軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26.悪女…じゃない!

ネリガン公爵は満面の笑みで二人――リーランドとフレデリカを、出迎えた。

「ようこそお越しくださいました、いやお二人とも、輝くようで」

今夜のリーランドは〝抑制眼鏡〟をかけていない。ネリガンの言うとおり、夜にもかかわらず星屑を振りまいたように輝く金髪も、揺蕩う水面の色をした瞳も、見る者を虜にする美貌も、すべてがシャンデリアの煌めきの下にさらされている。

リーランドの隣に並ぶフレデリカは、ドキドキと鳴る胸を押さえた。

慣れたとか、親しみを感じるだとかいうのは、思い込みだったかもしれない。

盛装をし、髪型を整えたリーランドは、ため息が出るほど格好よかった。

(今夜も広間じゅうの視線を集めるでしょうね……!)

ちらりとリーランドの横顔を盗み見て、フレデリカはそう確信する。

と、その横顔が横顔ではなくなって、フレデリカと目があった。

「緊張していますか?」

「えっ、あっ、はい」

ぼうっとしているフレデリカを心配してくれたらしい。

見惚れていただけですとは言えないから、緊張していたことにして、フレデリカは頷いた。

「大丈夫。とてもかわいいですよ」

(ううっ、美形圧がすごい……!!)

フレデリカの目線にあわせてなのか、小首をかしげてリーランドはほほえむ。彼のまとうキラキラが吹きつけてくるような気がしてフレデリカはギュッと目をつむった。

「ありがとう……ございます……」

フレデリカも、自分の外見に不安はない。

ノイラとセレネが丹精込めてドレスを着付け、化粧をほどこしてくれたフレデリカは、以前とは見違えるようだった。

今回のコンセプトは〝深層のご令嬢~純真無垢と天然を添えて~〟だそうだ。

サブコンセプトはよくわからないが、「〝魔性の悪女〟の印象を払拭するのですよね。お任せください」と請け合ってくれた二人の言うとおり、淡いブルーのドレスは上品なレースで縁取りがされ、首元にはかわいらしいリボンと花の飾り。髪は重くなりすぎないように編み込んでアップにまとめ、こちらにも飾り花を散らして、清楚な印象に仕上げてくれた。

この髪飾りや靴もリーランドからの贈り物、らしい……。

(ヴェルチェ家をとり戻したら、絶対に少しでもお支払いしなくちゃ……!)

と、フレデリカは決意を新たにしていた。

「さあ、行きましょう」

そんなフレデリカの決意を知ってか知らずか、リーランドはフレデリカの手をとり、ネリガン公爵に続いて広間の中心へ歩いた。

二人を認めた瞬間、広間のざわめきが大きくなる。

「あの金髪……青い目……麗しいお顔。リーランド様だわ」

「お噂のとおりのお方ね」

「でも見て、お隣の方も……」

「なんて可憐なご令嬢でしょう。ホレスベルの方かしら」

「リーランド様にお似合いのご令嬢だわ。落ち着いたまなざしに、優雅な物腰……」

聞こえてくる 称賛にフレデリカは顔を赤くした。 〝魔性の悪女〟となってからは、眉をひそめられたり冷たい視線を向けられたりすることはあっても 、こんなふうに手放しで褒められることなどなかった。

しかも、リーランドに似合いの令嬢であるとまで言われている。

「皆様、こちらが今夜の特別なお客様――リーランド・アッシュベリ様と、フレデリカ・ヴェルチェ嬢です!」

大きな太鼓腹を反らせ、ネリガンが自慢げに告げた。

その瞬間の、 広間のどよめきは、先ほど とは比較にならなかった。

「フレデリカ・ヴェルチェ嬢!?」

「彼女があの、〝魔性の悪女〟……!?」

「そんな、信じられないわ!」

「でも、たしかに、よく見れば……」

本人たちは 囁きのつもりなのだろう。しかし 興奮がすぎて、声ははっきりと フレデリカのもとまで届く。

リーランドは眉根を寄せて声のしたほうを見た。

「フレデリカ嬢は、悪女などではありません。はしたない真似は、彼女の本意ではなかった」

はっきりとリーランドに言われ、あだ名を口にした者は恥ずかしそうに下を向いた。

フレデリカからすれば〝悪女〟としてふるまっていたことは事実で、そう言われるのは仕方のないことなのだが、リーランドの隣に立つ可憐な令嬢に投げつける言葉ではないこともまた事実。

「リーランド様のおっしゃることは本当です。ほれ、以前の晩餐会でフレデリカ嬢の 義妹(いもうと) と婚約者がわけのわからないことをしでかしたでしょう――」

すかさずネリガンがあとを引き取り、意味ありげに笑ってみせた。

リーランドは口をつぐみ、フレデリカは困ったように笑うだけ。そのほほえみは儚く見え、心細げに風に揺らぐ一輪の花のようだった。

その姿を見ただけで、招待客たちはなにか由々しき事情があったのだろうという気にさせられる。

だって、フレデリカが自分の魅力を十二分にわかっていたとしたら、あんな悪女の真似事などしなくても、男女問わず放っておけるわけがないのだ。

「たしかに……そういえば、婚約破棄だとか騒ぎがあったような」

「ええ、誰でしたかしら……あまり覚えていないけれど。そのあとにリーランド様がいらっしゃったものだから」

「そうね、わたくしたち、フレデリカ様の婚約者をよく知りませんわ……?」

「影の薄い男だったのでしょう。義妹の……たしかエイベルは、自分を救い出してくれた人だとか言っていたが……」

「そのエイベルのほうも、近頃は急に社交界の中心のような顔をし始めて――」

「――実は、その義妹と婚約者が、ヴェルチェ家の乗っ取りを企んでいるようでしてな……」

声をひそめて深刻そうな様子を作り、ネリガンは言う。

フレデリカも姿勢を正して貴族たちに向きあった。

「はい。皆様には、彼らの言葉に惑わされず、中立のお立場でいていただきたいのです。いずれ宮廷裁判所から判決が出るはずですから」

まっすぐなまなざしのフレデリカに、貴族たちは感銘を受けたようだ。称賛を示し、拍手をする者もいた。

集まった人々は、ふたたび様々に語りあい始める。

ネリガン公爵の意を汲んで、エイベルやセルシオを庇おうとする者はいなかった。

フレデリカの耳に届いたのは、そんな囁きの中の一つだった。

「ええ、あのエイベル嬢の言うことは嘘ばかりなのでしょうとも。最近ではこんなことも言っていらしたわ――あたしはリーランド様に見初められて、アッシュベリ家に嫁ぐことになるかもしれない、って」