軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国境戦七日目(2)

目が覚めると昼過ぎだった。

そして、ベッドの中でルルも一緒に眠っていた。

わたしが眠っている間に一度屋敷へ戻ったのか、ルルの服は眠る前と違うものになっていたけれど、起きた時にもルルがいてくれることが嬉しかった。

起きてからしばらくルルの寝顔をぼんやり眺める。

……ルル、睫毛長いなあ。

わたしの左手をルルの右手が握ってくれている。

その手の温もりが心地好い。

緩くその手を握ると、ピクリとルルの手が反応し、ギュッと握り返される。

ほぼ同時にルルが目を覚ました。

「おはよぉ、リュシー」

本当に眠っていたのかと思うくらい、ハッキリとした口調で声をかけられ、わたしも挨拶を返す。

「おはよう、ルル」

「今日は夕方前くらいまではコッチにいられるよぉ。アリスティードに休めって命令されちゃったぁ」

「そんなに働いてたの?」

「ん〜、まあ、二日徹夜したからなぁ」

ルルの言葉に思わず「え!」と起き上がった。

慌ててルルを見て、顔色が良いことにホッとする。

……というか、二徹目であんなに体力あったの!?

昨夜のことを思い出してしまい、色々な意味で驚いた。

毎日戦争に参加して、日に二度も出撃して、徹夜して、敵国の拠点に潜入までして、二徹目でわたしのところへ来てあれだったのか。

……ルルって体力お化けだ……。

疲れた様子を見たことがないなあとは思っていたけれど、わたしの予想以上に体力があるのかもしれない。

わたしは全身筋肉痛みたいになっているのに、目の前で寝転がっているルルの顔は艶々で満足げだ。

「あんまり無理しないでね」

起き上がったルルがわたしの額にキスをする。

「うん、今も結構寝たから大丈夫だよぉ」

……そういえばルルはショートスリーパーなんだっけ。

日に三時間程度、五時間も寝ると寝すぎて逆に疲れるらしい。わたしに付き合って目を閉じていることはあっても、眠ってはいない場合も多い。

ルルに抱き着こうとして、何も着ていないことに気付く。

慌てて毛布に包まるわたしにルルが小さく笑い、抱き締められる。

「侍女を呼ぼうかぁ?」

「……うん」

何度もルルとそういうことをしているが、やはり、昼間の明るい時は恥ずかしい。

ルルがサイドテーブルに置かれていたベルをチリンと鳴らす。

ややあってヴィエラさんとメルティさんが入室した。

ルルがいても全く動じない辺りに慣れを感じる。

毛布に包まったままベッドの端に寄り、立ち上がる。

少し足が震えるけれど、自力で動けないというほどでもなく、メルティさんに支えてもらいながら隣の浴室へと向かった。

湯船に浸かる気力はなかったので、体と髪を洗ってもらい、香油や化粧水などを使って髪と肌を整えてからバスローブを羽織って出る。

ルルはベッドからテーブルへ移動していた。

椅子に座り、後ろへ体重をかけてユラユラと前後に揺れながら暇そうにしており、後から来たのだろうリニアさんが少し渋い顔をしている。

昔から変わらない二人の様子に笑ってしまった。

「ルルも汗を流す?」

「いんやぁ、オレは屋敷で入ってきたからいいよぉ」

椅子を揺らすのをやめて、ルルが自分の膝を叩く。

ここにおいでという意味だろう。

まだ若干震える足で近付き、ルルの膝の上に座る。

「奥様、お水をどうぞ」

とヴェエラさんがルルにグラスを渡し、ルルが一口飲んでから、わたしへ渡す。

中身は飲み慣れた果実水だろう。

ルルがいない間はリニアお母様とメルティさんが毒見をしてくれていたが、お義姉様の離宮で毒が盛られるなどということがあるはずもなく、グラスの中身を飲む。

喉が渇いていたので二杯飲み、グラスを返してから、ルルにもたれかかる。

