軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

・33

それに、と今度はクロエに視線を向ける。

「あなたにも、やろうと思っていることがあるでしょう?」

「……はい」

否定せずに、クロエは頷いた。

カサンドラを、あのままにはしておけない。

エーリヒと魔物退治の旅をしてきて、クロエも魔法を使い慣れてきた。魔力も増えているので、今なら実行できる。

「私の存在を利用すればいいわ。理由が必要となるでしょう?」

リーノは、クロエがやろうとしていることを、すべて知っているようだ。

サージェの件を詳しく話したから、そこから察してくれたのかもしれない。

「でも、リーノさんにご迷惑を……」

「私なら大丈夫。むしろ私でなければ、大問題になってしまうでしょう」

事情を知らないエーリヒが、心配そうにクロエを見ている。

大丈夫だと言う代わりに、その手を握りしめた。

「でもこの計画を実行したら、もう元には戻れない。それでもいいの?」

「はい」

クロエは迷うことなく頷いた。

「もうあの人たちを、家族とは思えません。私にはエーリヒがいてくれたら、それで充分です」

自分たちが虐げ、追い詰めて失踪したメルティガル侯爵家の娘クロエ。

そのクロエが、カサンドラなどよりもよほど価値のある、『本物の魔女』だったと知ったら、彼らはどうするだろう。

何としても探し出そうとするだろうが、もうクロエは亡くなっていることにする予定である。

失ったものの大きさに、きっと愕然とするだろうが、それだけではない。

その力の特異さと希少価値から、各国で重宝されている上に、魔女は仲間意識が強い。

ジーナシス王国の魔女であるリーノが、魔女を虐げて死なせた責任を追求するだろう。

「あなたにも、協力して貰うことがあるかもしれない」

リーノがエーリヒにそう言うと、彼は迷うことなく頷いた。

「クロエのためなら、何でもするよ」

何も聞かずにそう言ってくれたエーリヒに、クロエは手を握ったまま、そっと身を寄せる。

きっと話せば、危険だと反対するかもしれない。

でもクロエは、必ずやると決めていた。

(絶対にやり遂げて、エーリヒを王女から解放してあげるから)

そう強く決意する。

「正式にジーナシス王国の魔女として訪問するなら、この姿は少し威厳に欠けるわね」

リーノは溜息をついてそう言った。

「あまり戻りたくないけれど……」

そう言った瞬間、彼女の姿が変わっていた。

可愛らしいツインテールの幼女が、背の高い迫力のある美人になっていた。

「え?」

あまりにも驚いて声を上げると、リーノは残念そうな顔をして言う。

「やっぱりあの頃の私が一番可愛いわ。まさか、こんなに身長が伸びてしまうとは思わなくて」

そう言って、溜息をつく。

馬車に乗っているのでわからないが、おそらくリーノの身長はかなり高く、エーリヒと同じくらいありそうだ。

小柄なクロエからしてみれば、憧れの姿である。

「格好良くて、羨ましいです」

クロエがそう言うと、リーノは悲しそうに首を横に振る。

「私は格好良いよりも、可愛いが良かったの」

好みは人それぞれなので、こればかりは仕方のないことだろう。

何回か町に泊まり、数日掛けて、ようやくアダナーニ王国の王都に帰還した。

相変わらず城門は騎士や警備兵によって厳重に守られているが、マードレット公爵家の馬車は止められることもなく、あっさりと城門を抜けて王都に入る。

「馬車の中を確認することもしないのね」

リーノは驚いていたが、それだけこの国では貴族が大きな力を持っているのだと理解したようだ。

「自然もあるし、町並みも綺麗だけど、どこか殺伐としているわ」

馬車の窓から外を見つめていたリーノが、そう呟く。

「はい。実はスラムがあったり、移民たちが暴動を起こしたりと、あまり平和ではありません」

クロエがそう答えると、リーノは納得したように頷いた。

「この国を立て直すのは、大変ね。私でよかったら、いつでも力になるからね」

「ありがとうございます」

優しい言葉に感動していると、リーノは笑顔でこう言ってくれた。

「縁のある魔女同士で、助け合うのは当然よ」

大人になったリーノはなかなかきつめの顔立ちだが、笑うととても優しい雰囲気になる。

やがて馬車は、マードレット公爵邸に到着した。

クロエはこの家の養女になっているので、侍女らが丁寧に出迎えてくれた。

「お客様がいらっしゃると、伺っておりましたが」

侍女の問いに、クロエは頷いて背後を振り返る。

「ええ。ジーナシス王国からのお客様です」

カサンドラのせいで、この国は魔女にあまり良い印象を持っていない。マードレット公爵家の使用人が、それを態度に出すことはないだろうが、リーノが魔女であることは、アリーシャにだけ伝えるつもりだ。

「客間でアリーシャ様がお待ちです」

そう言われて、帰還の報告とリーノを紹介するために、彼女のもとに向かう。

「お義姉様。ただいま戻りました」

そう言って挨拶をすると、アリーシャは笑顔で頷いた。

「おかえりなさい。無事に指名手配犯を捕縛したようね。無事で何よりだわ」

「エーリヒが守ってくれましたから」

「そうだったの。エーリヒもお疲れ様でした」

アリーシャに声を掛けられたエーリヒは、無言で頭を下げる。

「それで、お客様がいると聞いたのだけれど、クロエの友人かしら?」

そう言うアリーシャの声がやや上擦っているのは、ジーナシス王国からの客人と聞いて、魔導師かもしれないと期待しているからだろう。

まさか魔女だとは、思ってもみなかったに違いない。

「初めまして。私はジーナシス王国の八番目の魔女、リーノです」

だからリーノがそう名乗った途端、アリーシャは呆然として彼女を見上げた。

「……魔女?」

アリーシャの視線を受けて、クロエがこくりと頷く。

するとアリーシャは慌てて、挨拶を返した。

いつも落ち着いているアリーシャも、さすがに動揺している様子だ。

「クロエさんのお義姉様と伺っております。クロエさんには、旅先でお世話になって。私もアダナーニ王国の王都に用がありましたので、ご厚意に甘えて同行させていただきました」

「義妹がお役に立てたようで、何よりです。今、部屋を用意させておりますので、どうぞゆっくりとお休みください」

魔女と聞いても質問攻めにしたり、訪問の理由を問うこともなく、旅の疲れを癒やしてほしいと言ったアリーシャに、リーノも好感を抱いたようだ。