は、信用に値する」

アウローラは、ひとりひとりの顔を見回した。

「すぐさま行動に移せ。言葉がまともに通じぬ相手との会談だ。望むべきは『最高の饗応』ではなく、『最悪を避けること』だ」

最上を争う前に、致命的な地雷を避けろ。

「それが、賢者の助言だ」

数秒の沈黙。

それを破ったのは、年若い伯爵家の当主だった。

「……はっ!」

椅子を引き、深く頭を下げる。

「すぐに、家畜の絵を用意させます。牛、豚、羊、山羊、鶏……出来る限り多く」

「我が家の通訳を連れて参ります。身振り手振りも総動員して、反応を探りましょう」

「厨房にも伝えねば。献立すべて、いったん白紙に戻させるしかあるまい」

ばたばたと、貴族たちが散っていく。

アウローラは、ようやく息をつき、側に残った老人に目を向けた。

白髪に、深い皺。

だがその眼光は鋭い。

この国の対外政策を長年支えてきた老侯爵だ。

「……殿下」

老人は、穏やかな声で問いかけた。

「賢者殿は、そこまで言い当てましたか」

「ああ」

アウローラは頷く。そして老侯爵に書類を手渡す。

それは有羽の語りと、注意事項。そして異国の文化を予想した書類。

老侯爵は、その書類をめくり目を通し始める。

その様子をアウローラは確認しながら、話し始めた。

「賢者が見たのは異国の文字の写し。それから、あの者らの纏う衣服だけ」

砂色の布。

身体を広く覆う衣装。

暑さ対策と砂塵避けの工夫。

「そこから、海の向こうは乾いた土地、砂漠の多い気候と推測していた。積み荷は胡椒や香辛料だろうとも」

老人の口元が、わずかに上がる。

「……驚きましたぞ」

老侯爵は、机の端に書類を置く。

少し目を通しただけだが……その顔は驚きに満ちていた。

「通訳のおかげで、ようやく掴み始めた相手国の政治形態や気候、交易の要……それらの多くが、殿下の言う賢者殿の言葉と重なっております」

「そんなに、か」

「八割方、合致しておると言ってよいでしょうな」

八割。

残りの二割は、この世界ならではの「魔法」の存在が生んだ違いだ。

地球では摩訶不思議な力と呼ばれるものが、この世界ではあまりにも当たり前に存在する。

それが、国の成り立ちや政治体制の細部に、微妙な差異をもたらしていた。

だが――。

「大筋は、賢者殿の指摘どおりです」

老侯爵は、深く息を吐いた。

「もし殿下が、『食の禁忌』という視点を伝えてくださらなければ……我らは、そこに考えが至らなかったかもしれませぬ」

「……そうか」

アウローラは、胸の内でひやりとしたものを感じた。

有羽と出会っていなければ。

あの森で、彼の説明を聞かなければ。

自国の常識を、そのまま異国に押し付ける形で、晩餐会を準備していたに違いない。

牛は高級品。

貴い客人には、最高の牛肉を。

そう疑いもせず、豪華な牛の丸焼きを中央に据えて――。

(……危なかった)

ぞくり、と背筋が冷える。

そのときだった。

「失礼いたしますっ!」

扉が荒々しく開かれ、一人の貴族が駆け込んできた。

肩で息をし、額には汗。

先ほど慌てて飛び出していった若い伯爵だ。

「どうした?」

老侯爵が眉をひそめる。

「例の……家畜の絵を、相手に見せてまいりました」

伯爵は、息を整えきれないまま、アウローラの前で膝をついた。

「殿下……殿下の言葉がなければ……!」

その目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

「落ち着け。何があった」

アウローラが促すと、伯爵は震える声で続ける。

「牛の絵を見せた途端――異国の者達は、祈りを捧げ始めたのです」

室内の空気が、凍りついた。

「祈り?」

「はい。絵に描かれた牛の前で、彼らは静かに頭を垂れ、何やら言葉を唱え始めました」

伯爵の声には、あからさまな動揺が混じっている。

「とても厳粛な様子で……真摯に、心から祈っていると、一目で分かりました。あれが、彼らにとってただの『家畜』でないことは、素人目にも明白でした」

伯爵は、両手を握りしめる。

手は震えている。紛れも無い恐怖が、そこにあった。

「とても……とても、食卓に飾れる様子ではありませんでした。ましてや、切り分けて供すなど――考えただけで背筋が寒くなります」

誰かが、小さく息を呑んだ。

アウローラは、静かに目を閉じる。

頭の中に、有羽の声がよみがえった。

『知らずに向こうの国の 禁(・) 忌(・) を食卓に出したら、殺し合いも起きかねないクラスの奴がある』

このことか、と。

「……殿下」

伯爵は、涙声で頭を下げた。

「殿下のご忠告がなければ、我々は危うく――神聖なものを、客人の前で切り刻むところでした」

老侯爵も、深く頭を垂れる。

「今回ばかりは、賢者殿と、殿下に足を向けて眠れませぬな」

アウローラは、ゆっくりと息を吐いた。

森の中のログハウス。

椅子に座りながら平然と、「宗教が生活に根付いてる国かも知れない」と言っていた黒髪の青年の顔が、脳裏に浮かぶ。

(……本当に、助かった)

