軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

56話 もう一つの物語

私はキャシー・アスティー。

母は女辺境伯として有名なリリアーヌ。

父は四大公爵のヨルダン公爵家の次男で、ギルドマスターであるエルランド叔父様の兄になる人物。

国でも有名な二人(母は領地改革、魔法馬鹿。父は嫁馬鹿、娘馬鹿)の二つ名を持つ娘として産まれた。

辺境では母の側近の元高位貴族令嬢達にとても可愛がられ、甘やかされて育った。

私には双子の弟がいるけれど、弟は幼い頃から薬草や虫にしか興味がなく私が次期当主となることになった。

母が立て直した領地を継ぐ事に何も不満は無かった。それを当たり前のように受け入れていた。

そんなある日、辺境領へ婿入りする事を前提に婚約者候補との顔合わせがあった。

私は嫁入り出来ない為、母や母の側近達が候補者を数人選んでいた。

そして私の運命を変える人物との顔合わせが訪れる。

私は彼の顔を見た瞬間に、前世の記憶が溢れた。

気を失いたいが、それより目の前の人物がどんな人間かを知らなければ、自分の未来が地獄になってしまう。

私を地獄に落とす予定の彼。

パトリック・キースリー伯爵令息。

王都騎士団長の次男であり、アーノルド王太子殿下の側近を務めている。

自分の話はそこそこに、彼からの話を聞いてみる。

すると会話の端々に「エイミー。エイミー」と聞き慣れた名前が出て来る。

確認の為に名前を尋ねて驚いた。

エイミー・コーエン男爵令嬢だった。

学園で出会うはずの人物名が、何故こんなにも早く出て来るのか……。

話を聞いて確信した。やはりパトリックはエイミーを気に入っていた。

この顔合わせの席で、本来のキャシーは騎士団長子息として努力し、殿下の側近を見事に務めるパトリックに惹かれるのだけれど……。

目の前のこの男のクズっぷりにその片鱗は見えない。

婚約者候補として顔合わせをしているのに、エイミーエイミーと煩い。

何故こんなクズっぷりな人物になったのか……。

話を聞くうちに納得した。エイミーもイザベルも早々に転生者であると明言し、王太子殿下とも共にいる。そう聞かされた。

この時点で転生者二人により、物語が改編されていると理解した私は、パトリックとの顔合わせの後に両親に断りを入れたのだった。

私は前世の記憶を思い出し、物語が改編された事により努力するのを止めた。

何故なら、前世の私は作家として生きていたしインドア派だったから。

パトリックとの顔合わせの後から私の行動が真逆になり、こそこそする私に母から呼び出しを受け全てを話す事になってしまった。

パトリックはエイミーに恋をする。

最後は選ばれる事はないが、失意の中辺境へ婿入りする。

キャシーは覇気の失われたパトリックを支えるが、結婚した数年後に魔物の討伐で死ぬのだ。

それを両親に伝えると、直ぐに王都に密偵を放ち状況を調べ上げてくれた。

「恋ダン」の正規の物語は王道の学園での恋物語。

続編は同じ登場人物で同じ学園だが、ダンジョンがメインの恋物語。

どちらの話の物語なのかやきもきしながら、王都からの報告を待った。

すると、恋ダンの続編だと解った。

それと同時に、メインヒーローのセドリック・ハーマン公爵令息に婚約者がいる事が解った。

エリアナ・カーマイン子爵令嬢。

(誰それ?)

モブがメインヒーローの婚約者と知り、エリアナ様を調べ上げて貰った。

すると健気で・優しくて・努力家で・家族や領民思いである。

と、報告書に書かれていた。

(めちゃくちゃ良い子)

