軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70話 アルーン国滅亡の危機

エリアナから次々と放たれた言葉に、広場の全員の思考が上手く纏まらずにいる。スタンピードに参加した騎士や冒険者、第二王子が引き連れて来た者達は困惑しながら広場を眺めていた。

「聖女は聖女ではない。と、エリアナとアードにより証明された。

あーっと、聖女ではもうないか……レーニア嬢に関しては、アルーン国の判断に委ねるとしよう。

そしてエリアナはレーニア嬢の氷漬けを解除しろ。剣の隙間に座り込んだままだと死ぬぞ」

レーニアは立っていることが出来ずに剣の隙間にへたり込んでいた。

エリアナは魔法を解除し、剣を抜くと持ち主に戻るように魔術をかけた。

レーニアには温風を風魔法であてて震える体を温めた。

レーニアの震えは氷漬けにされたからだけではなかった。

聖女ではないと、大衆の前で宣言されてしまったからだった。

未だに震え続けるレーニアに、ファルナが近付き声をかけた。

慰めの言葉でもかけるのかと思っていたエリアナだったが。

「偽聖女だったのかっ。よくも騙してくれたな!」

ファルナがレーニアに手を上げようとするが、その腕を掴み払い落とした者がいた。

「聖女の立場を利用し、私利私欲を尽くした事は許されないかもしれない。だが、義弟よ。聖女と名乗る者をきちんと精査せず、聖女として自身の側に侍らせた。そして、聖女との仲を社交界で見せつけたのも自分自身だ。

自身の愚かさに気が付かないのか?王族であるお前が「聖女」と呼べばそれが事実になる。お前の言葉や行動で全てが肯定されるのだぞ?」

ダリル殿下が厳しい表情でファルナを叱責する。

ファルナは顔を真っ赤にして義兄であるダリルを睨みつけた。

「側室の子の分際で王妃の息子の俺を侮辱するとは、良い度胸だな!たかが先に産まれただけで王太子かよ。身分の低い側室の子のくせに、いつまで王宮にいるつもりだ!さっさと出て行け!」

ファルナのダリルを侮辱する発言に反応したのは、リリアーヌだった。

「ダリル殿下と側室のメリーン様が王宮から去っても良いと言うのか?」

リリアーヌがエリアナの背後から現れファルナの正面に立った。

「ああそうだ。母上である王妃もそう願っている。お前達がいつまでもいるから、派閥争いが起こるのだ」

ファルナの言葉にリリアーヌが頷いた。

「それならば、我が辺境伯家にダリル殿下に婿入りしていただく。メリーン様も一緒にな。それに……」

続きの言葉を言うのを一旦止め、リリアーヌがテーブルへと視線を向けた。

騎士が聖女からと置いた花に向かって語り始めた。

「アルーン国との友好関係の為にと、第二王子殿下であるファルナ殿下を婿入りとのお話はこちらから却下しました。ですが、ダリル殿下が王太子を降りられ我が家に婿入りする意向を示されました。後継であるキャシーとも上手くやれそうですので、ダリル殿下の婿入りを願います」

そして……。

「もし、ダリル殿下の婿入りを阻止するのならぱ、先代王と交わした恒久的な平和条約を解除してもかわまない。我がアスティー辺境領はアルーン国と戦争になっても負ける事はない。スヴァルト王国に負担をかけずに戦争は終わるだろうからな」

戦争をも辞さないリリアーヌの覇気に、その場の全員が顔色を悪くする。

アスティー辺境伯の軍事力は大陸一。

ただ、戦争を仕掛けないだけであり、仕掛けたとしても勝てないのだから。

各国の王族はきちんと理解している。

リリアーヌが口にしたダリル殿下の婿入りは、決定事項となる。

「そんな勝手な事が許されるものかっ!」

ファルナがリリアーヌに向けて言葉を言い放つが、リリアーヌはファルナに視線を向けない。

花に向かってじっと視線を定めたままだ。

『相分かった。ダリルをアスティー辺境伯に婿入りさせる。側室のメリーンも一緒だ。それで良いか?』

誰もいない天幕の方から声が聞こえた。

「第三王子も一緒に来る意思があれば同行させるように。無理に第三王子を引き留めようとしても無駄だ。アスティーの目は何処にでもある。第三王子の意思を捻じ曲げる事のなきように」

