軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対抗祭(7)

「まだですわよ!」

それでもお義姉様は諦めない。

苦しい状況でも詠唱をした。

そしてライトニードルを多数生み出すと、闇の刃の間を縫うようにお兄様の的へ向けて放った。

闇の刃のいくつかが方向転換し、ライトニードルの進路を塞いだが、ライトニードルはそれらの刃を切り裂いて的へ襲いかかる。

ピシャァアアンッと雷の弾ける音が連続して耳を襲う。

雷の光の筋が見えた。

まるでスローモーションのように、ゆっくりとそこから先の動きが分かった。

闇の刃を切り裂いたライトニードルが的の目前へ迫る。

その瞬間、全ての的の前に水溜りのような闇が縦向きに生まれた。

ライトニードルがそこへ吸い込まれる。

次の瞬間、吸い込まれたライトニードルが同じ場所から飛び出し、魔法の発動者であるお義姉様の方へ飛んでくる。

お義姉様が慌ててライトニードルを消す。

ライトニードルが消えた途端、その下から漆黒の剣が現れ、お義姉様の的へ容赦なく突き刺さる。

刃が的を破壊する音が闘技場内に響く。

そのすぐ後に鋭く笛の音が鳴った。

試合終了の合図だった。

「……わたくしの完敗ですわ」

お義姉様が苦笑する。

ドッと地震のように闘技場が観客席にいた生徒達の歓声で揺れ、そのあまりの声の多さに思わず耳を塞いだ。

先ほど見た光景を思い出す。

「……魔法を反転させた?」

反射の魔法というのは確かにある。

だが、それは水属性の氷魔法か光属性で鏡のようなものを生み出して、向かってくる魔法を弾くだけだ。

あのように、放った相手の方向に、狙った物に、正確に当たるような魔法ではない。

頭上からルルの呟きが聞こえた。

「やるじゃん」

それは素直な賞賛の言葉だった。

見上げればルルが愉快そうに目を細めていた。

「そのような使い方をするとは」

……あ、外面に戻った。

先ほどの言葉は思わず出たものだったらしい。

今日はルルの珍しいところをいくつも見る日だ。

気付けば、あの肌の表面を撫でるような変な感触はなくなっていた。

「ねえ、あれ反射魔法じゃないよね?」

こっそりとルルへ問う。

ルルが頷き返し、わたしの耳元に顔を寄せる。

「あれは闇属性です」

「闇属性でも反射なんて出来るの?」

そんなこと、これまで読んだどの魔法書にも載っていなかった。

「正確に言えばあれば反射ではありません。……空間魔法が闇属性なのは知っておられますか?」

「うん」

「あれはその応用です。空間魔法の中では時間が進みません。そしてそれは魔法もそうなのでしょう。一度ライトニードルを空間魔法で収納し、それを角度と向きを変えて取り出した。取り出されたライトニードルは入った時の威力を維持しながら飛び出したというわけです」

……それ、かなり色々と問題のある魔法じゃない?

