軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遺跡探索(1)

闇ギルドにメガネを注文してから一週間。

この期間、ルルとノワイエ宮廷魔法士の二人が付与魔法でメガネを『探知メガネ』にして、そこから個別で聞き取りをして、更に魔法を重ねがけした。

お父様やスウェン様、ノワイエ宮廷魔法士、そしてルルなどは『探知魔法』と『照明魔法』のメガネを使っているが、不安な人は『生者の猛り』も追加して、それぞれに使いやすいようになった。騎士も『照明魔法』を重ねた人が多い。

遺跡に入る全員分のメガネには番号が彫られ、少々手間だけれど入る前に配り、出たら回収という方法で管理するそうだ。

壊れた時のためにただのメガネもいくつか予備がある。

もしも壊れたら新しいものに付与して、壊れたものの番号を割り振ればいい。

壊れたほうは付与を解除してから破棄するそうだ。

やっと遺跡調査を再開できたのは、一度目の調査から二週間後のことだった。

ちなみに、一度開いた遺跡の入り口はずっとそのままだ。

わたしが離れても閉じることはないのはありがたいが、勝手に人や動物が入れてしまうのは少し危険かもしれない。

……うーん、でも近くの村や街は離れてるし。

この場所を正確に把握していないと辿り着けないからいいのだろうか。

「やぁっと二度目の調査だねぇ」

入り口の前に集まり、装備の最終確認をしている中でルルが呟く。

「メガネの準備お疲れ様。ルルがあっという間に付与しちゃうから、みんな驚いてたね」

「あの程度の付与くらいなら難しくないけどぉ、魔力は結構使ったしねぇ」

ルルがあっという間に付与してしまうので、ノワイエ宮廷魔法士が慌てていた。

ノワイエ宮廷魔法士も専門外とはいえ、付与を頑張っていたものの、一日でルルが自分に割り当てられた分を終わらせたため焦ったようだ。

魔力回復薬を飲みながら付与する姿はちょっと可哀想だった。

「それでは皆、準備はいいな?」

お父様の声に全員が返事をする。

そして以前と同じ並び順でもう一度、遺跡に足を踏み入れた。

前回はランタンだけが明かりだったけれど、今回はメガネから明かりが出ているおかげで足元や周囲もよく見える。

入り口から続く階段の壁は真っ白だけど、遺跡内部に下りると、壁の彫刻が植物や動物であることが分かった。同じ絵柄の彫刻が掘り続けられているようだ。

ちなみにわたしはメガネをかけていない。

わたしは魔力を持っていないので使えないし、そもそも『魔力の糸』の罠にもかからなければ、精神干渉系魔法も関係ないため必要ない。

ルルや周りが『照明魔法』付きの探知メガネをかけているので明るさも十分だ。

入り口から下りて、また左手の通路を進む。

わたしには見えないけれど、他の全員が通路のあちこちを見回しているのでメガネ越しに色々と見えているらしい。

……いいなあ。

お父様が辺りを見回し、全体がゆっくりと先に進む。

けれども少し進むと立ち止まった。

すると、騎士達が動いて空中に手を伸ばしたり壁に触れたりして、一つずつ罠を発動、解除していく。これも面倒だけどやっておくと決まったことだ。

毎回罠を避けるのも大変だし、何かあって逃げる時にうっかりかかる可能性もある。

そのため、一つずつ罠を解除しながら進んでいくのだ。

罠を解除することで自分達が通ったかどうかも分かる。

少し進んだら罠を解除して、床にスウェン様が目印を書くというのを繰り返す。

ルルが暇そうに欠伸をした。

遺跡の通路は変わり映えしないので、距離や時間の感覚が分からなくなりそうだ。

床に印を三つつける度に、お父様が懐中時計を確認する。

何度目かの確認の後、お父様が言った。

「ここで一旦休憩しよう。……もう昼だ」

その言葉に驚いた。もう三時間は経っているということだ。

広い通路の中、全員で罠がないことを確認してから休憩を取る。

騎士や調査員、お父様達も持ち運びのできる携帯食料を取り出した。

ルルが床に座り、その足の上にわたしが座る。

ルルは空間魔法から水筒と包みを取り出した。

「はい、どぉぞ〜」

「ありがとう、ルル」

受け取った包みを膝の上で開ければ、中身は懐かしいあの固いビスケットだった。

初めてもらった時はプレーン味しかなかったけど、今は野菜味やチョコレート味、干した果物入り、スープ味など種類も増えて見た目にも綺麗だった。

これはそれぞれが一枚ずつ入ったセットのようだ。