この世界の誰も気づかなかった危険を、別の世界から来た「世捨て人」が指摘してくれた。

そのおかげで――。

波風を立てずに済む保証はどこにもないが、それでも「最悪」は、一つ避けられたのだ。

アウローラは、目を開ける。

「礼を言うのは、まだ早い。晩餐会はこれからだ。賢者の助言を活かすも殺すも、我ら次第だ」

それでも、と心の中で続ける。

(有羽。お前の言葉で、救われる命が、きっとある)

その事実だけは、胸の奥でそっと噛みしめた。

◇◇◇

そして数日後。異国の客人たちを迎えた晩餐会。

言葉はたどたどしく、通訳を挟んでも微妙なズレが生じる。

無論、異国の使節を迎える為、アウローラもドレス姿で歓待に臨んだが、上手く意思疎通が取れる訳でも無い。

けれど、アウローラは諦めなかった。

笑顔と身振り手振りを総動員して、彼らに「敵意はない」と伝えようとした。

――有羽の言葉を、何度思い出したことか。

『懸命な態度ってさ、案外、美辞麗句よりも胸に響くよ。言葉が通じなくても、伝わる気持ちはある。気品とか品格より、大事な事が、異国との会談にあるかもしれない』

少し照れくさそうに、頭をかきながら言っていた彼の顔も一緒に浮かぶ。

『俺が保証する……本当に、誰かさんの根気強い訪問を味わった俺が太鼓判押すから』

その一言を思い出し、アウローラはつい、口元をゆるませてしまった。

にへら、と。

侍女たちが「出た」と言わんばかりの目をする。

(……いけない)

自分で気づいて、慌てて表情を引き締めた。

「兎にも角にも――ひとまず、異国との会談は無事終わった」

アウローラは、皆の顔を見渡しながら告げる。

「まだまだ先は長いし、油断はできぬ。今後は、正直なところ、私よりも外交官たちの働きに期待するしかないが……少なくとも、悪い印象は抱かれてはいないはずだ」

そこで、ふと晩餐会の一幕が脳裏をよぎる。

異国の代表――砂色の衣をまとった中年の男。

片言の王国語で、拙いながらも感謝を伝えてきた。

『ウシ……出さない。感謝する』

ゆっくりと選ぶように言葉を紡ぎ、胸に手を当てて頭を下げた。

牛を、食卓に出さなかったこと。

自分たちの国の「食」の在り方を尊重しようとしてくれたこと。

それを、彼らは確かに汲み取っていた。

もちろん、王国の料理に眉を顰めた船員もいた。

この国が牛を食することもあると知ったとき、露骨に顔をしかめる者もいた。

だが――もしも「最悪の選択」、つまり彼らにとって神聖な存在を、誇らしげに丸焼きにして供していたら。

眉を顰める程度で済んではいなかっただろう。

怒号が飛び、杯が叩きつけられ、刃が抜かれていたかもしれない。

本当に、血が流れていた可能性だってある。

(……有羽のおかげだな)

