軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

誕生日と婚姻(1)

その日は朝から大忙しだった。

朝起きて、部屋で軽い朝食を摂ったら髪とお肌の確認をされる。

それから浴場へ行って、入浴する。

全身を擦られて磨かれるのだけれど容赦がない。

湯船に浸かると髪を洗われる。

丁寧に丁寧に洗われて、タオルで優しく叩くように水分を拭い取り、それからヘアオイルとなる香油を髪全体に馴染ませる。

長い髪なので大変だろうに、浴場専属のメイド達はとても楽しそうだ。

髪を梳り、上へ纏めるとタオルを巻かれる。

湯船から上がると体を軽く拭ってもらい、寝転ぶスペースがあるので、そこに横になる。

数人がかりで今度は全身をマッサージされる。

躊躇いなく揉まれるので結構痛い。

でも、これをしてもらうと全身の浮腫がなくなって細くなるし、体もスッキリするのだ。

その間にウトウトと居眠りをする。

これだけで午前中は終わってしまう。

そっと起こされて起き上がれば体が軽い。

いつの間にか顔にもパックがされていたようで、頬に触るともっちりとした肌の感触があった。

浴場を出て隣室で今度は顔に化粧水などが塗られて更にケアをされる。

それが終わると簡易のドレスを着せてもらう。

纏めていた髪を下ろしてまた梳る。

そして自室へ戻る。

椅子に腰掛けてゆっくりと飲み物を飲んでいる間に、手や足の爪が整えられ、表面が綺麗に磨かれた。

そこで一旦休憩が入る。

遅めの軽い昼食を摂る。

野菜や果物中心で、飲み物も美容に良いものだ。

ゆっくりと時間をかけて昼食を終える。

そんなことをしているともう午後の三時を過ぎた頃になっていた。

そこから艶が出るまで何度も何度も髪を梳り、もう一度お肌の確認をされた。

昨夜はちょっと夜更かししていたので、目の下に薄っすら隈があるようで、顔のマッサージをされた。

それからドレスに着替える。

今日のドレスはレモンイエローの生地に光沢のある白色の糸で編み上げたレースを重ねているものだ。

ドレス自体はデコルテから肩までがっつり開いており、袖は肘くらいまである。腰が細く、スカートはふんわりと広がって足元まで。

そのレモンイエローのドレスの上に光沢のある白色の糸で編んだレースが重ねてあった。

遠目に見るとレースのおかげで肌はあまり見えないが、真横ぐらいに立つとレース越しに上品に肌が見える。所々にダイヤモンドが散りばめられて、光の反射で派手すぎない程度に煌めく。

その上に、淡い青緑色から白地にグラデーションのかかったショールを羽織る。

レースの襟には同じ淡い青緑色の絹糸でバラが描かれ、腰にはドレスと同じ布のバラがワンポイントでついている。

手首までの手袋はレモンイエローのレースだ。

靴もドレスと同様にレモンイエローに白と青緑色の糸でレースと同じモチーフの刺繍が刺してあった。

今日だけはリボンではなくシルバーのネックレスをつける。これはルルの瞳の色をイメージした。

あれを着けて、これを着けて、コルセットを絞って、スカートを穿いて、と何とかドレスを着替えるとまた椅子に戻される。

着替えで乱れた髪が整えられ、ドレッサーの前で鏡と向き合う。

リニアさんが髪型を、メルティさんがお化粧を、自らやったり他の侍女に指示を出したりと慌ただしい。

髪型は三つ編みを後頭部で纏めたもので、髪飾りに長めのレースがついていて、まるで花嫁衣装のようにヴェールが後ろにふんわりと広がっている。

今日のお化粧はがっつりめに。

……年齢的には美少女なんだけど、これはもう美女と言うべきね。

鏡の中のわたしは普段の三割増しくらい綺麗だ。

全体を確認して調整が終わるともう日が沈みそうなくらいになっていた。

ソファーで飲み物を飲んで休憩する。

部屋の扉が叩かれ、ルルが姿を現した。

白いシャツに落ち着いた色味の黄色の布で作られた衣装に、小物は落ち着いた色味の淡い青緑色で統一されている。

そして柔らかな茶色の髪が複雑に編み込まれていた。

ルルはわたしの横に座ると、ドレスに皺がつかないように、ふんわりとわたしを抱き締めた。

「リュシー、凄く綺麗だよぉ。誕生日おめでとぉ」

前髪の隙間から額にキスされる。

「ルルもとってもカッコイイ」

お返しに、ルルの頬にわたしの頬を軽く寄せる。

しっかり口紅が塗ってあるので、うっかりキスするとそれがついてしまう。

メルティさんには「取れたらお化粧直しをすれば大丈夫です」と言われたけれど、せっかく綺麗に化粧をしてくれたのであまり崩したくない。

「はあ、オレの奥さんが美人過ぎて心配だよぉ。今日の夜会、出席させたくないなぁ」

「ふふ、出席しないと婚姻しましたって発表出来ないよ?」

「それはそれで困る〜」

軽口を言い合い、二人で小さく吹き出した。

昨夜のことはルルがお父様とお兄様に報告してくれたそうで、朝一に二人から祝福の手紙と結婚祝いが届いた。

お父様からは王家の装飾品をいくつか。

手紙には、私財として結婚後もわたしが持ち、もしもお金に困ったらこれを売るか、宝石を外して売るかしても良いということだった。わたしの財産として与えてくれたようだ。

お兄様からはわたしとルルのお揃いのティーカップや食器などを一式もらった。それとクマのヌイグルミとその衣装。ヌイグルミは女の子で真っ白なドレスにヴェールをつけており、昔ルルにもらったニコに送られてきた白い衣装を着させると、結婚式を行うクマの夫婦のようになる。

