軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルフェーヴルルート

夏期休暇がやっと終わった。

オリヴィエは学院が始まると、まず情報収集を行うことにした。

今までは原作のゲームで攻略対象が出現する場所に行っていたけれど、今回は先に下調べしておくのだ。

リュシエンヌという異物がいるせいで原作が変わってしまったかもしれない。

もしそうだとしたら攻略対象の、アリスティードの行動にも変化がある。

今現在のアリスティードの行動を知る必要がある。

そこでオリヴィエは出来る限り第二校舎の付近に留まることにした。

第二校舎の二階と三階へはさすがに行けない。

行けば一年生は酷く目立つし、三階は生徒会と三年生の上位十名しか基本的に立ち入りは許されていない。

だからオリヴィエは朝早くに登校し、ギリギリ遅くまで残って下校する。

毎日カフェテリアも見に行ったけれど、二階には行けないし、他のご令嬢達に訊くとあまりアリスティード達は使用していないらしい。

一応中庭も確認したけれどいなかった。

朝も、昼休みも、放課後も、第二校舎の出入り口や渡り廊下の見える場所で過ごした。

そこで分かったことはいくつかあった。

まず、アリスティードはリュシエンヌと登下校しており、同じ馬車を使用している。

次に昼食は第二校舎内で摂っていて、カフェテリアはあまり利用しない。

アリスティードの近くには常に騎士がいる。

アリスティードが第二校舎を出るのは恐らく、登下校と移動教室の時だけ。

そしてリュシエンヌの傍には愛する彼がいる。

…… ヒロイン(わたし) の居場所を奪った上に、ルフェーヴル様と結婚までするなんてありえない。

きっと王女の身分を使って結婚したのだろう。

原作でもルフェーヴルはヒロインと結婚することはないので、無理やりに違いない。

「ルフェーヴル様……」

第二校舎を見張りながら思わず呟く。

そしてオリヴィエは前世遊んだゲームの、ファンディスクについて思い出したのだった。

* * * * *

ルフェーヴル=ニコルソン。

闇ギルドの凄腕の暗殺者。

ファンディスクでのみ登場する隠しキャラだ。

ヤンデレで、自己中心的で、排他的な思考の持ち主だ。他人には基本的に容赦ない。

ファンディスクではヒロインがアリスティードと友情で終わるトゥルーエンドを迎えた後の話という設定になっている。

学院を卒業後、ヒロインは優秀さのおかげで王城で文官の一人として働くことになる。

初日に、他の攻略対象からの誘いを全て断ることでルートが開けるキャラクターだ。

遅くまで仕事をして帰る時、城を出てふとヒロインは違和感に気付く。

……誰かに見られているような?

