軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【番外編】エルヴィラの贈り物ー1

本格的に冬が近付いてきたある午後のことです。その日、執務室にはわたくしとクラッセン伯爵夫人だけでした。書類を机にパサ、と置いておもむろにわたくしは切り出します。

「クラッセン伯爵夫人」

「はい、エルヴィラ様」

窓の外から、冷たい風の音が響いています。

「教えていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

離れた机で調べものをしていたクラッセン伯爵夫人は、すぐに近くまで来ました。

「もちろんですわ。わたくしでお答えできることならなんでも聞いてください」

「実は、ルードルフ様に贈り物をしたいのですが何がいいのかわからないのです。それでお知恵を拝借できたらと思いまして」

「贈り物?」

顔が赤くならないように注意しながら、わたくしは、ええ、と答えます。

「こちらにきてから、いえ、王国にいるときから、ルードルフ様はわたくしに素敵な贈り物をくださるのですが、わたくしはただお礼を申し上げるのが精一杯で、その十分の一も返せていないのです」

わたくしはほんの少しだけ息を止め、一気に話しました。

「装飾品やご本など、わたくしも折に触れてルードルフ様が喜びそうなものを見つけては贈るのですが、圧倒的にルードルフ様からいただく方が多いので、どうしたものかと思いまして……」

結婚生活がわたくしよりも長いクラッセン伯爵夫人は、わたくしのよき相談相手でもあります。いつも的確な助言をくださるのですが、今回は何か言いたげに黙ってしまいました。

「どうぞ遠慮せず話してください」

促すとクラッセン伯爵夫人は首を傾げながら口をひらきます。

「あの、無理にお返しなど考えなくてもいいのではないかと思ったのですが」

「そうなのですか?」

「はい。確かにルードルフ様はいつもたくさんの贈り物をエルヴィラ様にされますが、エルヴィラ様がそれをお喜びになっていらっしゃるなら、十分だと思いますわ」

クラッセン伯爵夫人の言いたいことはよくわかります。

わたくしとて、ルードルフ様からの贈り物は、ルードルフ様のお気持ちの現れだと存じております。そもそもルードルフ様と同じ量のお返しをわたくしができるはずもありません。

わたくしは細い息を吐きます。

「同感です。でも、なんと言うか、いつもわたくしばかり喜んでいることが申し訳ないのです」

クラッセン伯爵夫人は優しく微笑みました。

「そのお気持ちも、わかります」

「わかっていただけますの?」

「ええ。つまりエルヴィラ様はご自分が嬉しいからこそ、ルードルフ様にも喜んでいただきたいのですよね。ものではなくお気持ちを返したい」

「……その通りです」

「だけど、それを表そうとしたら結局物になるのが面白いというか、不思議なところです」

「本当ですわ」

わたくしとクラッセン伯爵夫人は少し笑い合います。

「けれど、それでしたら私ではなく、フリッツ様やクリストフ様、エリック様にお聞きした方がルードルフ様の好みがわかるのではないでしょうか」

わたくしはルードルフ様の側にいらっしゃる皆様の顔を思い浮かべ、首を振ります。

「もちろんそれも考えました。ですが、それだと答えが近すぎる気がしたのです」

「近すぎる?」

「たとえばフリッツ様にお聞きしたら、確実にルードルフ様が必要なものを贈ることができるでしょう。でも、それだと単に代理で買い物しただけのような……」

「ああ、なるほど、わかりましたわ!」

クラッセン伯爵夫人は身を乗り出しました。

「エルヴィラ様は考える時間も含めて贈り物をしたい、そう仰っているのですね」

「そう! それなんです」

わたくしは思わず顔を上げます。

「わたくし自身、ルードルフ様の贈り物で一番嬉しいところがそこなのです」

視察に行かれたときや、町に出たときなど、ルードルフ様は目についたものでわたくしが喜びそうなものを、いつも持って帰ってきてくださいます。わたくしはそのたびに、ルードルフ様が出先でもわたくしを思い出してくださると感じて、胸がいっぱいになるのでした。

「贈り物そのものももちろん嬉しいのですが、ルードルフ様の中にわたくしがいると思うこと。それをありがたく感じます」

「わかりますわ」

クラッセン伯爵夫人は、なにかを思い出したかのように目を細めます。

「瞬時に決めた高価な宝石より、調べて比較して悩みに悩んで贈ってくださった安価な髪飾りのほうが嬉しいものですよね」

そしてわたくしに向き直りました。

「それでは僭越ながら、助言させていただいてもよろしいでしょうか」

「はい!」

「もう答えは出ていると思います」

「そうなのですか?」

「ええ。物ではなく、それをもらったときのルードルフ様のお気持ちを考えれば大丈夫です」

「……でもそれが難しいのです」

わたくしは弱気な声を出します。クラッセン伯爵夫人は楽しそうに笑いました。

「エルヴィラ様とルードルフ様なら大丈夫ですわ。強いて言うなら」

クラッセン伯爵夫人はそこだけ小声で言いました。

「自信を持ってくださいませ。エルヴィラ様に必要なのはそれだけです」