軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31、思い出すのはエルヴィラのことばかりなのはなぜだろう

「ああ……朝か」

豪華な寝台で目が覚めたアレキサンデルは、ここが現実だと気付いて、まずはそう呟いた。

広々とした寝台には、アレキサンデルだけだ。すぐに起き上がらずに、夜具の中で、今朝見た夢を反芻する。

エルヴィラがトゥルク王国を訪れると聞いて以来、アレキサンデルは、なぜか毎日エルヴィラの夢を見た。

夢にまとまりはない。

ただエルヴィラが出てくるだけだ。

お気に入りは、二人がまだ初々しい、婚約したばかりの頃の夢だ。

エルヴィラが今のように人を見下した目をしておらず、アレキサンデルにも、にこやかに話しかけてきた頃。

幼いエルヴィラは笑って、アレキサンデルとお茶を飲んでいる。

ただそれだけなのだが、そんな夢を見た日は、穏やかに目覚めることができた。

目が覚めて隣にナタリアがいると混乱するので、最近のアレキサンデルはナタリアを寝室から遠ざけていた。

ナタリアは不安そうな目をしたが、結婚式までのけじめだと言うと、一応は納得していた。

そんな努力の甲斐があったのか、アレキサンデルは、今日もエルヴィラの夢を見た。

だが、思い返せば、今日の夢はあまり好ましいものではなかった。

エルヴィラはもう大人になっており、アレキサンデルにそっけなかった。

王たるもの、もっと思慮深く行動してください、などと、あの頃のように喧しく口出ししてきたのだ。

偉そうに。

だから、アレキサンデルもあの頃のように、舞踏会に出席しても、エルヴィラと一言も喋らず放置したり、二人で出席するはずの会議の、わざと違う時間を教えたりしていた。

どちらが上か思い知らせなくてはならないからだ。

それでもエルヴィラは顔色ひとつ変えなかった、あの頃のように。

夢の中のエルヴィラは、アレキサンデルを終始見下し、弟のパトリックにだけ優しくしていた。あの頃のように。あの頃のように。あの頃のように。

「クソッ!」

ガチャン!

アレキサンデルは、枕元の水差しを床に投げた。メイドが慌てて飛んでくる。

「掃除しておけ」

アレキサンデルはそれだけいうと、寝室を出た。

アレキサンデルの父であり、前王であるクシシュトフ一世は長い間、前王妃ソフィアとの間に、アレキサンデルしか子がいなかった。

どうしても側妃を持つ気にならなかったクシシュトフ一世は、それならば、とアレキサンデルに期待の目を向けた。一人しか子がいないのなら、その子を完璧に仕上げようと思ったのだ。

ところが、その期待に、アレキサンデルは応えられなかった。

何をしても、クシシュトフ一世の目に、アレキサンデルは凡庸に映った。男のくせに怖がりで、怯えてばかりいる。前王妃は、そんなアレキサンデルを優しいのだと庇ったが、王に向いていないことは認めざるを得なかった。

ならば、と前王は、未来の王妃にその期待を振り分けることにした。

アレキサンデルの器を補える資質を持った令嬢を探したのだ。そしてエルヴィラが選ばれた。

公爵家に力が偏りすぎると反対する声もあったが、前王は押し切った。

エルヴィラと婚約すると、前王は一層、アレキサンデルに厳しく当たった。

王になるには、当然のことだった。

前王妃も、それに倣った。

アレキサンデルもそれを当然として受け入れなければならなかった。

しかし。

その数年前に、奇跡的に誕生したパトリックの存在が、アレキサンデルを歪ませた。

前王が、幼いながらもパトリック王子の方が、期待を受け入れる器を持っていると、前宰相にだけ言っていたのを、アレキサンデルは聞いてしまったのだ。

さらに前王は、伯爵家ながらも、国内外に領地を持っているシルヴェン伯爵の令嬢アンナとパトリックの婚約を早々に決めた。

アレキサンデルはそれを、父の弟に対する期待の現れだと思った。

だから、アレキサンデルは、パトリックもアンナも嫌いだった。話しかけられても返事もしたくなかった。

しかしエルヴィラは、アレキサンデルの婚約者のくせに、アンナともパトリックとも友好的に接していた。

それがアレキサンデルには、癇に障った。

そうしているうちに、流行病をこじらせて、前王が崩御した。もともと病弱だった前王妃は、悲しみでさらに弱り、温泉の出る療養地に引っ込んでしまった。

アレキサンデルは、孤独と解放感を同時に味わった。そんなときに、ナタリアと出会った。

ナタリアといると安らいだ。こんな気持ちは初めてだった。手放したくなかった。

だから、ナタリアを王妃にしようと思った。

そうすれば、今度こそ、偉そうなエルヴィラにどちらが上か思い知らせてやれるだろう。

そして、それは叶った。

もうすぐ、ナタリアは王妃になる。

なのに。

今、思い出すのはエルヴィラのことばかりなのはなぜだろう。

アレキサンデルは忌々しい気持ちで、着替えを終えた。

結婚式はもう明日だ。