軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真夜中の一コマ / 説明とこれから(1)

* * * * *

夜、腕の中にいる存在が身動ぎをしたことでルフェーヴルは目を覚ました。

リュシエンヌがごろりと寝返り、こちらに背を向ける。

数秒後、もぞもぞと動き、ルフェーヴルの腕の中から出てベッドの端に寄った。

むくりと起き上がったものの、眠たいのか少し頭が揺れていた。

「……といれ……」

と眠そうな声が呟き、リュシエンヌがベッドから立ち上がった。

ガウンだけは羽織らせていたので寒くはないだろう。

しかし、歩き出してすぐに床に座り込んだ。

……今日はちょ〜っとやりすぎちゃったしなぁ。

ルフェーヴルは起き上がり、リュシエンヌのそばに行く。

「大丈夫〜?」

ぼんやりとした琥珀の瞳が見上げてくる。

暗闇の中でも微かな光を反射させて煌めく瞳は美しかった。

リュシエンヌが両手をこちらに向かって広げた。

「……だっこ……」

「はいはぁい」

屈んでリュシエンヌを横抱きにして、立ち上がる。

そのまま目と鼻の先にある目的地に連れていき、扉の前で下ろす。

リュシエンヌは扉と壁に掴まりながら、ゆっくりとした動きで中に入り、扉を閉めた。

ルフェーヴルも小さく欠伸をしてから窓辺に寄った。

カーテンを少し開けて夜空を見れば、微かに白み始めている。

……オレ、淡白なほうだと思ったんだけどなぁ。

リュシエンヌと結婚し、屋敷に移ってから、ルフェーヴルは実は己はそれほど淡白ではないのかもしれないということに気付いた。

ルフェーヴルにしか許さない行為で、誰よりもリュシエンヌをかわいがり、愛することが出来る。

己にだけ見せてくれる無防備で色気のある姿。

そう思うと何度でもかわいいリュシエンヌを見たいと思うし、深く繋がりたいし、もっと触れたくなる。己の気持ち良さよりも、リュシエンヌに奉仕したいし、己を望んでほしい。

だからつい、少し意地の悪いことをしてしまう時もあるのだが。

カチャ……と扉の開く音がする。

振り向けば、リュシエンヌが眠そうに目元をこすりながら扉の取っ手を掴み、立っている。

ルフェーヴルが近づき、抱き上げると、細い体から力が抜ける。

ベッドの縁に座らせ、空間魔法からハンカチを取り出した。

先ほど床に座ってしまったので、一応、ガウンの裾を払い、足をハンカチで拭いてやる。

リュシエンヌは眠そうに目を閉じたが、横にならないように努力している様子が窺える。

使い終わったハンカチを近くの椅子の背もたれにかけ、ルフェーヴルはリュシエンヌに声をかけた。

「喉渇いてなぁい?」

「……かわいた……」

空間魔法からピッチャーとグラスを取り出し、水をグラスに注いで渡す。

これは空間魔法に入れる前に毒見を済ませてあるので問題ない。

目を閉じたままのリュシエンヌが両手でグラスを持ち、口をつける。

水を飲み、考えているのかグラスに唇をつけたまま動きが停止し、ややあって最後まで飲み切った。

空になったグラスを回収して空間魔法に戻す。

「もう寝てもいいよぉ」

リュシエンヌの体がゆっくりとベッドに倒れていく。

ルフェーヴルも迂回して反対側からベッドに入った。

警備は厚くしてるが、屋敷ではないので靴を履いたまま、ナイフのホルスターも着けたままだが、ルフェーヴルが寝転がるとリュシエンヌがもぞもぞと近寄ってくる。

それでもルフェーヴルの服を掴んだり、抱き着いたりはしない。

それをしていいのは屋敷だけだと眠い中でも分かっているのだろう。

リュシエンヌを抱き寄せ、腕の中に入れる。

「ん……ルル……」

名前を呼ばれたので返事をする。

「なぁに? リュシー」

「あり、がと……」

囁くような声だったが、眠くても礼を言うところはリュシエンヌらしい。

ルフェーヴルは笑ってリュシエンヌの頭を撫でた。

「どういたしましてぇ」

それ以降は寝言なのか聞き取れなかったが、気持ち良さそうな微笑を浮かべ、リュシエンヌは規則正しい寝息を立て始めた。

ルフェーヴルは眠るリュシエンヌの額にそっと口付け、目を閉じる。

……この温もりだけあればいい。

それが何よりもルフェーヴルにとって大事なものだから。

* * * * *

翌日、わたし達は昼過ぎに領主の館に戻った。

朝起きた後も広い浴室で色々あって──……わたしは顔から火が噴き出すかと思うくらい恥ずかしかったのに、ルルはすごく満足そうな顔をしていた。

夜はぐっすり寝たはずなのに、ルルの悪戯のせいで朝から気怠い。

……ま、まあ、わたしもちょっと悪かったかもしれないけど……!