つまり、アルーン国の王宮内部はアスティー辺境伯の間者がいると暗に言っているのだ。

『……解った。たが、後日で構わん。私と対談を設けてもらう。それが条件だ。リリアーヌ女辺境伯よ』

「畏まりました。後日、改めて使者を立たせます」

『ダリルよ。幸せにしてもらうのだ。すまなかったな』

エリアナは涙を必死に堪えた。

我慢で震えるエリアナの横をふわりと風が通り抜けた。

「ダリル殿下っ!」

風の正体はキャシーだった。

ダリルに走り寄ると、飛び込むように抱きしめた。

呆然とするダリルはゆっくりとキャシーを見下ろす。

「陛下が……。父上が幸せになれと。すまなかったっ……とっ」

ダリルはキャシーをギュッと抱きしめ、キャシーの髪に顔を埋めた。

震える体をキャシーが必死に擦っている。

「大丈夫ですよ。良かったですね」

その言葉を繰り返しダリルに伝える。

エリアナはその光景にポロポロ涙を流していた。

「おいっ!!いい加減にしろっ!俺を無視して良いと思っているのかよ!」

蚊帳の外のファルナがダリルとキャシーに向かって叫んだ。

「ファルナ殿下、聞いてなかったのですか?ダリル殿下が貴方が言われた通り王族から離れる。良かったではありませんか。なのに、何を喚いていらっしゃる?構ってもらえず淋しいのか?とんだ子供だな」

リリアーヌがクスリと笑うと、ファルナはリリアーヌに向け雷の魔法を落とした。

天からリリアーヌに向け雷が落ちて来た。

砂煙が舞う中、リリアーヌは凛とした姿で立っていた。

逆にファルナは後方に吹っ飛んでいた。ファルナが立っていた場所にはルーベンの姿があった。

(((そうなるよなー……)))

ルーベンの本質を知る者は全員ファルナを憐れに思った。

ルーベンがファルナに近づくが、ファルナは倒れたまま動かない。

ルーベンは天幕の花に向かって恐ろしい言葉を吐いた。

「少し借りる。否は言わせぬ」

気を失ったファルナを引きずりながら、広場を出て行くと森の方へと向かって行った。

「大丈夫。殺しはしないわ。一応他国の王族だもの。でも、アスティー辺境伯当主に魔法を放った。責任は取ってもらいます」

リリアーヌはダリルの側に行くと、泣きながら抱き合う二人の背を撫でた。

「一度王宮に帰るのも良いですし、このまま一緒にアスティー領に向かっても構いません。側近達とよく話し合いなさい」

そう告げると、エルランドの前に行き頭を軽く下げた。

あっ!と、思い出したかのように天幕の花に向かって声をかけた。

「そうそう。王妃であるナターシャ様。随分とアスティー辺境伯に色々と仕掛けてくれたわね。全て未然に防いでいるので、何ら影響はないのですが。アスティー辺境伯に喧嘩を売ったのです。高く買い取りましたわ。ルドル小国との取引は全て停止しました。軍も撤退してますし、職人も全て帰国済みですので」