すり寄るとルルが小さく笑った。

「今日のリュシーは甘えたがりだねぇ」

「ルル成分の補充中なの」

「そっかぁ」

ルルがまた小さく笑い、微かに揺れた。

その後、夕方までルルと一緒にまったり過ごす。

二週間ちょっとぶりのルルとの時間は贅沢な感じがした。

それから、ルルは「会議があるから行くねぇ」とまた戦地へ戻って行ったのだった。

* * * * *

ルフェーヴルが転移魔法で自身の天幕へ移動し、会議用の天幕へ向かうと、そこにはアリスティードだけがいた。

丁度ベルナールとの通信を終えたところだったらしい。

通信魔道具を仕舞ったアリスティードに問われる。

「今日はよく休めたか?」

それにルフェーヴルは頷いた。

「おかげさまでねぇ」

「そうか、それならばいいが」

「オレのことより、アリスティードこそ休んでるの〜? いつ来ても大体ココにいるしさぁ」

「私は総指揮官だから仕方がない。それでも、様子を見て体調を崩さない程度には休んでいる」

そう言ったアリスティードの顔色は確かに、悪くはない。

若干、目元に隈があるような気がしないでもないが、それでも、本人なりに体調に気を配ってはいるようなので大丈夫だろう。

「またリュシエンヌのところへ帰っていたのか?」

「うん、オレにとってはリュシーといるのが一番の癒しだからねぇ」

「私もエカチェリーナとアルベリクに早く会いたい」

そこで『私も連れて行け』と言わない辺り、アリスティードはルフェーヴルの性格をよく理解している。

もしアリスティードにそう言われたとしても、ルフェーヴルは断っていた。

アリスティードも断られると分かっているのだろう。

そんな話をしているとロイドウェルが来て、辺境伯が来て、他の貴族達も集まり、全員が揃った。

「皆、今日はよく休めただろうか? まだヴェデバルド王国がどのように動くかは不明だが、陛下と話し合った結果、降伏するならば受け入れる。あちらが最後まで戦うなら、応戦する。継続する場合は他の領地より兵の派遣は受けられるよう、手配をしてくださっているそうだ」

辺境伯も貴族達も頷いた。

「出来ればこのまま終戦となってもらいたいものですな」

「我が軍のほうが損耗は少ないとは言え、兵達にも無理をさせていますから」

「もし継続となったとしても、援軍があるならば負けることはないかと思います」

ヴェデバルド王国軍が自国の王都まで早馬を走らせてもニ、三日は返答に時間を要するだろう。

その間にこちらも、もしもに備えておく必要がある。

そのことはアリスティードも理解しているはずだ。

「一応、継続時に備えて軍の再編成と負傷者の治療、それから亡くなった者の確認とリストを作成しておいてくれ。遺族には暮らしに困らないよう、国から報奨金を渡す予定だ」

「かしこまりました」

各領地から来た兵士達にも当然、報奨金は出る。

国を守るために死んだ者達に出来ることは少ないが、せめて、亡くなった者達の家族が生活していけるくらいには報奨金を与えられたらと、アリスティードもベルナールも考えている。

「あとは武器や防具の確認もしておいてくれ。戦う際に壊れた装備では勝てるものも勝てない」

「壊れた武器で戦うくらいなら、己の拳で戦ったほうがいいですからなあ」

「貴公ならば剣相手でも拳で勝てそうだな」

辺境伯の言葉に全員が小さく笑った。

歳のわりに随分と体格の良い辺境伯のことだ。

きっと剣以外に体術なども習得しているのだろう。

ルフェーヴルから見ても、それなりに強そうだと感じる。

「軍の状態はどうだ?」

「兵達の状態は良好かと思われます。士気も高い状態で、治療師達のおかげで現在は怪我人もおりません。補給物資も滞りなく届いておりますので、今は不足しているものもありません」

