軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

・27

クロエは考え込む。

食べることや料理は好きだが、ただの趣味である。

エーリヒを助けたい。ともに生きたいと思うのも、クロエ個人の願望だ。

「使命については、魔女同士で話し合ったり、アドバイスをもらったりするのよ。だから私も、あなたの手助けになりたいわ」

悩んでいる様子を見て、リーノはそう言ってくれる。

「……ありがとうございます」

エーリヒも、彼女の中身が成人女性で魔女であることを認めてくれたようで、ほとんど口を挟まずに、静観してくれていた。

魔女について、色々と学んでみたいと思っていた。

それがまさか、ジーナシス王国出身の本物の魔女に出会えると思わなかった。

ここで出会えたのは、本当に幸運だった。

リーノは優しく、クロエを導いてくれる。

「まず私が気になったことを聞くわね。変装が必要だったのかもしれないけれど、どうして黒髪にしたの? もとの生まれは?」

「生まれは、この国の侯爵家です。ただ、色々とあって家に居たくなくて、エーリヒと一緒に逃亡しました。この髪は、そのときに。色は……」

エーリヒに、移民だと勘違いされるかもしれないから、よくある茶色にしたほうがいいと言われた。でも、前世で馴染みのある色だということもあり、クロエは黒髪にしたかった。

あの頃はまだ前世を思い出したばかりで、どちらが本当の自分なのかわからず、不安定な時期だったと思う。

だからこそ、黒髪に拘ったのかもしれない。

「不利だとわかっていたけれど、どうしてもこの色にしたくて」

「その衝動が、使命絡みだと思う」

リーノはそう言うと、にこりと笑った。

だから彼女は、クロエの見た目でその使命がわかると言ったのだ。

たしかに、移民が差別されるこの国で、目立たないように逃亡しなければならないのに、移民と勘違いされるような髪色にしていたのは、不自然だった。

使命絡みのものだったのかと、少し納得するような気持ちになる。

以前よりも魔法を使えるようになって、いつでも髪色を変えられるのに、そうしようとは思わなかったのも、それが理由かもしれない。

「侯爵家から出て、今は移民として暮らしているの?」

「少し前までは、そうでした。でも今は、公爵家の養女になっています。王太子殿下の婚約者である、アリーシャ様からの提案で……」

「なるほど。そういえば王太子殿下の婚約者は、ジーナシス王国まで魔法を学びに来ていたわね」

「はい、そうです」

王女カサンドラから婚約者を守るために、アリーシャはできる限りのことをしている。

クロエを義妹としたのも、その手段のひとつだ。

「この国は、身分差がとても激しいからね。貴族だけが利益を得て、権力を独占している。それに、いつまでも過去の奴隷制度を引き摺って、未だに移民を差別しているのは、この国だけよ。でも今の王太子殿下とその婚約者である公爵令嬢の考えは、違うようね」

その言葉に同意して、クロエは頷く。

「はい。おふたりは、貴族ばかりが優遇されるこの国を、変えようとして戦っています。私も、微力ながらお手伝いできればと思っています」

決意に満ちたクロエの力強い言葉に、リーノは表情を和らげる。

「この国の意識改革。それがきっと、あなたの使命よ」

リーノにそう言われた途端、納得した。

(私の、魔女としての使命……)

もちろん、前世の影響もある。

その使命が根底にあったから、移民のように見える姿に拘っていたのだろうか。

リーノはまだ病み上がりなので、今日の話はここまでにした。

クロエは他の病人の様子を見て回り、問題のないことを確かめて、自分に宛がわれた部屋に戻る。

ベッドに座って、先ほどの話を静かに思い返す。

魔女の力に目覚めたとき、理不尽なほど強い力だと思った。

あまりにも強い力に、恐怖を覚えたくらいだ。

でもそれが、果たさなくてはならない使命のために与えられた力だと聞いて、納得する。

それと同時に、自分が本当にそんな使命を果たすことができるのか、という不安もあった。

(しかもこの国を改革する、なんて)