辺りを見回し、そして、気配も姿も朧げだけれど、建物の屋根の上にいる人物に気付くのだ。

「あなたは誰?」

「へぇ、オレが見えるんだぁ?」

それがヒロインとルフェーヴルとの出会いである。

ルフェーヴルは王太子や公爵子息などが想いを寄せるヒロインがどんな人物なのか興味を示し、覗きに来るのだ。

ここも選択肢の一つで、路地や前方の道を選択するとルフェーヴルのルートから外れてしまう。

他のどの攻略対象よりもシビアなのがルフェーヴルルートだ。

初の邂逅はたったそれだけ。

そこから段々と出会う回数が増えていく。

ただしルフェーヴルに出会うためには、最適なタイミングで、人気のない場所を選択しつつ、他の攻略対象から一定の好感度を保っておかなければならない。

選択肢を一つでも間違えばルフェーヴルはヒロインから興味を失くす。

その場合は最も好感度の高い他の攻略対象のルートに強制的に入ってしまう。

ルフェーヴルのルートを維持するには正しい選択肢のみを選んでいく必要があった。

人気のない場所、人目に触れない場所。

そういったところへヒロインが行けば、ルフェーヴルが現れる。

三度目の出会い以降は会話が増える。

そこで出る選択肢は大まかに言って三つ。

ルフェーヴルの話に共感する。

ルフェーヴルの話を黙って聞く。

ルフェーヴルの話に反論する。

この選択肢では黙って聞くのが正解だ。

ルフェーヴルは自分本位なのでただ話をしているだけで、ヒロインに何かを求めてはいない。

だからヒロインは黙って話を聞き、ルフェーヴルが満足するまで他愛のない会話を続けるべきなのだ。

ルフェーヴルが過激なことを言っても、共感も否定もしてはいけない。

そしてルフェーヴルの存在を誰かに話してもいけない。

もし誰かに話してしまうと暗殺される。

しかも話してしまった攻略対象と共に。

二人だけの密会というわけだ。

しばらく黙って話を聞くが、好感度がある一定値を超えたら今度は選択肢を変更する必要がある。

それはルフェーヴルのこの一言が重要だ。

「君はどう思う〜?」

ここで出る選択肢でのみ共感するを選ぶ。

そしてまた黙って聞くに戻る。

このたった一度の共感がルフェーヴルの中に、ヒロインへの強い興味を生み出すのだ。

これが成功すると格段にルフェーヴルの出現頻度が増える。

ここでやっとルフェーヴルのハッピーエンドとトゥルーエンドが解放される。

バッドエンドは殺されるルートだ。

しかもルフェーヴルのバッドエンドは種類が多い。

誰かに密会を話しても殺される。

他の攻略対象の誘いに乗っても殺される。

イベント以外で攻略対象に三回以上話しかけると、アリスティード以外は暗殺されてしまう。

アリスティードの場合はルフェーヴルが姿を消す。

ちなみに好感度をこの辺りで止めたまま、選択肢を全て「躊躇う」「黙って聞く」などのどっちつかずな対応を続けるとトゥルーエンドになる。

密会は続けるが、ルフェーヴルが一方的に喋り、ヒロインがそれを聞くという友人関係で終わる。

好感度を上げていくとそれまでは夜の間しか会いに来なかったルフェーヴルが、今度は昼間だけ会いに来るようになる。

ヒロインと会う時間を作るために、ルフェーヴルが仕事を夜だけにするという設定だ。

更に好感度が上昇するとイベントが発生する。

ヒロインが貴族の不正に気付いて正そうとするのだが、そのせいで貴族の手の者から狙われてしまう。

襲われたところをルフェーヴルに助けられるのだ。

その奇襲イベントを何度か繰り返すとルフェーヴルからの身体接触と独占欲が段々と現れてくるのだ。

そうしたら、ルフェーヴルの言葉に全て「はい」で答えなければならない。

一度でも「いいえ」を選択すると殺される。

やがて、ルフェーヴルはヒロインに自分の下へ来ないかと誘いをかけてくるようになる。

だがそこで安易に頷いてはいけない。

あえて「今のままでいたい」を選択する。

ルフェーヴルの独占欲は日に日に増し、そうして、最終的にヒロインはルフェーヴルに攫われてしまう。

王都から離れた場所にあるらしいどこかの屋敷に連れ去られ、そこで軟禁されるのだ。

「泣いても叫んでも逃がさない」

そう言ったルフェーヴルに選択肢が表示される。

そこでヒロインはこう返すのだ。

「ずっと逃がさないで」

ヒロインがルフェーヴルの執着を受け入れる。

これでルフェーヴルのハッピーエンドが確定し、ヒロインとルフェーヴルだけの世界となる。

軟禁を受け入れたヒロインにルフェーヴルは優しくなり、望む物があればどんなものでも用意してくれるし、どんなお願いも叶えてくれる。

ただし外の世界に出ることは許されない。

それ以外の選択肢は全て、ルフェーヴルとヒロインの甘い生活の一コマが見られる仕様である。

ヒロインはルフェーヴルだけを愛し。

ルフェーヴルはヒロインを甘やかし。

この仄暗い関係は続いていく。

怠惰な生活をするも良し。

享楽に耽るも良し。

しかし最後は日の当たる庭かどこかで、少し成長したルフェーヴルとヒロインが寄り添いあって過ごすスチルが表示されて終わるのだ。

このスチルとルフェーヴルの行動パターンの変更から、ゲームファンの中には『光差す世界で君と』のメインヒーローは実はルフェーヴルではないかという憶測まで出てきていた。

* * * * *

オリヴィエが『光差す世界で君と』を遊んだきっかけがルフェーヴル=ニコルソンというキャラクターだった。

携帯のゲームアプリで出てくる広告で知った。

一目惚れだった。

絵も、顔立ちも、声も、性格も、暗殺者という職業もオリヴィエの好みだった。

それに他の攻略対象と結婚するとヒロインは王太子や夫人として過ごすことになるが、ルフェーヴルルートはヒロインもルフェーヴルも自分の欲に忠実に生きる。

しかもルフェーヴルはヒロインに尽くしてくれる。

ゲームを攻略した時、それがいいと思った。

現実の世界は退屈だった。

学校に行って好きでもない勉強をして、大して親しくもないクラスメイト達とつるんで、面白くもない話で笑って、家に帰れば平凡で気の弱い、つまらない両親がいる。

美しい顔立ちの男性が自分だけに執着し、愛し、死ぬまで尽くし続けてくれるなんて最高だった。

だからオリヴィエがゲームにのめり込んだ。

クラスメイト達にバレないように。

両親にバレないように。

普段の生活を送りながら寝食を削ってゲームを攻略し、ファンディスクも購入して遊んだ。

死んで転生した時は驚いたし、腹が立ったけれど、自分がヒロインだと気付いた時は最高だと思った。

本物のルフェーヴル様に会える。

……そう、思ったのに。

第二校舎から出てきた四つの人影を離れた場所から見つめる。

ルフェーヴルルートに繋げるにはアリスティードに近付かなければならなかったのに、リュシエンヌがその場所を奪った。

そしてルフェーヴルルートも奪っていった。

原作ですらルフェーヴルとヒロインは結婚していないのに、リュシエンヌはルフェーヴルと結婚している。

……ルフェーヴル様は ヒロイン(わたし) のものなのに。

ギリリと爪を噛む。

とにかく、今からでもアリスティードに近付いて、ルートを修正しなければ。

ただ近寄るだけでは好感度の上昇が間に合わないかもしれない。

そのために、アリスティードの婚約者とリュシエンヌを利用する必要がある。

二人にオリヴィエが虐められていると周囲に印象付けさせるのだ。

「まずは婚約者の方ね」

オリヴィエの新緑の瞳が怪しげに光る。

……そしてリュシエンヌの評価も下げてやる。

二人の評価を卒業パーティーまでに出来る限り下げて、パーティーで断罪するのだ。

攻略対象なんていなくてもきっと何とかなる。

悪役の二人とヒロインなら、みんな泣いているヒロインを信じるだろう。

その場でリュシエンヌがルフェーヴル様に無理やり結婚を迫ったことも暴露すれば、隠し立て出来なくなるだろう。

……助けたら、ルフェーヴル様に愛されちゃったりして。

オリヴィエは鼻歌を歌いそうになるのを我慢しつつ、こっそり立ち上がるとその場を後にした。

背を向けたオリヴィエは、ルフェーヴルが振り返っていたことに気付かなかった。