いつもはしないのに、何となく「わたしがルルを洗ってあげる」と言ったのが悪かったらしい。

それでルルの変なスイッチを入れてしまったようだ。

そのせいで腰が抜けてしまい、ルルに全部お世話をしてもらった挙句に馬車まで運んでもらうことになり、それもまた恥ずかしかった。

宿の従業員が良い笑顔で「またのお越しをお待ちしております」と送り出してくれたが、顔が熱くて全然返事が出来なかった。

領主の館に戻ってからは気合いで部屋まで歩いた。

ルルに抱き上げられて移動したら、誰もが察するだろう。

客室のソファーで軽食を摂りながらぼんやりしていると部屋の扉が叩かれた。

メルティさんが出て、ルルに耳打ちをして、ルルがわたしを見る。

首を傾げれば、ルルが「入れていいよぉ」と言った。

メルティさんが戻り、扉を開ける、ロイド様がいた。

「ごめん、今いいかな? 昨日の件について話したいんだけど……」

それにわたしは頷き返した。

「はい、大丈夫です」

「良かった」

向かいのソファーを勧めると、ロイド様が入室してそこに腰掛ける。

わたしの横ではルルがサンドイッチ片手に防音魔法を展開させた。

それにロイド様が苦笑しながらも「ありがとうございます」と言う。

「リュシエンヌ様の加護の件だけど、陛下もアリスティードも君が良いというなら伝えても構わないということだったよ。問題なければ今日この後、子爵達に伝えようと思う」

「昨日申し上げた通り、わたしは問題ありません」

「分かった。ドルッセル殿も呼ばないといけないから、彼が到着したら声をかけるね」

「はい」

ふと立ち上がりかけたロイド様がこちらを見る。

「加護についてはリュシエンヌ様にお願い出来るかな? 僕も誓約魔法がかかっているから話せないし、本人から聞いたほうがいいだろうし」

「そうですね。では、わたしからお話しします」

手短に話を済ませ、今度こそロイド様が立ち上がる。

やはりルルのことが苦手らしく「それじゃあまた後で」と言って、そそくさと帰ってしまった。

……でも、ルルにしては珍しく入室を許可してくれたんだよね。

屋敷では『そういうこと』をした後、絶対に男性をわたしに近づけさせない。

その点を考えると、ルルなりにロイド様をある程度信用しているのだろう。

……ルルは多分、それをロイド様に言わないだろうなあ。

現時点で自分に若干苦手意識を持っているロイド様の、その反応をルルは楽しんで、からかっている。ロイド様もルルにからかわれていると知っていても強くは言えない。

お兄様がルルに物怖じなくあれこれ言えるのは、かなりすごいことなのかもしれない。

軽食を摂った後はソファーでルルと一緒にのんびり過ごす。

ただ寄り添って、手を繋いで、どうでもいい話をする。

この穏やかな時間にホッとする。

そうして二時間ほど経った頃、書類を持ったロイド様がまた部屋を訪れた。

「ドルッセル殿が来たそうだよ」

というわけで、わたし達は使用人の案内を受けて応接室に向かった。

応接室に着くと、中にはすでにセクストン子爵と管理官、ドルッセルさんがいた。

わたし達が入室すれば全員が立ち上がって出迎えてくれる。

勧められてわたしとルル、ロイド様もソファーにそれぞれ座り、子爵達も腰を下ろした。

ロイド様が動き、書類をテーブルに広げる。

「まず、これからお話する内容は国にとって非常に重要なものなので、口外を固く禁止します。陛下と王太子殿下のご許可は得ております。同意していただける方のみ、こちらの誓約書に署名してください」