自分にそんなことができるだろうか。

そう思っているのに、同時に、何があってもやらなくてはならないという気持ちもある。

無理でも、何年掛かっても、必ずやり遂げなくてはならないと。

「なるほど。これが、魔女の使命」

だとしたら、前世の記憶が蘇り、変装しなければならないときに黒髪を選んだのも、その使命に導かれた結果なのかもしれない。

もし無難な色にして、市民の中に溶け込んでいたら、この国が抱える問題について、そこまで深く考えなかっただろう。

そんなとき、ふと扉が叩かれて、エーリヒの声がした。

「クロエ、入ってもいいか?」

「うん、もちろんよ」

扉を開けて、エーリヒを迎え入れる。

彼はすぐにクロエを抱きしめてくれた。

「混乱していないか?」

「少し」

偶然にもジーナシス王国出身の本物の魔女と出会うことができて、色々な話を聞けた。

知りたかったことばかりだが、さすがに考えさせられる内容だった。

「一番驚いたのは、カサンドラ王女殿下が魔女ではなかったことかな?」

「そうなのか?」

「あ、エーリヒには話していなかったね」

クロエは、リーノがカサンドラのことをジーナシス王国では魔女として認められないと言っていたことを伝える。

「まず髪色が違うし、使命もない。でも、魔女に近い力を持っているから、ジーナシス王国以外では、魔女と呼ばれるかもしれないって」

だが、魔法大国と言われるジーナシス王国に認められなければ、カサンドラの価値は下がってしまうかもしれない。

ただでさえわがままで、手に負えない王女だ。

カサンドラは、クロエよりも力を使い慣れている。

だから強敵だと思っていた。

けれどジーナシス王国の魔女であるリーノから見れば、取るに足りない存在らしい。

(私がもっと力の使い方を学んで、強くなれたら……)

エーリヒを苦しめた彼女を、許すことはできない。

それにエーリヒだけではない。カサンドラは、その力で多くの人たちを傷付けている。

クロエが魔力を封じたサージェよりも、危険な存在である。

使命を果たす上で障害になるだろうカサンドラと、どう決着をつけるべきか、クロエは静かに考えを巡らせていた。

「クロエ、どうした?」

「あ、ごめん」

顔を上げてみれば、抱き合ったまま急に考え込んだクロエを、エーリヒは心配そうに見つめている。

「使命って、不思議ね。私にそんなことができるはずがないって思うのに、それでも諦める気にならないの」

自分だけが幸せになることはできない。

貴族だけが優遇されるこの国を、何とかしたい。

そう思って行動してきたのも、きっとこの使命によるものなのだろう。

「クロエの意思ではないのか?」

「ううん。根底にあるのは、私の意思。だからこそ、諦められないのだと思う」

「そうか」

エーリヒは納得したように頷いて、クロエの黒髪を優しく撫でる。

「以前も言ったように、この国がどうなろうが、興味はなかった。だが……」

エーリヒは言葉を選ぶように、視線を巡らせる。

クロエはそっと、エーリヒの手を握る。

自分の気持ちを話していいのだと、応援するように。

「王都の外に出てみて、そしてジーナシス王国の出身だという彼女の話を聞いて、俺もこの国は歪んでいる、と思うようになった。この国を変えるのがクロエの使命だとしたら、魔女の伴侶として、俺もできることは何でもする。それに、クロエはひとりではない。王太子殿下や、アリーシャ嬢もいる。だから、一緒に頑張っていこう」

胸が詰まって、すぐには答えることができなかった。

エーリヒは以前、誰も信じていない、クロエ以外はどうでもいいと言っていた。

アリーシャのことも王太子のことも信じず、むしろ警戒していた。

そんなエーリヒが、一緒に頑張ろうと言ってくれた。

クロエ以外の人を、味方であると認識してくれた。

それが、何よりも嬉しい。

「……うん。そうね」

涙が出そうになったが、ここは笑顔で言いたい。

クロエはエーリヒを見上げて、微笑む。

「私の一番の味方は、エーリヒだよ。いつも一緒にいてくれるから、頑張れるの。使命よりも、あなたの幸せが一番大切だと思っている。絶対に、幸せにするから」

クロエの言葉で、エーリヒが笑みを浮かべた。

それは、見ているクロエも幸せな気持ちになるくらい、綺麗な笑顔だった。

「俺も、絶対にクロエを幸せにする。クロエが愛してくれた俺を、粗末にするようなことはしない。約束する」

自分自身を省みなかったエーリヒが、そう言ってくれた。

「ありがとう。何よりも嬉しい言葉だわ」

クロエを抱きしめるエーリヒの腕に、力がこもる。

顔を上げると、唇を塞がれた。

エーリヒの熱が、抱きしめてくれる腕から、触れあった部分から、そして唇から伝わってくる。

「もう、充分に幸せよ」

その腕の中で、クロエは夢見心地に呟いた。