軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第74話 エドワード王

ケイトは黒髪で金の瞳という、王家の色を持った男児を産んだ。

ハトルストーンの寄越した産婆いわく「殿下そっくり」らしいが、グロリアには人間のパーツが付いた小さい何かにしか見えなかった。

グロリアの義父にあたる国王はその赤子を〝ニコラス〟と名付け、その半年後に亡くなった。

息子の結婚を早めたのも病を得て健康に不安があったからだが、王家と導き手との間に跡継ぎが産まれたことで未来への不安は払拭されたらしい。

真実を知らない国王の死に顔は、穏やかなものだった。

むしろ不安のせいで刺々しい顔をして王位継承と戴冠式に臨んだのは、エドワードである。

歴代国王の中では目立たぬほうであった義父は、人生の後半に紫の導き手を得たことで、亡くなった今では名君だったといわれている。

その跡を継ぐエドワードは、自力で名君に名を連ねるには己の能力と研鑽が足りず、父王のように名誉の全てをグロリアにゆだねるには我慢が足りない。

焦るエドワードを尻目に、グロリアは〝導き手でもある王妃〟として着実に職務をこなしていった。

A子の知識をもとに内政に力を入れ、治水や道路整備などのインフラや平民へ基礎的な学問を教える小学校のような教育機関を整えた。

地方視察を増やし、米のようにA子の世界では価値があるのにこちらの世界では低価値、もしくは無価値とされるものを見出して特産物を作った。外国への輸出ではかなりの利益をあげている。

「知識チート!」とA子が大喜びで叫んだそれらの政策によって、グロリアの王妃としての名声は上がり、対してエドワードの国王としての期待値は下がっていった。

というよりも、次々と結果を残すグロリアと、その横にいるだけのエドワードを見比べた人々が、次第に彼を〝お飾りの王〟とみなすようになったというのが正しい。

重圧に弱く、そんな自分を誤魔化すために外へ向けて強く出る性格のエドワードである。

戴冠式のあとには功を焦ってグロリアの事業計画に干渉し、現場に行っては些細な不手際を責め、人事に口を出した。

次第に宰相などの重鎮たちにも現場の人間にも相手にされなくなり、目に見えて落ち着きをなくし、乱れた生活を送るようになった。

そんな彼が頼りにするのは、真実の愛の相手であるケイトだ。

毎日彼女を捕まえては「俺は逆境に置かれているが屈しない」「こんなに努力している俺が認められないのはグロリアのせいだ」と訴えている。

この調子ではニコラスに続く子供があと三人は生まれるかもしれないと思っていたが、避妊薬でも飲んでいたのか、この十年でケイトは一度も妊娠しなかった。

その代わりにエドワードの子を孕んだのは、とある下級メイドだった。

前世でも婚約者がいながら聖女との不貞に走ったような、易きに流れる男である。

ケイトを頼り執着しながらも、子を孕んだ下級メイドをはじめ何人もの女を寝所に引っ張り込んでいた。性交の快楽には勝てなかったらしい。

この事実が発覚した時、エドワードの浮気を防ぐために気持ちを引き留めてくれとグロリアから頼まれていたケイトは青ざめた顔をして「申し訳ございません」と身を縮こまらせた。

「私がもっと頑張っていれば……」

侍女服の胸元をかき寄せて苦し気にうめくケイトの肩に、グロリアはことさら優しげな顔をして手を置いた。

「この結果は残念だが、お前のせいではない」

そうだ、常識的に考えてエドワードの女癖の悪さの原因がケイトのわけがない。

エドワードに自制心が足りなくて下半身が快楽に弱いのは、彼本人の責任である。

夫婦でもないのになぜケイトがエドワードの機嫌を取り、彼の子供を産み、さらに不貞を謝罪せねばならないのか。むしろ夫婦であっても子を産む以外はする必要もなかろう。

けれどすっかり自分が至らなかったせいだと思いつめたケイトは、グロリアに背中をさすられてほっとしたように顔を上げた。

目は落ちくぼみ、頬はこけ、 肌理(きめ) が崩れた肌には吹き出物ができている。

「元はと言えば私が陛下の心を掴めなかったことがいけない。……お前に任せた私が愚かだった」

ケイトがぐっと唇を噛んだ。

グロリアの言葉を額面通りに受け取れず、使えない、と言われたと思ったのかもしれない。

ケイトは自分が「使えない」と思われることがことのほかつらいのだろう。それが正義や弱者救済を象徴する グロリア(導き手) からの評価ならなおさらに。

「いいえ……! 私がもう一人身ごもっていれば……!」

「なあケイト」

震えるケイトの背中をさすりながらグロリアは病人を労わるような声を出す。

「陛下は子が欲しくて女を求めているわけではないだろう。陛下から真実の愛を与えられたお前が失敗したのなら、他の誰も陛下を慰めることはできまい」

そう言いながら、ケイトの肩をぽんと叩いた。

「これが国のためになる、お前なら完璧にやってくれると思って陛下のことを頼んだ。だがお前の負担を忘れていたな。初めからお前に頼むべきではなかったのだ」

微笑んだグロリアに、ケイトは目を見開いて首を振った。

自分の肩から離れていくグロリアの手を鬼気迫る顔で握りしめて、額をこすりつける。

「そ、そんな……申し訳ありません! これからもっと頑張りますから……っ!」

「陛下の血を引く跡継ぎが誕生した。それだけで、もう十分だ。今までありがとう」

ふがいない私を許しておくれ。と子供をあやすような声音で詫びると、ケイトはグロリアの手にすがりついて泣き出した。

「もっと頑張りますから……もっと努力します、もっと、どりょくします……」

ケイトの心が折れた音がした。