軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第63話 なーい!

空も薄暗くなってきた頃にユフィは寮に帰ってきた。

「ただいま~」

自室に入るなり足元に「にゃーん」と、黒いもふもふが擦り寄ってくる。

(ユフィ、おかえり~)

頭の中に響いてきた声に、ユフィの口元に笑みが浮かぶ。

「ふふふ、ただいまシンユー」

ユフィは膝を折って、毛並みの良い黒猫の喉を撫でた。

「はふぁ……今日もシンユーはもふもふしていて気持ち良いね」

(えへへ~、ありがとう。ユフィの髪サラサラしていてとても気持ちいいよ~)

「ええ~? 本当に~? 嬉しいなうえへへへ……」

シンユーに褒められて、ユフィの頬がだらしなく緩んだ。

シンユーは、ユフィの妄想力で作り出した『 想像上の友達(イマジナリーフレンド) 』だ。

元々はユフィの頭の中にだけ存在していたが、魔法学園に入学する日の前日、危険度Bのモンスター、ブラック・ウォルフを消し飛ばした際に黒猫を保護。

その際、イマジナリーフレンドの人格が黒猫に憑依した。

それ以降、シンユーとは黒猫を通して話すようになった。

側から見ると猫と会話するやべー奴である。

シンユーとの会話もそこそこにユフィは晩御飯の支度を始める。

「今日はどんな味付けにしようかな」

晩御飯はゴボウ料理一択である。

辺鄙な田舎出身のユフィは潤沢な仕送りがあるわけじゃないので、実家から大量に持ってきた村名産のゴボウを使って自炊している。

もともと少食なのもあって全く減る様子の無いゴボウは、ユフィにとっては最高の節約アイテムであった。

「ん、美味しい」

ぽりぽりとゴボウを食べながらユフィは頬を綻ばせる。

今日のメニューはゴボウの肉巻きだ。

薄い豚肉をゴボウに巻きつけ、お酢や醤油、みりんなどを絡めて炒めたお手軽簡単そこそこ美味しい料理である。

黙々と一人で食べる傍ら、そばでシンユーがキャットフードをうにゃうにゃと食べている。

少し開けた窓から涼しい風がヒュルリと入ってきて穏やかな気持ちになった。

「静かだなぁ……」

ぽつりと、ユフィは呟く。平和だ、圧倒的平和な時間が流れている。

目を閉じたらそのままうとうとしてしまいそうな程の、ゆったりとした穏やかな時間の中……ユフィのフォークを持つ手がぷるぷると震えていた。

頭の芯の奥からむくむくと抑えきれない衝動が沸き起こってきて、ユフィは弾かれるように立ち上がる。

(どうしたの、ユフィー?)

顔を上げるシンユーも厭わず、いても立ってもいられなくなったユフィはベランダに駆け寄って、世界に向けて思いの丈を叫んだ!

「こんな生活を過ごすために魔法学園に入学したんじゃ、なーい!!!!」

魂の叫びはどこにもこだませず暗くなった空に飲み込まれていった。

思い描いていた学園生活──それは、メキメキと回復魔法の腕が上がって、友人達にも囲まれた楽しい青春を送ること。

夜にひとり寂しくゴボウをつつく毎日を送ることでは断じてない。

回復魔法は相変わらず赤ちゃんレベルだし、休み時間も昼休みも相変わらずぼっちである。

一回だけライルに誘われて昼食を一緒に食べたが、場違い感があまりにも凄すぎて以降は一人で昼食を食べている。

昼休みになるなり気配を消して便所へ直行し、ゴボウをぽりぽりと齧る日々であった。

(ライルさん達は私のことを友達と言ってくれた……それはとても嬉しかった、けど……)

それはあくまでも生徒会のメンバー同士だからという業務的な側面があるのと、自分が攻撃魔法を使えるという特異点な存在故に関わりを持ってくれているのだとユフィは考えていた。

生徒会に入ったおかげでライルやエリーナを始めとした何人かとは話せるようになったものの、心で繋がっている友人同士とは言い難い関係だとユフィは思っていた。

「うっわ……私……超絶面倒臭いこと考えてる……」

今までの人生ずっとぼっちで友達という存在への神格化が凄まじい事になってる故の思考。

しかしそれが周りにとってどう思われてしまうのか、なんとなく想像出来る。

『私のこと、本当に友達と思ってる????? ねえねえねえ本当に思ってる???』などと情緒不安定でメンがヘラっている友達なんて、面倒臭いことこの上ないだろう。

「このままじゃないけないっ……回復魔法の練習をもっとしないと……!!」

むんっと、ユフィは胸の前で拳を握り意気込みを露わにする。

ユフィが現在学校で孤立しているのは、回復魔法がダメダメであることも大いに起因している。

なので目下の目標は、最高の聖女になること。

最高の聖女になって、皆の方からたくさん話しかけて貰うのだ。

自分から人に話しかけるのは大の苦手だ。

会話が始まっても何を話していいかわからなくなって、地獄の沈黙が待ち受けている。

相手から変な子だと思われて無いか、嫌われないか、そんなことばかりが頭の中でぐるぐるしてしまう。

生まれつきの特性として、自分から人に関わっていくのは圧倒的に向いていないのだ。

(なら、私自身が、人から話しかけたいと思ってくれる存在になればいい)

結果的にその結論に至るのは当然の帰結だろう。

超一流の聖女になれば、皆の方から話しかけてきてくれるからだ。

「のんびりしている暇はない……!!」

ベランダから自室に戻り、ユフィはゴボウの肉巻きを胃に掻き込む。

それからジャージ姿に着替え、回復魔法の練習をしに部屋を飛び出すのであった。