作品タイトル不明
第69話 終わったことと、新たな始まり
一度目の人生では悪夢の始まりとなった卒業パーティーは、真実の愛の披露もグロリアの断罪もなく終わった。
今世のグロリアは婚約者であるエドワードと出席したが、彼に声をかける人はなく、あったのはグロリアへの各国の要人からの挨拶と、その功績を称賛する声。そしてグロリアが王妃となるならばこの国は安泰であるという、将来に対する安堵の声だ。
王太子への 敬畏(けいい) もなければ、未来の国王への期待もない。
前世との違いとしてはもうひとつ、子爵令嬢となったケイトがブライアンとパーティーに出席したことがある。
卒業前からコードウェル公爵家に雇われ〝慰霊碑を守る護衛〟という一兵卒として聖地を行き来していたブライアンは、ポールの側で働くカイラと顔見知りになった縁でケイトをエスコートするに至ったようだ。
そして今日のグロリアの結婚式でも、ケイトはブライアンをパートナーとして出席している。
卒業パーティーから約一年後、歴代の王太子の結婚に鑑みても早い結婚だ。
国王の具合がよくないため、導き手であるグロリアを早く王家に取り込み息子の支えとしたいのだろう。
ちなみに王妃は王太子が六つの時に亡くなっていて、彼女の生家は伯爵家と爵位が低く後ろ盾にはならない。
亡き王妃とは一度会ったことがあるが、明るいピンクベージュの髪をした歳よりも若く見える女性だった。
数分後には誓いの言葉によって結ばれ夫となる男の母親のことを、今世で初めてじっくりと思い返してみれば、なるほど、今も昔もこの男がメロディに惚れたのは亡き母の面影を追い求めたからなのかと納得した。
ちらりと隣を歩く王太子を見る。
教会のステンドグラスから差す光に彩られ、王家の色が濃く出た黒い髪に金の瞳はたいそう美しい。
しかし結婚式だというのに仏頂面で、いつもよりも高いヒールを履いたグロリアを思いやることもなくぐいぐい進む。
グロリアがその歩幅に合わせることで、これからこの国の未来を引っ張っていくのは自分だと主張しているのかもしれない。
だがこの国の貴族たちからすればそれは王太子の愚鈍さを際立たせただけだったし、貴賓席に座る各国の要人たちには付け入りやすい隙に思えただろう。
病でくすんだ顔をさらにどす黒くさせた国王が、紫の導き手の任命式と同じ愚を犯した王太子を血走った目で睨みつけた。
今日のグロリアの装いは、代々王太子妃がつけるティアラとこれから誓いの言葉のあとに身につける結婚指輪以外、各国の贈り物からできている。耳を飾る大きな真珠のイヤリングは、グロリアの母の生国からの贈り物だ。
ウェディングドレスの生地から手袋の刺繍糸まで全てが、〝導き手様の晴れの日のために〟と教会が各国からの贈り物を取りまとめて贈ってきた。
そうやってできたウェディングドレスの上から羽織っているのは導き手のローブ、首から下げているのは導き手のペンダントである。
王太子の結婚式は本来なら新郎新婦共々国内の物で身を飾り、国の力を誇示すべき時だ。
教会もそのことは承知しているが、そのうえで無視をした。
導き手は自由を束縛されず、特定の王家に尽くすために結婚するわけではない。という教会の意思表示である。
そしてそれを了解したグロリアがみせた自国への執着心の薄さを、夫となるエドワード以外が正しく受け取った。
いつでも我が国へどうぞ! という意味を込めてグロリアへ結婚祝いを贈った諸外国は大喜びだろう。
国王は息子にグロリアの装いの意味をしっかりと言い聞かせたはずだ。
なのにグロリアしか注目されないとわかった瞬間に、エドワードはまたも自分の気分を優先させた。跡継ぎがこれでは国王の病がますます悪化してしまう。
王は息子を叱責し、グロリアに配慮せよというだろう。
せっかく導き手が王太子妃となったのに、その待遇が悪くて他国に逃げ出されでもしたらいい笑いものだ。
それだけならばまだいいが、教会と諸外国がこの国に対してどう出るか。
欲の皮の突っ張った男が グロリア(紫の導き手) と聖地を害したために、暴徒の襲撃があったのだ。その大規模なことが国全体に降りかからないとも限らないのだから。
これで王家はますますグロリアを大事にしなくてはいけなくなった。
が、夫がそれを心底納得し、実行する日はこないだろうと、グロリアは思った。