軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 荷解きを終えて

「やっと、終わった……」

魔法学園の学生寮の一室にて。

夕食(家から持って来たゴボウ)をとりつつ、荷解きを終えたユフィは額の汗を拭って一息をつく。

ユフィに充てがわれた部屋はベッドや机、クローゼットに鏡台など、一人暮らしに必要な家具が一通り揃っていた。

入学者は高名な貴族も多いというのもあってかなかなかの作りになっていて、一人で使うには十分な広さを誇っている。

そのうえ寮の一階には食材や日用品などを扱った大きな購買も構えられていて、生活には全く困らなそうだ。

ペットを連れてくる貴族も多いのもあってか、猫用の餌も販売していたので、シンユーの餌は困らなさそうだった。

遠い田舎のボロ家出身のユフィからすると、豪邸に来たような感覚である。

「疲れたよう、シンユー」

ばふっとベッドにダイブすると、すやすやと枕元で寝ていたシンユーが『うにゃ……?』と目を開ける。

しかしやがて『くああ……』と欠伸をした後、また目を閉じて寝息を立て始めた。

さっき餌をあげたから、おねむの時間のようだ。

イマジナリーフレンドのシンユーは、ユフィが困った時やバグった時に現れる。

いわばユフィの精神安定を担う存在だ。

なので平常時のシンユーは、ただの猫ちゃんなのだろう。

「のんびりしてるなあ」

シンユーをひと撫でして、ユフィは少しだけ口元を緩ませた。

ごろん、と天井を見上げて、ぽつりと呟く。

「名前、聞きそびれちゃったな……」

寮までの道を教えてくれた、あの美しい人を思い出す。

とても親切で、穏やかな人だった。

まさしく聖女みたいな。

だからこそ、自分の取った行動を思い出して自己嫌悪に苛まれる。

「うう……申し訳ないことをしちゃった……」

あの女性の友人と思しき女生徒が何人か視界に入った途端、つい逃げ出してしまった。

ただでさえ他人とのコミュニケーションが最底辺なのに、人が増えたら一大事だと条件反射での行動だった。

「次会ったら、謝らないと……」

あと、お近づきの しるし(ゴボウ) を渡さないと。

同級生かもわからないし、自分から話しかけるのは無理だろうから実現するかはわからないけど、そう心に決めるユフィで合った。

「よいしょ……」

特にやることもないので、ユフィはベッドから降りた。

窓を開け、バルコニーに足を踏み入れる。

寮は校舎が密集している区画を見下ろす小高い丘の上にあって、学園を一望できるロケーションにあった。

「これから私は、ここで暮らすんだ……」

手すりに体重を預け、ずらりと立ち並ぶ学園の建物たちを見下ろしながら妙な感慨を抱くユフィ。

王立学園は原則として全寮制の学校だ。

一部、高位の貴族などは王都の屋敷に暮らしているため免除されている特例があるが、ド田舎からはるばるやってきたユフィはもちろん問答無用で寮暮らしである。

正直なところ、ちょっぴり寂しさはある。

だけどそれ以上に、ワクワクが大きかった。

村の教会が学校代わりだったとはいえ、教室も粗末だし、人は少ないし、教えられることも面白味があるものでは無かった。

それ故に、この魔法学園で過ごす新しい日々への期待は膨らむばかりであった。

「うへ……うへへ……」

膨らみすぎて気色の悪い笑い声が漏れてしまった、いけない。

頬をむにむに動かして表情を戻す。

「楽しみだなあ、夢の学園ライ……」

フラッシュバックする、教会での 思い出(トラウマ) 。

二人組で組む友達がいなくてシスターと組んだ。

遠足で一緒にお弁当を食べる友達がいなくてシスターと一緒に食べた。

お遊戯会の劇で存在を忘れられ何の役も与えられず、なぜか観客席で皆のお遊戯を見るハメになった。

(親への言い訳が地獄だった)

そして、脳内に響き渡る声。

『ユフィちゃん、いつも一人だね』

「ぐぬああああああああゔぁぁぁゔぁあゔぁゔぁ忘れろ忘れろ忘れろ!!」

ガンッ! ガンッ! ガンッ!

全ての思考を夜闇の彼方に吹き飛ばすべく、ユフィは手すりに頭を打ち付けた!

『にゃにゃっ?』

ユフィの突然の奇行にびっくりしたシンユーが飛び起きる。

「消えてなくなれ私の黒歴史!」

悪夢退散の舞を踊り、頭の中から忌々しき記憶を追い出す。

身体のどこかからゴキッと鳴ってはいけない音が響いた気がするが構わず舞狂った。

しかしコミュ力と同じくらい体力のないユフィの活動限界はすぐに訪れる。

「はー……はー……」

息絶え絶えとなったユフィはボディーブローを食らったみたく身体を丸めていたが、しばらくしてよろよろと起き上がる。

「し、仕方がないよね……今までは環境が悪かっただけ……」

無理やり上向きな言葉を口にして気分を上げ、先ほどまでのネガティブ思考を払拭する。

額の汗を拭い、無理くり笑顔を浮かべた。

表情筋が筋肉痛を起こしている模様。

気を取り直して手すりのところに戻り、言葉を夜風に乗せる。

「これから私の新生活が始まるんだ。友達、百人出来るかな……」

…………。

「ううん、百人は贅沢ね……十人、いえ十人もちょっと……」

……………………。

「目標! 友達、一人!」

身の丈にあった目標設定が出来てスッキリしたユフィは、今日はもう寝ることにした。

移動と、たくさんの人(二人)と喋ったのと、先ほどの舞でユフィの体力ゲージはゼロに近い。

夕食を摂る元気もなかったので、寝支度をした後さっさとベッドに潜り込んだ。

「おやすみ、シンユー」

『うにゃ……』

学園生活への期待と夢を胸に、目を閉じる。

この時間に就寝したら、早朝には目覚めるだろう。

そしたら読書とか、お散歩とか、瞑想して時間を過ごそう。

朝活的な?

(なんたって私は、明日から映えある魔法学園の生徒……)

憧れの聖女への第一歩をようやく踏み出せたのだ。

意識は高ければ高いほどいい。

目を閉じていると、明るい光景が次々に浮かんでくる。

回復魔法の使い手として、稀代の聖女として活躍する自分を妄想していると自然と口元がにやけてきた。

「えへ、えへへ……私は天才聖女ユフィ……」

そんなことを言いながら、ユフィの一日は終わった。