軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第65話 重すぎた役割

一時間目の休み時間。

教室内は演舞会の回復魔法の部の代表生徒の話題……主にユフィについて持ちきりだった。

「エリーナ様は当然として、なんでユフィちゃんが……」

「平民出身でしょう? 形式が変わったとはいえ、もっと他に誰かいたでしょ」

「あの子の回復魔法、一時間でかすり傷を治せるかどうかでしょう? 演舞会にならないわよそんなの」

女子生徒達からヒソヒソと鋭利な言葉が上がる中、ユフィは席で紙にペンを走らせていた。

背筋をピンと伸ばし、どこか達観めいた表情のユフィは一見すると世捨ての書道家のようにも見える。

そんなユフィの元にひょこっとエリーナが顔を出して尋ねる。

「ユフィちゃーん、何書いて……るの……?」

エリーナがユフィの手元を覗き込むと、そこにはこんな大見出しが踊る紙があった。

『求む! やる気と体力のある若人! ~ベール海峡マグロ漁船長期バイト~』

「ユフィちゃん、落ち着いて!! 早まっちゃいけないわ!」

「エ、エリーナさん、離してください! マグロを!! 私はどうしてもマグロを獲りに行かないといけないのです!」

ジタバタと暴れるユフィをエリーナはなんとか紙から引き剥がした。

「もう、駄目じゃないユフィちゃん。私を置いてマグロ漁に出かけようとするなんて」

「うぅ……ごめんなさいエリーナさん。ちょっと正気を失っていました」

人生において中々無い怒られ方をするユフィ。

側でやりとりを見ていたライルが口に手を当ててくすくすと笑う。

「いやあ、流石だねユフィ。普通、仮病とか身内の不幸でズル休みするところを、マグロ漁を選択するなんて、何食べたらそんな発想になるのか気になるよ」

「ゴボウしか食べてないです……」

しょんぼりしながら言いながら、ユフィは自身の行動を振り返る。

ホームルームで演舞会の回復魔法の部に出場を命じられたユフィは当然の如く(なんとか参加しない方法はないの……!?)と方法を模索した。

その結果、学務課の前に貼られていたバイトの募集用紙を片っ端から手に取ってストックしていたのを思い出した。

元々は仕送りが底を尽きた時用に保管していたのだが、(半年くらいマグロ漁に出かければ、演舞会に参加しないで済む……!!)と考えた末の行動だった。

半年学校を休んだら普通に留年コースだが、それよりも何よりも演舞会に参加したくない欲が強過ぎた。

「でも、これはチャンスなんじゃない?」

人差し指をピンと立て、ポジティブな口調でライルは言う。

「ほら、追い込まれたら人は本気出すって言うじゃん? 今回の演舞会への出場は、ユフィの回復魔法が覚醒する良いきっかけになるのかも?」

「それは、そうかも……しれませんが……」

ユフィの顔色は晴れない。

回復魔法云々というよりも、たくさんの人に注目されるという状況が耐えられないのだ。

「大丈夫、自信持って」

ライルがユフィの手をとって、優しい口調で、囁くように言う。

「ユフィは凄い才能を持ってるでしょ? だからきっと、回復魔法でも本領を発揮することが出来るよ」

「ライルさん……」

相変わらず、なんて良い人なんだろう。

絶対に無理だと思ったことも、ライルに前向きな言葉をかけられたら、行けるんじゃないかと思えて……。

ギンッ!!

突き刺さるような視線を感じて、ユフィはライルから手を離す。

「どうしたの、ユフィ?」

「い、いえ……なんだか殺意めいた視線が……」

ルックス、地位、性格、全部満点のライルはクラスの中でも超人気の男子だ。

そんなライルと同じ生徒会のメンバーとは言え仲良く話し、あまつさえ手を握って貰うとなんぞ暗殺案件と考える女子は少なくないだろう。

「よし! じゃあユフィちゃん! 放課後、一緒に回復魔法の練習しよ?」

パッと顔を明るくしたエリーナが顔を寄せ、ユフィの手を取り、どこか色っぽい声で言う。

「いや、でも……」

「大丈夫、遠慮しないで。私が手取り足取り教えて……」

ギギギギンッ!!

先ほどとは比べ物にならない人数のクラスの女子から殺意めいた視線が突き刺さってきて背筋が震え上がる。

「い、いえっ、大丈夫ですっ!」

反射的にそう答えてしまった。

もはやカルト的な人気を誇るエリーナに回復魔法のプライベートレッスンを施して貰うなんて、自分の私財を投げ打ってでもしてもらいたい女子はごまんといる。

そんな中、平民出身でなんの取り柄もない自分がエリーナに回復魔法を教えてもらおうなんて、烏滸がましきことこの上なしだ。

そろそろ夜道で背後からブッ刺されても文句は言えまい。

(……それに、私なんかのために、エリーナさんの貴重な時間を使わせるわけには……)

こんな、擦り傷程度治すのに一回で一時間もかかるようなアルティメット無駄時間に付き合わせるなんて、想像するだけで申し訳なさが天元突破してしまう。

「じ、自分一人の力でどれくらい頑張れるか、やってみたいんです」

ぎこちない声でユフィに、エリーナはちょっぴり残念そうな顔をして言う。

「うーん、そっか。ユフィちゃんがそう言うなら……でも、困ったら気軽に言ってね! いつでも教えてあげるから」

「は、はい。ありがとうございます」

エリーナの心強い言葉に、ユフィは少しだけ前向きな気持ちになれた。

ライルの言う通り、これはチャンスなのかもしれない。

人間は、追い込まれた時に全力になって普段出せないようなポテンシャルを発揮する、というのは確かにその通りだと思う。

大勢の目の前で回復魔法を披露しなければならない状況にすることで、否応なしに鍛錬に没頭するだろう。

『聖女様になりたい』

そんな人生の大目標にとっては、今回演舞会に選ばれたことは良い機会なのかもとユフィは考えた。