リリアーヌは天幕に向かって軽く会釈をし、今度こそエルランドの後ろに控えた。

天幕からは誰もいるはずもないのに、女性の奇声が聞こえてくる。

が、直ぐに天幕は静かになった。

映像を送る魔力が切れたようで、アードがエルランドとフィーナに合図をした。

「第二王子殿下は連れ出されたので、戻って来るまで同行した者は待機してもらおう」

エルランドの指示で、第二王子に同行していた騎士や冒険者に神殿の関係者。

全員を端に一纏めにして待機してもらう。

広場の慌ただしい動きに乗じて神官のラスがこそこそ場を離れようとした。

「そこの神官のラス殿。話がある。こちらに来られよ」

ラスは肩をビクリと跳ねさせたが、ゆっくりと振り返りトボトボとエルランドとフィーナの前にやってきた。

二人の前で膝を突き、礼を取った。

「挨拶は受け入れる。立ってくれて構わない」

ラスは立ち上がり、視線を向けた。

「聖女は確かに聖女ではなかった。だが、教会が聖女として祀り上げて披露目をしたのも事実ではないのか?

エリアナが言うように、神からの神託があったからと、自分達の過ちを認めずレーニア嬢一人に責任を押し付けるのはどうかと思う」

エルランドとフィーナの非難の視線に、小さく肩を窄めるラス。

「レーニア様は時間逆行魔法という珍しい魔法を持っている。アルーン国ではまだ登録されたことは無い。スヴァルト王国には過去に二人ほど居たはずだ」

フィーナがエルランドに確認をとる。

「ギルドに資料があるはずだから後日送ろう」

「ありがとう。そこでだが……」

フィーナかラスにある提案をする。

「希少な魔法持ちは冒険者ギルドが保護する役目がある。それは知っておられるか?」

「はい。知っております」

「レーニア様を本来ならば冒険者ギルドで保護せねばならないのだが、レーニア様は冒険者達に兎に角嫌われている。下品だの汚いだの、散々暴言を吐いてきた。

冒険者ギルドはレーニア様を受け入れられない。なので、責任を持ってレーニア様の保護を神殿に担ってもらおう。

聖女鑑定をせずに称号を与えたのは神殿なのだから。責任を最後までとれ」

フィーナはレーニアの受け入れを拒否した。

ラスもエリアナに指摘された時に、神殿の不手際からでた結果だとは思っていた。

だが、レーニアは聖女の称号があったからこそ、あの性格や容姿でも皆が傅いていたのだ。

聖女ではなかったとしたら、どうなるのか……。

ラスもレーニアの先の未来は地獄でしかないと想像出来る。

だが、聖女でありながら見目の良い神官を虐げていた聖女レーニア。

神殿で過ごさず王宮で過ごし贅沢と傲慢な態度で皆を虐げし聖女だった。

神殿に帰って来ても居場所はないだろう。

ラスとてレーニアを切り捨てられる事に安堵した一人だ。

ラスが眉間にしわを寄せ考え込んでいる。神殿で引き取る。と、自ら言葉を口にする事をエルランドとフィーナは待った。

「エルランドさん。ちょっと良いでしょうか」

エリアナがエルランドに声をかけた。

「神殿にレーニア様を戻す事は止めて欲しいのです。理由は今この場では言えませんが、黒竜が関わっています。とだけ伝えて置きます。レーニア様が神殿で引きこもられても困るので、王宮にて過ごして貰いたいのです」

エルランドはエリアナの話に乗ることにした。黒竜が関わるとなると、レーニアの行き先などどうでも良いのだから。

「それにレーニア様の時間逆行魔法は王宮で役に立つのでは?暗殺だったり毒だったり。怪我が治るし毒も浄化してもらえる。一石二鳥ですよ?」

エリアナがニッコリとエルランドに提案する。

「いっせき?の意味はわからんが、そうする方が得策だと。そういう事か?」

「はい。それに今第二王子殿下がルーベン様に連れ去られましたし、婚約者として治療出来る者がいたら便利でしょう?」

元だが、聖女を便利な道具と言ってのけるエリアナにエルランドが豪快に笑った。

フィーナも隣でクスクス笑う。

ラスだけは、レーニアか神殿に戻らずに済みそうだと安堵の息を吐いた。

「ちょっと!勝手に決めないでよね!私は聖女じゃなくても、治癒が出来るし浄化も出来るのよ?それに、第二王子殿下の婚約者なんて嫌よ!私が愛しているのはダリル殿下よ!ダリル殿下も私を見て笑顔をくれるわ。誰にも笑顔を向けない冷徹と呼ばれたダリル殿下が、私にだけ微笑んで下さっていたのよ。私を選んでくれたダリル殿下と、私は婚約するのよ!!」

