軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対抗祭(2)

対抗祭二日目。

本日は二回戦が行われる予定だ。

お兄様とロイド様は相変わらず観客席にいる。

そしてわたしの横にルルがいるのも同じだ。

基本的に観客席は一年、二年、三年と分かれており、わたし達は三年生のところだ。

その範囲内であればどこに座っても良い。

ちなみにお兄様とわたしの丁度間辺りの後ろの席には護衛の騎士が座っている。

「さあ、今日は何が観れるかな」

ロイド様がどことなく楽しげだ。

お兄様は腕を組んで黙っているけれど、やっぱりこちらも普段より少し楽しそうだ。

「昨日のお義姉様とミランダ様、フィオラ様は凄かったですね。特にフィオラ様の攻撃はまるで空から星が降ってくるようでした」

「そうだな、あれは少々厄介だ」

わたしの言葉にお兄様が頷いた。

「だけどあれならアリスティードは防げるよね?」

ロイド様は当たり前のように言う。

……え、あの隕石集中砲火みたいな攻撃を防げるの?

「まあ、防御一択になるがな。攻撃魔法と防御魔法では攻撃魔法の方が魔力消費は激しい。あとは相手が消耗するまで待って、攻撃が弱まったら叩く」

「なるほど」

あれをずっと受けていられるだけでも凄いと思うのだけれど、やっぱり魔法を使えるとその辺りの感覚が違うのかもしれない。

……わたしはどの魔法見ても『凄い』って思っちゃうのに。

お兄様やロイド様達はきちんと魔法を見て、その対処法まで考えて観戦しているようだ。

最初の試合は昨日勝ち上がった一年生と二年生だった。

どうやら力が拮抗しているらしく、開始の笛が鳴ってから時間いっぱいまで試合は続いた。

勝ったのは二年生で、ギリギリ、的を一つ多く破壊していたので勝者となった。

そして次の試合はミランダ様が台に立った。

昨日の試合が面白かったからか、声援が多い。

それにミランダ様が礼を執る。

対戦相手の生徒は三年生だ。

互いに準備が出来、開始の笛が響き渡る。

同時に魔法詠唱が始まった。

相手も三年生の十位以内とあって詠唱が早い。

僅差でミランダ様の方が魔法展開が遅れ、最前列の左右の的が三年生の放ったウォーターカッターによって断ち切られた。

それでも他の的は守れている。

ミランダ様の的がウォーターカッターに襲われるのと同時に三年生の陣地の土がうねった。

また昨日のかと思ったが、水もないし、昨日のミランダ様の試合を見ていたのか三年生が作り上げた結界魔法は的の地面までしっかりとカバーしている。

しかしミランダ様が手を翳す。

すると土が結界魔法の上へ覆い被さっていく。

三年生の陣地が丸々土のドームとなった。

それでも結界魔法で中の的はまだ無事らしく、審判の教師は黙っている。

「昨日のようにはいかないぞ!」

三年生が言い、ミランダ様が答える。

「さあ、それはどうでしょう?」

また二人が同時に詠唱する。

今度はミランダ様が早かった。

ゴオッと三年生の陣地が炎に包まれる。

そしてミランダ様の陣地にもファイアランスがいくつも降り注ぐ。

炎対炎の戦いだ。

見てるだけでも暑くなってくるが、実際に熱気もあり、闘技場の台の上に立つ二人も相当暑いだろう。

それでも集中力を欠かずにいるようで、どちらも魔法の手も緩まない。

ミランダ様はファイアランスを防ぎながら相手陣地を火の海にしている。

かなり高温らしく、遠目にも三年生が汗を掻いているのが分かった。

それでもミランダ様が耐えていると三年生が新たな魔法を詠唱するが、ミランダ様が炎を止めない。

それどころか更に火力が上がる。

三年生が思わずといった様子で袖で額の汗を拭っているのが見えた。

そしてミランダ様の陣地に強い風が吹き荒れ、地面を抉るように大きな切り傷が出来ていく。

まるで 鎌鼬(かまいたち) のような風だ。

荒れ狂う風と炎がぶつかって熱風が観客席全体に広がった。

ミランダ様の燃えるような赤い髪が風に靡く。

ミランダ様が詠唱をしている。

三年生の陣地が更に高温の炎で包まれる。

「相手の集中力を切らす作戦か?」

「いや、だがそれにしては……」とお兄様が呟く。

ミランダ様の炎が一際大きく燃え上がった時、ミランダ様が土魔法で槍を生み出した。

そしてそれが勢いよく土のドームに突き刺さった。

次の瞬間、物凄い大きな音が闘技場を襲った。

ドブシャアァアァッと熱気と蒸気と土がそこから飛び出し、闘技場を覆う結界に土がぶつかる。

ミランダ様の詠唱が聞こえて風がやや強く吹く。

熱気と蒸気が風で追いやられると、そこにはバリバリに壊れた土のドームと飛び散った土が広がっていた。

よく見ると土には何かの破片が混じっている。

視界が晴れるのと笛の音が響くのはほぼ同時だった。

審判の教師がミランダ様側の手を上げる。

ミランダ様が詠唱を行い、土のドームを崩すと、三年生が結界魔法を張っていたはずの中身はぐちゃぐちゃになってしまっていた。

そして唐突にロイド様が笑い出した。

思わずわたしもお兄様もギョッとしてロイド様を見たが、ロイド様は心底おかしそうに笑う。

「そうか、そういうことか!」

まるで非常に面白い喜劇を見た後のように笑っているロイド様に、お兄様が問う。

「ロイド、今のが何なのか知っているのか?」

「ああ、ごめん、説明するよ」

他の生徒に混じって拍手を送ったロイド様が笑いを抑え、説明してくれた。

「多分、あれは料理と一緒だよ。ほら、肉や野菜を柔らかくするためにほぼ密閉状態の鍋で蒸す方法があるよね?」

「あるな」

「あれって蒸気の逃げ口があるならいいけど、逃げ口がなかったり、うっかり調理中に緩めたりすると蓋や中身が内側からの圧力で吹き飛ぶんだって」

「そうなのか?」

…………もしかして圧力鍋のこと?

目が点になった。

だって、まさか魔法で戦うのに圧力鍋の話が出てくるとは思わなかった。

でも同時に「それか!」と思う。

まずミランダ様は土で結界魔法を覆った。

恐らくただの土ではなくウォールで硬い土のドームを作り、加圧に耐えられるだけの密閉空間を生み出した。地下まで結界魔法を覆ったのだろう。

そこに高火力の炎で熱する。

中の水分が蒸気となり、内部の圧力が高まる。

そして限界ギリギリまで上がったところで、ミランダ様は逃げ道を作ってやったのだ。

そうなれば圧力は一気にそこへ集中する。

中の熱気と蒸気と中身の土や的が吹き飛ぶように飛び出した、というわけである。

「この前デートをした時に行ったレストランで料理人にミランダがあれこれ訊いていたんだ。特に調理法について細かく尋ねていたから興味があるのかと思っていたけれど、まさか魔法に応用するなんてね」

