軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遺跡探索(4)

遺跡に迷い込んでしまってから数時間後。

わたし達はなんとか、遺跡から脱出することができた。

……あのゴーレムのおかげだけどね……。

わたしとルルが遺跡から出ると、お父様が慌てて天幕の向こうから走ってきた。

「リュシエンヌ! ルフェーヴル!!」

駆け寄ってきたお父様に抱き締められる。

そうして顔に、肩に触れられ、怪我がないか確かめられた。

「怪我はないか? 二人がどこにもいないから大騒ぎになっていたんだ」

と、心配げに言われて、わたしは素直に謝った。

「心配をかけてごめんなさい」

「いやぁ、ちょ〜っと予想外のことがあってさぁ」

ルルが、あは、と笑い、事の経緯を説明してくれた。

最初は静かに聞いていたお父様だったけれど、遺跡の中に突然送られてしまった辺りからは眉根を寄せて、ゴーレムと出会ったところでは深く溜め息を吐いていた。

わたしもさすがに今回は色々と反省している。

遺跡の近くに、明らかに関係していそうな女神様の像があって、うかつに近づいて遺跡の中に送り込まれ、二人で内部を歩き回り、ゴーレムと出会って脱出したなんて、わたしがお父様の立場だったら叱りつけていただろう。

話を聞き終えたお父様が額に手を当てて、もう一度溜め息を吐いた。

「ちょっとどころの話ではないが、お前達が無事で良かった……」

「ごめんなさい」

「でも、おかげで遺跡調査がやりやすくなるはずだよぉ」

ルルの言葉に、お父様が『仕方ないな』という顔をする。

外は夕方で、もうすぐ日が落ちる頃だった。

午前中の早い時間に遺跡に移動してしまったが、思ったよりも長く遺跡の中を歩き回っていたらしい。景色も変わらないので時間の感覚がおかしくなっていたのかもしれない。

お父様がいなくなったわたし達を心配するのも当然だ。

「今は疲れているだろうが、皆にその話をしてもらえるか? 遺跡の調査が進むなら願ってもないことだからな」

「それはオレがするよぉ。……リュシーは屋敷に戻してもいーぃ?」

後半は小声で言うルルに、お父様が頷いた。

ルルは「リュシーは向こうで休んでていいよぉ」と微笑み、一旦、天幕に戻る。

すぐに転移魔法で屋敷に移動し、ルルはわたしをリニアお母様に任せると野営地に戻っていった。

リニアお母様は突然戻ってきたわたし達に気にした様子はない。

「リュシエンヌ様、お疲れのご様子ですね。入浴されてはいかがですか?」

と、言ってくれたのでわたしはそれに甘えることにした。

その後、かなり遅くに気だるそうな様子でルルが戻ってきた。

色々と質問攻めにされたようだけれど、明日もう一度遺跡に入るそうだ。

わたし達も一緒に行って、ゴーレムを紹介しなければいけない。

「すっごく疲れたよぉ」

そう溜め息交じりに言うルルを、その日の夜はめいっぱい甘やかした。

……わたしのせいで苦労をかけちゃったしね。

* * * * *

翌朝、天幕に転移魔法で戻り、朝食を摂ってから遺跡の入り口に向かった。

集合時間より早めに行ったのにもう全員が集まっていて驚いた。

どうやら気になって早く来てしまったらしい。

「ゴーレムは遺跡の中に?」

「はい、一日くらいなら外に出られるそうです。呼びましょうか?」

「……いや、いきなりゴーレムが現れたら他の者達も驚くだろう」

「分かりました」

ルルがランタンを取り出して火を灯し、持つ。

その後ろにわたしがついて、更にお父様やスウェン様、ノワイエ宮廷魔法士、調査員や騎士達が続く。

長い階段を下りていけば、見慣れた通路に出た。

そして、通路に座っていたゴーレムが顔を上げる。

「ずっとここで待っていてくれたの?」

──ハイ。

「そっか、ありがとう」

ゆっくりと立ち上がったゴーレムがこちらに近づいてくる。

お父様達が警戒した様子を見せるとゴーレムも立ち止まった。

「お父様、大丈夫です。この子が昨日、わたし達を出口まで案内してくれました。……ゴーレムさん、こちらはわたしのお父様と遺跡の調査に来た方々だよ」

──全員ノ顔ヲ確認シマシタ。遺跡ノ立チ入リヲ許可シマス。

「ありがとう。しばらく騒がしくしちゃうけど、手伝ってくれると嬉しいな」

──カシコマリマシタ。

わたしの言葉にゴーレムが頷く。

お父様が「リュシエンヌ」と声をかけてくる。

「そのゴーレムの言葉が分かるのか?」

「はい。あ、ゴーレムさんのお返事は右手を上げたら『はい』で、左手を上げたら『いいえ』です。できれば『はい』か『いいえ』で答えられるように質問をしてあげてください」

「……分かった」

お父様が後ろに軽く手を上げれば、騎士達が警戒を解く。

「ゴーレムさんは他に五体いるので気をつけてください。遺跡の立ち入りの許可と調査の手伝いはしてくれるそうです」

「そうか。……よろしく頼む」

お父様が声をかけるとゴーレムが右手を上げた。『はい』だ。

──陛下、父君ニモ、ネックレスヲオ渡シシマショウカ?