空間魔法に魔法も収納出来るということは、事前に魔法を入れておけば、空間魔法の詠唱だけでいくつもの魔法を展開することが可能になる。

そして魔法は本人のものでなくとも構わない。

たとえ空間魔法しか使えない人だったとしても、他の人に魔法を発動してもらってそれを取り込めば、自分の扱えない属性の魔法も使えるだろう。

しかも攻撃魔法が発動出来ないように結界魔法を展開させても、空間魔法ならばそれに引っかからない。

空間魔法に生き物は入れられない。

だが、まさか魔法を収納するなんて驚きの発想だ。

「お兄様……」

何とも言えない感情が湧き上がる。

わたしは優秀と言われてきたけれど、それは、前世の記憶もあるおかげだ。

しかしお兄様は違う。

ああ、こういうのを本物の天才と言うのだ。

もしもわたしの加護の影響で祝福を受けていたとしても、力を使いこなせなければ意味がない。

「闇属性の魔法について教えてくれと言われましたが、これは予想外の方法でした」

あのルルでさえ、驚いている。

「ルルが教えたの?」

「いえ、私がお教えしたのは闇の操り方と空間魔法だけです。しかも私がお教えした時は精々剣を五本程度出すくらいしか維持出来ておりませんでした」

「じゃあ、お兄様はそれから練習してあそこまで使いこなしたということ? この一月の間で?」

「そういうことになりますね」

頷いたルルの灰色の瞳が怪しく光る。

それは、闇ギルドランク一位の者と手合わせをしたいと言っていた時と同じに見えた。

……ルルって結構な戦闘狂だよね。

強い相手を見ると確かめたくなるのかもしれない。

闘技場を見下ろせば、あの激戦などなかったかのようにお兄様が手を振って歓声に応えている。

お義姉様が先に台から降りた。

対抗祭優勝者が決定した瞬間だった。

* * * * *

「お兄様、もしかしてお兄様も祝福を授かったのではありませんか?」

宮に帰った後、やって来たお兄様に問う。

話をするために既に人払いは済ませてあった。

対抗祭はお兄様の圧勝だった。

剣武会もあり、そちらも終了してから、最後に合わせて両方の優勝者達にトロフィーなどが学院長より贈られる。

これでお兄様も確実にそれを受け取ることになる。

ズイ、と身を乗り出したわたしにお兄様が頷いた。

「ああ、そうみたいだ」

何てことない風に返されてムッとしてしまう。

「そんな大事なことをどうして教えてくださらなかったのですか? 今日の試合を観て、驚きました」

思わず頬を膨らませたわたしにお兄様が苦笑する。

「すまない。言えばリュシエンヌの重荷になるのでは、と父上と話してな。それに加護の影響がどこまで広がるかも分からないし」

「それはそうかもしれませんけど……。お父様にも祝福はあったのでしょうか?」

お兄様にあって、お父様にない、ということはないと思うが。

「ああ、あったみたいだ」

ルルが祝福を受けるのはわたしの夫だからであって、お父様やお兄様も受けたと聞けば、どこまでの人がその対象になるのかと不安もあっただろう。

てっきりルルだけだと思っていた。

でも、わたしが気付かないだけで、実は他にも祝福を授かった人がいるかもしれない。

そこまで考えて思い出す。

「お義姉様も去年より強くなっていらっしゃるとお聞きしましたが、もしかして……」

お義姉様も祝福を授かったのでは。

お兄様が一つ頷いた。

「恐らくそうだろう。試合の後にエカチェリーナに尋ねてみたが、夏期休暇の後から随分と調子が良いらしい」

その言葉に小さく息を吐く。

「やっぱり」

「本当はリュシエンヌの周りの人間についても調べたいところだが、あまり大っぴらに行うと不審がられるからな。今のところ分かっているのはルフェーヴルと父上、私、そしてエカチェリーナだけだ」

「お父様とお兄様は家族だからですが、お義姉様は将来家族になる予定だからでしょうか?」

「そこはリュシエンヌがエカチェリーナを義姉と認めているからというのもあるだろう」

……そうだよね。

わたしがお義姉様と認めているのは大きいだろう。

まあ、でも、これは良いことなのだ。

命を狙われやすい王族。

お義姉様とて王家へ嫁げば例外ではない。

自分の身を守れるだけの力があるというのは、お義姉様にとってもかなりプラスなことだと思う。

「祝福はどのようなものだったんですか?」

ルルが結構凄かったので、お兄様やお父様もかなり良い加護を得られたのではないだろうか。

「恐らくだがルフェーヴルと同様に身体能力の向上と魔力の倍増、それから精霊との親和性も高くなったようだ」

「具体的に言うと?」

「今までは親和性の低かった属性が、今は親和性が高くなって使えるようになった」

お兄様は火属性が最も親和性が高いと聞いたことがあった。

そして火属性と親和性が高い者は、光や風とも親和性が高いことが多い。

逆に土や水、闇属性とは相性が悪い。

でもお兄様は今日の試合で土属性魔法も闇属性魔法もかなり高度で高威力のものを駆使していた。

「……お兄様、今、苦手な属性はありますか?」

まさか、と思いつつ問う。

「いや、ない。以前はあまり使えなかった水属性も今はそれなりに使えるしな。土と闇は今日の試合の通りだ」

「それって、全属性との親和性が高いということではありませんか!」

親和性が低くとも、大抵の人は初級魔法くらいは使用出来るらしい。

だがそれ以上となると親和性が高くなければ使えない。

そして、全属性の親和性が高い人間というのは珍しいものなのだ。

少なくとも、わたしが知る限り全属性と親和性が高い人間は宮廷魔法士長だけだ。

そこまで考えてハッとする。

「まさかルルも?」

わたしの横に腰掛けていたルルが小首を傾げる。

「ん〜、オレは元からどの属性とも親和性高かったからぁ、加護の影響はちょ〜っと分かんないかなぁ」

「え」

「何?」

わたしとお兄様の声が被る。

……え、ちょっと待って。

「ルルって全属性持ちだったの?!」

……初耳なんだけど!

「あれ、言ってなかったけぇ?」

「聞いてないよっ」

……全属性親和性高いのもう一人いた!

