軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

・25

「クロエさん、色々とありがとう。あなたが助けてくれなかったら、あのまま死んでいたかもしれない」

「い、いえ。そんな、たいしたことは……」

そこでリーノは、クロエが戸惑っていることに気が付いたらしく、小さく笑った。

「そうよね。戸惑うのが普通よね」

リーノはそう言って、右頬に片手を当てた。

「見た目は十歳くらいかもしれないけれど、本当は二十五歳なの」

「えっ」

クロエは驚いて、リーノを見つめる。

今のクロエは、精神年齢はともかく、体は十七歳だ。でも、当然のようにリーノが年上には見えない。

(たしかに、倒れていたときは、熱でぼんやりとしていたからわからなかったけれど……)

こうしていると可愛らしい少女にしか見えないが、たしかにその瞳は、無垢な少女のものではない。

「うーん、どこから話したらいいのかしら」

混乱するクロエに、リーノはそう言って首を傾げる。

「私は魔法の研究のために、ジーナシス王国から来たの。この姿は魔法で変えているのよ」

「ジーナシス王国、ですか?」

北方にある魔法大国であり、魔女が何人もいると言われている。アリーシャも留学して魔法を学んだという、あの国だ。

「ええ。魔法の研究のために、各国を回っていたのよ。この先にある町に入ろうとしたら、外国人だからと追い払われてしまってね」

引き返す途中で、あの大きな池の辺りで休んでいたら、集落の子どもたちと出会ったのだと言う。

「仲良くなって、ときどき遊んでいたの。その子どもたちが病気になったと聞いたから、慌てて駆け付けようとしたのよ。でも……」

その前に自分も発病して、倒れてしまったようだ。

「ありがとう。あなたは命の恩人だわ。クロエさんが、ここまで運んでくれたの?」

「いいえ。私の相方のエーリヒが」

「そうだったの。その人にもお礼を言いたいわ」

「それが……」

町のギルドに行き、リーノの家族も探しに行ったことを伝えると、申し訳なさそうに謝罪する。

「ごめんなさい。私がこんな姿をしていたからよね」

「でも、どうして子ども姿に?」

警戒されにくくするためだろうか。

そう思ったクロエだったが、リーノはにこりと笑ってこう言う。

「可愛いでしょう? この頃の私。一番気に入っているの」

そんな理由だとは思わず、驚くクロエの髪に、リーノはそっと触れた。

「あなたも変えているわね。この色だと、移民だと思われて不便じゃない?」

「……っ」

クロエは警戒して、数歩後ろに下がる。

今までクロエの変装を見破った者はいない。

それなのに、どうしてすぐにわかってしまったのだろう。

「そんなに警戒しないで。私はあなたと同じよ。敵ではないわ」

「同じ?」

「そう。私はジーナリス王国の八番目の魔女、リーノ。あなたも魔女なんでしょう?」

「えっ?」

驚きのあまり、警戒していることさえ忘れて、クロエは彼女を見つめた。

まさか彼女が、ずっと会いたいと思っていた魔女だとは思わなかった。

「ジーナリス王国以外で完全な魔女が生まれるなんて、とても珍しいことよ。でも、あなたは間違いなく魔女だわ」

そう言ったリーノは、自分の髪に触れる。

倒れたときにツインテールにしていた髪は、今は解かれ、緩くカーブを描く白金の髪は、彼女の幼い体を守るように包み込んでいる。

「あなたの元の髪色は、私と同じよね。この色は、魔女の証でもあるのよ」

「魔女の……証?」

たしかに以前のクロエも、彼女と同じように白っぽい金髪だった。

それを散々地味だと疎まれていたが、まさかそれが魔女の証となる色だとは思わなかった。

「この色が?」

「この国には伝わっていないみたいね。ジーナシス王国は、あまり他の国とは交流がないから。でも魔女は必ず、この髪色とそれぞれの使命を持って生まれるの」

クロエはリーノと同じように、自分の髪に触れてみる。

今は黒髪だが、たしかにクロエの髪はリーノと同じ色だった。

「でもカサンドラ王女殿下は……」

この国唯一の魔女であるカサンドラは、金色の髪をしている。

「あー、あれね」

リーノは肩を竦めて笑った。

「噂には聞いているわ。でもジーナリス王国の概念だと、彼女は魔女ではないわね。髪色も違うし、使命も持っていない。でも魔女に近い力を持っているから、まぁ、他の国では魔女と認められるでしょう」

