軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遺跡探索(3)

* * * * *

遺跡の中を歩き始めて、だいぶ時間が経った。

分かれ道にぶつかる度に懐中時計を確認したが、既に二時間は歩いている。

時間的に昼食の頃なので、そろそろ遺跡調査を終えて戻った義父達がルフェーヴル達がいないことに気付くかもしれないが、こちらが遺跡の中にいると察してくれるかどうかは分からない。

罠を避けつつ、後ろにいるリュシエンヌに気を配る。

リュシエンヌは『魔力の糸』に触れても反応しないので普通に歩いていた。

……彫刻の違いなんて気付かなかったなぁ。

遺跡に二度入ったものの、どちらも罠に意識が向いていて壁の彫刻などあまり見ていなかったが、リュシエンヌはそうではなかったようだ。

昔から目の付け所が他人と違うとは感じていたが、まさか彫刻の変化に気付くとは。

言われて確かめてみれば、彫刻の動物達の向いている方向が異なっており、動物達はどうやら同じ方向に向かっているらしい。

目的地の方向すら定まらない現状では、どの道を選んでも結果は分からない。

それなら、動物の向いているほうに進んでみようということになった。

「リュシー、止まってぇ」

ルフェーヴルが手で制すれば、足音が止まる。

メガネの明かりで道の先を照らせば、そこには下に続く階段があった。

ルフェーヴル越しにリュシエンヌも階段を見て、言った。

「もっと下があるんだね」

だが、下に続くということは出口とは離れる。

「動物は奥に向かってるのかもねぇ」

「じゃあ、動物達が向いてないほうに進むのが正解なのかな?」

「ん〜、戻って、今度は背中側に向かって行ってみようかぁ」

ルフェーヴルの提案にリュシエンヌも「そうだね」と頷く。

突然遺跡の中に放り込まれてしまったが、リュシエンヌは冷静だった。

ルフェーヴルとしては、遺跡の外にまで罠があったことに驚いたものの、昔、遺跡の宝を探すのを生業としていた人間から話を聞いていたのでそれほど驚かなかった。

……遺跡の中っていうかぁ、外も遺跡の一部ではあるしねぇ。

あくまで遺跡の入り口も調査隊が発見したものというだけで、絶対に他に入る方法がないと決まっていたわけではない。何より、リュシエンヌがいないと恐らく今回の入り口も分からなかっただろう。

この遺跡は旧王家の血筋──……つまり、リュシエンヌに適した遺跡だった。

遺跡の入り口もリュシエンヌがいなければ入れず、罠に関しても『魔力のない』リュシエンヌには効かない。もしかしたら、リュシエンヌだけなら遺跡内を歩き回っても何も問題はないかもしれない。

