軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編SS マーゴット・フォン・コードウェルの覚悟と記録

「グロリア嬢の……いや、導き手様の伝記の執筆を手伝わないか?」

寝る間際に夫、ホレイシオからそう言われ、ベッドに腰かけたマーゴットは息が止まるほどびっくりした。

「剣の導き手様の偉人伝を、君も読んだことがあるだろう? それと同じようなものを教会が作りたいそうだ。導き手様に一番近しい我々に……なかでも貴族女性としては親族でもある君に、執筆陣の一人として加わってほしいといっている」

つい昨日、姪であるグロリア様が紫の導き手になるという偉業を達成したばかりだ。

その功業を支えた夫や息子のバーナードのことを、マーゴットは妻として母として誇らしい気持ちになった。

夫たちがコードウェル本家に付きっきりでも腐らず、コードウェル伯爵家をまとめた長男のことも母は自慢に思っている。

我がコードウェル伯爵家は確かにグロリア様に一番近いと自信を持って言えるけれど、それでも後世に伝わる『導き手様の伝記』の執筆の手伝いを依頼されるとは思ってもみなかった。

しかも夫やバーナードではなく、自分に。

剣の導き手様の偉人伝の内容は、老若男女、身分の垣根なくこの世の全ての人間が知っている。

なかには貴族ですら字が読めない者もいるほど識字率が低い国もあるが、それでもその偉業を知らぬ者はいない。

なぜなら教会が劇や歌にして語るからだ。

今回の教会からの話は、その〝紫の導き手版〟ということになる。

考えてみれば、それが書かれるのは当然のことだった。

けれどそれはもっと教会に近しい貴族か、王族の方が担うべきことではないのだろうか。

まさか自分が百年、二百年先の人たちへ、グロリア様の功績を伝える手伝いを頼まれるだなんて思ってもみなかった。

自分にできるだろうか。マーゴットはふと不安になった。

百戦錬磨の紳士淑女が蠢く社交界では、自分は確かに導き手様の亡きお母様の代わりに少しは支えになっているだろうと思う。他の貴族たちよりは、グロリア様のことを知っているはずだ。

けれどもマーゴットがもしもそれを伝えそこなってしまったら……?

未来の人たちは、グロリア様の功績や魅力を永遠に知らぬままかもしれない。

尻込みする マーゴット(妻) へ、夫は書類の中から数枚の厚紙を引き抜いてベッドの上に並べてみせた。

「先日の導き手就任式の様子を描いたスケッチの中から、何枚か挿絵に使う候補も出来上がっているそうだよ。いくつか借りてきたが、見てごらん。すごく綺麗だ」

「まあ、本当に!」

司祭様から紫の導き手のペンダントを受け取るグロリア様。

グロリア様の金の髪にステンドグラスからの光が降り注いでいて、これから彼女の物語が始まるのだという意志の強さが紫の目によく表れている。

そしてそれを見ていたマーゴットたちの感動と、未来への期待をよく表していると思った。

「昨日の式は本当に素晴らしかったわ……」

エドワード殿下の態度は少し引っかかったけれど、それでも我が国から導き手という存在が誕生したことへの誇らしさで胸が弾んだ。

あの感動を、未来の人たちは味わうことはないのだ。

そう思ったら、マーゴットの中に使命感のようなものが芽生えた。

十歳で平民のために酒を造ると決意し、見事に成し遂げたグロリア様のことだ。これから先も彼女は導き手として民を率い、神の教えを広く知らしめるために全力を尽くすだろう。

マーゴットはそれを伝える。

そう思ったら、ふつふつとやる気がわいてきた。

就任式はもちろんのこと、導き手様になるまでのグロリア様の努力や意志の強さを広く人々に知ってほしい。

これからきっと世界はグロリア様の導きによって変わっていく。日常の変化やその感動を味わえない未来の人たちへ、せめて書物や歌や劇の中でそれを感じてほしいとマーゴットは思った。

自分よりグロリア様のほうが年下だから、途中で力尽きる時がくるだろう。

最後まで見守れないのは残念だけれど、その時は……天上の神様へグロリア様の偉業をお伝えしよう。

神のために立ち上がった少女の物語を。

「教会には〝光栄です〟とお伝えください」

「では?」

穏やかに首を傾げてくる夫へ、マーゴットは力強くうなずいた。

「はい。教会からのご依頼、このマーゴット……謹んでお受けいたしますわ」

紫の導き手様の偉業を後世へ伝えるため、必ずや良いものを書くと誓おう。

グロリア・フォン・コードウェルという少女の、今までとこれからの 出来事(物語) を――……