ルルがそれぞれを半分に割って、端を食べる。

「うん、大丈夫だねぇ」

そして、端を食べたほうを渡された。

これは野菜味だ。ほのかに小麦以外の甘みがあり、美味しい。

端から口に含み、ザリザリと削って食べる。相変わらず固い。

最近は食べていなかったから、ちょっと嬉しい。

残りの半分をルルが食べる。

その手には水筒が握られているけれど、自分が飲むためというより、わたし用に持っているようだ。このビスケットは口の中が渇くので確かに水は必要だろう。

……もう子供じゃないんだけどね。

それでも、こうして食べると後宮にいた頃を思い出して、なんだか懐かしい。

「リュシーは相変わらず、美味しそうに食べるねぇ」

「うん、美味しいよ」

「まあ、確かに前より美味しくはなったけどぉ」

ルルはこのビスケットがあまり好きではないのだろう。

仕事中も食べているだろうから、飽きているのかもしれない。

時間をかけながら全部食べた。小さいが、お腹に溜まる感じがする。

こっそり、ルルに訊いてみた。

「お屋敷から軽食を持ってくるとかはダメなの?」

「周りが携帯食料なのに、オレ達だけ毎回イイものばっかり食べてたら不審がられるしぃ、あんまり不満が溜まると敵視されることもあるからねぇ」

「そっか」

あまり水分は摂り過ぎないようにする。

お父様達が話し合い、今日はもう戻ることとなった。

様子を見るという意味合いもあるが、無理はしないと決めたようだ。

毎日遺跡調査をするのなら、少しずつ進めるほうが長続きするだろう。

無理をすれば短期間で調査できるかもしれないものの、疲れが溜まれば集中力も落ち、危険が高まる。遺跡内部もどれほど広いか分からない。

元来た道を辿るのは簡単だった。それに罠も解除してあるので安全だ。

地上に戻るとお父様達はすぐに大きな天幕に向かった。

だが、入る前にお父様が振り返る。

「リュシエンヌ達は今後も遺跡に潜るか?」

「リュシーがそうしたいなら、そうするよぉ」

お父様とルルがわたしを見た。

……どうしようかなあ。

しばらくはあの通路を進み、罠を解除して、また進むというのを繰り返すだろう。

今日も結構歩いたはずだが、部屋らしき場所は一つもなく、いくつかの分かれ道があるだけだった。

そもそも、わたしは入り口を開けるための『鍵』のような役目だった。

それが無事終わったし、毎回参加する必要はない。

もしまたわたしが必要になれば、お父様達も戻ってくるだろう。

「恐らく、今日のような状態が続くはずだ。地上にいたほうが負担も少ないだろう」

もうルドヴィクを出産して二年経ち、体調も戻っている。

けれども、ルルもお父様も心配性で、わたしを地下に長時間置きたくないようだ。

「そうですね、わたしとルルは野営地で待つことにします」

「だってさ〜」

お父様がホッとした様子で頷いた。

「では、何かあれば声をかける。……あまり野営地から離れないように」

「はい」

「はいはぁい」

今度こそ、お父様は天幕の中に入っていった。

……遺跡って言うけど、思ったようなところじゃないなあ。

罠はあるけど、何かと戦ったり迷ったり、苦戦すると思った。

でも、今のところは時間と手間はかかるものの、問題なく調査を進められそうだ。

「また釣りでもして過ごそっかぁ?」

「そうだね」

……一匹くらいは釣ってみたいし。

そう思ったが、やっぱり今日も釣れなかった。

* * * * *

「って感じでぇ、あんまり調査が進んでないんだよねぇ」

調査開始から一ヶ月が経ったものの、ルルの言う通り調査は難航していた。

遺跡内部で罠を解除しつつ進むのだけれど、遺跡にかかった魔法のせいで方向感覚や時間の感覚がおかしくなってしまうそうで、長時間の調査は行えない。

何度も調査隊が遺跡に入っているものの、同じところをグルグル回ってしまう。

印をつけながら歩いているけれど、景色も同じでいくつも分かれ道があるので、自分達が通ったところなのか分かりにくいらしい。

数日に一度、わたし達は屋敷に戻り、ルドヴィクの様子を見ている。

わたし達が屋敷にいなくても平気なのか、機嫌の悪い時はなかった。

……手がかからなくていい子だけど、ちょっと寂しいなあ。

居間のソファーに座ったわたしの膝の上にルドヴィクが座り、ルルがウサギのヌイグルミで遊んでやっている。赤ちゃんの時から使っているヌイグルミだが、ルドヴィクのお気に入りの子だ。

