軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

・29

それから数日後。

集落の人たちが全員回復したことを見届けてから、クロエとエーリヒ、そしてリーノは別の町に移動することにした。

エーリヒに緊急の指名依頼が入り、それを果たすために、その町に行くことになったのだ。

それを聞いたリーノは、まだ聞きたいことも、教えたいこともあるからと、同行を申し出てくれた。エーリヒもそれを承知してくれたので、三人で次の町に移動することになった。

リーノを、お姉ちゃんと呼んで慕っていた子どもたちは寂しがった。だが、彼女が旅の途中だということは理解していたようで、笑顔で見送ってくれた。

隣町に戻って、そこで馬車を借りる予定だ。

借りたらすぐに出発しようと思っていたが、エーリヒにギルドから呼び出しがあり、戻ってきたのは昼過ぎだった。

だから今日はこの町で一泊し、明日の朝に向かうことにした。

色々とふたりで話したいこともあるだろうからと、エーリヒは別の部屋に行き、クロエとリーノが一緒に眠ることになった。

「ごめんなさい、せっかくふたりきりだったのに」

そう謝罪するリーノに、クロエは慌てて首を横に振る。

「いえ、全然」

マードレット公爵家の屋敷にいたときは、部屋は近くてもさすがに一緒に寝ることはできなかったから、別々に寝るのは初めてではない。

それに、エーリヒは他人が一緒だと眠れないだろう。

クロエもまだリーノに聞きたいことがたくさんあったので、これでいい。

「それにしても貴族専用宿って、こんなに広くて豪華なのね」

リーノは物珍しそうに周囲を見て回っている。

部屋に二人分運ばれてきた昼食も、さすがに美味しかった。

「自分でも、矛盾しているかなって思います」

昼食を食べ終わったあと、クロエはリーノに悩みを打ち明けた。

「移民になったのに、結局貴族に戻ってしまった。それに、この国を変えたいと思っているのに、貴族が優遇される高級宿に泊まったりして……」

そんなクロエの話を、リーノは真剣に聞いてくれた。

「何も気に病むことはないわ。すべては必然なのよ」

クロエの手を握って、優しくそう言った。

「必然、ですか?」

「ええ、もちろん。すべてはあなたの使命のためよ。まずあなたの場合、あの家から逃げ出さなければならなかった。そのために、移民に成りすました。でも移民と同じ姿をしたことで、知ったこともたくさんあったと思う」

「はい、ありました。黒髪にならなかったら、この国の状況にあまり関心を持たなかったかもしれません」

移民の姿をしたクロエだったからこそ、たくさんのことを知り、自分だけ幸せになるのは間違っていると確信することができた。

「ここで『知ること』を達成して、次の段階に進んだだけよ。だって移民のままでは、できることにも限度がある。そこで手に入れたのは、公爵令嬢という身分と、王太子とその婚約者という、強力な味方よ」

リーノの言うように、どんなにこの国の状況を許せないと思っても、『移民のクロエ』では限度がある。

いくら魔女でも、人の心の有り様までは変えられない。せいぜい意識を逸らす程度なのは、クロエもよくわかっている。

「そうですね」

クロエは頷いた。

すべては、この使命のための必然。

「この宿だって、馬車だって、あなたを守るために必要なものよ。王太子たちにとって、あなたは切り札。何としても守らなくてはならないわ。残念ながらこの国は、あまり治安が良くないから、警備のきちんとしたところに泊まるのは、あなたの婚約者の負担を減らすことにも繋がる。それにマードレット公爵家なら、これくらいの出費は問題ないと思うし」

そう、もしクロエたちが普通の安宿に泊まったりしたら、エーリヒは一晩中、見張りをしてくれるだろう。

エーリヒを守るため。

そう思うと、納得することができた。

「ありがとうございます。吹っ切れました」

笑顔でそう言うと、リーノも笑顔で頷く。

「当事者では見えていないこと。わからないことは、必ずあるから。だから、何でも話して。私もこの使命について、煮詰まったらあなたに相談するわ」

姿は十歳の少女でも、実年齢は二十五歳だというリーノは、まるでクロエの姉のように優しくそう言ってくれた。

「はい。そのときは任せてください」

クロエもそう答える。

「それに、高級宿って食事が美味しいのよね。このサンドイッチ、絶品だわ」

リーノも食べることが好きだったようで、クロエは全力で頷く。

「本当に。もうひとつ食べたいくらいです」

「追加、頼む?」

そう聞かれて、もちろんと答える。

ふたりで思う存分食事を楽しみ、美味しい食べ物の話で、すっかり意気投合してしまった。

翌日、借りた馬車に乗って、次の町に向かう。

リーノが同乗しているのでエーリヒのことが心配だったが、自分からは会話しないものの、嫌な顔もせずに普通に過ごしていた。

リーノがクロエと同じ魔女であること。クロエとすっかり仲良くなったことが、理由かもしれない。

それに、エーリヒは王太子やアリーシャのことをクロエの味方だと認識してくれたのだ。王都に戻ったあとは、アリーシャとも普通に会話することができるかもしれない。

「エーリヒ、次の依頼はどんなものだったの?」

「海に出る魔物の退治、らしい。だから行く先は港町だ」

「港町? 美味しい海鮮が食べられるかな」

思わずそう言ってしまい、反省する。

「ごめんなさい。エーリヒは仕事なのに」

「気にするな」

そんなクロエを見て、エーリヒは表情を和らげる。

「クロエが楽しいなら、それが一番だ」

そう言ってくれた。