「え、いいの?」

──陛下ガオ望ミデアレバ。

「じゃあお父様にもお願い。あと、わたしのことはリュシエンヌでいいよ。説明すると長くなっちゃうけど、わたしはこの国の王にならないって決めたの」

ポォン、とゴーレムから音がする。

──カシコマリマシタ。王デナイトシテモ、コノ遺跡の所有者はリュシエンヌ様デス。

「そうなの? なんで?」

──他ニ所有者トナル存在ハ、国内ニ感知デキマセン。

つまり、この国には他に遺跡の所有者になれる人がいないということか。

お父様が不思議そうにわたしとゴーレムを見る。

「どうかしたのか?」

「この遺跡の所有者はわたしだとゴーレムが言っています」

お父様だけでなく、他の人々も目を丸くしてゴーレムを見た。

お父様が「リュシエンヌが遺跡の所有者なのか?」と問い、ゴーレムが静かに右手を上げた。それに全員が小さくどよめいた。

……うーん、通訳はちょっと面倒かも。

わたしの気持ちを察したようにゴーレムが言う。

──急ギ、ネックレスヲ用意シマス。

「うん、そうしてもらえると助かるなあ」

そして、少し待っていると通路の向こうからズシン、ズシン、と足音が近づいてきた。

目の前にいるゴーレムとそっくりなゴーレムが現れ、ネックレスをお父様に差し出した。

お父様がそれを受け取り、ノワイエ宮廷魔法士が確かめてから首にかける。

「誰か、一旦上に戻り、皆にゴーレムについて伝えてきてくれ。……長話をするには、ここはあまり適していない」

騎士が二人、上に戻っていった。

ゴーレムがそれに返事をする。

──リュシエンヌ様、遺跡ノ外ニ出ル許可ヲイタダケマスカ。

「うん、許可します」

お父様が目を丸くして振り返る。

ゴーレムは機械音声なので、聞き慣れないと変な感じがするのだろう。

騎士達が戻ってくるまで待つ間、お父様はゴーレムに色々と質問をしていた。

だが、ゴーレムが答えられることは少ないらしい。

質問の半数以上にゴーレムは左手を上げて『いいえ』と答える。

騎士達が帰ってきて、ゴーレムと共に地上へ戻ることになった。

騎士、お父様やスウェン様、ノワイエ宮廷魔法士、調査員、騎士、そしてルルとわたし、ゴーレムという順に階段を上がる。ゴーレムは意外と動きがゆっくりだ。

全員で地上に出て、最後にゴーレムがそろりと遺跡から出た。

ゴーレムなのに、恐る恐るというふうな仕草がなんだかおかしい。

二メートル半くらいある大きなゴーレムにどよめきが広がったものの、大きな天幕に移動する。

……入れるかな?

と、心配したけれど、ゴーレムは人間みたいに腰を屈めて中に入った。

そして、わたしの横にいるルル、お父様の間にズシンと座り込んだ。

「ルフェーヴル、通訳を頼む」

「はいはぁい」

面倒くさそうではあったが、質問攻めにされるよりはいいのだろう。

そこから、お父様が質問して、ルルがゴーレムの言葉を通訳してが始まった。

まずは遺跡に関する基本的な質問だったが、ゴーレムはやっぱりあまり答えられなかった。

そもそもゴーレムは『遺跡の守護と管理』を任されているだけで、それに必要な情報を与えられているものの、遺跡と女神様、旧王家との繋がりは理解していない。

「『自分達を作ったのはヴェリエ王家初代国王で、代々、王が代わる際に遺跡を訪れるはずでした。だが三百年ほど新たな王は現れず、ようやく遺跡の新たな所有者としてリュシエンヌ様が現れました』」