……そのうち、小さなクマのヌイグルミも買わないと。

ニコとファイディにも新しい家族を用意してあげなくては。

「はぁーえ、たいたい?」

ルドヴィクに見上げられ、わたしは微笑んだ。

「なんでもないよ、ルド。……またルドは大きくなったなあって思っただけ」

ルドヴィクは一ヶ月前より少し重くなっている気がする。

こうして、少し目を離しているうちにどんどん成長していくのだろう。

ルルが「アレ持ってきて〜」とティエリーさんに声をかけると、心得た様子で彼は出ていき、すぐに戻ってきた。その手にはなんだかナイフみたいな形のものが二つある。

「新しいオモチャだよぉ」

ルルがそれを受け取り、ルドヴィクの前に差し出す。

ルドヴィクが不思議そうに玩具をジッと見つめた。

そして、ルルが玩具を握ると簡単にそれは潰れた。

なんだか気の抜ける、プー、という音が鳴った。

……あ、音が鳴るんだ?

ルドヴィクが手を伸ばすと、ルルは差し出した。

少々大きいその玩具を小さな手が握ると、プピッ、と鳴る。

残ったもう一つをルルが握った。プー、と鳴る。

ルドヴィクも真似してもう一度握る。プピー、と鳴る。

「ぷっぷー!」

ルドヴィクが楽しそうに笑う。お気に召したらしい。

シャンシャンも昔は好きだったから、音の鳴る玩具が好きなのかもしれない。

ナイフみたいな形のその玩具は柄の部分を握ると音が鳴る。

軽いようで、ルドヴィクが腕をブンブンと振ったが、すぐにルルに止められた。

「リュシーに当たったら危ないでしょぉ? ほら、握って、ぷっぷ〜」

「ぷっぷっ!」

「そぉそぉ」

ルルが目の前で片方を握ってみせると、ルドヴィクも自分の手にあるものを握る。

そして、ルルはもう片方もルドヴィクに握らせた。

両手に音の鳴る玩具を持ったルドヴィクが手をにぎにぎすると音が鳴った。

プ、プー、プヒッ、プヒョ、プペー。

握り方や力の入れ具合で微妙に音が変わる。

興奮した様子でルドヴィクが玩具を握るので賑やかだ。

大きな音ではないものの、夜の静かな屋敷にはよく響く。

興奮しすぎたのかルドヴィクが片手の玩具を投げ、床に落ちた。

メルティさんが拾ってハンカチで拭うとルドヴィクに返す。

「はい、ルドヴィク様、どうぞー」

「あーちょ!」

ルドヴィクが受け取ってまた鳴らす。

プペッペ、プピー、プ、ププー、プギュウ。

「面白い玩具だね」

「木剣持って腕力がついてきただろうからぁ、握力もつけさせたくてねぇ。こういう、握って開いてを繰り返すと握力が上がるんだよぉ」

「そうなんだ」

わたしとルルが話している間も音が鳴っている。

そして、またルドヴィクが床に投げた。投げたというか、叩きつけた。

その衝撃で玩具が、プ、と鳴る。

「握ったり投げたり、踏んでも鳴るしぃ、これなら怪我もしにくいだろうからねぇ」

今度はティエリーさんがそれを拾い、ハンカチで拭う。

そしてルドヴィクの前に膝をつき、プー、と玩具を鳴らした。

「ルドヴィク様、真似してみましょう」

もう一度ティエリーさんがプーと鳴らし、ルドヴィクの玩具を握る手に大きな手を添えて、プーと鳴らす。プップと鳴らし、ルドヴィクの玩具も同様に鳴らす。

ティエリーさんが手を離し、玩具をプーと鳴らした。

ルドヴィクもプーと鳴らす。

ティエリーさんが鳴らして、ルドヴィクが同じように真似をして鳴らす。

鳴らす音を長くしたり、連続で鳴らしたりするので、ルドヴィクは音を覚えようと真剣にティエリーさんの玩具を見ている。

……こういう遊び方もできるんだ。

握る訓練になるだけでなく、何かに集中するということも身に付くだろう。

こうして、音のなる玩具──……改め『プップー』はルドヴィクのお気に入りになった。

「靴とかでもこういうのがあるといいよね。歩く度に音が鳴れば、ルドがどこにいるのか分かって安心だし」

「便利だけどぉ、落ち着きがないからうるさくなりそうだねぇ」

想像したのか、ルルは小さく笑っていた。

でも、それから少しあとに音の鳴る靴をルルはルドヴィクに与えた。

ルドヴィクが音の鳴る靴を履いて駆け回ると、使用人達は微笑ましそうに見ていたし、安全面でも意外と喜ばれた。

最近のルドヴィクは駆け回ることが多いため、廊下の曲がり角で何度か使用人とぶつかりそうになったことがあるそうで、音が聞こえることで使用人も周りに気を付けるようになったとか。

音の鳴る靴を履いて庭を駆け回るルドヴィクは可愛かった。