胸の内で、小さく呟く。

晩餐会は、全部が全部、失敗ではなかった。

牛を食べる文化を持ちながら、他国の禁忌を尊重しようとしたことに、目を潤ませて喜んでいた船員もいた。

友好の手は、まだ消えていない。

◇◇◇

「では、次の議題に移るとしよう」

アウローラが軽く咳払いをして、空気を切り替えると、部屋の隅で控えていた文官が、一歩前に出た。

彼の手には、見慣れた魔道具がある。

小さな石板のような土台と、その上に載せる透明な水晶。

人が手を置くと魔力を読み取り、「レベル」を数値として示す、魔導測定器だ。

「測定の時間ね」

侍女たちの顔つきが、少し引き締まる。

護衛たちも、静かな闘志を宿した目になる。

魔境の大森林から帰還した時から、定期的に行う習慣になっていた。

あの大樹海は、凶暴な魔物たちの巣窟だ。

そこを踏破して帰ってくるということは、多くの死地を潜り抜けた証。

そして、そのたびに――人は強くなる。

過去の英傑たちもそうだった。

文献には、戦のたび、死線を越えるたびに「レベル」が跳ね上がっていったと記されている。

「では、護衛から」

一人目が、魔導測定器に手を置く。

淡い光。

水晶の内部に数字が浮かぶ。

「41」

「おお……」

ざわ、と小さな感嘆が漏れる。

二人目。

「42」

三人目。

「40」

四人目。

「43」

測るたびに、数字は当然のように「40」を越えていた。

一般人で1~10。

腕自慢で10~15。

兵士が20前後。

国でも有数の者でようやく30に届く。

将軍や魔導元帥で40。

今や、護衛たちは全員、その「将軍クラス」に並んでいることになる。

「生きて帰るたびに、力が上がっていく感覚はありましたが……まさか四十を越えているとは」

誰かがぼそっと漏らし、周囲が苦笑する。

本来ならば偉業なのだが……彼等には、笑い話の一つにしかなっていない。

「侍女隊、どうぞ」

文官の声に、侍女たちが順に前へ。

一人目。

「37」

二人目。

「39」

三人目。

「35」

最低値ですら35。

もはや「王女付き侍女」という肩書が、じわじわと違う意味を帯び始めていた。

「……侍女の腕前、とは」

「もはや侍女が口実で、本職は騎士では?」

護衛たちの小声に、侍女たちがジト目を向ける。

「家事も戦闘もこなせてこそ、一流の王女付きですわ」

「そうですわそうですわ」

半分冗談、半分本気。

全員の測定が終わり、残るは一人。

「では、殿下」

文官が、水晶を慎重に磨き直すような仕草をした。

アウローラは、深呼吸ひとつ。

手袋を外し、素手を水晶へとそっと載せる。

静かな光。

数秒後、水晶の中に数字が浮かび上がった。

「……っ」

真っ先に息を呑んだのは、測定器の持ち主である文官だった。

「ど、どうした?」

護衛が慌てて覗き込む。

そこに表示されていた数値は――。

「レベル……59」

部屋の空気が、一瞬で変わった。

「五十……九」

ぽつりと誰かが繰り返す。

英雄級とされる50を越える者など、この国の歴史でも片手で数えられるほどだ。

『もしも50に届く者がいれば、それは英雄クラス』

それが、この世界の共通認識。

今、アウローラは、そのさらに「先」にいる。

59。

60が目前の領域。

完全に、伝説に名を刻む水準に足を踏み入れていた。

「……殿下」

老練な護衛が、思わず言葉を失う。

「俺たち、一応、全員40台なんですけどね……」

「こうも格の違いを見せつけられると、逆に清々しいですな」

「いや殿下、今後はもう少し護衛を頼っていただいても……」

「何を言うか。お前たちが居らねば、私とて後ろを預けられぬ」

アウローラはさらりと言ったが、護衛たちの内心は、もはや「守っているのか守られているのか」という感覚だった。

レベル59。

国家戦力として見た時、その存在は十分に「切り札」だ。

……だが、その数字を目にした瞬間、誰もが同時に思い浮かべた疑問があった。

(有羽殿って、いくつなんだろうな……)

あの男のレベルは、どれほどなのか。

竜の胴を一撃で貫く熱線。

安全な居住空間を作り出す強固に張り巡らされた結界。

料理一つ作るために、常軌を逸した魔法制御を平然とやってのける腕前。

今のアウローラが本気で挑んだとしても――いや、護衛と侍女を全員加えて総力戦を挑んだとしても。

(勝てる図が、まったく浮かばない)

誰もが、そう結論づけていた。

「レベル70とか、行っててもおかしくないよな……」

「下手すりゃ80……いや」

護衛の一人が、冗談めかして呟く。

「前人未到の『90』超えってのも、あり得なくはないかもしれん」

「やめろ、縁起でもないことを言うな。90なんて理論上の値だぞ」

「そうですわよ。もし本当に90だったら、この世界の力の物差しそのものが狂ってしまいますわ」

笑いながらも、その笑いはどこか引きつっていた。

しばしの沈黙。

誰も、その疑問を口に出そうとはしない。

有羽に「測ってみませんか?」なんて言える者は、この場に一人もいなかった。

知りたい。

けれど――知りたくない。

もしも桁が違っていたら?

自分たちの「強くなった」と思っている実感が、笑い話に変わってしまうような数字だったら?

(……怖すぎる)

護衛も。

侍女も。

そして、アウローラ自身も。

心のどこかでそう思っていた。

「……よし」

沈黙を断ち切るように、アウローラが手を叩いた。

「レベルの確認は以上だ。皆、よくやった」

きりっと顔を引き締め、次の指示を出す。

「次の森林探査は二週間後だ! それまで各自、体調管理はしっかりとな!」

「了解!」

威勢のいい返事が、部屋に響いた。

文官が魔導測定器を片づけ、侍女たちが書類を整える。

話題は、次第に次回のルートや携行品、補給体制の確認へと移っていった。

――有羽のレベルの話題だけは、誰も掘り下げないまま。

触らぬ神に祟りなし。

知らぬが、花。

恐ろしくも頼もしすぎる「賢者」の力の全貌については――。

アウローラ一行は、今後も全力で目を逸らしていく方針で、暗黙のうちに一致していたのだった。