あまりに可愛かったのでお兄様からもらった女の子のクマのヌイグルミにも名前をつけた。

名前はファイディ。

ファイエットからもじった名前だ。

ニコはルルで、ファイディはわたし。

可愛らしい新郎新婦のクマのヌイグルミは自室に飾ってもらうことにした。

結婚後も絶対に連れて行こう。

そうして夜会へ向かう時間になる。

ソファーから立ち、ルルのエスコートを受けて部屋を出る。

侍女としてリニアさんが後ろから来ている。

宮の正面玄関へ向かい、馬車に乗った。

「少し緊張してる〜?」

ルルの問いに頷く。

「ちょっとね」

今日からはルルの妻としてみんなに見られるのだ。

こんなに格好良くて綺麗な人の妻。

わたしも気合を入れないと。

「いつも通りでいいんだよぉ」

ルルが髪型を崩さないようにポンポンとわたしの頭を撫でる。

緊張で強張っていた肩から力が抜けた。

ルルに言われると本当にそう思えるのだ。

この人がいれば大丈夫という安心感がある。

馬車は王城に着き、控えの間に通される。

そこにはお父様とお兄様がいた。

「お父様、お兄様」

二人が立ち上がった。

ルルを見上げれば頷き返されたので、ルルの腕から手を離して二人に近寄った。

「婚姻おめでとう。それと成人おめでとう」

まずはお父様が抱き締めてくれる。

それから次にお兄様。

「誕生日と婚姻おめでとう、リュシエンヌ」

二人からのハグは家族愛の感じられるものだった。

「ありがとうございます」

ゆっくり近付いて来たルルにも二人は「おめでとう」「リュシエンヌをよろしくな」と声をかけてくれた。

それにルルが大きく頷いてくれたのが嬉しい。

お父様とお兄様が座ったことで、わたしとルルも並んでソファーへ腰掛ける。

「しかし女神から祝福を授かるとはな……」

お父様が感心した風に呟く。

「良いことではありませんか、父上。リュシエンヌとルフェーヴルの婚姻を女神が認めたのです」

「ああ、リュシエンヌだけならばさほど問題ではないんだが。ルフェーヴル、お前も祝福を授かったのだろう? どのような効果がある?」

お兄様の言葉に頷き、お父様がルルへ顔を向ける。

ルルが「そうだねぇ」と言う。

「多分、身体能力と魔力の向上かなぁ。体の方は軽くなったなぁってくらいだけど、魔力は倍以上になってるよぉ」

お兄様がギョッとした顔をする。

「お前、それ以上強くなってどうする気だ?」

「それをオレに言われてもねぇ。能力を上げてやるからリュシーを守れってことなんじゃなぁい?」

「……」

そんなことないだろうとは言い切れない。

何せ、わたしは加護持ちなのだ。

加護持ちがいるだけで国が豊かになるのなら、この加護持ちの周りの人間にはもっと明確に加護の影響が出てもおかしくない。

特にルルはわたしの夫となった。

女神がわたしの守護者だと定めて、身体能力や魔力を底上げさせても不思議はないだろう。

……でもお兄様の言いたいことは分かる。

ただでさえ強くて何でも出来ちゃうルルが、更にパワーアップしたというのだから、その能力値は想像がつかない。

……結局、今までルルが誰かに負けたところなんて一度も見たことがなかったし。

ファイエット邸や宮の騎士達、お兄様と手合わせをしていることは多くあったし、わたしもよくそれを見たけれど、ルルはいつも勝っていた。

「今なら闇ギルドのランク第一位の奴にも余裕で勝てそ〜。今度試して来ようかなぁ」

悪戯を企てる子供みたいな顔をするルルに、お父様とお兄様が若干引いていた。

……ルルが楽しそうで何よりだ。

「ランクが変わると何か違うの?」

「仕事の報酬が高くなるしぃ、高待遇だしぃ、やっぱここまで来たら一位になりたいよねぇ」

「そうなんだ? ルルがなりたいなら、なってもいいんじゃないかな」

「じゃあ今度オネガイしてみるよぉ」

機嫌が良さそうにルルが言った。

思い出したようにお父様へルルが顔を向ける。

「そうだぁ、王サマに話があるんだったぁ」

「何だ?」

「今日から二年くらいはオレぇ、裏の仕事を受けないことにしたんだぁ。だから仕事回さないでぇ」

お父様が目を瞬かせた。

「そうなのか?」

ルルが頷く。

「うん、しばらくリュシーだけに専念したぁい」

「そういうことか」

お父様が納得した顔をする。

……わたしに専念したい、かあ。

何となく照れてしまう。

夫婦になったのだから名実共に一緒にいるのは別に変なことではないと分かっている。

……でも、きっと二人きりの時間が増えるんだよね?