ロイド様が苦笑した。

これは凄いことだ、と思う。

これまでの魔法は生み出した効果によって戦うものであった。

しかし、魔法の効果から更に自然現象を生み出し、それを利用して戦うこの方法はある意味、危険だ。

結界魔法が効かない戦い方だ。

もしあのドームの内側に人がいたら、内側から破壊して逃げないと死ぬことになる。

お兄様もその危険性に気付いたのか眉を寄せた。

「あの戦い方は口外させない方がいいな」

「そうですね、素晴らしい発見ではありますが、非常に危険を孕んでいるかと思います」

着眼点は素晴らしい。

ただ、これは広めるべきではない。

お兄様が「後ほど学院長へ進言しておく必要があるだろう」と言った。

わたしも、そしてロイド様も頷いたのだった。

その次はアンリの試合だったが、彼は相変わらず甲羅に閉じこもった亀のように防御一辺倒の戦い方であった。

しかしそれだって容易ではない。

相手からどのような魔法を向けられても魔力制御を乱させてはならないため、実は相当な胆力が必要だ。

普段は気弱なアンリだが、人への態度がそうなだけで、実はかなり度胸があるのかもしれない。

アンリは相手が魔法を連発して疲弊したところで一撃必殺の高威力魔法を放ち、相手の結界魔法を一点集中で突き崩し、的を破壊する。

持ち時間いっぱいを使った戦い方だ。

その後も他の生徒の試合が続く。

そしてお義姉様の番が来た。

お義姉様が台に立つと声援が凄い。

その声援にお義姉様は怯むことなく手を振って応じている。

相手の生徒は同じ二年生のようだ。

互いに準備が整い、開始の笛が鳴る。

同時に二人が詠唱を口にした。

どちらも防御に徹したようで、僅かにお義姉様の方が早く結界魔法を生み出した。

次の魔法のためにそれぞれが詠唱を開始する。

カッと眩い光が闘技場を覆いかけた瞬間。

お義姉様の声が響いた。

「させませんわ!」

土の壁が突如下から突き出し、お義姉様の方だけ眩い光を遮った。

そして更に敵の陣地から大きな棘のような土が飛び出し、結界魔法に覆われた的や対戦相手に向かっていく。

ガキィンと派手な音が続けざまに響き渡る。

その音だけでなく振動までが空気を微かに震わせ、それが絶え間なく断続的に行われる。

相手は攻撃魔法を唱えたくとも、強い衝撃を受ける結界魔法を維持するだけで精一杯らしい。

お義姉様はその豊富な魔力で容赦なく追撃する。

「今日は力技のようだな」

「そうだね」

派手な音が響く中でお兄様とロイド様が苦笑した。

お義姉様が更に詠唱した。

長い。複数属性の混合魔法だ。

土の棘が下から突き上げる中、今度は頭上から土の矢が風を受けて目にも留まらぬ速さで打ち込まれていく。

上と下から攻められて相手は防戦一方だ。

魔力が尽きてきたのか、制御が甘くなったのか、相手の結界魔法が微かに揺らいだ。

そこへ一番大きな棘が地面から突き刺さる。

甲高い音を立てて結界魔法が砕け散った。

大きな棘は相手陣地の的を破壊する。

試合終了の笛が吹き鳴らされた。

「エカチェリーナらしい戦い方だったな」

きちんと試合終了後に敵陣地の地面を魔法で元に戻しているお義姉様を見ながら、お兄様が微笑む。

つい、わたしも微笑んだ。

「そうですね」

お義姉様は元々、真っ直ぐな気質の人だ。

搦め手が使えないというわけではなく、あえて相手と向き合い、それで相手を理解したいという感じなのだ。

この力技の戦い方も何というか、お義姉様の真っ直ぐさと、あと、容赦のなさが垣間見える。

……ミランダ様と言い、お義姉様と言い、戦いとなると一切の手加減はしないみたいだ。

この手のタイプの人間は怒らせたらいけない。

二人とも気の強そうな外見をしているけれど、性格はどちらかと言えば気が長く穏やかな方だ。

