軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

・8

クロエは魔女の力で別人になっているし、そもそも父の部下の顔を知らない。

それでも、騎士が守っている城門を通るときは、かなり緊張した。

いつか、ここから出て自由になる。

町に逃亡した直後は、王都を取り囲む城門を見つめながら、そう思っていた。

それが、マードレット公爵家の馬車に乗っただけで、こんなにもあっさりと出ることができた。

(本当に、出られたのね……)

振り返ると、王都が少しずつ遠くなっていく。

つくづくこの国は、貴族だけが有利になるように作られている。

移民の中には、王都で生まれてしまったために、一生ここから出られない者もたくさんいるに違いない。

クロエは思わず、スラム街で暮らしている子どもたちのことを思い浮かべた。

あの子たちは、成長しても自由に王都から出ることはできない。

(そもそも王都に入ったらもう出られないなんて、今はもう意味のない決まりごとなのに)

奴隷制度と呼ばないだけで、この国にはまだそれが続いているようなものだ。

それについては、王太子のジェスタが廃止を考えているようだが、貴族からの反発も多く、なかなか改革が進まないらしい。

安い賃金で労働力が手に入るのだから、それは経営者側から見れば、良い話に違いない。

しかもこの国では、それが当たり前のことになっている。

今の国王に改革の意思はないようだが、王太子はジェスタだ。

一方にだけ傾いた天秤は、いつか崩壊する。恨みや妬みの念は、日ごとに強まり、いつかこの国を滅ぼす。

だから正しい方向に導き、この国を安定させて、誰もが暮らしやすい国にしたい。

それがジェスタの考えであり、アリーシャも心から賛同しているのだと、彼女が教えてくれた。

他国に魔法を学ぶために留学していたアリーシャは、この国がどれだけ歪んでいるのか、よくわかったようだ。

それをジェスタに話し、色々と語り合っているうちに、ふたりはそう考えるようになった。

ジェスタとアリーシャが国王と王妃になれば、この国はもっと住みやすい国になるだろう。

(そのためにも、この『特別依頼』をきっちり果たさないと)

クロエは、そう決意をあらたにする。

ターゲットは、元ギルド職員で、身分を剥奪されて移民になったにも関わらず、城門を強行突破して逃げ出したサージェである。

厄介なことに、彼は魔力を持つ魔導師だ。

だからか、ギルドからの依頼書には、生死問わず、と書かれていたと、エーリヒが教えてくれた。

「いくら罪人でも、元ギルド職員なのに」

「それだけ、犯罪者の魔導師は危険だということだ」

エーリヒはクロエの黒髪に指を絡ませながら、そう言った。

王都を出てから、エーリヒは町で一緒に暮らしていたときのように、クロエに触れたがる。

公爵家の馬車なので、中はとても広いのに、わざわざ隣に座っているくらいだ。

(ちょっと恥ずかしいけど……)

男性にあまり免疫のないクロエだったが、それでも好きな人はまた別である。

しかも、馬車の中ではふたりきりだ。

他人の視線を気にする必要もない。

クロエも、エーリヒの肩に寄りかかった。

「できるなら、生きて罪を償ってほしいけれど……」

いくら人の話を聞かない暴走迷惑男でも、自分の命で償えとまでは思わない。

でも、相手は魔導師。

しかも人に魔法を教えるくらい、使い慣れている。

そんな相手を無理に生け捕りにしようとして、エーリヒが危険に晒されたら大変だ。

「うーん……」

「クロエがいるから、きっと大丈夫だ」

何か良い方法はないか。

そう考え込むクロエに、エーリヒはあっさりとそう言った。

「私?」

「そう。クロエの力は、あんな男よりもずっと強い。きっと、王女よりも」

「そうかな?」

サージェは魔導師で、クロエは魔女だ。

持っている魔力が桁違いなので、経験の差はそれでカバーできるかもしれない。

でも、この国で唯一の魔女と言われていたカサンドラは、自分の力を完全に使いこなしている。

同じ魔女だからこそ、経験の差が大きいのではないか。

「俺がそう思う根拠は、ちゃんとある」

クロエの考えがわかったように、エーリヒはそう言って、クロエを引き寄せた。

「わっ」

不安定な馬車の中だ。

バランスを崩して、彼の胸に頭を擦り寄せるような体勢になってしまう。

エーリヒはそのまま、まだクロエの髪を撫でている。

「根拠って?」

「まずひとつ。王女には、クロエが魔女であることがわからなかった」

「そうね。それって私の魔法が、王女にも有効だったってことよね?」

魔女の力はあまりにも強すぎて、同じ魔女にしかわからないと、以前エーリヒが教えてくれた。

そしてアリーシャは、同じ魔女でもランクがあり、カサンドラは低い方だと言っていた。

自分よりも高いランクの魔女には、その力が通用しないとも。

「じゃあ本当に、私の力は王女よりも強いの?」

たしかに、理不尽なほど強い力だと思っていた。

願っただけで叶えられるなんて、怖いくらいだ。

「もうひとつは?」

「クロエの力が、離れた場所にいたキリフ殿下や団長にも通用したことだ」

「あっ……」

彼らを呪ってしまったことを思い出し、クロエははっとする。

今まで彼らから受けた仕打ちを考えると、あれくらいは仕方がないと思うが、たしかにエーリヒの言うように、自分の領域外にいた人間に魔法を掛けることができていた。

「そうなんだ……」

そんな強い力が自分に宿っているかと思うと、少しだけ怖い。

不安に思ったクロエを宥めるように、エーリヒが髪を撫でてくれる。

「クロエなら大丈夫だ。自分の力に溺れるようなことはない。あの王女とは違う」

「……うん」

クロエだって、もしエーリヒの気持ちが自分から離れてしまったら、悲しい。

でも魔法を使って、無理に彼を束縛しようとは思わない。

好きだからこそ、大事にしたい。

幸せになってほしい。

そう思っている。

「問題は、クロエの力がどこまで大きいものなのか、わからないことだ」

「そうね。今の段階では、たしかに私の力は王女よりも大きいかも、とは思うけど、実際にやってみて、やっぱり無理でしたってなったら大変よね?」

自分の力を知り、きちんと理解すること。

それがクロエの課題であり、この旅の意味だ。

あらためて、それを確認する。