私は心優しいエリアナ様に会いたくて、助けたくて……。

両親のつてを使って、エルランド叔父様に頼み込みエリアナ様と会う事が出来た。

彼女が同じ転生者だと知りとても嬉しかった。

私が作者なのだから、この世界を知り尽くしている私がエリアナ様を助けるのだと。

その考えが驕っていた。

エリアナ様は自分らしく生きる。

私はいらない。

そうキッパリと言い放たれた。

嫌われた……。

悲しくはあったが、エリアナ様とやはり仲良くなりたくて辺境に帰ってからは本来のキャシーであるように、魔法に剣術に勉学にと遅ればせながら頑張った。

学園に入る頃、辺境のダンジョンで異変が突如起きてしまった。

学園に入ってエリアナ様に謝罪し、仲良く出来たら……。

小さな希望を持ち、一年頑張ってきた。

なのに……。

過去の記憶を回想しているキャシー。

目の前のセドリックとエリアナの仲睦まじい様子を眺めていたら、いきなりの

「チュッ」である。

前世も今世も免疫の少ないキャシーは、見目麗しい二人のラブラブを目の前にし、現実逃避をしていた……。

これ以上は無理!!

と、ぎこちないが咳払いをして自分が来た事を認識して貰った。

「あ!ごめんなさい。どうぞ入って。」

エリアナがキャシーが来た事に気がついて中に入るように伝える。

真っ赤になりながらも頷き、俯きながらテントの中に入るキャシーにエリアナはクスリと笑った。

セドリックは……いちゃいちゃを邪魔され少しだけ不機嫌であった。

エリアナがティーポットから紅茶をマグカップに注いだ。

「あ!マグカップ!」

キャシーがマグカップを手に取り、懐かしげに眺める。

この世界は紅茶用のティーカップはあるが、分厚く深い陶器のマグカップは存在しない。

ならば作ろう!と、セドリックの商会で作って貰ったのだ。

これもまだ販売はされていない。

「懐かしい……。いいなぁー……。」

キャシーはマグカップを眺めポツリと呟いている。

「で?話とは?」

さっさと追い出したいセドリックが早々に問いかけた。

「えと……。お二人はアスティー辺境領にダンジョンがあるのを知っていますか?」

「知っています。リリアーヌ女辺境伯が作られたと聞いています。」

「それなら話は早いわね。最終エリアに黒竜がいます。母が他国で捕獲しダンジョンに放り込みました。高ランクの冒険者達が腕試しに潜りますが討伐出来たのは両親だけです。」

エリアはその話はエリーお姉さまから聞いていた。

「いつかエリアちゃんも行けると良いわねー。」

そう言ってくれた。

「その黒竜がダンジョンから消えたのです。」

エリアナとセドリックが、バッとキャシーを見た。

「黒竜が消えた知らせを聞いて、私は前世の本に関する記憶をほぼ思い出しました。一部、どうしても思い出せない本もありますが……。それはどうでもよくて。

黒竜は母リリアーヌが悪役令嬢として登場する物語に出てきます。母は、その黒竜に殺されるのです。

私は黒竜がダンジョンにいるのが当たり前だったので、その事に気が付くのが遅れました。ですが、母が黒竜を捕まえダンジョンに放り込んだ為に安心していました。」

キャシーは悔しいのか、スカートをギュッと握りしめていた。

エリアナとセドリックは神様からリリアーヌ様が物語をボイコットした話を聞いていた。

でも、神様から聞いたと言えないので知らないふりをする。

「キャシー様。リリアーヌ女辺境伯は悪役令嬢として来られたけれど、物語が変わり今に至る……。って感じですか?