セクストン子爵と管理官、ドルッセルさんが誓約書を手に取り、内容に目を通す。

そうして、三人とも誓約書に署名をしてくれた。

誓約書が淡く輝く。これで魔法は成立した。

ロイド様がルルに顔を向ける。

「ニコルソン伯爵、お手数をおかけしますが防音魔法をお願いします」

ルルが頷き、素早く詠唱をして防音魔法を展開させた。

ロイド様が最後にわたしに確認するように視線を向けたため、しっかりと頷き返す。

それにロイド様も頷き、セクストン子爵達に顔を戻した。

「昨日の鉱山での、不思議な発光の件について説明します。……リュシエンヌ様」

全員の視線がわたしに向けられる。

わたしは小さく深呼吸して、言った。

「わたしには『女神様の加護』があります」

それに反応したのはセクストン子爵だけで、管理官とドルッセルさんは訝しげな表情をした。

「『女神様の加護』はわたしの心身を強化するだけではなく、周囲の人や国にも祝福を与えてくれるもので……この国では数百年の間『加護持ち』はいませんでした」

「実際、私も妻の加護の影響があり、祝福を授かりました。本来、魔力量は洗礼の際に定まった数値以上には増えないはずなのですが、魔力量が増加し、身体能力も上がったのです。それに旧王家時代に荒廃し、滅びかけていたこの国が、たった十数年でここまで持ち直したことは偶然ではないでしょう」

ルルの言葉にセクストン子爵が恐る恐るといった様子で言う。

「それは……その、陛下や周囲の方々の努力の賜物ではないのですか……?」

「可能性は否定出来ませんが、国を立て直すことは簡単ではありません。先の戦争で戦ったヴェデバルドについても、旧王家時代にこちらに攻め込み、征服する機会はあったはずです。しかし、我が国でクーデターが起こり、それを機に攻め込もうとした矢先にあの国は大飢饉に見舞われました。そうして、この国が自衛出来るほどまで力を取り戻した頃、やっとヴェデバルド王国は飢饉への対応が終わり、攻めてきました」

「……まさか、それすら『加護』の影響だと?」

「国王陛下と王太子殿下はそのようにお考えです」

セクストン子爵と管理官が絶句した様子でわたしを見る。

ドルッセルさんはあまりよく分かっていないようで難しい顔をしていた。

「陛下と王太子殿下も加護の影響を受け、能力値が上がっています。……旧王家時代に『琥珀の瞳を受け継ぐ者が王位に就く』といわれていたのも、実は『女神と同じ瞳と加護を持つ者が王位に就くことで、加護の影響を国全体に広げられたのでは』と陛下は推測されておられました」

それにセクストン子爵がハッとした様子で訊いてくる。

「では、新王家になり、この国は女神様の加護を失うのでは……?」

「それについては問題ないでしょう。王太子妃は旧王家の血の濃い公爵家出身の方ですから、いずれ琥珀の瞳を持つ者が生まれる可能性があります。それに、もしも女神が新王家を良しとしないのであれば、クーデターは失敗に終わっていたかと」

「なるほど……」

セクストン子爵と管理官が納得した様子で何度か頷いた。

ドルッセルさんがそっと手を上げた。

「あー……すまん、もっと分かりやすく説明してくれないか?」

ルルがそれに返事をする。

「妻は『女神の加護』があり、その祝福によって周囲を幸せにする効果を持ちます」

「そりゃすごい。それで、昨日の件とどう繋がるんですかい?」

今、彼らに説明をすべきなのはそこである。

わたしが鉱山の壁やボタ山に触れると発光したあの現象。

「『女神様の加護』を持つ妻が触れたことで、祝福の影響が及び、鉱山やボタ山にある有効資源が光ったのではないか……という話です。女神様が気を利かせて光らせることで教えてくださったのではないかと我々は考えています」

ドルッセルさんが「なるほど!」と片手の拳をもう片方の掌に当てた。

「確かに光っていたのは何かしらの鉱物を含んでいそうな場所だった。それが事実だとしたらさすが女神様。調査の期間が短くて済みますし、俺達としても『ある』と分かっていたほうがやる気が出るってもんだ」

わっはっはっは、とドルッセルさんが愉快そうに笑う。

セクストン子爵と管理官が顔を見合わせ、管理官がドルッセルさんに問う。

「今の話を信じるのですか?」

「信じるも信じないも、光ったってことはそういうことなんだろ? そもそも、この街の鉱夫が昔から苦しみ続けてきた病の原因を発見してくれたのはニコルソン伯爵夫人だ。難しいことは分からんが、俺達からすれば夫人は女神様みたいなもんで、むしろ『加護を授かっていた』って訊いて納得したってところだな」

管理官が押し黙り、セクストン子爵が苦笑した。

「そう言われればそうですね」

「子爵……」

「ジュード殿、私はこの話を信じますよ。……良いではありませんか。我々は『女神様の加護』を授かる夫人の下で、これからも鉱山と共に生きていけるのです。大半を掘り尽くしたと思っていた鉱山にまだ価値があり、街の者達は誇りを胸に、未来への希望を持つことが出来るのですから」