爵位が高いが故に、一時の激情に身を任せたり権力を濫用したりしないため、理性的でいるように心がけているのだろう。

……そういうタイプの人ほど怖いんだよね。

普段は理性で押し固めているからこそ、解放出来る時はしっかり解放する。

しかも二人とも根が真面目だから手を抜くということがない。

声援にお義姉様はまた手を振って応えつつ、台を降りていった。

そしてまた他の生徒の試合があり、最後はフィオラ様の試合になった。

対戦相手は一年生のようだ。

試合開始の笛が響き渡る。

同時に詠唱が始まった。

……え、短い?

フィオラ様の詠唱は結界魔法のものよりも随分と短く、そして簡素なものだった。

それこそ初級魔法のそれである。

相手もそれに気付いたのかハッと表情を強張らせたが、もう遅い。

一陣の強い風が、相手の結界魔法の詠唱よりも先に陣地を襲う。

そのまま強い風が闘技場を駆け抜けた。

一瞬置いて、相手の結界魔法が発動し、同時にいくつもの雷がフィオラ様の的を直撃する。

その振動で、相手の的が地面へ転がり落ちた。

試合終了の笛が鳴り、勝ったのはフィオラ様だった。

まさか防御を捨てて攻撃に徹するとは。

しかも初級魔法という最も詠唱の短い魔法を、高威力で一陣だけ放った。

お互いの魔法の発動は瞬きほどの差だった。

しかし、確かにフィオラ様の方が僅差で早かった。

「防御を捨てるなんて考えたね」

ロイド様が言う。

「ああ、だが、あれは初見にのみ通じる方法だ。それにもしも相手がより短い詠唱の魔法だった場合、防御が出来ずに魔法を受ける」

「自分の方が早く魔法を展開出来るという自信がないと出来ないだろうね」

「戦いの基本の型を破るのは面白いやり方だったが、私やロイド、エカチェリーナを相手にしていたら、フィオラ嬢の負けだ」

「そうなんですか?」

お兄様の言葉に首を傾げる。

どうしてそう言い切れるのだろうか?

お兄様が口元に手を添えたので、耳を寄せる。

「私達は自分達で改良した結界魔法を使っている。主に詠唱短縮を目的に魔法式を構築し直した。今までと同程度の防御力のあるものだ」

つまりお兄様達の方がフィオラ様の詠唱より更に早く結界魔法を展開出来るということか。

そこでストンと理解が出来た。

エカチェリーナ様が詠唱時間のわりに高威力の魔法を使えるのは、結界魔法の詠唱に割く時間が他の人よりも短く、その分を攻撃魔法の詠唱を当てられていたからだ。

たった一単語でも魔法の効果は変わる。

それだけでも詠唱短縮はかなりのアドバンテージがあるだろう。

「凄いです! 今度教えてください!」

既存の結界魔法は覚えている。

でもわたしはそれを詠唱短縮のために魔法式を構築し直そうなんて考えたこともなかった。

新しい魔法を生み出すことは考えても、今ある魔法を更に改良するなんて、凄いことだ。

既存の魔法とは完成した魔法という意味でもある。

それを構築し直すだけでも大変なのに、まさか、詠唱を短縮出来るようにしてしまうとは。

「ああ、帰ったら教えよう」

テストの成績だけでは頭の良さは測り切れない。

わたしよりもお兄様達の方が、よほど頭が良い。

それを改めて実感した。

学院のテストは所詮、決められた枠に過ぎない。

一定のやり方で測るだけ。

でも、それが全ての人に当てはまるわけではない。

今あるものをより良いものへ。

その考えこそ、大事なことなのだろう。

……さすがです、お兄様。

改めて、お兄様達は素晴らしい人だと思う。

この人達の傍にいて、恥じない人間になりたい。

そうなる努力を忘れてはいけない。

「お兄様、わたしももっと勉強します」

お兄様は「そうか、だが私も負けないからな」と穏やかに笑ってわたしの頭を撫でたのだった。