この国であんなにも恐れられているカサンドラだったが、ジーナリス王国の魔女であるリーノにとっては、魔女ではないらしい。

そのことに、クロエは驚く。

「でも、それらしい力を持っているのだから、別に魔女と名乗るのは自由よ。ただ、私たちの国では魔女ではない、というだけ」

アダナーニ王国は、魔法に関しては後進国だ。魔導師の数も、他国から見れば信じられないくらい少ない。

そんな状況だから、国王は多少力が弱くても、アダナーニ王国にも魔女がいると示したかったのだろう。

まして、カサンドラは王女である。

でもカサンドラが違うのだとしたら、クロエもまた、髪色が同じというだけでは、魔女とは言えないのではないか。

まして、魔女には使命があるのだという。

そんなものを、今まで一度も感じたことがなかった。

「私も違うのかもしれない。私には、使命なんて」

けれどリーノは、笑って首を振る。

「あなたには、使命があるわ。今のあなたの姿を見れば、すぐにわかる」

「私の?」

慌てて自分の体を見渡してみるものの、何も変わったところはないように思える。

「ごめんなさい。急に話しすぎたわね」

混乱しているクロエを見て、リーノは優しくそう言ってくれた。

「でも、まだ知りたいことはあるでしょう? あなたは私の命の恩人よ。私に答えられることなら、何でも聞いてね」

「はい。ありがとうございます」

エーリヒが戻ってきたら紹介すると約束して、クロエはリーノの部屋を離れた。

「びっくりした……」

部屋を出た瞬間、思わずそう口走ってしまう。

まさかこんな場所で、ジーナリス王国の魔女に出会えるとは思わなかった。

しばらくその場に立ち尽くしていたが、ここにいても仕方がないと思い、宛がわれた部屋に戻る。

病人達が集められている家には、たくさんの部屋があって、クロエもそのうちの一部屋を借りている。ベッドと机があるだけの簡素な部屋だが、元日本人としては、この狭さが今は落ち着く。

ベッドの上に座り、窓ガラスに映る自分の姿を見つめる。

前世と同じ、肩より少し長いくらいの黒髪。

でも本来の色は、白に近い金髪だった。

(私の髪色が、魔女の証だったなんて)

リーノが言っていたように、国交がないわけではないが、ジーナシス王国はあまり他国との関わらない国である。

だから、この国では魔女についても、ほとんど知られていない。

だから、こんなに見た目ではっきりとわかる証があるとは、思わなかった。このことがアダナーニ王国に伝わっていなくてよかったと、心から安堵する。

もし伝わっていたら、きっとクロエは生まれたときから魔女として扱われていた。

(生まれたときから魔女だったら、私もカサンドラ王女殿下みたいに、わがままになっていたのかな?)

一瞬だけそう考えるが、クロエの父は独裁的で、逆らうことはけっして許さなかった。

クロエの過去と同じように完全に支配下に置き、クロエの力を自分自身のために利用しただろう。

あのおとなしいクロエが、父に逆らえるわけがない。

(それに使命って何? 私には何かやらなくてはならないことがあるの?)

クロエの今の姿を見ればわかると言っていたが、ガラスに映った自分の姿をどんなに眺めても、クロエには何もわからなかった。

はやく、エーリヒにこのことを打ち明けたい。

突然明かされた、魔女の秘密。

ひとりで抱えるには重すぎて、クロエは落ち着かないまま、ただエーリヒの帰りを待つしかなかった。