軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6.継母と義妹

数か月後に社交界デビューを控えた十五歳のフレデリカの前に、サラとエイベルはやってきた。

その頃のフレデリカは、デビューに怯えきっていた。

髪をまとめてベールをかぶせたり、ドレスを極力シンプルなデザインにしたりと工夫してみたものの、フレデリカの美貌はカバーしきれない。社交界に出れば噂の渦に巻き込まれることは必至だった。

メイドたちは着付けをしながら何度も感嘆のため息をつき、口々にフレデリカを褒めそやしたが、中心に立つフレデリカの顔色は青ざめていく。

妻を亡くし、男一人で娘の不安は解消しきれないと思ったのだろう、父親はよき助言者と歳の近い令嬢を求めた。

それがサラとエイベルだったのだ。

『初めまして、フレデリカ。ヴェルチェ様からあなたのことを聞いて、なんとか力になりたいと思ったの』

『こんにちは。エイベルって言います。おねえさまができてうれしい』

サラはフレデリカをいたわるようにほほえみ、エイベルは純真無垢といった目でフレデリカを見つめて笑った。

二人ともフレデリカの悩みをよく聞いてくれたし、サラは社交界で令嬢がどうふるまうべきかを教え、

『怖がる必要はないのですよ。礼儀を守って応じれば相手も礼儀をもって接してくれます。そうでない者は社交界の笑いものになるだけですわ』

そう言ってフレデリカを励ましてくれた。

『おねえさま、とっても素敵ね。あたしも早くかわいいドレスをたくさん着て、晩餐会に出てみたいわ』

新しくできた 義妹(いもうと) は無邪気な笑顔で羨ましがった。

ほかの者とは違う二人の接し方にフレデリカは安堵し、希望を持つことができた。

『ありがとうございます、サラお義母様。ありがとう、エイベル。私は私よね』

子どもの頃は、気づかないうちにフレデリカがわがままを言いすぎていたのかもしれない。

メイドたちが褒めすぎるのは、彼女らは幼い頃からフレデリカを知っていて、贔屓目になっているのだろう。

(これから私が行くのは貴族の皆様がいる場なのよ。皆さん紳士淑女にふさわしいふるまいをしてくださるわ)

自分にそう言い聞かせて、フレデリカははじめての晩餐会に臨んだ。

年に一度、王妃の主催する晩餐会。

そこで、その年に十五になった令嬢たちが紹介される。

結果として、フレデリカはたくさんの注目を集めた。

豪華に着飾った令嬢よりも、シンプルなドレスと控えめな化粧のフレデリカのほうに、人々は目を奪われた。

ただ、フレデリカの恐れていたような事態にはならなかった。

興奮した囁きを交わしあう貴族たちも、それ以上のことは無礼だとわきまえている。

(サラお義母様の言うとおりだったわ)

こちらが礼儀正しくあれば、問題は起こらないのだ。

フレデリカは安堵の息をつき、屋敷へと戻った。

デビューからの数か月を、フレデリカは心穏やかにすごした。

美しいフレデリカには晩餐会の招待状も多く届いたが、サラは『ゆっくり慣れていけばよろしいですよ』と角を立てずに断る方法を教えてくれた。

社交界デビューを乗り越えたフレデリカの姿に、父も安心したようだ。

状況が一変したのはそれからすぐのこと。

『お嬢様、旦那様が……!』

青ざめた顔で飛び込んできた執事が、商談のため隣国へ向かった父が、事故に遭い帰らぬ人となったと告げたときだった。

クローゼットからワンピースをとりだして、丁寧に皺をのばす。

髪はいつものとおり一つにまとめることしかできないけれど、せめてもとリボンをかけた。

鏡の中の自分を見て、フレデリカは頷く。

今日はセルシオがヴェルチェ家を訪れる。月に一度のこの日を、フレデリカは楽しみにしていた。

父が亡くなって、サラとエイベルは豹変した。

サラは昔なじみの使用人たちを次々と解雇し、屋敷を支配下に置いた。

フレデリカを慕っていたはずのエイベルはドレスや宝飾品を奪いとり、自分のものにしてしまった。

なにが起きているのかわからないまま、フレデリカは孤独に悲しみに耐えなければならなかった。

やがて、サラとエイベルはヴェルチェ家の財産を狙い、人のいい親子を演じていたのだと――父と自分は騙されていたのだと理解する頃には、なにもかもが彼女らのものになっていた。

エイベルが社交界デビューを果たし、小さな挫折を味わうと、要求はいっそう酷くなった。

『お姉様のせいなんだから。お姉様がいい男の人を見つけてきてよ!』

ドレスをとりあげられたフレデリカはエイベルの言いなりのものを着るしかなく、卒倒しそうなデザインの衣装に身を包むことになった。

幸いだったのは、最期の時まで父は二人の本性に気づいていなかったことだ。

それに、屋敷はのっとられても、ヴェルチェ家のすべてが奪われたわけではない。

父はフレデリカに次期当主の座と、入り婿を承諾した婚約者を遺してくれた。

セルシオ・マコール。

マコール伯爵家の四男で、フレデリカとは幼少期からのつきあいになる。

おそらく、少女の頃のフレデリカに一番多くお菓子をくれた人。

現在のヴェルチェ家は当主不在の状態だが、フレデリカとセルシオの結婚をもって、フレデリカが正式に当主となる予定だ。

「セルシオ・マコール様がいらっしゃいました」

「今行くわ」

メイドの呼びかけに応え、フレデリカは部屋を出る。

けれど、廊下を数歩行ったところで、フレデリカは足を止めた。

腕組みをして口元に笑みを浮かべたエイベルが、廊下に立っていたからだ。

「いやあね、婚約者に会うのにそんなみすぼらしい服しかないなんて」

嘲笑う声で言われて、フレデリカはうつむいた。

みすぼらしい服しかないのは誰のせいだと言いたくなるが、言えばエイベルは激昂し、セルシオに会うどころではなくなってしまう。

「セルシオ様も、お姉様なんかよりあたしといっしょにいたいのではなくて?」

「……ッ」

それはあまりにも酷い言い草だ。誰がここまでの状況にしたと思っているのか。

けれど、それでもフレデリカは口をつぐむ。

何も言わないフレデリカをエイベルはつまらなそうに見ていたが、その口元にはふたたび歪んだほほえみがよぎった。

「ま、いいわ。せいぜいデートを楽しんでくださいな」

くるりと踵を返し、ベージュの髪をなびかせながらエイベルは立ち去った。

フレデリカもほっと息をついて、セルシオのもとへ向かった。