レーニアは必死にダリル殿下に気持ちを伝えるが、ダリル殿下は冷たい視線でレーニアの気持ちに応えた。

「聖女様が相手では冷徹なまま挨拶する訳にはいきません。社交辞令の笑みを勘違いなされても困るのです。それに私はキャシー嬢と婚約しますし、キャシー嬢を好ましく思っています。

個人的な気持ちを伝えるのならば、レーニア嬢はかなり嫌いです」

レーニアは口を開いたまま動かない。

そこにルーベンがファルナを引きずりながら戻って来た。

ドサリ。とレーニアの前にファルナを放り投げた。

いやいや!相手は王族ですが?

沢山の人々がルーベンに突っ込みを入れたかったはず。

「レーニア嬢。怪我を直したらどうだい」

呆けたままのレーニアはダリルに言われるがままに魔法をかけた。

ついてすぐの傷は綺麗に治った。

だが、魔法をかけながらもレーニアはどこか上の空だった。

レーニアは意識がどこかに行ったように、ただファルナの怪我が消えていくのを見つめていた。

ダリルからの拒否の言葉を受け入れられずにいた。

そこに暴風が吹き荒れ、砂埃と森から流れてくる葉っぱが広場の中央で舞い踊る。

そこに現れたのは黒竜だった

黒竜はファルナとレーニアを見つけると、瞬時に二人の前に飛び出した。

小さな体の黒竜だけれど、全身から漏れ出る魔力の覇気に二人はガタガタと震え始めた。

エリアナは急いで二人と黒竜の周りに防御結界を三重にかけた。

「黒竜は相当に怒っているわね。三重結界で足りるかしら?」

「あれだけの苦しみを与えられたのだから仕方ない。黒竜の怒りを止める事も出来ないのですから、成り行きを見守るしかないでしょう」

【よくもやってくれたな】

幼い黒竜の見た目に反して、どすの効いた低い声が広場に広がる。

ファルナとレーニアは抱きしめ合い、怒りの魔力の恐怖に今にも失神しそうだ。

【貴様らが我に枷をつけた】

そう言うと、黒竜は小さな黒い魔力を二人の胸へと飛ばした。

二人の胸元に魔力の珠が吸い込まれた瞬間、二人は絶叫し始めのた打ち回った。

黒竜の言った言葉に第二王子殿下の陣営からは悲鳴に似た叫び声が上がる。

当たり前である。竜に、しかも高位な竜に対して何かしらの事をしでかしたのだから。

第二王子殿下の側近が急いでアルーン国の王宮に映像を送らせる指示を出した。

アルーン国の王宮では、先程の駐屯地とのやり取りで大騒ぎとなっていた。

王太子殿下の婿入りや、アスティー辺境伯からの宣戦布告の言葉。

王宮がてんやわんやな中、またしても映像が届けられた。

王宮の間は一瞬にして凍りつく。

映像の中心に浮かぶ「黒竜」に。

黒竜の目の前でのた打ち回るファルナとレーニアに。

この国の者が黒竜の怒りを買ったのだと気が付いたようで、王宮の間は映像をただ呆然と見る者しかいない。

誰しもが思う。

アルーン国の最後を。

上位種に手を出して無事でいれた国はない。

ダンジョンに黒竜を放り込んだリリアーヌが異常なだけなのだから。

アルーン国の王宮と駐屯地の広場は、静寂の中で自分達の命の期限を知らされ絶望の淵に立たされていた。