リュシエンヌには精神干渉系魔法も効かず、普通にしていられる。

……やっぱり旧王家と女神は関係があるのかねぇ。

そもそもリュシエンヌには『女神の加護』がある。

旧王家の血筋が遺跡に関係するのか、加護が関係するのかも分からない。

分からないが、この遺跡の調査において、リュシエンヌは重要な存在ということは理解できる。

そんなことを思いながら『魔力の糸』を避ける。

「あ、ルル、向こうにまた扉が見えるよ!」

いつここから出られるかも、出口に辿り着けるかも分からないのに、リュシエンヌは楽しそうだ。

リュシエンヌはわりと楽観的で、前向きな性格なので、今の状況についても不安で悩むよりかは遺跡探索を楽しもうと思っているのかもしれない。

扉に近づき、観察する。

「これも横に滑らせる扉みたいだねぇ」

「入ってみる?」

「入ってみよっかぁ」

ルフェーヴルが取っ手に手をかけ、横に滑らせて開ける。

中は最初にいた部屋の倍以上に広く、何か色々と置かれている。

生活感などはなく、何かの塊や部品のようなものが床にいくつも転がっていた。

扉の正面には、一体のゴーレムがいた。

ルフェーヴルは警戒したものの、ゴーレムは床に座り込んだ体勢で動かない。

遺跡の材質と違うもので作られているようで、色合いは暗い灰色だった。

全体的に四角っぽく、目の位置に青い宝石のようなものが二つあり、胸元に琥珀のような黄色い宝石が埋め込まれている。黄色い宝石の周りには彫刻がされている。

……ゴーレムなんて初めて見たなぁ。

遺跡には、守護者として稀にゴーレムがいるという。

とても頑丈で、魔法が効かず、普通の剣では傷つけることもできない。

だから遺跡でゴーレムと出会ったら戦わず、逃げたり隠れたりしてやり過ごす。

ゴーレムに近づき、ルフェーヴルはその表面を触ってみた。

……確かにコレは剣も通じなさそうだねぇ。

見た目は石っぽいが、触れた感触は金属のように硬く、ヒンヤリとしている。

一体どのような素材で作られているのか、想像もつかない。

だが、この部屋を見る限り、ここはゴーレムの製造場所のようだ。

後ろからリュシエンヌが顔を覗かせる。

「これ、人形……じゃないよね?」

「ゴーレムだよぉ。遺跡に時々いる、守護者みたいなものでねぇ。魔法も剣も効かないから、基本は戦わずにやり過ごすしかないんだって聞いたことがあるよぉ」

「ゴーレム! 初めて見たけど、なんかかっこいいね」

リュシエンヌが目を輝かせてゴーレムを見ている。

ルフェーヴルの横に立ち、リュシエンヌもゴーレムを覗き込んだ。

ゴーレムは床に座っているが、立っているリュシエンヌと顔の高さが同じくらいなので相当大きい。遺跡の天井が妙に高かったり、通路が広かったりするのはそういう理由なのだろうか。

リュシエンヌがマジマジとゴーレムの顔部分を見つめる。

どこからともなく、ピ、と何かの音がした。

それまで項垂れるように座っていたゴーレムが動き、背筋を伸ばす。

リュシエンヌとゴーレムの目が合った。

「っ、リュシー!」

慌ててリュシエンヌを抱き寄せたものの、リュシエンヌはゴーレムを見ている。

「待って、このゴーレムからも『波』を感じるの」

遺跡内部に飛ばされる前も、リュシエンヌは『波』を感じると言っていた。

ルフェーヴルもかなり集中すれば微かに肌に触れる何かを感じられるものの、リュシエンヌほどではないし、それがなんなのかも分からなかった。

ジッとリュシエンヌがゴーレムを見つめる。

ゴーレムも座ったまま、リュシエンヌを見つめている。

ゴーレムから、ポォーン、と古いピアノを鳴らしたような音がする。

それにリュシエンヌが「うん、そうだよ」と返事をした。

またピアノのような音がいくつかして、リュシエンヌは「わたしは王家の生き残りで……」「うーん、 主人(あるじ) ……なのかなぁ?」と言う。

「リュシー、このゴーレムと話せるのぉ?」

「うん、波を通じてこの子の言いたいことが分かるみたい」

リュシエンヌの話によると、やはりこれは遺跡を守護するゴーレムらしい。

この遺跡内には何体かのゴーレムが他にいて、ここはこの国の本来の王族──……ヴェリエ王家の血筋のための遺跡であることに間違いはないそうだ。

そして、ゴーレムが言うにはリュシエンヌがこの遺跡の継承者だという。

「魔力がなくて、琥珀の瞳を持つヴェリエ王家の人間が正統な王位継承者なんだって。……本当は新しい王様はこの遺跡に来て、代替わりをして遺跡も受け継ぐはずだったのに、新しい王様はもう三百年以上来てないみたい」

「どっかで話が廃れたんだろうねぇ」

「この子達は遺跡を守りながら、新しい王様が来るのをずっと待ってたんだって」

リュシエンヌが手を伸ばし、ゴーレムの額に触れる。

ゴーレムからはまた、ポォーン、と音がした。

どこか嬉しそうな響きに聞こえたのは気のせいだろうか。

「あのね、良かったら出口まで案内してもらえないかな? わたし達、迷っちゃって……」

ゴーレムが、ポォーン、ポォン、ポォーン、と音を出した。

「ありがとう! ルル、この子が出口まで案内してくれるって!」

「それはありがたいねぇ」

そして、ゴーレムがゆっくりと立ち上がる。

背の高いルフェーヴルよりもずっと大きいが、立ち上がると意外とスラリとして、手足は細くて長い。またゴーレムが音を鳴らす。

「他のゴーレムの子達も起こしてほしいって……大丈夫かなあ?」

「リュシーがこの遺跡を継ぐなら、ゴーレムは起こしたほうがいいんじゃなぁい? 誰かが遺跡に入っても困るしぃ、他のゴーレム達にも遺跡調査の手伝いをしてもらえば、もっと楽に調べられると思うよぉ」

「なるほど」

リュシエンヌが頷き、ゴーレムに顔を向ける。

「他の子も起こすけど、遺跡調査を手伝ってもらってもいい? お父様達が遺跡に入っているかもしれないけど、攻撃しないでほしいの。……ここを調査して、どんな遺跡で、どんな歴史があるが知りたいだけで、壊さないよう気をつけるから」