そう思うと嬉しいような照れ臭いような気持ちだ。

わたしが顔を赤くしているとルルに手を握られる。

「こんなかわいい奥さん、放っておけないでしょ?」

お父様とお兄様が苦笑した。

「ルフェーヴルは紛うことなき愛妻家だな」

お父様の言葉にお兄様が同意して頷いていた。

* * * * *

その後、わたし達の入場の時間が近くになったため、全員で控えの間を出た。

今日はかなり広い舞踏の間が会場だ。

この夏の社交シーズンは多くの貴族達が領地から王都へ出て来るので、人数も普段よりもずっと多い。

お兄様は途中で別の控え室に寄った。

そこでお 義姉様(ねえさま) と合流して戻ってくる。

お義姉様がわたしとルルを見て微笑んだ。

「お二方、ご婚姻おめでとうございます。リュシエンヌ様が無事成人を迎えられて良かったですわ」

それにわたしとルルは笑う。

「ありがとうございます、お義姉様」

「ありがとうございます」

お義姉様に二人で礼を執る。

そして王族専用の入場口にお父様とお兄様、お義姉様、そしてわたしとルルが立つ。

今回は婚姻発表もあるからルルも一緒だ。

「国王陛下、王太子殿下、クリューガー公爵令嬢、ニコルソン男爵夫妻のご入場です!」

開いた扉の向こうで入場を告げる声がする。

ざわ、と会場の空気が騒めくのが分かった。

お父様、お兄様とお義姉様、そしてわたし達が入場する。

この顔触れで揃って入場するのは初めてだ。

恐らく、今回が最初で最後になるだろう。

貴族達が全員丁寧な礼を執る。

背後で扉が閉まった。

「全員、面を上げよ」

お父様の言葉に貴族達が礼をやめる。

「本日は我が娘、リュシエンヌ=ラ・ファイエットの誕生を祝うために集まってくれたこと、礼を言う」

誰もが聞き逃すまいと見上げてくる。

「そして今宵はもう一つ皆に報告がある」

お父様が振り返ったので、わたしとルルが一歩前へ出る。

貴族達の視線が一気に集中した。

「これまで婚約していたこの二人の婚姻だ。我が娘リュシエンヌはまだ学院へ通っているために式は卒業後となるが、十六の成人を迎えた今日、正式に我が娘とニコルソン男爵は夫婦となった」

小さなどよめきが起こる。

「在学中での婚姻は珍しいが前例がないわけではない。そしてニコルソン男爵は王女の護衛と我が国への魔法に関する多大な貢献を残したため、この時より子爵位を授けることとする」

……え、それは初耳。

チラとルルを見ればウインクが返ってくる。

どうやらルルは知っていたようだ。

つまりわたしは子爵夫人になるのである。

「今日のこの良き日に、二人は夫婦となった。まだ歳若い二人だが、どうか皆もこの婚姻を祝福して欲しい」

お父様の言葉が終わるとパラパラと拍手が起き始め、それが次第に大きくなっていく。

わたしとルルの婚姻を誰かが良く思おうが、思わなかろうが、国王陛下であるお父様が承認した以上、これは王公認の婚姻だ。

貴族達がそこに文句を言うことはないだろう。

わたしとルルは感謝の意味を込めた礼を執る。

その後、わたし達は王族の席に移動する。

そこで貴族達の挨拶を受けた。

わたしの誕生と婚姻を祝う言葉に、わたしだけでなく、お父様やお兄様も対応してくれた。

それだけわたしを大切に思ってくれているということだ。

そして貴族達の挨拶が終わるとお父様が振り返った。

「さあ、ファーストダンスを踊ってきなさい」

お兄様とわたしとルルが階段を降りていく。

そして会場に楽団の音楽が流れ始める。

お兄様とお義姉様が合流する。

お兄様達とわたし達とホールの中央に進み出て、それぞれ向かい合う。

左手はルルの肩へ、右手は伸ばしてルルの左手へ重ねる。

ルルがニコッと笑った。

わたしも笑い返し、それを合図に動き出す。

……体が軽い。

昨夜、ルルがそう言っていたが、今更になってわたしもそれを実感した。

ステップが踏みやすく、体が思った通りに動き、羽根のように体が軽い。

ルルもそうなのか動きがとても軽やかだ。

ルルもわたしの体の変化に気付いたらしい。

ステップと動きが変化する。

動きは大きく、ステップは軽やかに、途中途中でターンが混じる。

ルルが遊んでいるのが伝わってくる。

それにつられてわたしは笑みこぼれてしまった。

……楽しい!

全く疲れなんて感じない。

ファーストダンスなんてあっという間だ。

お兄様達も二曲続けて踊っている。

でもわたし達はもう夫婦である。

夫婦は続けて三度、ダンスを踊って良いのだ。

他の貴族達がホールに入り、ダンスの輪が出来ていくが、中央でわたし達は踊り続ける。