「では、この遺跡はヴェリエ王家の初代国王が建てたのか?」

「『はい、その通りです。初代国王に限らず、ヴェリエ王家の正統な王位継承者は特別な力を宿しています。女神様より授かったその力を使い、遺跡は建てられました』」

「特別な力とは?」

「『……私はその問いに答える許可をいただいておりません』」

その許可を出せる人物というのは、どうやらわたしではないらしい。

わたしが許可を出してもゴーレムは黙ってしまった。

遺跡について知りたければ、自分達で調べるしかないようだ。

話が落ち着いたところで、ふと疑問を思い出した。

「そういえば、通路の壁の彫刻について訊いてもいい?」

「『はい』」

「動物がこっちを向いていたり、別のほうを向いていたりしたけど、あれって何か意味があるの?」

「『はい、動物の向かう先が最深部です。動物達は女神様に背を向けることはありません』」

「女神様って、どういうこと?」

「『最深部に辿り着けばリュシエンヌ様は理解できます』」

結局、本当に訊きたいことは曖昧なままだった。

ただ、動物達の向いているほうに進めば最深部に辿り着ける。

それが聞けただけでも大きな収穫だろう。

「明日から、少しずつ遺跡の中を案内してもらいたいの」

「『かしこまりました。遺跡内部の警戒を一時的に下げます。全ての罠の稼働を停止し、調査が安全に行えるよう、協力いたします』」

「それはすごく助かるよ! ありがとう!」

罠が動かないなら、安全に調査ができる。

……というか、ゴーレムが罠の動きを制御できるんだ?

警備や管理を担っているなら当然なのだろうか。

その後、話し合いが終わるとゴーレムは遺跡に戻っていった。

ルルとそれを見送り、二人で息を吐く。

「色々、予想外の展開だね」

「ホントにねぇ。……あ〜、こんなに喋ったの久しぶりで疲れたぁ」

ルルがぐっと両腕を上げて伸びをする。

わたしはそんなルルに、感謝の気持ちを込めて抱き着いた。

「ありがとう、ルル」

何が、とは言わなかったけれど、ルルは「どういたしましてぇ」といつも通りの口調でわたしを抱き締め返してくれた。

……遺跡調査だけど、逆に謎が増えちゃった。

その謎を解明するためにも、調査を続ける必要があった。

* * * * *

翌日から、わたし達も調査でまた遺跡に入ることになった。

罠が作動しなくなり、安全に調査が行えるため、調査員達は三つの班に分かれて遺跡を調べることにした。遺跡の造りを調べる班、遺跡にかかっている魔法を調べる班、探索班となっている。

わたし達は探索班で、お父様達と一緒だ。

ゴーレムに案内してもらいながら、少しずつ遺跡の中を進んでいく。

……この子、最初に会ったゴーレムさんだよね……?

ゴーレムは全て見た目が同じだったけれど、なんとなく、そんな気がした。

遺跡の中はわたし達が思っていたよりも複雑に入り組んでいたようで、いくつも分かれ道があったり、行き止まりがあったりする。

ゴーレムは内部構造を把握しているのか、迷う様子はない。

分かれ道にぶつかる度に目印をつけさせてくれた。

そしてゴーレムの言う通り、壁の彫刻の動物達が向く方向には意味があった。

向いているほうが最深部に続いていて、背中は出口、正面を向いている時は行き止まり。意味が分かると納得したものの、こちらを向いている動物達はやっぱり少し落ち着かない。

「最深部って言っていたけど、この遺跡はどれくらい深くまであるの?」

わたしの問いにゴーレムがポォーンと音を鳴らす。

──地下ハ、二層構造ニナッテオリマス。現在地ハ一層目デス。

「二層目も一層目と同じくらい広かったりする?」

──ハイ、一層ト二層ノ広サハ同等デス。

……ってことは、二層目も結構広いんだ。

ゴーレムは歩きながら時々、部屋も案内してくれた。

休憩ができそうな部屋、何もない部屋、ゴーレムの部品がたくさん収納された部屋──……遺跡だからなのか、人の生活できそうな空間はない。

「過去に、王族以外でこの遺跡に入ろうとした者はいなかったのか?」

お父様の問いにゴーレムがポポォン、ピィンと初めて聞く音を出した。

──該当ナシ。入リ口の閉鎖ニヨリ、侵入者ハアリマセンデシタ。

「だから綺麗なのか」

お父様が納得し、スウェンさんに話す。

スウェンさんの話しでは、遺跡は宝を得るために調査をする人達──トレジャーハンターだろう──が、入ることが多く、そのせいで遺跡が壊されたり人骨が転がっていたりするのも珍しくないらしい。

だが、この遺跡は長年誰も足を踏み入れなかったから、綺麗なままだ。

──コノ遺跡ニハ、修復魔法ガカケラレテイマス。壊レテモ自動デ直リマス。

「それは便利だが……相当な魔力が必要なのではないか?」

──遺跡ノ魔法ハ魔力デ動イテイルワケデハアリマセン。

「魔力ではない? ……昨日言った、ヴェリエ王家初代の持っていた特別な力か?」

──ハイ。

ゴーレムとお父様が話しているのを黙って聞く。

……この遺跡を造って、維持して、一体どんな力なんだろう?

深まる謎を抱えたまま、わたし達は毎日、遺跡に潜るのだった。