ゴーレムが音を鳴らすとリュシエンヌがホッとした顔をする。

「ありがとう。……協力してくれるって」

「でも言葉が通じないのは不便だよねぇ」

「あ、じゃあ質問形式にする? ……ゴーレムさん、質問の時に『はい』なら右手、『いいえ』なら左手を上げてほしいな」

リュシエンヌの言葉にゴーレムが右手を軽く上げた。

「大丈夫そうだね」

リュシエンヌが頷いていると、ゴーレムが胸元に手をやり、何かをルフェーヴルに差し出してきた。大きなゴーレムの手の中に、琥珀のような宝石のネックレスがある。

リュシエンヌがゴーレムに話しかけ、訊く。

ゴーレムによると、これを着けていれば遺跡の罠が反応しなくなるらしい。

一応、警戒しつつもネックレスを受け取り、身に着ける。

ゴーレムのポォーンという音と共に何かが伝わってくる。

──……問題アリマセンカ。

驚いてゴーレムを見上げる。

「……うん、問題はなさそうだよぉ」

「ルル、この子の言葉が分かるの?」

「ネックレスを着けたら声が聞こえるようになったよぉ」

抑揚のない、どこか硬い不思議な声だが、確かに聞こえた。

──……デハ、出口マデ案内シマス。

ゆっくりとゴーレムが動き出す。

リュシエンヌが「なんだか元の世界を思い出すなあ」と呟いた。

「元の世界の映画……えっと、映像を見て楽しむ娯楽でね、こういうゴーレムが出てくる物語があったの。その物語だと大きな雲の中、空の上に島が浮いていて、そこに行くって話だったんだけど……」

「だからリュシーはゴーレムに驚かなかったんだねぇ」

「うん、その浮き島を守るために沢山のゴーレムがいたよ」

ゴーレムの後ろについていきながら、リュシエンヌと共に歩く。

探知メガネをかけているが、確かに『魔力の糸』に触れても罠は発動しない。

不思議なことにゴーレムからも魔力を感じないので、このゴーレムも罠にかからないのだろう。魔力ではない別の何かで動いているようだ。

……でも、リュシーがこの遺跡の継承者……。

やはり旧王家は女神と関わりがあり、この国の王族としてあるべき血筋だった。

そのことを周りが知ったらどう思うだろうか。

……義父上とアリスティードは跳ね除けそうだけどぉ。

二人も旧王家の血筋を完全に断つのは良くないと理解しているはずだ。

だからこそ、旧王家の血を濃く引くクリューガー公爵家の娘をアリスティードの王妃として迎え入れたのだろうし、いつか、その血が濃く出る子供が現れるだろう。

横を歩くリュシエンヌをチラリと見る。

リュシエンヌが望めば、女王にだってなれるだろう。

だが、リュシエンヌは王になることを望んでいないし、王位にも興味はない。

もしも貴族達がリュシエンヌを王位にと言ったとしても、リュシエンヌは断るだろうし、最悪『どこかに姿を隠します』と言い出すかもしれない。

今ですら貴族達にはどこに住んでいるかも、どう暮らしているかも明かしていないのだから、ルフェーヴルが協力すれば完璧に隠れることは可能だ。

それくらい、リュシエンヌは王になりたくないと思っている。

「あなた達は誰が作ったの?」

──ヴェリエ王家、初代国王陛下デス。

「初代の国王? やっぱりヴェリエ王家は女神様と関わりが深いの? そもそも、女神様の加護って一体なんなのかな?」

──詳シイコトハ、私ハ分カリマセン。

あれこれ質問をするリュシエンヌに、ゴーレムはそう言った。

リュシエンヌは残念そうに「そっか」と呟く。

その後、別の部屋に着いた。そこには五体のゴーレムがいた。

リュシエンヌがゴーレム達と目を合わせると、全てが動き出す。

……琥珀の瞳が起動の条件みたいだねぇ。

そして、ゴーレム同士では簡単に意思疎通ができるらしく、他のゴーレム達に襲われることもなく、最初のゴーレムにまた案内してもらい、出口に向かう。

……何か特別な宝でもあるのかねぇ。

一体ですら手強いゴーレムが六体もいて、最初のゴーレムを見つけた部屋にはまだ作りかけがいくつかあった。そこまで厳重に守りたいものとはなんなのか。

時々休憩しつつ、結局四時間ほどかけて歩くとゴーレムが立ち止まった。

ゴーレム越しに見れば、足元に毛糸が垂れている。

つまり、出口が近いということだ。

「この毛糸は目印だから、切らないでね」

──カシコマリマシタ。

ゴーレムが毛糸を避けて歩き出す。

そして地上に繋がる階段の前で、また立ち止まる。

「案内してくれてありがとう。あなたは外には出られる?」

──出ラレマスガ、動ケルノハ一日ガ限界デス。

「そうなんだ……明日、また来るから、みんなにあなたを紹介してもいいかな? 数時間だけ、一緒に外に出てほしいの」

──カシコマリマシタ。

……義父上達、腰を抜かすかもなぁ。

遺跡のゴーレムを見るなんて、そうあることではない。

リュシエンヌと共に階段を上がり、途中で振り向けば、ゴーレムが小さく手を振っていた。大きいはずなのに、まるで親を見送る子供のような仕草だ。

何百年も新しい主人が来ないまま、待ち続けたゴーレム達。

……ゴーレムに心なんてないんだろうけどぉ。

ルフェーヴルはゴーレム達に少しだけ同情した。

暗く静かな遺跡の中で、いつ訪れるかも分からない主人を待つのはつらいだろう。

* * * * *