作品タイトル不明
28.デートのお誘いふたたび
温かな湯で化粧落としの泡を流されながら、フレデリカはそれよりも熱い頬を自覚していた。
(リーランド様に縋ってしまった……!)
リーランドがフレデリカを抱きしめたのは、ただ同情、慰め、そういったものだっただろう。お礼を言ってすぐに身を引かなくてはいけなかったのに。
フレデリカは動くことができなかった。リーランドのぬくもりを感じていたいと思ってしまった。
馬車が止まるまでリーランドはフレデリカを抱きしめたままでいてくれ、馬車の扉が開いてからはいつもどおりの態度に戻った。
迎えたノイラとセレネにドレスを脱がされ、浴室へ連れられ、体じゅうを洗われて――そのあいだずっと、フレデリカの頭の中はリーランドのことでいっぱいだった。
少しずつ、気づいていたことではあった。
そのほのかな予感が、確信に変わってしまった。
(私は、リーランド様のことを……)
黙り込んでいるフレデリカに、ノイラとセレネは顔を見合わせた。それから、フレデリカの見えないところで親指を立て、手を握りあう。
(これはもしかして、もしかするわよね!?)
(これからもフレデリカ様を飾りつけ放題!?)
((ひゃっほーーう!!))
先行する世慣れた印象のせいでアピールをアピールだと受けとられていなかった主人だが、心はきちんとつかんでいたようだ。
(あともう一押し、ね)
(大丈夫よ、チャンスには目敏いリーランド様ですもの)
ノイラとセレネは頷きあった。
そしてリーランドは、彼女たちの期待どおりの主人だったと言える。
*
翌日の朝、朝食をすませたフレデリカに、リーランドは「昨夜はお疲れ様でした」とほほえむと、
「今日は二度目のデートをしませんか」
と告げた。
「デ……」
「デートです。先日は初デートでしたから。初ということは、二度目もありますよね」
あまりにもさらりとリーランドが言うので、フレデリカは思わず頷いてしまいそうになる。
先日のあれは、カフェに行きたかったリーランドの建前だったはずで……けれどもぬいぐるみを買ってもらったり、手をつないだり、そしてたしかにリーランドは「初デート」と言っていた。
(普通は二度目が……あるのかしら)
「いえ、ごめんなさい。ぼくの言い方が悪かったです」
悩んでいたら、なぜか謝られてしまった。
リーランドはフレデリカの手をとり、甲に口づけを落とす。上目遣いに見上げられて、またフレデリカの頬が熱くなっていく。
「こんなことを言ってると、フレデリカさんが別の誘いも受けちゃいそうだから……初デートをしたからまたしなきゃいけないんじゃなくて、ぼくがデートしてほしいんです。だめですか?」
「……っ」
困ったように尋ねるリーランドは、眼鏡をかけていないのに捨てられた犬のようだった。しょんぼりとさがる耳と尻尾が見えるような気がする。
「だめじゃ、ないです……」
顔を赤くしてうつむきながら、フレデリカも答える。
その背後では、ノイラとセレネがこぶしを突きあわせてよろこんでいた。
*
「で、こうなるか……」
一時間後。
リーランドは、なんともいえない呟きとともにフレデリカに寄り添って町を歩くバゼルを眺めていた。
「そういえば忘れてたな、あいつの存在を……」
また 地味(おしのび) モードでおめかししたリーランドとフレデリカが宿を出るなり、散歩と勘違いしたバゼルは尻尾を振って駆けよってきた……と受けとったのはフレデリカだけで、リーランドには『抜け駆けは許さんぞ』というバゼルの声が聞こえた気がした。
抑制眼鏡もかけているのだが、気配に敏感な 精霊(バゼル) には効果がない。
「まあいいか。バゼルがいれば君は自由に動けるもんね、レイト?」
「はい」
苦笑するリーランドに頷き、レイトはそっと〝シュナーゼ〟への道を戻った。