そして、何故黒竜がお消えになったのですか?」

リリアーヌ様の事は端折って話をし、黒竜の話をするように誘導した。

「黒竜はダンジョンに潜る母と何度も対戦し討たれ再生をしています。

ダンジョンの仕組みですから、王都のダンジョンもそうですよね。

母曰く、再生する度に黒竜は強くなっていったらしいのです。

母は脳筋ですのでただそれを喜んでいたのですが、父が気が付き黒竜の討伐はそれ以降行わなかったのです。」

「黒竜は相当な強さになっていると?」

エリアナがキャシーに問いかけると、視線を合わせ頷いた。

「父が言うには、最後に母と戦おうとした時は母を上回る強さだったようです。

母が瞬殺されると気がついた父が、母を無理矢理ダンジョンから出し黒竜はそのままにしていたようです。」

「では、最後に会った時は既に相当な強さだったのですね。

その黒竜が消えたとなると、世界の何処かに逃げたと考えてしまいますね。」

エリアナはキャシーが同じように危惧する事を口にした。

「黒竜は多分、隣国のスタンピードに関わっています。なぜなら、隣国の魔物が全て黒色になっていると密偵から報告があります。」

「黒竜が関わっているから、辺境伯様達は討伐に参加をされるのですか?」

「それもあります。辺境領のダンジョンから消えたのですから、責任があります。

ですが……。私が先程言った言葉を覚えていますか?別の物語が始まった。と……。」

そう。その話を聞く為に集まったのだ。

「黒竜が隣国で起こすスタンピードは、母リリアーヌの物語の一場面で母が死ぬ出来事なのです。」

キャシーの話に、エリアナはヒュッと息を吸った。

(リリアーヌ様が死ぬ?!)

目を見開いたまま、エリアナはキャシーを呆然と見ていた。

「最初は気の所為だと。母は生きているし、私が生まれています。物語が改編されているなら黒竜が動く事はないはずです。

でも、隣国の魔物の様子を見る限り母が死ぬ出来事そのままの流れです。

エリアナ様とセドリック様が討伐に参加されると聞いて、黒竜から離れて欲しかったのです。」

キャシーはエリアナが用意してくれた椅子から降りて、前世の正座をする。

「エリアナ様、ハーマン公爵令息様。どうか、このまま国にお戻り下さい。貴方がたが辺境伯の尻拭いをする必要がありません。物語に関わる必要はありません。」

そう言うと、手を付き頭を下げた。

日本の正規な作法で頭を下げお願いをするキャシー。エリアナに自分の誠意を見せたのだ。

エリアナはそんなキャシーの前に同じように正座をし、キャシーの体を起こした。

「以前のキャシー様とは随分と違うようですね。」

エリアナがクスクス笑い、キャシーの顔を覗き込む。

キャシーは以前の自分の態度の恥ずかしさと、目の前の綺麗な笑顔に顔を赤らめた。

「私とセドリックは帰りませんよ?特に、私は絶対に帰りません。」

エリアナは帰らない事を強く伝えた。

「でもっ……!!」

「私は、とても……とっても不謹慎ではありますが、スタンピードを楽しみにして来たのです。学園に入ってからは苛立つ事ばかり。学園がお休みの日も何かと忙しくしていましたわ。

大好きな冒険者稼業も出来ませんでした。ですが、それも仕方ないと納得はしていました。」

エリアナはキャシーからセドリックへと視線をうつした。

「頑張った私のためにセドがこの討伐を受けてくれた。私にくれたご褒美の贈り物ですわ。ですので、私は帰りません。

それに……。黒竜って聞いたら、冒険者として血が騒ぎますからね!」

エリアナはキャシーにそれはそれは楽しそうに語り始めた。

「竜は沢山の色がありますよね?その中でも黒竜は上位に位置します。その討伐に参加出来るなんて、冒険者冥利に尽きます。」

ワクワクしながら話すエリアナだが、次の瞬間真剣な顔つきになりキャシーの両肩を掴むとキャシーに自分の思いを伝えた。

「それにキャシー様のお母様であるリリアーヌ様を守らなければなりません。

確かに私はあの方を好きではありません。それは、ごめんなさい。」

エリアナはリリアーヌが嫌いだと頭を軽く下げキャシーに謝罪した。

「でも誰かが死んで良い訳ではありません。黒竜を討伐する事でリリアーヌ様を守れるならば、私は絶対にスタンピードに参加しますわ。」

優しく微笑み、キャシーにそう伝えた。

キャシーは何も言えず、ボロボロと涙を流している。

キャシーはエリアナに飛び込むように抱きつき、大声を上げて泣き始めた。

(お母様が亡くなるかもしれないと知って平気な訳がないのよ。キャシー様は今日まで沢山頑張って来られたのね。)

エリアナはキャシーをギュッと抱きしめ、キャシーが泣き止むまで背を擦り続けた……。