こんな近くにいるなんて気付かなかった。

思い返せばルルは、わたしの考えた新しい魔法とか既存の魔法とか、よく試しにやって見せてくれていた。

何気なくサラッとやってくれてたから何の疑問も感じなかったけれど、全属性の親和性が高くなければ出来ないことだ。

当の本人は「ごめんねぇ?」と悪びれなく言っている。

「その身体能力に全属性持ち……」

お兄様が半ば呆然とルルを見る。

……うん、その気持ち分かる。

ただでさえチートっぽかったルルが更にチート感が増したとは思ったけど、元々のチート具合を知ると余計に今のルルの強さが桁外れに思える。

「そういえば、ルル、闇ギルドのランク一位の人と戦ってみたの?」

以前に手合わせしたいと言っていた。

ルルが珍しく残念そうに首を振った。

「まだだよぉ。向こうもランク一位なだけあって忙しくってさぁ、なかなか捕まえられないんだよねぇ」

「そうなんだ」

それにランク二位のルルがここにいる。

ルルの受けなかった依頼を一位の人や三位の人が受けている可能性もある。

……そうだとしたら少し申し訳ないかも。

でもルルと離れるのは嫌なので、是非とも頑張っていただきたい。

「ねえ、ランク一位の人ってどんな人?」

「え〜っとぉ、性格は物凄く明るいっていうかぁ、陽気な奴でぇ、身体能力が物凄く高くて大柄でぇ、魔法はあんまり使えないけど身体強化だけは得意な感じかなぁ。東の国の出身で刀を使ってるよぉ」

東の国は実は昔の日本に近い感じの国だ。

……っていうか、まんま日本なんだよね。

服が和装だし、箸を使って食事をするし、言葉や文字も日本語で、そういうところは変だなと思う。

似て非なる世界だけど、ゲームっぽさというか、ご都合感がある。

国としてはきちんと歴史もあって、国民性も日本人に似ていて、なかなかに趣深く懐かしい国なのである。

「闇ギルドって他国出身の人は多いの?」

「多いよぉ。半分以上は他国の人間かなぁ。まあ闇ギルドなんてところに入るような奴は大抵後ろ暗いところのある奴ばっかりだしねぇ。でもぉ、そういう詮索自体しないのが暗黙の了解なんだぁ」

「なるほど」

ルルの言葉に納得してしまう。

きっと元罪人とか、何かあって国を追われた人とか、他国や自国に関わらず、訳ありの人達ばかりなのだろう。

他人への詮索をしない代わりに自分もされない。

そうすることでお互いあまり関わり過ぎないようにしているのかもしれない。

「私の前であまり闇ギルドの話はしないでくれ」

お兄様が困ったように眉を下げる。

「ごめんごめぇん、 闇ギルド(あそこ) はギリギリ合法なんだっけぇ?」

「そうだ、あそこは表向きは 便利屋ギルド(トゥットファーレ) だろう? まあ、内情を知る者は皆、闇ギルドと言ってしまっているがな」

「え、闇ギルドって名前ではないんですか?」

つい聞き返したわたしにお兄様とルルが笑った。

「さすがにそんな分かりやすい名前で登録はしない」

「そもそも『闇ギルド』なんて明らかに法に触れています〜って名前にしたら絶対認められないよぉ」

……それもそうか。

確かに『闇ギルド』なんて名前で登録をしようとしても、普通は許可が下りないだろう。

でも 便利屋(トゥットファーレ) とは上手いこと言ったものだ。

「だってお兄様もルルも、お父様だっていつも『闇ギルド』って言ってるから」

二人が顔を見合わせる。

「……そうだったか?」

「……そうだったかもぉ?」

「それは私達が悪いな」

「そうだねぇ」

お兄様とルルがクスクスと笑う。

……もう!

「二人とも笑い過ぎです!」

なかなか笑いが収まらない二人に怒る。

言われてみれば違法ギリギリ、何なら違法なこともしてるギルドが『闇ギルド』なんて分かりやすい看板を出しているはずがないのだけれど。

それにしたって笑い過ぎだ。

あんまり笑われると恥ずかしくなってくる。

多分、今、わたしの顔は赤い。

ルルの手がわたしの頭を撫でる。

「ごめんねぇ、リュシーがあんまりかわいいからつい笑っちゃったぁ」

「そうだな、すまない。リュシエンヌがかわいいものだから、つい、な」

「……二人とも、本当に悪いと思ってる?」

「思ってるよぉ」

「ああ、思ってる」

笑顔の二人はとてもわたしに対して悪いと思ってる感じがしないのだが。

……まあ、いいか。

勘違いしていたのはわたしの方だし。

闇ギルドの正式な名前は 便利屋ギルド(トゥットファーレ) 。

これからは忘れないようにしよう。

うっかり他の人の前で闇ギルドと言ってしまわないように気を付けよう。

そもそも闇ギルドについて話をするのはルルとお兄様とお父様の三人くらいのもので、他の人と話した記憶はない。

「ほらほらぁ、機嫌直してよリュシー」

ルルに差し出されたクッキーへかじりつく。

仕方ないから流されてあげよう。