「ならば良い」

ロイドウェルの報告にアリスティードが頷く。

「皆から何か質問はあるか?」

全員が首を横に振る。

「では、ヴェデバルド王国軍からまた使者が訪れるまで、各自、部隊の兵と共に休息に努めてくれ。休戦中ではあるが、ヴェデバルド王国軍の動きには注意するように」

全員が返事をし、そうして会議は終わった。

貴族達が出て行き、ルフェーヴルも天幕から出て行こうかと思っているとアリスティードに声をかけられる。

「ルフェーヴル、ちょっといいか?」

「なぁに〜?」

「父上がお前も合わせて、話したいことがあるそうだ」

通信魔道具を取り出したアリスティードに、ルフェーヴルも歩み寄った。

アリスティードが魔道具を使用して、通信を繋げる。

【アリスティードか】

「はい、父上。先ほどの話通り、ルフェーヴルも同席させています」

こうして通信魔道具で声だけを聞いてみても、ベルナールとアリスティードは声も似ている。

親子なので外見や声が似るのは当然なのだが、少し面白い。

【アリスティードと話していたのだが、ヴェデバルド王国軍が降伏した後に行う終戦宣言で、教会の大司祭にも立ち会ってもらおうかということになってな】

「あ〜、もしかしたら『降伏してませ〜ん、宣言もしてませ〜ん』って適当なこと言って、また戦争を仕掛けてくるかもしれないしねぇ」

【そういうことだ。さすがに教会関係者で立会人がいれば、ヴェデバルド王国とておかしな真似はしないだろう。破れば王族、もしくは国全体で破門される可能性がある】

ほとんどの国には教会があり、基本的に国民は教徒なのだが、それには理由がある。

女神を信仰していることもそうだが、一番は、教会に属していれば何かあっても教会の庇護を受けられるからだ。

各国家には法律があるものの、どの国の法もかなり厳しく、処罰が重い。

教会に属していないと処罰をそのまま受けることになるが、教徒だと、教会が事情を考慮して減刑出来ないか掛け合ってくれるのだ。

破門されるほどの重罪人には人々も厳しくなる。

物を売ってもらえない。売ってもらえても高額になる。

教会に入れないので治療も受けられないし、教会の庇護も受けられないので国の法で処罰される。

人々からも冷たい対応をされ、住む場所も失い、生活することもままならない。

しかも王族や国全体が破門となれば、周辺国からの手助けや輸出入などが滞り、国としての力も威厳も失う。

ヴェデバルド王国も好き勝手は出来ないだろう。

「まあ、ヴェデバルド王国が降伏した場合は戦争など出来ないくらいには賠償金と身代金を要求するつもりだが」

「戦地で捕らえた貴族はともかく、あの王太子のために金を払うとは思えないけどなぁ」

「あれでも一応王太子だ。自国の王太子を金惜しさに捨てたとなれば、それこそ国の恥となる。どれほど高額でもヴェデバルド王国は必ず支払うさ」

ルフェーヴルは「そんなもんかねぇ」と小首を傾げた。

【賠償金などの話はともかく、普通に移動するのでは時間もかかる上に、大司祭は高齢だ。終戦宣言を行う際にはルフェーヴルの転移魔法で大司祭の移動を手伝ってもらいたい】

「大司祭ってぇ、リュシーの洗礼に立ち会ったあの大司祭だよねぇ? オレ達の結婚式にも立ち会ってた人〜」

【ああ、そうだ】

最後に会ったのはその結婚式の時だが、あの大司祭ならば確かにルフェーヴルが転移魔法を扱えることを知っても他言しないだろう。

あの大司祭は女神の加護を受けたリュシエンヌに畏敬の念を抱いているようであったし、その夫であるルフェーヴルに対してもかなり丁寧な対応だった。

「それくらいなら別にいいよぉ」

一人か二人くらいであれば、王都からここまで転移魔法を使って往復したとしても、魔力回復薬を一本飲む程度で済むだろう。

「ヴェデバルド王国にも大司祭か、司祭辺りを連れて来るよう、あちらへ伝えておきましょうか?」

【もしヴェデバルド王国側の教会が裏で王族と繋がっていた場合は拒否されるだろうが……一応伝えておいてくれるか?】

「分かりました」

そういうわけで、ルフェーヴルの仕事が一つ増えた。

それ自体は別に構わないが。

【出来れば、両国の司祭が見ている中で終戦宣言を行いたい。それを公にすれば、ヴェデバルド王国もしばらくは静かになる。……と思いたいところだ】

ベルナールが苦笑した気配に、アリスティードも同様に眉を困ったように少しだけ下げて苦笑する。

「それでも勝手なことをすれば、さすがに周辺国も黙ってはいないでしょう。面子を潰せば、教会からも睨まれます」

【そうだな。もし教会から破門されれば、ヴェデバルド王国はあっという間に周辺国に攻め込まれて、領土を分割、吸収されてしまうだろうしな】

「避難民を出さないためにってこと〜?」

避難民がヴェデバルド王国から周辺国に流れ込む前に、ヴェデバルド王国を周辺国同士で分割して受け持ち、そこに住む者達をそのまま暮らせるようにするのだろう。

そうなれば地図からヴェデバルド王国は消える。

……コレってヴェデバルド王国的に 詰み(・・) じゃなぁい?

もうファイエット王国に勝つことが出来ない上に、国として好き勝手に動くこともままならない。

あとはもう静かにしているしか道はない。

「まあ、その辺りの話はどうでもいいけどぉ、オレが必要な時は呼んでくれればそれでいいよぉ」

ルフェーヴルの言葉にアリスティードが少し呆れた顔をする。

「お前は昔からそういうところがあるよな」

【仕方がない、ルフェーヴルだからな】

「そうですね、ルフェーヴルですから」

とアリスティードとベルナールが言う。

その声がどこか笑いを含んだものであることに、ルフェーヴルは少しだけ、面白くなかった。

「自分と大事なもの以外はどうでもいいってのは、誰だって同じでしょぉ?」

「お前の場合はそれが自分とリュシエンヌだけだがな」

「逆にアリスティードと義父上は、その範囲が大きすぎるんだよぉ。自分の腕で守れる程度で弁えてるオレってば謙虚じゃなぁい?」

「本当に謙虚な人間は自分でそういうことは言わない」

ルフェーヴルとアリスティードの会話を聞いて、通信魔道具越しにベルナールが笑っていた。

【義理とは言え、兄弟仲が良くてよろしい】

それはどちらが兄でどちらが弟なのか。

ルフェーヴルもアリスティードも、あえて指摘はしなかった。