軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

・23

「それにしても、どうして私にだけ見えたのかしら」

考えられるのは、クロエが魔力を持っていたからだ。

「まさか、魔法を使っていたのか?」

「そうだとしたら、厄介だね」

魔法を使う魔物など、今まで発見されたことがない。

(向こうでは、猿とか知能が高いって言われていたけれど、この世界の魔物もそうなのかな?)

この国では、人間でも魔法を使えるのは少数である。

それなのに魔物が魔法を使い出したら、対応できる人間は限られている。

ギルドに戻り、それを報告すると、案の定大騒ぎになった。これからエーリヒが倒した魔物を回収し、その分析に取りかかるようだ。

おそらくこの件で、魔法の重要性がますます高まる。

魔石の価値も高騰するかもしれない。

そして、魔術師ではなく魔導師を捕縛し、魔法を使う魔物を倒したエーリヒの名声も、さらに高まっただろう。

この依頼の事後処理や手続きのために、それから二、三日ほどこの町に滞在しなくてはならない。

その間クロエは、町を歩き回ってみたり、アイテムボックスに入れておく食材や薬を買い込んだりした。

クロエは魔法によって病気にならないが、エーリヒのために色々と用意しておくことにしている。

病気は、魔法では治せないからだ。

この町には移民も多く、クロエがひとりで出歩いてもそれほど目立たない。それなのにエーリヒは、クロエがどこに行っても離れずに、ずっと傍にいてくれる。

町を歩いていて少し気になったのは、クロエたちが魔物退治をした方の道は人で賑わっているのに、隣町に続く道には、あまり人がいないことだ。

屋台でそれとなく理由を聞いてみると、隣町はあまり他の町とは交流しないそうだ。

とても閉鎖的な町らしい。

何となくそれを聞いていたクロエは、ギルドから戻ってきたエーリヒに、次の指名依頼が隣町からだと聞いて、驚いた。

「あそこの屋台で、向こうの町は閉鎖的だって聞いたけど……」

「それでも魔物が出れば、依頼せざるを得ないのだろう。歓迎はされないかもしれないから、依頼を受けるかどうかは向こうで決めたほうがいい、と言われた」

依頼を斡旋するギルドがそんなことを言うくらい、向こうの態度は酷いものなのだろうか。

その隣町までの移動手段について、少し迷った。

どうやら、歩いても半日もかからない場所にあるらしい。

貴族ならどんなに近くても馬車移動だろうが、荷物もすべてアイテムボックスに入っているので、手ぶらで歩いて行くことも可能だ。

道もしっかりと整備されている。

そして途中に大きな池があり、遊歩道のようになっているらしい。

「近いみたいだし、歩いていく?」

そう提案すると、エーリヒも同意してくれた。

「そうだな。クロエとゆっくり景色を見ながら歩くのも、良いかもしれない」

こうして、次の町まで徒歩で行くことが決まった。

いつも宿を引き払うときは、次の宿の手配と馬車を頼んでいた。だが今回は、依頼を受けるかどうか、向こうの町に到着してから決めることになっている。

だから何も頼まずに、宿を引き払って町を出た。

まだ早い時間だったせいか、人も姿はなかった。

だが反対側の道には人がたくさんいたことを考えると、本当にこの先の町との交流はあまりないのだろう。

(どんな町なのかな……)

よそ者を嫌う町だというから、あまり歓迎されないかもしれない。

そんなことを思いながら歩いていると、右側に大きな池が見えてきた。

「ここが遊歩道ね」

大きな池の周りには道があり、池を一周できるようになっていた。

その周辺には花も咲いていて、景色を眺められるようにベンチも設置してある。

「少し歩いてみるか」

「うん」

エーリヒにそう言われて、ふたりで池の周りを歩く。

水草の浮いた池には水鳥がいて、呑気に泳いでいる。

天気も良く、明るい日差しが差し込んで、とても気持ちが良い。

人がいないので、エーリヒもクロエもローブのフードを外し、ゆったりとした気分で過ごすことができた。

「お弁当を持ってくればよかったね」

「そうだな」

そんなことを話しながら、そろそろ町に向かおうと、立ち上がる。

歩きながら周囲の景色を眺めていたクロエは、花畑の向こう側にも道があることに気が付いた。

(きっと向こうにも集落があるのね……。ん?)

クロエは足を止める。

道の途中で、誰かが倒れているように見える。

「どうした?」

「あっちの道に、誰かが倒れているの!」

そう言うと、急いで駆け寄る。

エーリヒもすぐに、クロエに続いた。

昨日と同じように、土を踏み固めただけの簡素な道に、ひとりの少女が倒れていた。

色素の薄い金色の髪に、白い肌。

見かけだけなら貴族の子どものように見えるが、こんなところにひとりでいるはずかない。それに、クロエと同じように、冒険者風の服装をしている。

北方からの移民なのかもしれない。

そうだとしても、子どもがひとりでいるのは不自然だ。

「とにかく、手当をしないと」

熱が出ているのか、赤い頬をして苦しそうに息をする少女を自分のローブで包んで抱き上げた。

案の定、とても熱い。

「俺が運ぶ」

たとえ華奢な少女でも、クロエが運ぶには少し不安定で、それを察したエーリヒが抱き上げてくれた。

「ありがとう」

「クロエが転んで怪我でもしたら、大変だから」

そう言いながらも、慎重に彼女を運んでくれた。

だが目的地の町では、入り口に警備兵が立っており、病気の少女を連れたクロエたちの立ち入りを拒否した。

「周辺の移民の集落で、熱病が流行っているって話だ。この町に、そんなものを持ち込まれたら困るんだよ」

「そんなものって……」

少女をもの扱いする警備兵の男に、クロエは絶句した。

少女にローブを渡してしまったので、今のクロエは顔を隠していない。

男の怒鳴り声にこちらを見た人たちも、クロエの移民風の容貌を見て、嫌な顔をする。

「また移民だわ」

「警備兵がいてくれて、本当によかったわね」

彼女たちは、病気で苦しんでいる少女を見ても、何も思わないのだろうか。

「そうか」

悔しくて何も言えないクロエの代わりに、エーリヒが答える。

「町に入れないのならば、仕方がない。この町から依頼された魔物退治は、引き受けられないと伝えておいてくれ」

「魔物退治?」

警備兵は唖然としたあと、やや焦りだした。

「もしかして指名依頼の? それは困る。あの魔物の被害者が、たくさんいるんだ」

「クロエ、戻ろう」

「……うん」

エーリヒは警備兵を無視して、クロエを促して歩き出した。

警備兵は何か喚いていたが、さすがにクロエも擁護する気にはなれない。