軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第67話 夜闇の特訓

校庭で、一人の男子生徒が月明かりに照らされていた。

「ジャックさん……?」

思わずユフィは言葉を漏らした。

「ふんぬっ!! ふんぬうっ!!」

男子生徒……上裸のジャックが、両輪に100kgと書かれた重りがついたダンベルを足で上げている。

上げる毎に汗が舞い、鍛え抜かれた足筋がモリモリと躍動していた。

そんなジャックの周りには大きな筋トレ器具がいくつも並んでおり、まるでちょっとしたジムのようになっている。

「次ィ!」

足上げダンベルを終えた後は懸垂マシンに小指でぶら下がって、何度も何度も自分の身体を上下に動かす。

「ふんっ! ふんっ!」

小指にとんでもない負荷がかかっているはずだが、ジャックは掛け声と共に一定のリズムで小指懸垂をしている。

「よし、次ィ!」

矢継ぎ早に十枚の瓦を用意し、先ほどまでの懸垂で使っていた小指で一気に叩き割った。

瓦は音を立てて、最後の一枚まで粉々に砕け散った。

歴戦の空手家も裸足で逃げ出すような力強さである。

常人には考えられないトレーニング内容に、ユフィは思わず釘付けになっていた。

「よし、次は……おっ?」

粉々になった瓦を前にふーっと息をつくジャックがユフィに気づく。

「ユフィじゃねえか。何やって……」

「ごめんなさいジャックさん! 盗み見するつもりはなかったんです!」

ジャックが言い終わる前に、ユフィはザザザーッとスライディング土下座を敢行した。

「決して深い意味はなかったんですつい出来心だったんです全財産差し上げますから殺さないでください……」

「俺をなんだと思ってんだよ!」

勢いよく突っ込みを入れた後、ジャックは手で頭を掻きながら言う。

「見られて減るもんじゃねーし、気にすんなって」

「ほ、本当ですか?」

「こんな嘘ついてどうするよ」

「そ、それもそうですね……ありがとうございます」

はーっと深いため息をつきながらジャックが言って、ユフィはビクビクと立ち上がった。

そして訪れる無言タイム。

(き、気まずい……!!)

フラットな空気になったらなったで、ユフィはカチコチンに固まってしまった。

先ほどのランニングとは別の汗が流れ出てきている。

ジャックもジャックで、どう話を切り出すか迷っているような表情をしていた。

思い返すと、ジャックと二人きりで話すというシチュエーションは初めてだ。

ジャックとは最初、生徒会室の前で不良ばりの絡み方をされて(怖い人……!!)という印象を抱いた。

しかしそのすぐ後に、ユフィが攻撃魔法を使える照明としてジャックと一騎打ちの対決をする。

結果、ユフィの圧勝。

それ以降、ジャックはユフィに高圧的な態度を取る事は無くなった。

上下関係は力で決まるという信条を持つジャックにとって、自分よりも圧倒的な力を持つユフィはいわゆる上の存在、気安く話しかけていい存在じゃない……などと思っているのだろうか。

クラスメイトで同じ生徒会メンバーでありながら、他愛もない話をしたこともないという、微妙な関係であった。

「ジャージなんか着て、ユフィは何してたんだ?」

ユフィがコミュ障を拗らせて喋れなくなっているのを察してか、ジャックの方から質問を投げてくれる。

「あっ、えっと……演舞会に向けて、体力トレーニングをしていたと言いますか……」

「おお!」

ジャックの表情がパッと明るくなる。

「トレーニングか! 俺もだぜ!」

同族意識が芽生えたようで、どこか壁のあった空気が緩やかなものになった。

「攻撃魔法の出力上げには筋肉を鍛えるのも重要だからよ。朝やってるトレーニングを夜もやることにしたんだ」

「こ、こんなトレーニングを朝も夜も……!?」

「そんな大したことしてねえよ」

くははっと笑うジャックの後ろに無造作に置かれた筋トレ器具たちを見てユフィは戦慄した。

ダンベルひとつ取ってしても、合計100gくらいでユフィはギブアップしてしまうだろう。

「ユフィはどんなトレーニングをしてたんだ?」

「……走ってました」

「ランニングは基礎の基礎にして大事なトレーニングだな! 最低でも30kmは走って、心肺機能を上げねえと!」

(も、ものの100mでバテたなんて言えない空気……!!)

うんうんと頷くジャックの一方、ユフィは複雑な心境であった。

周囲に誰もいないことを確認してから、ジャックは続ける。

「あれだけの攻撃魔法が使えるんだ。しっかりとトレーニングをして、回復魔法もちょちょいっと練習すりゃ一流の使い手になるだろ」

「うぐぶおえっ!?」

ジャックの言葉がユフィの心にグサグサッと刺さって思わず膝をついた。

「ど、どうした?」

「イエ……ナンデモアリマセン……」

男子は攻撃魔法、女子は回復魔法という明確な隔たりがあるのもあって、お互いがどれだけの力量があるのかはさほど把握しあっていない。

流石にエリーナクラスになると凄腕の回復魔法の使い手という認識はあるだろうか、それぞれの女子がどれだけの回復魔法の実力があるかなど、さほど把握できていない。

クラス内での会話などからうっすらと、ユフィの回復魔法のダメダメっぷりが伝わっているかもしれないが、何年も鍛錬しても全然力量が上がってないレベルで深刻だとは思われていないだろう。

「そ、それにしても、ジャックさん、気合入ってますね……」

話題を変えようと話してみたが、なんとも広がりにくい言葉になってしまった。

しかし結果的に、その言葉はジャックの琴線に触れたようで。

「ああ。今年こそは、なんとしてもハンス先輩に勝たねえといけないからな」

そう言って、ジャックはぎゅっと拳を握る。

その瞳には熱く、堅い決意が揺らめいているように見えた。

ジャックが、ハンス先輩へのリベンジマッチに対し並々ならぬ闘志を抱いている事は一眼で分かった。

「そうだ!」

良いことを思いついたとばかりにジャックはポンと手を打つ。

「頼みがある!」

バッと頭を下げて、ジャックは声を張った。

「俺に、攻撃魔法を教えてくれ!」

「えっ……」

一瞬、何を言われたのかわからなかったが、程なくして理解して。

「え、えええっ!?」

ユフィの驚声が校庭に響き渡った。